IS乗りの夜   作:幸海苔01

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思い付きで書いたものです。
草十郎のキャラっていいよね。


草食動物がISを起動させました

 

 

 

 

「これが、『あいえす』というものなのか…ふむ…?」

 

 静希草十郎は目の前の機械に首を傾げつつも、まあ、都会にはこういうものがあるのが常識なのだろう自己完結する。

 もしもこの場に彼の友人がいたならば、「都会でも普通は見かけない」と教えてくれただろうが、生憎友人は自分が検査を受けると、草十郎を待つでもなく、早々と自らの教室に戻ってしまっていたが。もう一人の悪友は未練タラタラな様子で友人の方に引っ張って行かれたが。教室に戻る際に、「俺のハーレム計画がー!!」とか言っていたが、まあ、悪友の頭のねじが飛んでいるのはいつものことなので、深くは追及することはしなかった。

 ついでに言っておけば、置いていかれた草十郎だが、友人の性格は彼も把握しているので、特に何も思うところはない。もともと、そういったことをあまり気にしない彼本来の性質だとも言えるが。

 

 

 

 

 

 

 IS―インフィニット・ストラトスと呼ばれるそれは、現行のあらゆる兵器を上回るとされ、アラスカ条約により軍事転用を禁止された代物だ。

 本来それは、女性にしか動かせないとされていた。だが、つい最近になり、ある一人の男性がその常識を打ち砕いた。

 

『織斑一夏』。

 

 IS乗りでは最も有名な人物であるだろう、織斑千冬の弟であり、他ならぬ目の前の機械を目にする契機となった人物だ。

 理由は単純。『織斑一夏』という例外がいるのなら、他にもそういった例外が存在するのでは、という考えのもと行われた一斉適性検査が全世界で行われたためだ。

 友人曰く、「織斑一夏が例外なのは、織斑千冬の弟ってことが関係してるんだろ。あの辺の人間は開発者の篠ノ之束との交流があったらしいしな。そんな簡単に適性者が出る訳無いだろうに」とのこと。草十郎はそもそも名前を出された内、誰一人として知らなかったが。その事を言えば、その友人に呆れられてしまった。

 ちなみに、まあ、都会では有名なものなのだろうと、本人は割り切ってしまっている所が更に友人を呆れさせる要因にもなっていることを草十郎は知らない。

 草十郎にしてみれば、テレビもISもそう変わらない程に理解が出来ないものなのだ。別段知らなくても困らないだろうと思っていた。そう、この時までは。

 

「次、静希草十郎君」

 

「はい」

 

 白衣を着た女性に呼ばれた草十郎は返事をしつつ、前に出る。

 

「じゃあ、そこの丸いものに手を置いてくれるかしら?私が良いと言うまでは置いておいてね」

 

「分かりました」

 

 女性の言葉に頷く草十郎。見れば、手を置く球体からは様々なコードが伸び、目の前のISと女性の目の前に置かれたパソコンらしき機器の二つに繋がっていた。草十郎はIS本体に触れられないことを少し残念に思った。やはり男の子なのだろう。こういったものを目の当たりにすると、少しだけ触れてみたいと感じるのは当然だ。

 それと、単純な疑問として、IS本体に触れなくても良いのだろうかとも思い、素直に疑問を投げかける。

 

「あの、」

 

「何かしら?」

 

「この『あいえす』とやらには触れなくて良いんですか?」

 

「ああ、あくまで適性を調べるだけだから、わざわざ装着しなくても、この機械で十分調べることができるのよ」

 

「なんと」

 

 女性が草十郎の言葉にそう返すと、草十郎は素直に驚いた様子でふむふむとばかりに頷き、その後に触れられない事実に気付き、しょんぼりとした表情を浮かべる。草十郎のその素直な反応に思わず微笑みを浮かべる女性。  元々、草十郎は歳上の人間に男女問わず気に入られる性質だ。友人からは歳上キラーだとからかわれたりもしているが、何分本人が自覚しておらず、首を傾げるばかりなので、友人からは忠告すること自体半ば諦められている。

 ちなみに、悪友の方は度々彼を利用しようとしているが、そのことごとくが失敗に終わっている。

 

「まあ、ISに今回触れられなくても、イベントとかでまた―」

 

 草十郎を励ますようにそこまで言ったところで、女性が言葉を止め、目の前のディスプレイに目を向け、驚きに目を見開いた。その様子に流石に草十郎もおかしいと感じ、

 

「あの、どうかしましたか?」

 

と疑問を投げかける。

 

「ええっと、ごめんなさい。ちょっと機械の調子がおかしいみたいなの。悪いけど、一度手を丸いものから手を離して、私が言ったら、もう一度手を置いてもらっていいかしら?」

 

 女性は草十郎の言葉でディスプレイから目を離し、先程よりも真剣な様子で草十郎に指示を出す。

 

「?分かりました」

 

 機械の故障というならば、そういうこともあるのだろう。こういったことは専門家に任せた方がいいだろうと思い、女性の様子に疑問を感じつつも、素直に指示に従う草十郎。

 

「それじゃあ、もう一度丸いものに手を置いてくれる?」

 

 そして、指示通りに手を置くと、

 

「やっぱり間違いない、適性値Bですって…!?」

 

 女性が半ば呆然とした様子でそう呟いた。

 適性値B。それが何を意味するのか草十郎にはいまいち分からなかったが、どうにも何か草十郎にとってあまり思わしくないことが起きていることは確からしい。

 

「ごめんなさい。このまま少しだけ待ってくれるかしら?ここから、絶対に離れないでね?分かった?」

 

「?ええ、分かりました」

 

 思わしくないことが起こっているのは確かだが、ここで下手に逆らったりしてもあまり良いことがあるとは思えない。そう思い、草十郎は自分の中で鳴り響く警鐘を敢えて無視しつつ、大人しく待つこと数分。慌てた様子で他にも白衣を着た人物たちを引き連れ、女性が戻ってきた。

 そして、ディスプレイに表示された適性値Bという結果に驚き、

 

「彼がこの結果を?」

「故障ではないんだな?」

 

 などと口々に言った後、その話し声がピタリと止まり、全員が草十郎に目を向ける。彼らの様子に首を傾げる草十郎。つられて一緒に首を傾げる白衣の人物たち。

 つられて傾げた瞬間、赤面しつつも、コホンと咳払いをして、彼らは少し慌てて気を取り直す。

 

「えっと、静希草十郎君」

 

「はい?」

 

「どうやら君は、ISの適性があるようなんだ」

 

「はあ…」

 

 そう言われてもいまいち草十郎にはピンと来ない。

 

「ええっと、静希君、私たちが言った意味分かってる?」

 

「?『あいえす』の適性があるということですよね?」

 

「うん、それでいいんだけど、貴方は男性で史上二人目の適性値が出たってこと分かってる?分かる?貴方はこの世界でたった二人しかいない内の一人になったっていうことよ?」

 

「なんと」

 

 その言葉にさしもの草十郎も状況を把握した。ただ、あまりの草十郎の反応の薄さに研究者たちは思わず脱力してしまった。一応、これでも草十郎にしてみれば、驚いているつもりなのだが、いかんせん、本人がどこかでそういうこともありうる、と自己完結してしまっているので、反応が薄いように見えてしまうのだ。

 

「その、ええと、今から貴方を色々と調べるために研究所に運ぶことになるのだけれど、良いわね?」

 

 それまで草十郎の応対をしていた女性がそう口を開く。あくまでも確認としながらも、その実強制の言葉だ。

 しかし、彼はいたってマイペースに困った顔をして、

 

「それは困る」

 

 と思わず素の口調でそう口にした。その後すぐに素の口調になってしまったことに気付き、慌てて、口調を直しつつも、理由を説明する。

 

「ええと、まだ今日の授業を受け終わっていませんし、まだ教室に荷物も置いたままだし、友達との約束もありますし」

 

「いや、あのね、静希君、授業に関しては私たちの方でどうにかするわ。だから、心配しないで。そうね、私物は…一人、いや、私が一緒に取りに行くわ。今からね。だから、その後に研究所に来てくれるわね?」

 

 適性が出た当初は警戒がMAXだった研究者たちであったが、草十郎のマイペースさに毒気を抜かれ、脱力しながらも、そう提案する。

 

「ううむ…それなら、まあ」

 

 正直、あまり、というか、かなり気が進まないが、そうも言ってられないようだ。仕方なく草十郎はその言葉を受け入れる。しかしそこでパッと気付いたように顔を上げ、再び口を開く。

 

「その、バイトがあるので、あまり遅くなるのは…」

 

「ああ、もう!大丈夫だから!そっちにも事情を説明しておくから!何とかしておくから!だから、研究所まで来ること!いいわね!?」

 

「はあ…」

 

 草十郎のペースに再び巻き込まれつつあったため、無理矢理言い聞かせるように草十郎に向かってそう叫ぶ女性。

 その剣幕に圧され、コクコクと頷く草十郎。

 

「ふう、あと他に気になることはない?今のうちに言っといてもらえると助かるんだけど?」

 

「ううむ、今のところは特に…」

 

 その言葉を聞き、女性はホッと一息吐き、

 

「それじゃあ、貴方の教室に行くわよ、草十郎君」

 

「分かりました」

 

 そして、急遽教室に戻ることになった草十郎は女性が後ろからついてくるのを確認しつつ、女性の速度に合わせるように、自らの教室を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 それからはあっという間だった。

 私物を取りに行き、その際に友人と悪友にどうやらISの適性があるらしいことを話すと、友人には驚かれ、悪友には何故かはわからないがすさまじく羨ましがられているうちに、女性の急かす声が聞こえ、慌てて私物を整理し、問題ないことを確認すると、そのまま研究所へ直行。

 『倉持技研』なる場所に連れていかれ、そこで所長だと紹介された少々変わった人物に会ったものの、すぐに面会も終了。背後に立たれた瞬間、邪念というか、そういったものを感じた気がして、思わず飛び退いてしまったが、何故かそれで気に入られてしまった。「簡単には触らせてくれないとは、無念…」と聞こえた気がした。いったい何を触る気だったのかはよく分からないが、深くは考えなかった。

 そして、様々な機器を取り付けられ、改めて草十郎が適性者であることを確認し終えると、

 

「ふーむ、適性値B、と。結果としては凡庸。でも、男。しかも中々顔も悪くない。男でIS乗りになるには、顔面偏差値も高い者限るという項目でも含まれてるのかナー?」

 

「…顔面偏差値?」

 

 などと言葉を交わしつつも、無事に検査を終え、よく分からない書類を大量に書かされた。

 

 ただ、草十郎は友人に「書類関係は気をつけろ。分からなかったら聞け。解剖なんてされたくないだろう?」と言われたので、熟読し、その後来た、責任者らしい、轡木十蔵なる人物に度々確認を取った。

 十蔵はどことなく草十郎に似通った節があり、物腰柔らかく、穏やかな人物であり、草十郎を急かさず、丁寧に説明もしてくれるため、書類を処理し終えた頃には、二人はすっかり仲良くなっていた。ちなみに、彼が持ってきてくれたお菓子は非常に美味しかった。

 

 それから後は、どうにも今の学校ではなく、IS学園に通う運びとなってしまった。一応、草十郎としては、折角今の学校に入るためにそれなりの努力もしてきたし、友人とも別れるのはしのびなかったので、何とかならないかと聞いてみたのだが、聞き入れてはもらえなかった。

 仲の良くなった十蔵にも聞いてみたが、彼にもさすがに変えようのないことだったらしく、残念ながら、IS学園へと通うことになってしまった。その際に、悪友にはすさまじく羨ましそうな目で見られ、友人には「気をつけろよ。何かあったら連絡しろ」とありがたい言葉をもらい、学校とそれまで住んでいた町を後にした。

 

 余談だが、草十郎との別れを一番惜しんでくれたのは、その町の商店街の大人たちであった。貴重な生真面目で、よく働いてくれる働き手を失うというのもあるが、何よりも年上キラーと揶揄されるほどに大人たちから好かれる人柄ゆえであった。特に好かれるというだけで、同年代から好かれないという理由では決してないが。その際に、お土産もたくさんもらった。

 

 そして、迎えに来た人物と待ち合わせ場所に向かい、そこにいたのは、

 

「静希草十郎だな?私はIS学園の教員で、お前が所属するクラスの担任である、織斑千冬だ」

 

「あ、どうも初めまして。静希草十郎です」

 

 草十郎はぺこりと頭を下げつつも一目で気付いた。彼女が相当な手練れであることを。そしてまた、千冬も草十郎を見た瞬間に気付く。

 

(かなり、『デキる』な)

 

 前情報で十蔵からも聞いてはいたが、なるほど、中々侮れない人間だと感じた。少なくとも、生身で戦うとするならば、自分の弟ではまず相手にすらならないだろう。そう感じさせた。感じさせたのだが、

 

「…静希、一つ聞いておくが、その大荷物は何だ?すでにお前の私物はIS学園に送られているはずと聞いたが?」

 

「あ、これは商店街の皆からのお土産です。そうだ、織斑さん、これどうですか?折角のもらい物ですけど、まだ俺はこれ飲んじゃいけないので、よかったらどうぞ」

 

 そう言って草十郎が差し出したのは、『魔王』。有名な芋焼酎の銘柄であり、高級品でもある。そんなものを未成年に渡す人物に千冬は何と言ったらいいか分からない複雑な心境を抱いた。そして同時に思った。ここまで他人に好かれる人柄があるのだから、そこまで警戒するような人間ではないのかもしれないとも。

 

 

 

 蛇足だが、差し出されたのが『魔王』というのが、更なる心境の複雑さを千冬に招いた。

 

 

 

 

 




評価とか良かったんで、連載にしました。

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