IS乗りの夜   作:幸海苔01

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実は前回、草十郎君にはラッキースケベが起きてました。


草食動物の転校初日

 

 

 

 

 朝。まだ陽も昇り切っていない中、パチリ、と草十郎は目を覚ます。元々、早起きは得意なほうだ。以前の町ではバイトやらなんやらで、夜更かししてしまうことも多かったので、少しばかり不得意になってしまったかと、内心不安に思っていたのだが、特に問題なかったらしい。

 

「うん、今日から転校初日だ。頑張らないとな」

 

 そう口にして、自分の中で意識を切り替える。

 以前通っていた制服と違い、白を基調とした真新しい制服。いまいち着ることに慣れないが、これもやがては日常となってゆくのだろう。そんなことを考えながら、制服に袖を通し、朝食のために食堂へとまず向かうことにした。

 

「よし、行こう」

 

 気合を入れなおし、草十郎は荷物を持って、寮の戸締りを確認したのち、すたすたと歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから、朝食を摂る際に、四六時中注目され続けたり、眠そうな本音やかなりんとたまたま会い、挨拶を交わした後、入学式を終え、自らの教室へ赴くことになった。

 

「うん?のほほん、かなりん、君たちも同じクラスなのか」

 

「あ、そーくんだー」

 

「どうも、これからよろしくお願いします、草十郎さん」

 

「ああ、よろしくね」

 

 顔見知りがいて安心したのか、見ている側が和やかになりそうな柔らかい笑みを浮かべる草十郎。それをたまたま目にした幾人かのハートを撃ち抜いたものの、それ以外は問題なく済んだ。その後、草十郎は早速もう一人の男性操縦者である、織斑一夏がどのような人物であるのかを見ようとしたのだが、その前に、

 

「皆さーん、席に着いてくださーい」

 

 との声が聞こえたので、後で確かめられるかとも考え直し、大人しく席に着いた。見れば、周囲も大人しく席に着こうとしていた。

 

 ちなみに、草十郎の席は窓際の席の一番端。まるで、急遽用意された感が否めないが、草十郎は特に気にすることなく席に着く。教卓の真正面である一夏からは少しばかり離れている。

 

「全員揃ってますねー。それじゃあSHRはじめますよー」

 

 との声が聞こえ、正面に目を向ける草十郎。

 すると、緑の髪をした、服と身長が釣り合っていないような印象を受け、驚異的な胸囲をもった女性教員がにこやかな笑顔で、

 

「皆さん入学おめでとう。私は副担任の山田真耶です」

 

 そう紹介したのだが、

 

「「「「「………………」」」」」

 

 ぺこり、と頭を下げて反応したのは、草十郎のみ。他の女子生徒は草十郎の方をちらちらと見るか、正面にいる一夏に注目して、妙な沈黙に包まれていた。そして、その織斑一夏本人はと言うと、居心地悪そうに、気まずげな顔をしながら、机を見つめていた。

 その際、どうでもいいことだが、電子黒板に真耶が手を向けると同時に、そこに名前と役職名が描かれたのには、草十郎は目を丸くして驚き、一夏にはまったく注目していなかった。

 

 それから真耶は、反応してくれない生徒たちに戸惑いつつも、唯一反応してくれた草十郎へ嬉しそうに目を向けるという、妙に器用なことをしつつ、気を取り直して、

 

「今日から皆さんはIS学園の生徒です。この学園は全寮制。放課後も一緒です。皆で助け合って、楽しい三年間にしましょうね。それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」

 

 その言葉に対し、しっかりと真耶に目を向け、耳を傾けているのは草十郎のみ。その様子に少しばかり真耶は焦るが、またもや気を取り直して、

 

「じゃ、じゃあ、自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 

 そこまで言う際に、一夏はちらりと横を向いたが、生憎、六年ぶりに再会した幼馴染の反応は冷たかった。少しばかり絶望した一夏だったが、そう言えば、ここにはまだ男子がいるではないか!そう思い至り、どこにいるのかと視線を彷徨わせる。

 生憎、草十郎はと言えば、そもそも一夏に目を向けておらず、自己紹介を行っている女子に対し、目を向けて何やら真剣に聞いていたが。変なところで真面目な草十郎らしさが災いした。

 そして、自己紹介の順番は織斑一夏へと。

 

「は、はいっ!?」

 

 真耶の言葉に慌てて立ち上がる姿にクラスメイト達はクスクスと笑いを漏らしたが、勿論のこと草十郎は笑っていない。なぜ、そんなに焦っているのかと首を傾げてはいたが。

 

「えー…えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 紡ぎ出されたのはごく平凡な言葉。しかし、それだけでは許してくれそうにないクラスの雰囲気。しばしの沈黙。草十郎もまた何か言葉を続けるのかと思って、目と耳を傾ける。その際、もう一度ちらりと幼馴染を向いて、絶望に包まれ、もう一人の男子ならばと目を向けたが、

 

「?」

 

 本人は何故一夏がこちらを向いたのかが分からないようで首を傾げるばかり。そして、一夏が下した決断は、

 

「以上です」

 

 自己紹介を強引に切ることであった。クラスメイトはそれに対し、ずっこける。その反応に、草十郎は「こんなにも皆の反応が良いのなら、もう一人の男性操縦者には笑いのセンスがあるのだな」などとまったくもって見当違いなことを考えていた。そして、これは自分も何かした方がいいのだろうかと変な方向に思考を飛ばしていた。そして、さも名案を思い付いたかのように顔を明るくさせる。

 ここに友人がいたなら、いや、たとえ悪友であっても、「余計なことはするな」と釘を刺しただろうが、生憎と今ここに止められるような人材はいない。

 

 しかし、二度目の悲劇が起こるより先に、

 

 パアンッ!

 

 良い音がしたかと思うと、一夏のすぐ近くにいつの間にか千冬が立っていた。

 

「げえっ、関羽!?」

 

 パアンッ!

 

 とても良い音がした。それに対し、草十郎は感心していた。何と言うか、叩き方が上手い。大して力を入れずに、効果的な角度で、効率が良い叩き方をしている。しかも、恐らく痛みや音は良いが、表面だけにダメージを与え、たんこぶのような後遺症が残らないようなやり方だ。

 それを受ける一夏には少しばかり同情したが。

 

 そんなことを考えていると、あちらの話は一段落(?)したようで、千冬はクラスを見渡しつつ、口を開く。

 

「諸君、このクラスの担任する織斑千冬だ。私の仕事はお前たちをこの一年間で使い物になるまで教育することだ。私の言うことは必ず聞くように。聞かなくても良いが、その時はそれ相応の対応をすることを肝に命じておくように」

 

 と、かなり高圧的な自己紹介をしたかと思うと、

 

「「「「「キャアアアア!!」」」」」

 

 凄まじいまでの声量が教室を包み込む。あまりの声に草十郎は思わずビクッと反応し、耐えきれず、耳をふさぐ。

 

「千冬様!!本物の千冬様よ!!」

「私、千冬様に会うために来ました!!南九州から!!」

 

 などと口々に叫ぶ少女たちと、一人はそのテンションに引き、一人は目を丸くして驚く、男二人。

 

「毎年、毎年よくもまあ、ここまで馬鹿者が集まるものだ。それとも、わざと私のクラスに集めているのか?」

 

 少々、疲れた顔でやれやれとばかりに溜め息を吐く千冬。察するに毎年こうなのだろう。そこまで慕われているというのは、中々に凄いことなのでは、と草十郎は感心していた。

 

「「「「キャアアアア!!」」」」

「お姉様!もっと叱って!罵って!」

「でも時には優しくして!

「そして付け上がらないように躾をして!!」

 

 草十郎には少しばかり理解できない世界のようだ。そう思い、深くは考えなかった。千冬は諦めの溜め息をもう一度吐き、一夏の方へと目を向ける。

 

「で?お前は満足に挨拶も出来んのか」

 

「いや、千冬姉、俺は―」

 

 パアンッ!

 

 再びの快音。いくら千冬の特殊技術があるからと言っても、一夏の頭が流石に心配になってきた。

 

「ここでは織斑先生と呼べ」

 

「…はい、織斑先生」

 

 しかし、この言葉が更なる火種を呼ぶ。

 

「え…?織斑くんって、千冬様の弟…?」

「じゃあ、男子でISが使える理由ってのも…?」

「あれ?でも、もう一人はどうなるの?関係者?」

 

 勿論のこと草十郎はまったくもって関係者ではない。千冬に会ったのも、ついこの前が初めてであり、開発者である篠ノ之束なんてこの前名前を知ったくらいのレベルで無関係である。

 

「さあ、SHRは終わり、と言いたいところだが、もう一人ほどイレギュラーがいる。折角だ。お前も挨拶しろ、静希。端的ににでいい。余計なことは言うな、するな。わかったな?」

 

 幸いにも草十郎の不確定要素にあらかじめ気を付けておいた千冬により、二度目の悲劇は回避された。少しだけ考えていたことができずに残念に思う草十郎だが、仕方なく、言われたとおりに自己紹介を行う。

 

「えっと、静希草十郎です。よろしくお願いします」

 

 言いつつ、ぺこりと頭を下げる。流石に千冬の言だけあって、草十郎にそれ以上何かを求めようとする女生徒はいなかった。

 

「いずれ分かることだろうから、一つ言っておくが、静希は諸君よりも一つ年上だ。気にするなと言っても難しいだろうが、ここに来た以上、等しく私の前ではひよっこそのものだ。上下関係など初めからないものと知れ」

 

 千冬なりに気を遣ってくれたのだろう。一歩間違えば草十郎がハブられかねない宣言だが、この場における特殊性と、草十郎本人がそこまで気にしていないこともあって、概ね好意的に受け取られたようだ。むしろ、

 

「年上…これは燃える!」

「小動物らしさを兼ね備えた、先輩系同級生だとっ…!!」

 

 などと、むしろ草十郎が狙われたりする更なる要因にもなっていたりしていた。

 

 それから後にはすぐにIS基礎理論なる授業が開始。草十郎は始めて聞く単語と言うよりも、始めてみる単語が多すぎた。それでも、古い電話帳と間違えて捨てたどこぞの男性操縦者よりははるかにマシではあったが。

 

 しかし、草十郎は元々真面目な生徒で、興味を示してくれる、教員からすれば、模範的な生徒でもある。だからこそ、分からない単語は抜き出したりして、後できちんと千冬や真耶に聞こうと黙々と取り組んでいた。

 

 そうこうしているうちに、授業が終了。一人は頭を抱え、一人はいつ聞くべきかを悩んでいた。

 それから、そういえば、という風に二人は以心伝心したかのように、互いにもう一人の男性操縦者がいたことを思い出す。

 しかし、互いが互いの所へと行こうとするよりも前に

 

「ちょっといいか」

 

 タイミング悪く、一人の男性操縦者は幼馴染みに声をかけられ、廊下へと出てしまった。草十郎としては顔見知りがいたのだなくらいに思っていた。流石に知り合いとの歓談を邪魔するほどに草十郎は空気が読めない人間ではない。

 そうなると、どうするか。先程の授業の復習をしようと教科書再度開いたところて、

 

「少し、よろしくて?」

 

 この学園では簡単に休み時間を終わらせてはくれないらしい。

 

 

 

 

 




アヴァンシア、はやえもん、名無杉、復活のほあきん17、サツキ、ピンクの猫、ワタリガニ、とある猫好きななにか、バルサ、原瀬頼奈、跳び箱サイズ(敬称略)の皆様、感想ありがとうございます。

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