俺とアストルフォの第四次聖杯戦争   作:裸エプロン閣下

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書いてる途中、子供の時の事を思い出しました。
一番印象的なのはブランコでした。久々に乗りに行ったら足が長くて立ち漕ぎしかできなかった……。



私は冷静な人の味方で、無駄な争いをするバカの敵。 by切嗣

 しんと静まりきった夜十一時。平時の大通りとかならば疎らにも人はいるのだろう。しかし色々跋扈する現在はまるでゴーストタウン。その癖町はどこもかしこも明るい。暗い所といったら光の届かない地下か、路地裏か、倉庫街か、今いる無駄に広々とした公園だろう。大人二人と少年一人――ソラウはいない。少年は当然ウェイバー――が各々適当な遊具に腰を落ち着けている。キャスターは空を見上げ、ライダーとバーサーカーは純粋に楽しんでる模様。壊さないかどうか、一抹の不安を覚える。

 こんなことで教会に貸しなど作りたくないぞ。

 

「――なるほど。やはり一番に倒すべきはアーチャーか」

「ああ、私はセイバーやランサーよりもあのアーチャーが厄介だと思っている」

「あのサーヴァントは万能型だ。遠距離はもちろん近距離も可能だし、魔術戦もかなりできる」

「あれに対抗できそうなのは俺のライダーくらいか……」

「あとはセイバーと、まだ見ぬアサシンだけか。そういえばアサシンだが、キャスターでは見つけられんか?」

「どうもアサシンは夜じゃなくて、昼に動いているみたいだから……」

「なら当分夜の内は気にしなくていいだろう。暗殺者など一度でもバレたら警戒されるのが普通だ」

 

 座っているブランコを揺らす。ゆらゆらと一定間隔で行ったり来たりする。

 

「あえて意表をついてくることも考えられるのではないか? それにあのアサシンがあの場に居たのならばキャスターの探知結界もすり抜けるほどの熟練だぞ」

 

 タイヤに腰を据えるケイネスが懸念を指摘する。傍には大きな水瓶がある。

 

「だったら既に行動している可能性の方が高い。それに今回この公園にはキャスターの張った探知結界のほかに物理防護結界も張らせている。どちらも俺の強化で性能が上がっているし、易々と抜けたりはしない。第一、未だに脱落者は一人もいない序盤だぞ。無理はしてこないだろ」

「ふむ……」

「でも昼はどうするんですか? 僕たちだって日中一緒に居るわけでもないし……」

 

 こちらの論に納得するケイネス。そしてシーソーの端に座り、新たな疑問を投げてくるウェイバー。確かに同盟を組んでいるが最終的には戦うのだから自分の拠点に招くようなことはせず、大体八時くらいに決めた場所に集合、そして行動という取り決めとなっている。そのため昼は個々人で勝手に動くので、いざという時に連絡が取れない。実際俺は二人がアーチャーに襲われたことなど今しがた聞くまで何も知らなかった。

 

「射ってきたという事は実体化しても気配は察知できないんだよな……。となると人混みに紛れるのは悪手だし……。周りに結界張って結界内のみを警戒させる、くらいしか思いつかないな……」

 

 人混みの中で刺殺されると誰に刺されたか判断できないし、警戒するには人数が多すぎる。催眠をかけられた者なら簡単に判別がつくが、アサシン自身が直接暗殺しに来るとなると判別できない。

 これが三騎士たちなら殺気とかで察知できるんだろうな……。バーサーカーはスキルで察知は可能だが暴れ回るのでマスターにも被害が出そう。キャスターは根っからの魔術師、とてもじゃないが本気の暗殺者の殺気を感じるなど難しいだろう。ライダーは……微妙。出来ない気がする。

 

「アサシンに関してはマスターを狩り取る方向で行きたい。アサシンは厄介だが、マスターを狙われれば守らなければならないし、戦闘に入ってしまえば所詮アサシン。バーサーカーやライダーの敵じゃない」

「で、その間桐雁夜はどこに居るのだ?」

「知らんよ。だから今キャスターに探らせているんだろ」

 

 目線を移せばキャスターは先ほど見た時と同じように空を見上げていた。月の目という魔術で、月光が届く範囲一帯を知覚するという破格の魔術だ。アサシンは見つからないだろうが、マスターの方は落伍者故、隠匿魔術すら出来ないし探すのは容易だろうと思っていたが、どうやら見通しが甘かったようだ。

 

「キャスター、調子はどうだ?」

「――ダメです。少なくとも屋外にはいません」

 

 一端、空から視線を逸らし、肩の力を抜いて緩やかに首を左右に振り否定を示す。

 

「屋内までは無理なのか?」

「出来ないこともありませんが所詮月光が届く範囲まで。精々窓辺程度です。中庭か煙突があれば別ですが……」

「日本家屋にそんなものはないよな……」

 

 ブランコを加速させ、勢い着いたところで手を放し大きく跳ねる。宙を浮かぶように滞空し、キャスターの傍に着地する。ブランコは乗り手が離れた後もブラブラと揺れ続け、段々とその勢いを弱めていく。

 

「俺の強化で範囲を広げられないか?」

「……精度を上げることはできそうですが。『月光が届くところまで』と決まっている以上、その不文律から抜け出すことはできません」

「そうか。なら他に気付いたことはないか? どんな些細な事でもいい」

 

 ふむと考え込み数秒して、

 

「そういえば――間桐邸の結界が異様に弱っております」

 

 ――モロじゃねえか、という三人の叫びが公園に響いた。

 

 

 ※※※

 

 

「ふぅ……ようやく一息つける」

「俺もようやく実体化できるよ」

 

 新たに手に入れた拠点に諸々の家財や結界を敷き、落ち着いたのが午後十時。本邸よりはやや小ぢんまりとした家だが同じ魔術師の家、工房を作るのに適した造りとなっていた。紅茶を二人分用意し口を付ける。普段と変わらぬ味わいだが、今の時臣にはとても美味しく感じた。

 

「……こうしてゆったり紅茶を飲めるのも、随分久しぶりに感じるな」

「いろいろあったからな。家が爆発したり、アサシンとやり合ったり、森行ったり」

 

 時間にすればたった一日だが、その一日でかけがえのないものを失った。

 聖杯戦争を舐めていたつもりはない。だからこそ随分前から準備はしてきたし、綺礼の育成にも手は抜かず、出来る限りの事はやった。取り寄せた触媒も英雄王の物は手に入らなかったが破格の英雄を呼ぶことに成功した。

 しかし結果は散々だ。邸宅は言わずもがな。最優のセイバーもランサーには形無しの惨敗。アーチャーも異様に扱いづらく、綺礼との表向きの共闘は不可能だ。さらに令呪も既に一画使ってしまったらしい。

 

「序盤でこれなのだから……頭が痛いな」

「俺は身体が痛い」

「なら黙って回復してろ」

 

 追記、セイバーはバカだ。身体が痛いなら霊体化して回復に勤めていればいいものをなぜか度々実体化して行動する。霊体化よりも実体化の方が魔力を消費するのも、余分な魔力を回復に当てれば早く回復できることも、このバカでも分かっているはずだ。セイバーの傷も本来ならば一日あれば十分治せたものだが、何度も実体化するため今も全快時の七割程度しか回復できていない。

 

「とりあえず、当分はここ周辺を警戒してもらう。一応ここも魔術師の家、結界を敷いたところで問題はないだろうが万が一のために、な」

「へいへい。いちいち通りすがりまで気にしなきゃならんのか?」

「その判断は任せる。怪しいと思った者が来たら一報入れてくれ」

「りょーかいりょーかい」

 

 紅茶を味わうこともせず飲み干し、軽い返事を返して実体化したまま玄関へ向かっていくセイバー。気配が完全に外に出たことを確認してから溜めてきた息を吐く。普段優雅を心掛ける時臣だが、心労ばかりはどうしようもない。まして魔術師といえど戦争どころか戦闘とも無縁の者ならばなおさらだろう。それでも他者には見せぬよう、気を張ってはいたあたり、さすがというべきであろう。

 

 再び紅茶を入れて、束の間の休息を楽しむ。それから十分も経たないうちに眠気が時臣を襲い、装いも変えぬまま眠ってしまった。

 

 

 ※※※

 

 

「いやな雰囲気だな」

 

 間桐邸が纏う気配は生粋の魔術師ケイネス・エルメロイ・アーチボルトを以てしても嫌悪を感じずにはいられないものだ。無論、魔術師にして戦闘者である俺も同様だ。

 

「あからさまにもほどがあるぞ、コレ」

 

 そして魔術師としては浅いウェイバーからすればきな臭いどころではないだろう。初日来た時も思ったが亡き遠坂邸とは正反対であろう。

 

「結界はどうだ?」

「……これなら破れます。一歩お下がり下さい」

 

 言われたとおり、一歩下がる。分野によって差はあれど魔術師の英霊、任せておくのが一番だろう。キャスターが結界との境界面に触れ数秒、パリンと軽い音を立てて結界が綺麗に割れ、中の黒い呪念が周囲に溢れる。ケイネス達は素早く自身の対魔を施し呪いを避ける。俺はというよ、最近になって分かったことだがアストルフォとラインが繋がっているためか、ランクC相当の対魔力を得ているらしい。らしい、というのは実践していないからである。しかしランクCというと二節以下の魔術の無効化、だから最低でも二節以上の魔術を受けなければならない。現代の魔術師からしたら二節も割と上等な方であり、好き好んで受ける気はない。

 

「間桐の前身、ゾォルケンはロシアの呪術家系で使い魔の操作に特化した家系、だったな」

「忘れっぽくて面倒くさがりのお前がよく知ってたな」

「舐めてると死ぬからね」

 

 ケイネスが月霊髄液を傍に侍らし、俺は全身に魔力を巡らせ堂々と玄関から入る。御叮嚀にお邪魔します、とアストルフォが伝える。間桐邸は時間帯の事もあり、足を踏み入れると一層に不気味さを増していった。庭の至る所から使い魔の気配を感じさせるが、支配されている様子はなく、統率がない。

 

「これをどう見る? ケイネス」

「十中八九、間桐臓硯は殺されているだろう」

「殺されてるって、誰に?」

「分からん。ただマスターの誰かなのは間違いないだろう」

 

 遠坂は雁夜はともかく、臓硯まで殺す理由はない。ケイネスも同様でウェイバーじゃ無理。雁夜は拠点の結界を張っている臓硯を殺すか分からない。だが聞いた話では無理をしてまで参戦するのだからそれなりの理由があるのだろう。その過程で臓硯が邪魔になるなら殺すことも無くはない。消去法で殺したのはアインツベルン、綺礼、雁夜の三陣営のいずれかだろう。

 

「まあいい。アサシンは拠点を放棄したのだ。見つけ出してしまえば一揉みだ」

 

 余裕綽々に語るケイネスだがいったいどのように見つける気なのだろうか。使い魔をばらまくにしても間諜の英霊たるアサシン、人目どころか小動物の目に付くところに居るかどうかも不明。魔術を使わず暗がりの中で作業するようなものだと思う。

 

「ドアにも魔術がかかっているな。結界よりは危険だな」

「破りましょうか?」

「いや、この程度なら」

 

 魔術のかかったドアをぶち抜くように蹴る。蝶番が外れる際、足から撫でる様に冷たいものが走ったがすぐさま霧散していった。この程度ならまだ許容範囲内らしい。

 

「……うわ」

「……不愉快ですね」

 

 漂う匂いに全員が顔を顰める。特に女性陣は顕著な反応で、嫌悪をあらわにする。室内も薄暗く、そしてやはり雰囲気は悪く無気味だ。まるで遊園地のホラーハウスを思わせる。立ち込める重苦しい魔力も相まって怨霊の一体や二体、出てきてもおかしくない。

 

「ケイネス、ここバーサーカーですべて壊しちゃったらダメかな」

「ダメだ……といいたいが、私もそう思っていたところだ」

「僕も同様、いっそ焼き払いませんか?」

 

 割と本気で検討しかけていたが、何かあてがあるだろうと考え一歩足を踏み入れて――ポン、と空気が抜けるような音を立てて数メートル先の床板が回転し、何かが出てくる。唐突に出現したそれにサーヴァントたちは疑問符を浮かべるが俺達にはそれが何か瞬時に理解した。

 

 ――いくつも積み重なった筒の表面に貼られた保護層。そして筒の先から伸びた糸。その糸の先で朱く点るのは火。

 それはノーベル賞の名と共に語り継がれるスウェーデンの科学者アルフレッド・ノーベルが発明したニトログリセリンを含有する爆薬、ダイナマイトである。

 

 

 

 間桐邸で起きた大爆発は、冬木市三度目のテロ事件となった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 夜中に起きた大爆発は冬木の住人を恐慌させるのには十分すぎた。アサシンとそのマスター、そして間桐家の養子桜が借りたホテルでも廊下を慌ただしく走る足音が部屋の中まで響いていた。幸い(?)雁夜も桜も爆音で起きるようなことは無かった。元から起きて警戒していたアサシンはホテルの窓から先日まで居座っていた場所が爆破するのを感慨なく見つめていた。

 

「さっそくかかったか。朽ちかけた結界は容易く解けただろうがダイナマイトは簡単に防げないだろう」

 

 神秘のない攻撃はサーヴァントには効かない。だがあのダイナマイト、というより火薬には間桐臓硯が操っていた蟲をすりつぶしたものが混ざっている。内包される神秘はたかが知れているがそれでも容易に防げるものではない。惜しむことがあるとすれば追撃出来ないという点であろう。

 

「高望みしてもしょうがない。今はかかっただけでも御の字と思おう」

 

 最後に一瞥してカーテンを閉めると見計らったかのようなタイミングで扉が慌てた調子で叩かれる。

 

大城(おおぎ)様! 大城様!」

 

 大城、というのはアサシン達が止まる際に使った仮の名前だ。変装でチェックインの際の姿に変わってから扉を開け、従業員の相手を務める。結構離れているのに随分あわてるな、と思ったところでテロと思われるこの一連の爆破事故にハイアット・ホテルが含まれていることを思い出した。

 

 

 ※※※

 

 

「……生きているか?」

「俺は無事だ。ウェイバーは?」

「気絶していますが、命に別状はありません」

 

 圧し掛かってくる瓦礫を押しのけて、粉塵の多さにせき込む。煙を手で払ってケイネスの方を見ればバーサーカーが俺たちを守るように仁王立ちしていた。爆発の瞬間、前に立つことで俺たちを庇ってくれたのだ。それを一瞬で指示したケイネスも見事だが、恐れることなく行動したバーサーカーも見事だ。サーヴァントはマスターの魔力供給なしにはこの世にはいられないが、身を盾にするとは。思わず驚嘆の息が洩れる。

 

「オォ……」

 

 しかしさすがのバーサーカーでもあれだけの威力、無事では済まなかった。膝を突き地に倒れ伏すと霊体化する。死んだわけでなく、人間(おれたち)風に言うなら気絶だろう。

 

「バーサーカーは?」

「かなりの衝撃だが致命傷はない。完治まで一日程度だろう」

 

 やれやれと言わんばかりに息を吐く。無理もないだろう。同じものでも受け止めたのがライダーかキャスターだったら脱落は免れない。

 

「ライダー、バーサーカーがいない今、前線に立つのはお前だからな」

「分かってるよ。でもあまり期待はできないよ」

「ああ、だから時間稼ぎでいい。どのみち来るとしたらセイバーかアーチャーのどちらかだろう。アサシンは拠点を棄てたんだ。随分離れたところから見物してるさ」

「りょーかい」

「キャスター、隠匿用の結界を頼むぞ」

「承知」

 

  未だに失神したままのウェイバーをキャスターから受け取り神経に軽い一撃を流す。

痛覚神経を強化したこともあって少し流しただけで飛び跳ねる様にして起きた。意識がはっきりしたところでキャスターの方へ向かわせる。

 俺はウェイバー達に背を向けて自分の身体に魔力を通して聴覚を強化する。途端、世界が広がるような感覚になる。認識できる範囲が広がったという意味を考えれば錯覚などではない。

 遠くからはけたたましいサイレンと疎らな足音にざわめき。上空からはヘリの音が聞こえる。サイレンはおそらく警察、足音とざわめきは野次馬――この状況下で出歩くとか、自殺志願か――で、ヘリはおそらくマスコミのものだろう。場所が市内であることに、結界も張っていなかったことも相まって教会よりも公的機関の方が早く動いてしまったらしい。幸い今回はダイナマイトによる爆発なので、これといった事後処理は必要ないだろう。庭に居た蟲も吹き飛んでいるし。

 大体到着まで……五分ちょっとだ。

 

「とんずらするからライダーとキャスターは霊体化してくれ。ウェイバーとケイネスはこっち来い」

「あれか……」「とんずらって、どうやって?」

 

 ケイネスは脱出方法に察しがついているためか、不満そうな顔を。何も知らないウェイバーは首を傾げる。そんな二人の腰を抱えて俺は全身の魔術回路を起動させ、間桐の敷地の真ん中から向かいの家の屋根まで跳び、それを何度も繰り返し離れた位置に着地する。時間にして十数秒、直線距離にして約七十メートル程度の移動だ。

 男二人で約百キロということに筋肉ないな、と思いながら二人を下す。

 

「……慣れる気がしないな」

「吐きそう……」

 

 地面に下された二人は多少差はあれど顔色が悪い。普段運動などしてこないのだから、ただ落下するだけならまだしも、重力下で無重力下のように飛ぶような動きは無理があったらしい。

 

「さて、今の状態でアーチャーともセイバーとも戦うのは勝算薄いのでさっさと帰るぞ。ケイネスは襲われたらひとたまりもないだろう。送ってやるよ」

「……ああ、頼む」

 

 両手を地に着けて項垂れるウェイバーに比べれば幾分か顔色がよくなったケイネス。ウェイバーの方は、なんか吐瀉物が跳ねたような音が聞こえたけど、キャスターが居るから問題ないと思う。

 

「それじゃあ俺等いくけど、大丈夫か?」

「……大丈夫です」

『なるべく安静に、早めに帰してくれる?』

『勿論です』

 

 青い顔をこちらに向けて返事をする。不安が残るのでいつの間にか実体化していたキャスターに目で語る。長く居座っていると見つかるかもしれないので多少無理をしてでも帰らせたい。元凶が俺なのでちょっと悪い気がするが、じっと見てても仕方ないのでケイネスと共に去る。

 

 

 ※※※

 

 

「ランサー、調子はどうだ?」

 

 アインツベルンの城のテラスで煙草をふかしながら傍で霊体化するランサーに問いかける切嗣。普段ランサーはアイリスフィールの傍にいるが自分達の拠点であるこの場で護衛は必要ない。

 

『ようやく三割ってとこだな。思った以上に傷が深い』

「明日再び戦闘するぞ」

『……無茶苦茶だなオイ』

「別に全快じゃなくていい。むしろ多少不良のほうがいい」

『うん? そいつはいったいどういう事だ?』

 

 煙を吐き出し、煙草を踏み潰して火を消す。見つめる先にはただ森だけがあるが、切嗣の目には別の場所、あるいは時間が移っているのだろう。

 

「明日、バーサーカーとマスターを狩る」

『理由を聞かせてもらっていいか?』

「構わない。キャスターとバーサーカー、そしてライダー。時計塔の連中が同盟を組んでいることはアイリから聞いているな」

『ああ、当然だ。最高ステータスのバーサーカーに未知数のライダー。んでもって搦め手のキャスターが同盟って聞いた時は眩暈がしたぜ』

 

 ランサーの言に嘘はない。全七陣営の約半数が同盟を組んでおり、セイバーとアーチャーの――正確にはマスターの、というべきだろう――協力関係も分かっている。それだけで自分達とアサシンが完全に孤立している的だという事が分かる。さらに最悪なのがバーサーカー、セイバーの拠点を爆破してしまったことでどことも同盟が組めないという事。孤立しているのはアサシンも同じだがそもそも暗殺者、居場所が分からないし同盟を組もうにもホテルごと爆破するような人間とまともに組むとは思えなかった。

 この聖杯戦争で一番孤立しているのは自分達である。そして一番狙われそうなのも同様。

 

「そう、そしてその時計塔出身の同盟に付け入るすきがあるとしたらバーサーカーだ」

『どういうことだよ? 分かるように説明してくれ』

 

 ランサーからすれば当然の問いかけだったのだが切嗣はランサーの方を向いて――霊体化したままなので見えないが――深いため息をついた。その態度に不機嫌になるがそこは堪える。

 

「まず僕たちがセイバーとアーチャーの同盟に入ることは不可能だ。遠坂時臣は既に僕たちが爆破の下手人だと知っているんだ。仲間にしようとは思わない」

『そりゃそうだな。逆の立場でも同じだし』

「対して時計塔の連中はある程度絞り込んでおり、言峰綺礼が遠坂時臣と協力関係にあることを知らない。そしてアインツベルンのマスターは表向きにはアイリだ。組しやすいキャスターのマスターは僕の存在も知らない。従ってアイリを疑うことはないだろう」

『爆発の件、俺にしか言わなかったのはそう言う事か』

「知らないほうが自然な振る舞いができるだろ」

 

 切嗣は自分がハイアット・ホテルと遠坂邸を爆破したことをアイリスフィールに教えていない。理由は二つ、ある程度察しているだろうからという事と、伝える理由が無かったからだ。

 

「そして時計塔の同盟で、バーサーカーが討たれたら残るのは戦闘力が高いとは言えないライダーとキャスターだ。こうなってしまえばあとはセイバーとアーチャーに蹂躙されるだけだ」

『そこで俺たちが同盟に加わるってことか』

「いや、バーサーカーの立場に変わるだけだ。同盟には入れない」

 

 バーサーカーに打って変わりセイバーを倒す役に入り、アーチャーを時計塔の者に任せる。

 それが切嗣の考えた作戦。

 

『そもそもあれをどうやって倒すよ?』

「ケイネスを殺す」

 

 冷淡すぎる一言。当たり前の様に言ってのけるその一言にランサーは頼もしさと、恐ろしさの両方を感じた。

 

『……どうやってだ』

「まずお前がアイリと共にバーサーカーと戦闘、僕がケイネスを狙う。そうすればケイネスはバーサーカーを暴れさせ、ケイネス自身は僕を始末に来る」

『うまく行く気がしねえぞ。そもそもバーサーカーは放し飼いにできるもんじゃねえだろ』

「問題ない。ケイネスはこの聖杯戦争では最も優秀な魔術師だ。お前が負傷している状態で吹っかけて来たという事で舐められていると取る。そこで僕が不意打ち気味にケイネスに攻撃を仕掛ければあれは絶対僕を狙う。銃器を使えば僕がホテルを爆破したと分かりなおさらだ」

『…………そこまで事が運んだとしても、お前はどうやって勝つんだよ。最も優秀な魔術師って、お前今自分で言ったよな』

「ああ言ったよ。確かに優秀だと。だからこそ僕は勝てる」

『……』

 

 断固たるその発言をランサーは一先ず信じることにした。

 

『肝心の場所は?』

「発信器を付けておいた。仮にばれたとしても気付くのはシンヴェル、そして彼とライダーが発信器を餌に待ち構えていたとしてもそれはそれでライダーの情報を探れるし、性格上ケイネス自身が待っている可能性が高い。懸念があるとしたら同盟側が狙いに反して、積極的に僕や言峰綺礼を狙ってくることだがその際はアサシンがマスター達を狙いやすいよう、暗躍する」

『棄てられたら?』

「因縁はつけれる」

『両方いたらどうするんだよ』

「それはない。シンヴェルはともかく、あのお高いロードエルメロイが僕のような文明の利を、科学を使う鼠を相手に突き合わせることはない」

『何から何まで計算済み、か。オーケイ、そこまでいうなら乗ってやる。ただし失敗しても助ける余裕はねえ』

「ああ、分かってる」

 

 ランサー陣営が狙うはバーサーカーとそのマスター・ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

 

 

 ※※※

 

 

「ケイネス、お前発信器付けられてるぞ」

「なに?」

 

 気付いたそれをケイネスに見せる。科学、というより文明の利に疎いケイネスだが発信器がどういう物かぐらい分かる。肩をふるわせ腹立たしげにそれを見つめると、怒りの形相をこちらに向ける。怖くはないが青筋がキショイ。

 

「これを仕掛けたやつはどこに居る?」

「知らん。だが持っていれば勝手に仕掛けて来るだろ」

「ほう、そうか……」

 

 『しばらくこれは預かる』と言いこちらに背中を見せツカツカと歩いていく。送る所存ではあったがケイネスの背中が着いてくるなと告げている。

 

「怒ってるな」

「怒ってるね」

 

 俺の言葉を傍のアストルフォが反復する。どうやら勝手にこけにされたと思っているらしい。ケイネスは俺が知っている魔術師の中でも一段とプライドが固い。無論、それに見合うだけの実力もあるため気にはしないが、悪点であることは間違いない。性格上、一人で決着をつけようとするだろうが科学を使ってきたという事は魔術師殺しが言峰綺礼のどちらかしかない。幸いどちらも月霊髄液で防御しつつ攻撃していれば問題ない相手だ。魔術師殺しは銃火器、綺礼は徒手空拳。普通に戦っていれば問題ない。普通、にだがな……。

 

「やべぇ……調子にのってるところを反撃喰らって負ける様子が簡単に浮かぶ。バーサーカーも傷癒えてないし」

「どうするの……」

「……昼に戦闘できるところは確認済みだし、夜になったらなったでキャスターの魔術で位置確認してヒッポグリフで飛ぶだけだ。てきとうにあたりをつけて様子見しよう」

 

 横槍入れるとあいつ制御不能になるし、とこぼして俺たちも帰路に着く。

 後々、それがどれだけ甘い判断だったかを俺は知ることになる。

 




最近アストルフォが空気気味だな……。そしてタイトルのネタ切れ。誰かヘルプミー。
あ、あと次話の更新が遅れます。たぶん。理由はエクストラCCCが発売されるからです。恐らくしばらくこっちをやるでしょう。

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