憑依時津風とほのぼの鎮守府   作:Sfon

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5/3改稿


時津風、クリスマス大作戦。

 生活に慣れると時間が早く過ぎるという話はどうらや本当だったようで、世間はいつの間にか年末ムードとなっていた。今日は12月19日、窓から見える景色は秋の紅葉も消えて葉の落ちた木の茶色が広がっている。

 

 最近、嬉しいことがあった。少しずつではあるが、ようやく鎮守府の皆さんから秘書艦として認められた気がするのだ。司令もオレに鎮守府の管理運営の一部を任せてくれているし、だんだんと役立てている実感がわいてきて嬉しい。今までは秘書艦とか言いながら、実質お茶汲みみたいなものだったからな。

 

 そして今日は司令から休みをもらい、いつも世話になっている司令に対した、ちょっとした計画の準備を進めることにした。

 

 現在午後2時、騒がしかった昼休みも終わって艦娘も居なくなり、すっかり静かになった食堂の厨房にお邪魔している。今日は間宮さんからちょっとした料理というか、お菓子作りを習いにきたのだ。いま時期突然習いに来るといえば、その理由はひとつ、ズバリ、クリスマスのプレゼントだ。

 

 そう、オレが立てた計画とは、クリスマスにオレ手製のなにかを司令にあげて驚かせてやろう、と言うものだ。別にバレンタイン等ではないのだ、気張って何かしようとは思っていない。ただ、オレのいつもの顔とは違うものであればいいという判断だ。司令のビックリした顔が目に浮かんで楽しい。

 

 

 

「それで、時津風ちゃんは何を作りたいの? 今日はあんまり時間がないからそんなに大掛かりなものはできないし、料理初めてなんでしょ? なにか手軽なものがいいとは思うのだけれど」

 

「ひとまずクッキーがいいかなって。どうですかね?」

 

 今回オレが選んだのはド安全策のクッキー。前世でもなにかの機会で作ったことがあり、失敗しなさそうだったから選んだ。企画当初はぬいぐるみのような形に残るものがいいかと思ったが、流石に人にプレゼントとして渡せるほどすぐには上手くなるわけもないので却下していたのだ。折角渡すのだ、驚くだけではなく喜んでもらいたい。

 

「いいんじゃないかしら。それじゃ、早速始めましょうか」

 

「よろしくお願いします!」

 

 

 

 さて、張り切っていくか!

 

 

 

 

 

 

 

 間宮さんに教わりながら作ること二時間弱、バターとマーガリンをごっちゃにしたり、焼き加減を危うく間違えそうになったりといろいろハプニングはあったものの、何とか形にはなった。間宮さんにも試食してもらった結果及第点を貰うことはできたのだが、あまりの嬉しさに思わず小躍りしてしまい、間宮さんに苦笑されつつ注意されたのは少し恥ずかしかった。

 

「うん、取り敢えずは大丈夫じゃないかしら。ところで聞き忘れてたけど、どうして急にお菓子作りを聞きに来たの?」

 

 二人でシンクに向かって横に並びながら使った道具を片付けている最中、唐突に質問される。

 

「クリスマスに司令に渡して、驚かせようかなーって。いつもはこんなことする柄じゃないですし」

 

 そう返すと間宮さんは作業の手を止め、こちらを向き、微笑んで言った。

 

「なるほどねー。たぶんライバルは多いと思うわよ?」

 

「ライバルですか?」

 

「毎年提督のところに何かしらの贈り物をする艦娘って結構多いのよ。だから、特別な気持ちを伝えるなら、もっとなにか他の方法じゃないと難しいかもしれないわ」

 

 そうか、司令は鎮守府で唯一の男だもんな。人気が集まるのも当たり前か。俺もどうせ艦これの世界に来るなら提督になってハーレムを築きたかったな。いまの生活も満足しているから、嫌って訳じゃないけど。

 

 それにしても、特別な気持ちって…?

 

 

 あー、もしかしてオレが司令を恋愛感情で見てると思っていらっしゃるのかな?

 

「間宮さん、別に司令に告白するとか、そういう感情はないですからね? 単純にサプライズのつもりでした。皆が渡しているなら計画倒れですけど」

 

 そう言った途端、間宮さんは驚いたような表情をした。

 あれ、オレなんか変なこと言ったかな?

 

「そうだったの? あれはどう見ても恋する乙女の仕草だったんだけど…」

 

 何をいってやがりますか間宮さんよ。オレの前世は第十六駆逐隊のみんなと司令にしか言ってないから否定要素は端から見たら無いのかもしれないけれど、流石にそれは勘違いだろう…。

 

「いやいや、そんなことないですって。そんなにそれっぽい仕草してました?」

 

「ええ、執務室にお邪魔したとき司令と話しているところを見たけど、とっても笑顔だったわよ? あとは食堂で一緒に食べているときとかかしら。なぜか恋人というよりは夫婦のように見えたけれどね」

 

 夫婦とかなにいってくれやがりますか間宮さん。それこそありえませんって。いったいどこを見たらそうなるのか。

 

「そ、そうですか。今日はありがとうございました、またよろしくお願いします」

 

 どうにも会話を進めるほどどつぼにはまりそうなので、無理やりにでもお開きにした。別れ際に「頑張りなさいよ!」何て言われたときにはもう、何だか恥ずかしかった。違うんですよ間宮さん。

 

 

 焼いたクッキー全てをオレと間宮さんで消費できるわけもないので、作戦から帰ってきた第十六駆逐隊のみんなに差し入れとして渡した。みんなオレが作ったことに驚き、そこそこ美味しかったらしくそこでも驚いてくれたので、司令の反応がますます楽しみになった。早くクリスマスが来ないかなー!

 

 

 

 

 

 時は流れ、クリスマス当日。日もとっぷりと暮れ窓の外は月明かりが照らす深い青の海が。

 

 間宮さんのいっていた通り、今日は午後から次々と司令にプレゼントを渡しに艦娘が執務室に来た。どのプレゼントもラッピングや一言添える手紙など、なかなかに凝っていて艦娘の気合いの入りかたが目に見えるようで、オレのはそれと比べたら雲泥の差だと身に染みた。それなりの紙袋に詰めただけのクッキーだ。

 

 しかし、折角休みを潰して間宮さんに教わったのだ、渡さないという選択肢は無かった。そもそも、これは司令を驚かせるために渡すのだ。菓子のクオリティは関係ない、はず。

 

 今日の昼休憩の間、司令が執務室にいないときを見計らって自室からクッキーを持ってきていた。司令が帰ってき次第、早いところ渡してしまおうと考えていたのだが、司令は何人かの艦娘を連れて帰ってきた。プレゼントが多く一度に受け取ったら運びきれないので、執務室で受け取ろうとしたようだ。

 

 そのタイミングでオレも渡せばよかったのだが、司令ラブな一団だったので入り込める空間もなく、またそういう雰囲気でも無かったのでできなかった。

 

 そしてその後も司令がすぐに仕事に戻ってしまい、とても集中した様子でこなしていたので気安く声をかけるのも(はばか)られ、結局1日の仕事が終わるまで渡せないままになってしまった。

 

 

「そろそろ終わりにするか、時津風お疲れ様。クリスマスなのに仕事入っちゃってごめんな、年末はいつもこんな感じになっちゃうんだよ」

 

 本当にすまなそうに言ってくれる司令。しかしオレはそれどころではないのだ。如何(いか)にして司令を最も驚かせるタイミングでクッキーを渡すかの方が今は重要だ。

 

 オレが部屋を出るのを装ってドアに向かうと、司令が執務室の奥の自室に歩いていった。司令がこちらを向いていないのを確認して、忍び足で体を反転し、司令の後ろにつく。そして体勢を低くして、脇からから司令の目の前に躍り出てクッキーを突きつけた。

 

「じゃーん!」

 

「うぉっ!? 時津風まだいたのか! ってなんだそれ」

 

 滑り出しは好調だ。司令は本気で驚いたようで思わず数歩後ずさっている。

 

「オレの手作りだぞー、ほら、受け取ってよ」

 

 司令に半ば押し付けるように渡すと、面食らったような顔で驚きつつも受け取ってくれた。開けていいか聞かれたので開けてもらうと、中身を見てさらに驚いた。

 

「え、これ作ったの? 時津風が?」

 

「そうだよ、普段はこんな柄じゃないし、驚いてくれるかなって」

 

「そ、そうか」

 

 戸惑いの表情を見せる司令。

 

 あ、あれー? なんか思ってたのと違う。司令なら受け取って一通り驚いたあと「お前もこんなの作るのかよ、意外だわ」とか言って、パッと食って「旨かったわ、じゃあな」位で済ませてこの場が終わると思ったんだが。

 

「ありがとうな時津風、その、うれしいよ」

 

「そ、そうか、よかった」

 

 お互い向かい合っているのが恥ずかしくなり、思わず顔を背ける。

 なんだこれは、もっとあっさり終わる予定だったのに。

 これじゃあまるでどこぞのカップルじゃないか。

 

「さっさと食べちゃってくれよ」

 

「お、おう」

 

 なんだよ、どもりすぎだろ司令。なんでそんなに緊張してるんだよおい。こっちまでドキドキしてきたじゃないか。味見もしたんだ、大丈夫なはずだけど、たまたま司令に当たったのが失敗作、という可能性も無いわけでは無い。

 

 …あ、もしかして味が予測つかなくて怖い、とか?

 もしそうだったらちょっと遺憾だよ、司令。

 

 袋からひとつ摘まんで、口に放り込む。司令の様子が気になって横目でチラチラ見ていると、司令は無表情で矢継ぎ早にどんどん食べていった。

 

 なんだよ、旨いのか?

 それとも勢いで無理に食ってしまおうってやつか?

 せめて何か顔に出せよ、怖いだろ。

 

 

 

 

 しばらくしてクッキーを全部食べ終わると、司令は軽く深呼吸をして言った。

 

「うん、うまかったぞ。これからも、その、たまに作ってくれたら嬉しいかな」

 

「え、まだ他の艦娘に貰ったやつがあるだろ? 結構な量があるから当分はあれでもつんじゃないか?」

 

 予想していなかった感想に驚きつつ、何とか返事を返すと、司令は頭を掻きながら続けた。

 

「いやー、そのな、時津風が作ったのが食いたいな、俺は」

 

「なっ!?」

 

 いやいや、なにいってくれてますか。というかなんで俺もこんなに驚いてるんだ。司令に言われた途端、心臓が張り裂けそうなほどに拍動している。背中が、首もとが、焼けた鉄でも差し込まれたかのようにカッと熱くなる。

 

「な、なにいってんのさ! そんな風に言われたら恥ずかしいじゃんか! ま、まあ、いいよ、うん。作ってやるよ」

 

「そうか、ありがとうな、嬉しいよ」

 

 心底ほっとした顔で胸を撫で下ろす司令。

 

 あーもう、調子狂うなまったく!

 

「と、とりあえず司令、じゃ、そういうことで。おつかれ、おやすみ」

 

「お、おやすみ」

 

 何だか居心地が悪くなり、執務室を足早に後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんなんだよ、一体…。

 

 驚かすだけのつもりだったのに…。




ニヤニヤ

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