俺とアストルフォの第四次聖杯戦争   作:裸エプロン閣下

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新しいFate二次創作考えてたけど、ライダーが千人の吸血鬼のカンプグルッペでキャスターのバーン・パレスを侵略したり、ランサーの怒りの日とアーチャーの曙光がぶつかったり、セイバー&三柱臣とアサシン&-十三組がぶつかったりした時点で考えるのを止めたwww
これ冬木どころか世界がヤバイよww


俺は“誇り”のみで生きている。 byケイネス

「……ずいぶんと幸先がいい」

 

 人気のない場所を探っていたらサーヴァントとそのマスターらしき者を発見。戦士らしくない風貌からキャスターと判断、意外と腹黒くない。マスターの年齢は十代半ば、練度はかなり低い。男Aと命名する。次に髪の薄い男が女を連れて登場し帰ろうとするキャスターとそのマスターと接触。どうにも髪の薄い奴は男Aの師であるのか先生と呼ばれている。その後四人とも一緒に行動。どうやら髪の薄い奴(あるいは女)もマスターらしく、霊体化させているサーヴァントの並々ならぬ凶暴な気配が如実に示している。

 そして髪の薄い奴を尾行する男B。かなりの練度で未だにばれてはいない。サーヴァントの気配がないがこの場にいる以上、おそらくマスターと見ていいだろう。それをさらに尾行する神父っぽい人。神父らしき男の周辺にサーヴァントの気配がある。こいつもマスターだ。

 この段階ですでに四人のマスターと四人のサーヴァントが居るという事態だ。Aと髪の薄い奴は協力関係にあり、Bと神父はとても友好的には見えない。

 

 ここで俺が取るべき手は三つ。

 神父を始末し、次いでB。そしてさらにばれない様にAか髪の薄い奴を始末する。これは理想論で実際には難しい策だろうが、うまく行けば一気に三人も始末できる。

 次は俺がAと髪の薄い奴、あるいはBと神父に接触し、別の二組を罠にはめて始末する方法。こちらは純粋に戦闘力を競うため手札が分からない以上、絶対に成功するという確信は持てない。だがキャスターの方に接触して結界を張らせればうまく仕留められるかもしれない。問題があるとしたらBと神父の二人の戦闘力だ。アサシンの俺に遠坂のセイバー、そして男Aのキャスターに、髪の薄い奴のサーヴァント、気配から察するにバーサーカー。あの二人が対魔力の高いアーチャーかランサーのいずれか、あるいは両方を持っていることは確実だ。バーサーカーの気配もすごいが三騎士もそれには劣らないだろう。仮にライダーだとしても基本宝具の威力が高い者が多いので侮れない。俺が横から掻っ攫っていくことも可能なのだが二人が気付いた時点で誰かが介入したと思うのが普通。警戒された状況下での暗殺は失敗しやすい。だから成功率は微妙。

 最後、一手入れることで全員遭遇させてバトルロワイヤルにする。手間はかかるしうまく行かない可能性も高いため実現自体難しいが、嵌まれば最低でも一人は脱落させれると思うし、一人しか残らなかったら俺がそれを狩り取るだけだ。現在最も遅れをとっている情報もつかめるし、かなり良い手だろう。

 

 どれにしようかと、えり好みしているとAと髪の薄い奴が寂れた建物に入っていき、それを追ってBと神父も入っていった。人気のない場所、隠れる場所の多い廃墟、そして閉鎖空間。これだけそろえば負けることはないだろう。すかさず霊体化し、俺も廃墟へと入っていく。

 

 

 ※※※

 

 

 埃の溜まった廃墟を歩く。拠点にするならまだしも、ここまで広い空間では魔力が溜まらず、工房を作るのに適さない。それに爆破される可能性も高い。しかし先生はそれを、

 

「狭い部屋が多いんだ。壁を壊して繋げてしまえばいいだろう。結界で周囲一帯を囲ってしまえば居場所は割れるが爆破できるほど接近される心配はないだろう」

 

 と、無理やりな方法で強引にやってのけた。僕たちは見つからないことを第一に考えていたため、壁を壊すとか、周囲丸ごと結界で覆うとか、そういう強引な発想はなかった。

 

「バーサーカー」

 

 早速バーサーカーを呼び出して壁を壊させるケイネス。比較的消耗が多く、命令を無視する可能性も高いほどの狂化ランクを誇るバーサーカーをここまで使いこなして見せるあたり、口だけではなく本当に実力が高い事が分かる。こういうのを見ていると……自信を無くす。

 

 論文に関しても、シンヴェル先生は『個人的に賛同できる』といっただけでほとんど触れてくれなかったし、キャスターの魔術はとても鮮やかで、淀みなく素早く、精度も高く行使できるし、ケイネス先生も名門なだけあってかなり優れている。

 自分の才能を証明してみせるために聖杯戦争に参加したけど実際にやってみれば重要なのはいかにサーヴァントを活かすか、であってマスターの僕たちがやることはこういった戦略的な部分と魔力の供給だ。これで本当に才能を示せるのだろうか。いやそもそも、僕に才能はあるのだろうか……。

 

「マスター!」

 

 などと悩んでいるとキャスターに手を思い切り引かれる。普段穏やかなキャスターがここまで乱暴な行為に出るという事に少し驚いたが、次の瞬間鼻先を通り抜ける矢を視認して声を失う。

 

「――な!?」

「――これは」

「バーサーカー!」

 

 ただ立ち尽くす僕とソフィアリさんと違い、すぐさま矢が飛んで来た方向へバーサーカーを向かわせるケイネス先生に、周囲を探知結界で探るキャスター。

 

「この建物の中に二人、サーヴァントが一人……いえ、二人います!」

「な――」

「なんだとぉ!」

 

 血相を変えて告げるキャスターの言葉に思わず息が止まり心臓が大きく跳ねる。隣のケイネス先生は声を荒げて怒鳴るように叫ぶ。今回ケイネス先生は自分の礼装を持ってきていない。いかに人目に付かないと言っても今は昼だし、そもそもあんな大瓶、ここまで持ち歩くには些か目立ちすぎだし、当然といえば当然だ。

 

「どのサーヴァントか分かる?」

「アーチャーと、ランサーです。幸い同盟を組んでいるわけでは無さそうです」

「よりによって対魔力の高い三騎士……」

「アーチャーとは……」

 

 キャスターにとって天敵の三騎士に、バーサーカーに対して圧倒的優位を誇る謎のアーチャー。事態は最悪だ。キャスターの言うとおり、幸い向こうは同盟を結んでいるわけではないそうだが、いつ組んでもおかしくないだろう。

 まったく、今日は厄日だ。

 

 

 ※※※

 

 

 キャスターたちを狙った一本の矢は、切嗣にとっても驚愕に値するものだった。尾行の際に一番気を付けることは見失わないことではなく、見つかることだからだ。飛んで来た一矢はキャスターたちを警戒させるには十分すぎた。

 すぐさま撤退しようと出口を目指して駆けるが、結局キャスターによる探知結界で切嗣の存在はばれてしまった。それだけならばまだしも、

 

「待っていたぞ、衛宮切嗣」

「少しでも俺を楽しませるんだな。愚民どもよ」

 

 最短距離にある出口にいたのがよりにもよって言峰綺礼である。既に黒鍵を取り出し、サーヴァントも矢を番えており戦闘の回避は不可能だ。

 ――やるしかない。そう思った時には、

 

「来い、ランサー」

 

 令呪を使い、ランサーを呼び出していた。霊体化して来るにしてもかなり時間がかかる。それ故の令呪。自身も懐のキャリコを取り出し、魔術回路を励起させいつでも固有時制御の行使を可能にしていた。

 

「衛宮切嗣、お前に聞きたいことがある」

「言う必要はない」

 

 キャリコの照準を一瞬で定めフルオートで放つ。

 

「――では無理やり、聞き出すとしよう」

 

 その言葉はすぐ傍で聞こえた。間にあった十メートル弱はあった距離を何の足さばきも無く一瞬で詰めて見せたのだ。間一髪、キャリコを盾に致命傷は避けたが早くも自身の主武装を使う羽目になり思わず舌打ちをこぼす。

 

 切嗣と綺礼が接触すると同時にランサーの双剣とアーチャーの矢もぶつかり合う。

 衛宮切嗣にとって最も会いたくない相手は真っ先に喰らいついてきた。

 

 

※※※

 

 

 双剣で矢を払いながらアーチャーへ接近するがそれでも不利になることは無く、むしろ常識に無い使い方で逆に対処に手古摺るが、それでも双剣という武装を考えれば離れる訳にはいかなかった。殴り合いのような距離感で戦う俺たちは三騎士のクラスにありながら騎士らしさを感じさせない。舞踏らしくはあるんだがな、と率直な想いが口から洩れる。

 

「どうした? 速さで負けてはランサーの名が泣くぞ」

「うるせぇな。ゴチャゴチャとお喋りが過ぎるやつは嫌われるぞ」

「……決めた。貴様は殺すぞ」

 

 不意に互角だった手数が一気に押され始める。今まで一矢ずつ番えていた矢が一気に二本も増えてしまい思わず距離を取ってしまうが事態は全く好転しない。むしろ距離を置いたことから全方位から責められてしまい、一方的な展開になってしまった。

 藪を突いたら大蛇が出たよ。てきとうなことを言っただけなのだがここまでキレるとは思わなかった。

 今のところ防げてはいるがこれ以上数が増えては堪らない。しかし接近しようにも敏捷は相手の方が僅かに上だ。踵を返し壁際へ移動し正面からの攻撃のみに専念、気を待つ。

 

「どうした、もう手も足も出ないのか」

「うるせぇよ。遠巻きに攻撃しかできないくせに」

 

 一応挑発を投げかける。

 

「ふん、距離を取ったのはお前だろう。自分の無能を棚上げか。見苦しい」

 

 やはり失敗。アーチャーは獰猛な笑みを浮かべながら矢を番える。強く引き絞り始め一撃一撃がだんだんと強くなる。それでもこの防御を崩す自身は無いが徐々に疲労は溜まってくる。動きを最小限にしてできるだけ長引かせるが無意味に近い。

 切嗣を見てみれば明らかな劣勢、蹴りを腹に喰らっている。ここは自分で打開するしかない。挽回の手を考えるが、何も思いつかない。ただ無為に時間が流れていくだけだった。

 

「そろそろ終わりか? 愚民が」

 

 もはやセリフを返す余裕もない。粗い呼吸とかきまくった汗でいくつか矢を漏らしてしまいそうになる。

 

「返す余裕もないか。なら死ね。【貴様」「は」「動けない】」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺の動きが止まる。動かそうにも動けない。アーチャーが言った言葉の通りに。それはあまりにも致命的なことで、今までせき止めていた雪崩が俺目掛けて駆けてくる。

 

「原初の言語だ。せめて対魔力がワンランク高ければ防げたがな」

 

 矢が迫る直前、そんな言葉が聞こえた。

 

 

 ※※※

 

 

 事態は完璧に悪い。ランサーは封殺されており、こちらは終始攻められっぱなしだ。逆転できる唯一の武装、コンテンダーならば服が防弾使用だったとしても撃ち抜くことが出来る。だが、僕を圧倒的に上回る動きに一撃でもまともに当たれば致死の一撃。この状況下ではコンテンダーの照準を合わせることもできない。仮に合わせたとしても当てるのは難しい。そして外してしまえばリロードする余裕はない。つまりこのコンテンダーで勝負ができるのは一発なのだ。賭けにしては分が悪すぎる。

 

 心臓を叩きに来た右の掌底を外に躱し、脇腹目掛けてコンバットナイフを突きだすが左の黒鍵によりあえなく叩き落とされる。そしてお返しと言わんばかりの蹴りを腹にもろに受けてしまう。たまらず喀血してしまうが決して足は止めない。本気ならば死んでもおかしくない一撃だが、言峰綺礼はどういう訳か僕に聞きたいことがあるらしく、常に死ぬ一歩手前、命綱が切れる寸前で止めてくる。

 だがそれは油断ではなく、むしろ余裕なのだろう。小学生の算数程度、まっとうな学問を修めた大人が真面目に頭を使うことなく片手間に出来る作業であり、僕と言峰綺礼の差は実際子供と大人くらいの差があるのだろう。

 

 ――だからこそ、勝機はそこにある。

 

Time alter(固有時制御)――triple accel(三倍速)!」

 

 倒れ伏すと同時、今まで使用してこなかった固有時制御を使用し一気に起き上がり、コンテンダーの照準を即座に心臓に合わせる。一気に三倍もの速度に跳ね上がった僕の動きに反応しきれなかった言峰綺礼の動きは一瞬驚愕で止まり明らかに遅い。ようやく事態を把握したころには僕の指は引き金を確かに引いていた。普通の弾だがこいつはどんな魔術を使っても躱せない。

 

 だが――僕はまだ言峰綺礼という存在を甘く見ていた。

 咄嗟に左の掌で銃弾を受け止める様に突き出し、そして銃弾がめり込むと同時に肘を曲げ、左腕を通過した弾丸はそのまま腕に沿う様に(・・・・・・)直進し、肘を突き抜けてあられもない方向へ飛んでいく。

 

「はぁ……はぁ……っ」

 

 さすがに今の一撃は無視できるものではなく、おびただしい出血に、止め処なく漏れ続ける荒い呼吸。無理もない。銃弾を腕に通して逸らすなど正気の沙汰とは思えない。狙うならばその右腕なのだろうが、他ならぬ僕自身が三倍速で言峰綺礼以上に死にかけている。行使が実質一秒未満だったため、致死ではないが戦闘を行える状況ではなかった。

 

「はぁ……惜しかったな。衛宮切嗣……」

「……」

 

 黒い笑みを浮かべ、こちらを品定めするかのような舐める視線。それに対して僕は全身を蝕む激痛に喋ることもままならない。

 

「言葉を口にする余裕もないか。安心しろ、私は治癒魔術に長けている。すべてが済んだらじっくり聞くとしよう」

 

 そういい無事な右腕で襟首を掴もうと手を伸ばした。

 

 

 

 

 

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 

 

 

 瞬間、バーサーカーが壁を破壊して乱入してきた。奇しくもその壁はランサーが背を付けていた壁のすぐ隣だった。

 

 

 ※※※

 

 

『……これはこれでいいが……』

 

 霊体化状態で気配を遮断しながら俺は入り口で戦う二人を見ていた。男B――衛宮切嗣と神父。居場所を察知されたことで撤退するのは想定の範囲内。だが二人がそのまま戦闘に入るとは思わなかった。ここで互いに潰し合えば合うほど協力しているキャスターたちが有利になるというのに神父はそれを気にせず戦闘に入る。個人戦力はダントツだが戦略的な面は微妙だ。逆に衛宮切嗣は戦術、戦略共にかなりできるらしい。速やかな撤退に惜しむことない令呪の使用。そして何より自身の虎の子であろう倍速魔術の使う機会。放っておけば大半のマスターを始末してくれるだろう。

 考えは早かった。自身の補助武器たるクロスボウに矢を番えキャスターたちをおびき寄せる。先ほどのことでバーサーカーのマスターが若干攻撃的な性格であることは分かっている。

 なら簡単だ。何度も攻撃しておびき寄せるだけだ。攻撃方向をアーチャーと一緒にすれば勝手に釣られてくれる。

 

 

 ※※※

 

 

「随分苦戦しているようだなランサー。手伝ってやろうか?」

「……俺一人じゃ難しいし、頼んでもいいか」

 

 バーサーカーの背後から現れたケイネスの言葉に即座に助力を請うランサー。先ほどまで彼に迫っていたアーチャーの矢は全てバーサーカーが瓦礫と化した壁と共に吹き飛ばした。両手の手汗を拭いながらアーチャーに向き直る。

 

「二対一だが文句は言うまい。アーチャー」

「愚民が二人増えたところで図に乗るなよ……」

 

 僅かに顔を顰めつつも、退く気はないアーチャー、既に弓に二矢番えている。

 

「あいつなんか変な魔術使ってくるぜ。気ぃつけろよ」

「問題ありません。所詮は弓兵。魔術師の英霊たる私には敵いませぬ」

 

 バーサーカーの背後からさらにキャスターが現れる。逃がさないと言わんばかりに結界を張りアーチャーと言峰を閉じ込める。その際ランサーはアーチャーから視線を逸らすことなく、パスでマスターの位置を確かめる。いつの間にか結界の外で這いずるような速度で動いているのを確認して一息つく。もし切嗣が見つかれば、アイリスフィールがマスターではないことが知られてしまう。幸い全員結界の中に居り、態々探しに行くような者もいない。

 

「綺礼」

 

 アーチャーが三体のサーヴァントを視線を流し、次いで言峰を、正確には腕の令呪を見やる。

 

「逃げることもままならぬだろうし……」

 

 意図を察し、嘆息しつつも令呪に魔力を通す。

 

「令呪を以て命ずる――限界を超えた力を持ってランサー、キャスター、バーサーカーを排除せよ」

 

 惜しむことない令呪の使用。朱い光が瞬き、右手の甲から確かに令呪が一画消え、アーチャーの力が大幅に上昇した。

 

「形成逆転、とまではいかぬが十分だな。それでどうするのだ愚民ども?」

「愚問だな。俺達は英雄だぜ。相手が強いからって退く分けねえだろ!!」

 

 バーサーカーが正面から押し進み、ランサーがバーサーカーを盾に追いかけ、キャスターが二人に魔術を掛ける。バーサーカーの耐久値の高さを前面に活かしランサーの近距離戦闘力を生かした陣形だ。正面からではバーサーカーの守りを突破しきれず、横に避ければすかさずランサーが追撃する単純故に堅実な策。二メートルと二百キロを超えるバーサーカーが雄たけびを上げながら疾走してくる。

 

【平伏せい!】

 

 だがそんな一撃も、アーチャーの鶴の一声で崩れ落ちる。慣性の法則を無視し、突如ピタリと止まりその場に平伏すバーサーカー。アーチャーとバーサーカーの彼我の距離は約四メートル。その背後を追従していたランサーもほぼ同程度の距離感。ランサーの双剣の間合いには遠い。

 

「最初の脱落者は貴様だ、愚民!」

 

 番えたままの二本の矢が放たれ、すぐさま番えて放たれる。それが五回で計十本の矢がランサーへと迫る。ランサーが一瞬で切り伏せられる数は八本、それを見越したうえでの十矢。傲岸で、慢心し、敵を舐めるアーチャーではあるが狩りで手を抜くことはない。

 

「私を忘れておりませんか?」

 

 ――しかし今のランサーはキャスターの魔術・エンチャントを受けている。迫る十矢を難なく切り捨てアーチャーに迫る。その距離僅か一メートル。着地すれば接戦に持ち込める。

 

「忘れておらぬ。気にかけるまでもないだけだ」

 

 その着地するまでのわずかな隙に退避ではなく、攻撃を選び新たに番えた矢を強く引き絞る。単純な威力のみを重視し矢は一本、狙うは心臓。弦が切れる限度手前で溜めに溜めた必殺の一矢は、ランサーの着地と同時に音速を遥かに超え、光の速さに迫るほどの速度で射られた。

 

「なん、のぉっ――――――――!!」

 

 だがその高速手前の速度に対してもランサーは反応してみせた。双剣の刃を鋏のように交差させ、裂くように受け止める。

矢と双剣が交叉する際、一瞬光り輝き――――――全力の一矢はランサーの心臓より数センチ上を突き抜けた。

 

「何――っ!?」

 

 ここで初めてアーチャーが驚愕を見せ、ランサーは今の一撃でもはや実体化できぬほどに消耗し霊体化する。結果だけ見ればランサーにあれほどのダメージを与えた以上、アーチャーの勝ちなのだろうがとても納得できるものではなかった。今しがたアーチャーが放った一射は令呪のバックアップもある全力の一撃で、数ある弓の英霊の中でも最高峰に位置するものだろう。そしてそれが多少ずれただけとはいえ、確かに逸らされたことで放心してしまった。

 

「月よ!」

「ガァアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 そしてそれを逃す者はいない。キャスターがアーチャーの動きを止めようと重力魔術を仕掛ける。自身の宝具たる衣『レヴィアタン』に無効化されるものの僅かなりとも動きを止められ、その隙にバーサーカーの剛腕がアーチャーに叩き付けられる。咄嗟に反応して防ぐものの三倍弱の体重差にBランク――レヴィアタンにより1ランク下がっている――の攻撃、全身に衝撃が走りまるで車に引かれたかのように飛ばされる。しかしさすがは英霊、宙で体勢を立て直し壁に着地するようにぶつかっていき、再び地に降りた。

 が、そこまでだ。顔を左手で覆う様に隠し、どういうわけか動こうともしない。

 

「帰るぞ綺礼」

 

 そして唐突にそんなことを言った。キャスターたちも驚愕したがそれ以上に驚いたのはマスターたる言峰綺礼だ。

 

「……アーチャー」

「二度は言わん。帰るぞ綺礼」

「そういうわけにもいかん。令呪も使っているのだからな」

「ならば一度だけお前の命令に従おう。それで構わんな」

「……」

「綺礼、これがどれだけ譲歩しているか分からぬお前ではあるまい」

 

 (がん)として変える気はないのか、射殺すような目をするアーチャーの身勝手さやら、師の命令といった諸々の要素をため息と一緒に吐き出す。

 

「二度だ。強力なエンチャントにも使える令呪を潰したのだからせめてそのくらいは構わんだろう」

「………………………………………………………………………………よかろう」

 

 話を纏め、立ち去ろうと背を向け出口へ歩を進める。

 

「逃がすと思っているのか」

 

 背後からそう告げるケイネスだが、バーサーカーもキャスターも構えるようなことはしない。

 バーサーカーも、そしてキャスターもアーチャーに対して圧倒的に不利。所詮、虚勢である。

 

「邪魔するならば蹴散らすまでだが」

 

 それはアーチャーも分かっている。だから堂々と敵の目の前で話したのだし、今も歩みを止めず目も向けない。

 

 ――結局、彼らはアーチャーたちが去るのをただ見ていただけだった。

 

 

 ※※※

 

 

『なかなか、うまく行かないものだな……』

 

 アーチャーが去っていくのを眺め、アサシンは嘆息した。結局今回の作戦で得たのはランサーの負傷と衛宮切嗣と言峰綺礼の令呪一画でしかない。

 

『証拠隠滅している暇もないし、今はさっさととんずらするとしよう』

 

 アーチャーの矢とアサシンのクロスボウの矢は少々違うものだ。さすがの彼も直感と同等のスキルを持つアーチャーに見つからない様に矢を取る(・・)のはかなり難易度の高い仕事のため、自前のものを使用したがやはりばれてしまうだろう。

 アサシンの視線の先にはアーチャーとアサシンの矢を手に持って見比べる一人の少年がいた。違うとは前述したが所詮矢は矢、大した違いなどなかったりする。しかしそれに気づける洞察力を持つ少年に対してアサシンは評価をわずかに上昇させた。

 

 

 ※※※

 

 

「まったく、真昼間からこのような目に会うとは……無事かい、ソラウ?」

「ええ、大丈夫よ」

 

 額を拭うケイネスだが、今回の戦闘で彼がやったことは何もない。魔力供給はソラウが常に行い、戦闘の際もあくまで後方で見ていただけだ。だというのにまるで己が苦労したかのような態度に、ソラウは嘆息を禁じ得ない。まあ、礼装もないししょうがないと思うことにした。というか思いたい。

 

「この場所はもはや使えないな……」

「……ええ」

 

 元々埃だらけの廃墟だったが現在はそれに瓦礫の山に粉塵に大量の矢が追加され、床にはバーサーカーの疾走による抉れ、壁は崩壊と、荒野に放置された建築物を思わせる無残な様である。救いといえば損傷はほとんど一階で、二階以上は問題ないということだろう。

常時ならそれで安心できるのだが、先ごろホテルを爆破された者としてはいつ崩れるかも分からないところにはいたくないだろう。

 

「まさか寝床を探すだけでもここまで難儀なこととは……思わなかった」

「全くそのとおりね。聖杯戦争といっても所詮魔術師の決闘だと思ってたわ……」

 

 ふと二人は代行者の友人を思い浮かべる。基本的に闘争を生業とするクラムベルクは傭兵の真似事――傭兵そのものだが――をしている彼はどこで寝ているのだろうか。自分たちの様にホテルに泊まっているのか、公園の土管(あるかは知らない)で寝ているのか。どちらにしろ、最初の自分たちほど豪華なところにはいまい、と思考を切り落とす。

 ――まさか同じくらい豪勢な邸宅で暮らしているとは思いもよらなかっただろう。

 

 視線を隣にやればバーサーカーが欠伸をこぼして寝転がっていた。戦闘以外は動物染みてるな、と思わずにはいられない。

 

 バーサーカー陣営、いつも通り得らしい得を得られていない。

 

 

 ※※※

 

 

「はあ……結局、碌なことなかったな……」

「いいではありませんか。アーチャーのマスターもはっきりしましたし」

「予想はできてたんだ。確証が取れたところで大したことじゃない」

 

 時は流れに流れ、既に空は茜色に染まっており、現在は帰路に就いている。肩を落として道を歩くウェイバーをキャスターが宥めている姿は本格的に母と子を思わせる。

 唯一、ずれている物があるとすればウェイバーが手に持っている二本の矢だろう。二本の矢は同じように見えるが、ほんの少し違いがある。何が違うかというと単純に構成している魔力が違うのだ。アーチャーのクラスのサーヴァントは、他のクラスの者とは違い、矢という消耗品を使用する。その際矢はサーヴァントの魔力で作られるため、作った者が違えば当然構成する魔力も違う。といっても、それは些細な違いでしかない。

 

「とりあえず、帰ったらこれを解析だな」

「マスターが解析し、私が残滓から判断する、という方法でしたが両方私がやりましょうか?」

「いや、キャスターはこういうのは向いてないだろ。僕は存在科(マテリアル)の生徒だからこの程度はできる」

 

 物体の解析は存在科では基本中の基本である。故にキャスターがやってもウェイバーとさほど変わらない気がするが、キャスターに頼ってばかりではいられないという意思表示でもあったりする。

 

「そういえば、このことを……ケイネスさんたちには教えないんですか?」

「……あれだけ振り回されたんだ。このくらいの意趣返しは構わないだろ」

 

 今日の出来事を振り返り、鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 今日のウェイバーはこれといった怪我や損失は無いものの、結局振り回されるばかりで特に活躍もなかった。つまり居ても居なくても変わらない、ということだ。

 思い出したら腹が立ってきたウェイバーはズンズンと足を強く振りおろし早足に歩いていく。キャスターはそれを微笑ましく見つめながら後を追った。

 

 キャスター陣営、厄日ではあってもおおむね平穏である。

 

 

 ※※※

 

 

「昼ドラって面白いものかよ。何でこんなにもドロドロしたものを昼に流すかね」

「朝っぱらから見たくないし、夕方になると見る気失せるからあえて一番明るい時間帯に流すんじゃないの」

「ふーん。まあどうせ見るなら一番明るい時の方がいいよな。しかしこういうのばかり流されると世の男たちは結婚する気無くなるんじゃないのか」

「中にははた迷惑な人もいるし」

 

 ライダー陣営、平常運転である。

 




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