IS乗りの夜   作:幸海苔01

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遅くなりました。


草食動物は草食動物に出会う

 

 

 

 

 

 その後、楯無に案内してもらい、寮の自室へと到着した草十郎。

 楯無曰く、

 

「本来は二人部屋なんだけど、もう一人の男の子は既にルームメイトがいるからねー。なんと、本来二人部屋なとこを貴重な一人部屋として使用できるのです!!」

 

 とのこと。草十郎としては、広すぎても個人的には使いどころに困るな、と身も蓋もない感想を抱いていたが。実際、運ばれた草十郎の私物はごく少ないものであり、荷物も少ない。これでも、友人からの貰い物なんかで多少は増えた方なのだ。

 

 楯無は寮まで草十郎の案内を終えると、「私は生徒会の仕事があるから、また学園で会いましょ♪」と言って去ってしまった。お茶くらい出したのにと思わないでもないが、まあ忙しいならば無理に呼び止めることもないだろうとも思い、そのまま大人しく見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううむ…これからどうするか…」

 

 運ばれた荷物も少なかったので、すぐに片付けを終えてしまった草十郎は暇を持て余していた。むしろ、今までの学園生活が忙しすぎたとも言えるが。学校が終われば、バイトに精を出し、たまにあった休みでは、悪友によく分からない内に連行されることがままあった。それに加え、勉学にも追いつくのに必死で、やることがない分どうにも落ち着かないのだ。いや、本来なら少しでも追いつくために勉学に取り組むべきなのだろうが、どうにも今日は色々とあったので。勉強をやる気分でもない。

 お金は政府の方から出されることになっているし、金銭面では困らず、バイトをする必要がない。正確には、金銭面での心配がなくなったにも拘らず、それでもバイトをしておこうとする草十郎の姿に、政府側が慌てて禁止したといった方が正しいが。貴重な男性パイロットがもしもその際に誘拐や襲撃されることになっては目も当てられないからだ。

 

「そうだ、食堂に行こう」

 

 それがしばらく悩んだ末に出した答えだった。彼にしてみればそれなりに重要なことなのだ。

 

 何といっても、趣味がほぼないに等しい草十郎は、暇な時間を潰すにしても苦労が伴う。唯一の趣味とも言える庭の手入れはIS学園に来た以上、できるはずもなかった。もとは前のアパートに住んでいた際、大家さんに家庭菜園くらいならば良いと言われ、始めてみたのだが、草十郎の嗜好と合っていたらしく、綺麗に整えられていた。

 もしも外に出て、前に住んでいた町に戻ることがあるならば、庭の状態を確かめようとも草十郎は密かに決意した。ちなみにだが、せっかく育てたものをそのままにするのももったいないということで、大家さんがそのまま引き継いでくれた。元々、大家さんも草十郎と同好の士であったので、安心して任せることができた。

 

「そういえば、十蔵さんも、同じような趣味をやってるとかも言っていたような…」

 

 今度会った時にでも聞いてみて、IS学園でもできないか相談しよう。少しばかり問題が解決した気がして、少々浮かれた気分になって食堂へと繋がる道へと向かう曲がり角を曲がろうとした瞬間だった。

 

「ふにゃっ!」

「おっと」

 

 ポヨン。

 

 そう擬音が聞こえたかと思うと同時に、何かが草十郎の胸辺りに当たった。

 その程度で草十郎がバランスを崩すはずもなく、逆に当たった側である黒い影がバランスを崩しかけるが、おぼつかない足取りながら、何とか倒れずにバランスを取り直す。取った後も少し危なっかしい気がするが。

 

「すまない。少しよそ見してたみたいだ」

 

 ぶつかられた側ながら、すまなそうにそう口にする草十郎。普段の感覚で「何となく人のいる気配がする」などといった野生の勘めいたものでこういうことは起き得なかったはずだが、少し浮かれていたせいなのか、珍しく、まったくと言っていいほど気付かなかった。そんなこともあって、気付かなかった自分にもまた責任があると感じたのだ。

 まあ、ぶつかって来た側にも拘らず、危うくバランスを崩しそうになる様子が不安だったためとも言えるが。

 

「う~ん、こっちこそごめんね~。ぼーーっとしてたみたい~」

 

 草十郎の声に対し、随分と間延びした声でそう答えたのは、黒い影、でなく、何だか随分と袖が余っている着ぐるみを着た少女であった。

 

「そうか。それじゃあ、これは喧嘩両成敗というやつだな」

 

 うむうむと頷きつつ、少々どころか随分と見当はずれなことを草十郎は言っているが、対する少女もまた、ある意味で草十郎と同類であった。

 

「うんうん、これは両成敗だー」

 

 そう、すなわち天然という意味で。

 

「それじゃあ、互いに気にしてもしょうがないな」

 

「うんうん、しょうがない、しょうがない~」

 

 二人揃って腕を組みながら、何も分かっていないのに分かっているように頷く二人。と、そこまでしたところで、

 

「いや、本音、アンタ何やって―って、え?」

 

 その状況は、後からもう一人来た少女によって、ようやく終息を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、食堂に腰を落ち着ける前に、近くに休憩スペースがあったので、そこに腰を落ち着けた三人。どうせなら、食堂でとも思ったのだが、今行くのはまずいと言われ、草十郎はしぶしぶここに来た。

 ちなみに、草十郎と二人の少女がそれぞれ対面する形で座っていた。

 

「えっと、その、静希さんは織斑くんに続いての二人目の男性操縦者なんですよね?どうしてこんな所に?入寮はまだ先では?まだ、織斑くんは来ていないみたいですけど…」

 

「なんと、そうなのか。ああ、それから別に敬語はいらないぞ?これからは同級生になるんだろ?」

 

 後から来た少女ことかなりん(着ぐるみの少女こと布仏本音にそう紹介された。本名は聞かせてもらえなかった)は、少し緊張した面持ちで、草十郎と話していた。その隣では、本音がニコニコとしながら、草十郎のほうに顔を向けていた。

 

「いえ、でも一応年上ですし…」

 

「?、俺は気にしないぞ?」

 

「そうだよー、かなり~ん、そーくんもそう言ってるし、敬語なんてつけなくてもいいよ~」

 

「?、そーくんとは誰のことだ?」

 

「え~?そーくんはそーくんのことだよ~?」

 

「?」

 

「?」

 

 本音と草十郎は顔を見合わせ、二人して首を傾げる。息は合っていても、噛み合ってない会話に、かなりんが強引に話を進める。

 

「いや、多分ですけど、静希さんの名前の草十郎の草からとったのではないでしょうか?この子は周囲の人にあだ名をつけて呼びますし」

 

「なんと、そうだったのか」

 

 その言葉にふむふむと少しだけ嬉しそうな様子で頷く草十郎。あだ名をつけられること自体、草十郎にとっては初体験であり、実際につけられたのが少し嬉しく感じたのだ。

 

「それならば、俺もつけてみることにしよう。そうだな…布仏本音か、ううむ…」

 

 そう言って唸り始める草十郎。その様子に本音はわくわくとした様子で見ており、かなりんは薄々「ああ、この人って、本音と似たところあるな…」と気付き始めていた。

 

「おお、そうだ。つなげて、のほほん、はどうだ?」

 

「おお~。そーくんからのあだ名だ~」

 

「ああ、(予想していたよりも)良いのではないでしょうか?」

 

 実際、草十郎のセンスは微妙なので、これがベストであったのだが、そのことをまだ出会ったばかりの二人は知らなかった。

 

「そうか?じゃあ、のほほんは俺がつけたあだ名第一号だな」

 

「いえ~い」

 

 テンションの上がる天然二人。何だかあまりノリについていけなかったが、草十郎は基本的に悪い人間ではないようだと確認し、内心ほっとする。それに顔立ちも悪くない。純朴すぎる気もするが、むしろ良い方に分類されるだろう。何というか、歳上受けしそうな顔立ちである。

 

「そういえば、どうして今食堂に行ってはダメなんだ?」

 

「今は他の生徒も多いですし、騒ぎになるでしょう?」

 

「?、どうして騒ぎになるんだ?食堂に行くだけだろう?」

 

 かなりんは衝撃を受けた。目の前の人物は自分の立場を未だにはっきりと理解していないということになる。というか、そこまで重要に思っていないのだ。自分の価値というものを。

 

「え~?そーくんは二人目の男性操縦者でしょ~?そんな人がいきなり現れたら、みんな、びっくりするよ~」

 

「?…ああ、なるほど」

 

 少ししてようやく理解を示す草十郎。珍しく本音がまともなことを言った気がした。しかし、続く草十郎の言葉は、

 

「いずれ分かることなのだろう?いずれ会うのなら、別に多い方が知ってもらえて良いのではないのか?それに織斑先生や楯無には食堂に行く時間なんて何も言われなかったぞ?」

 

「むむ、たしかにー」

 

 草十郎の言も一理あった。いずれ気付いたり、注目されたりするならば、別に今がその時であっても問題ないのではないかと。それに、千冬や楯無が口に出さなかったということは、そこまで酷い事態にはなりえない。むしろ、女尊男卑の今の社会、男性に対し圧倒的な立ち位置を持っているのだと思っている人間も少なからず存在する。幸いにもIS学園にはそういった人間はふるいにかけることにより、比較的ましなものだと言っても、いることにはいるのだ。そんな人間がいるのなら、より人目に付く、生徒が多い時間帯こそ迂闊なことを言えないし、できないのもまた確かなことであった。

 

「それに、二人とも学食に行くのだろう?ならちょうどいいし、一緒に行こう」

 

 聞くところによると、少しばかり忘れ物をしたから、本音が取りに戻る際に草十郎とぶつかったらしい。ちなみに、かなりんは付き添いとのこと。ならば、折角だし一緒にと思ったのだが、

 

「いえ!こ、こちらこしょ、よろしくお願いします!!」

 

「よろしくね~、そーくん」

 

 何故かかなりんにはすさまじく感謝された。それこそ噛むほどに。草十郎はその様子に疑問を思って首を傾げたが、まあ、別に気にすることでもないだろうと思い直し、二人とともに食堂へと向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、食堂に向かい、大騒ぎになったのは言うまでもない。

 ただ、草十郎はその様子に驚きはしたものの、少しして、まあ、こういうものだろうとも自己完結して、何を食べるかで迷っていたのには、さすがの本音にも「そーくんは神経太いねー」とまで言われた。本人は首を傾げていたが。

 それからは妙にピリピリとした空気にだった気がするが、食堂の料理に舌鼓を打っている内に、大して気にならなくなった。ただ、四六時中ずっと他人からの目線を感じていたので、さすがの草十郎も長居はできなかったが。ただ、帰る際に、その後を生徒たちがぞろぞろとついてきたのには驚いた。千冬が出てきて一喝すれば、蜘蛛の子を散らすように慌てて皆部屋に戻って行っていたが。

 後で聞いてみると、千冬は寮長らしい。草十郎が大変ですねと言えば、特に今年はそうだろうなと溜息を吐かれた。

 

 そして、かなりんと本音と別れ、挨拶を済ませ、草十郎は自室に戻り、軽くシャワーを浴びて、早目に眠ることにした。

 

 

 

 

 

 何といっても、明日はいよいよ学園生活一日目なのだから。

 

 

 

 

 




紅葉木葉さん、十津川鳥さん、がんにょむさん、ロリコニア先住民さん、二次初心者さん、bukitaさん
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