憑依時津風とほのぼの鎮守府   作:Sfon

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ヒャア!もう我慢できねぇ! こんな時間だが投稿するぜ!


時津風、司令のお供する。その後。

 秘書艦三人が時津風の異常さに気づいたのは、会話が始まってからそう時間の経っていない頃のことだ。吹雪と夕立、卯月と時津風に分かれて二つの二人がけソファーを向かい合わせて座って話し、話題がケッコンカッコカリにまで進んだ頃。

 

「それで、時津風はどんな功績を挙げてケッコンしたんだぴょん?」

 

「功績も何も、鎮守府に着任してからずっと秘書艦だったから、別になにもしてないよ?」

 

「わざわざ隠すなんて、そんなに凄い功績っぽい?」

 

「いや、本当にずっと事務仕事ばっかりやってたんだって」

 

「それでそれで? 私も時津風ちゃんが何したのか知りたいよ?」

 

 時津風は三人に一言づつ言われて、漸く何かがおかしいことに気づいた。

 

「えっと、ちなみに、皆はどんな功績を挙げてケッコンしたの?」

 

 願わくば予想が外れてほしいと祈りながら時津風が聞くと、三人は不思議がったあと、一人づつ話していく。

 

「私は地道に戦績を積み重ねていって、司令官とお付き合いし初めて1年半位経ってやっとお許しが出たよ」

 

「うーちゃんの時は連日連夜深海棲艦が襲来したときに頑張って全部一位の撃破数をとって、それで認められたぴょん」

 

「あたしは吹雪と同じかな。結構時間かかったっぽい。それで、時津風は?」

 

 嫌な予想ほど当たるとは言うが、まさかここに来て当たるとは思っていなかった時津風は、声も縮こまって言う。

 

「その………これと言って戦績は挙げてない…よ」

 

 その台詞を聞いたとたん、場の雰囲気が一変する。あまりの変わりように怖じ気づくが、そのまま続ける。

 

「だ、だって、そもそも海に出たことはあるけど戦闘したことはないし、砲だって撃ったこと無いし、本当にずっと事務仕事しかやったこと無いんだって」

 

 自分の言い分を言い終わったあとに中々続く人が出ず、少しの間無言が場を支配したあと、ゆっくりと卯月が最初に口を開く。

 

「………やっぱり変わり者のしれいかんには変わり者の秘書官が就くってことだぴょん。功績がない艦娘が指輪を貰えるなんて普通はあり得ないぴょん」

 

「時津風ちゃん、ケッコンカッコカリって言うのはね、ある一定の功績を挙げた艦娘に司令官がご褒美として与えるものなの。少なくとも建前上は。だから、指輪を持っているってことは、それだけで『何かしらの功績を挙げた凄い艦娘』って証になるの」

 

「しかも、指輪を渡すためには勿論本部、つまり今会議に出てる提督さんの全員から承諾を得て指輪を作って貰わなきゃいけないっぽい。つまり、時津風は大して功績も挙げてないのに指輪をもらえたってことは、あなたの提督さんが相当苦労して他の提督さんを説得したことになるっぽい」

 

 三人の話を聞けば聞くほど自分のおかれている状況が異常なことを理解していく時津風には、今までずっとはめていた左手の指輪が何故だかとても恐ろしいものに感じてくる。

 

「でも、それならどうして私の回りの艦娘たちは私がケッコンしたときにそう言うことを指摘してこなかったわけ…?」

 

「そりゃあ、横須賀鎮守府には時津風が秘書艦になるまでずっと秘書艦がいなかったから、ケッコンカッコカリの仕組みもよく分かっていなかったんじゃないかな」

 

「秘書艦のいない鎮守府なんて本当におかしな話だったぴょん。でも艦娘を一度も戦闘に出さないで秘書艦にしてケッコンまでするなんて方がもっとおかしな話だぴょん」

 

「少なくとも、時津風は相当提督さんに愛されてるっぽい」

 

 三人は本当に苦労してケッコンして指輪を貰ったと分かり、自分が大して苦労もせず貰ったのが心苦しくなる時津風。その一方で、そこまでして指輪をくれた司令に心から感謝をすると共に、ますます司令のことが好きになった。

 

 

 

 

 

 それからというものの、話題はそれぞれがケッコンするまでの苦労話に切り替わった。しかし、三人の話す言葉がどれも時津風に突き刺さり、ますます立場がなくなっていく。あまりの居心地の悪さに、時津風はとうとう『禁断の台詞』を言ってしまった。

 

「お願い、私が異常なのはわかったからこの話はもう勘弁して…。他のことなら何でも(・・・)話すから……」

 

 そう言った瞬間、三人の目が光り口元がつり上がる。

 

「……ねえ卯月ちゃん、いま時津風は『何でも』話すって言ったよね?」

 

「言ったぴょん。しっかり聞いたぴょん」

 

「時津風、覚悟するといいっぽい」

 

 突然の三人の変わりっぷりについていけなかった時津風だが、自分が口走ったことを反芻するうちに、その重大さに気がつき、からだの熱が一気に冷める。

 

「えっと、その、何でもとは言ったけど、常識的な範囲で…」

 

「時津風ちゃん、『何でも(・・・)』って言ったよね?」

 

 時津風が何とか逃れようとするが、この中で最も秘書艦になって長い吹雪が、時津風に詰め寄りながら諭す。

 

「その、常識的な…」

 

「言ったよね?」

 

 言い返そうとするが、顔を吹雪に近付けられて思わず後ろにのけぞる。ソファーの背もたれに頭が沈みこんでもなお吹雪が顔を近付け、目が笑っていない笑顔で問いかけてくるので、もはや時津風には打つ手がなくなった。

 

「………はい。言いました」

 

 言質をとったとばかりに機嫌よく自分の席に戻った吹雪は、とんでもないことを言い出す。

 

「それじゃあこれから、私たちが一人ずつ時津風に質問していくから、全部に正直に答えること」

 

「ちゃん」を付けずに呼ばれた時津風はなにも言えずにすぐさま(うなず)く。

 

「よしよし。まずは私からね。それじゃあ、初めてのときってどんな感じだった?」

 

「え!? え、えっと、それは、その……」

 

 いきなりの吹雪の質問に青ざめていた顔を真っ赤にして口ごもる時津風。ある程度眺めて満足した吹雪は話を進める。

 

「あれ、時津風、私は初めての『ハグ』について聞いたつもりだったんだけど、なにと勘違いしたのかな~?」

 

「へ!? えっと、えっと…」

 

「まあ良いよ。ほら、初めて抱いて(・・・)貰った時はどうだったの?」

 

 明らかに確信犯の吹雪に良いように扱われる時津風。小さな女の子に手玉にとられ、完全に動揺している。

 

「わ、あわわ、えっと、その、なんか暖かくて、包まれて、なんか良い臭いとかしてました!」

 

「じゃあ次は卯月だぴょん。『初めて』……のキスはどんな感じだったぴょん? どっちからだったぴょん?」

 

「き、キスぅ!?」

 

「キスも知らないぴょん? チューする事だぴょん」

 

「それは分かっているけど、えっと、自分からしました! なんか顔を近付けたと思ったら柔らかくて、いつのまにかベッドに寝てました!」

 

「じゃあ夕立の番っぽい。提督さんとの『初めて』はどうだったっぽい?」

 

「えっと、何の初めてでしょうか…」

 

「…初めてと言えば普通はひとつしか無いっぽい。わざわざ言わせるの?」

 

「ひっ、はい! わかりました! えっと、痛かったけどそれ以上に嬉しかったです!」

 

「それじゃあ吹雪の番ね」

 

「に、二週目もですか…?」

 

「誰か一周って言ったっけ?」

 

「言ってないですごめんなさいぃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おまたせー、会議終わったぞー。って吹雪、なにかあったのか?」

 

「いえ、なにもないですよ司令官」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、提督たちの会議が終わるまで3時間ほど続けられた容赦の無い質問は、時津風に秘書艦の間の序列を叩き込むのに十分だった。

 

 

 所は変わって会議したビルから歩いて30分ほどのところにあるホテルで司令官と時津風はくつろいでいた。鎮守府はどの部屋も洋室なので、たまの気分転換にと司令は和室を予約していた。翌日の午前中にも会議があるそうで、それを聞いた時津風はまたあの中に行かなくてはいけないと恐れたが、顔を見せるだけと聞くとホッと息をついた。

 

「どうした時津風。何かあったのか?」

 

「ううん、ただ、どこの世界にも順番ってあるんだなって」

 

「そりゃそうだ。特に吹雪はあの中では最古参だからな。明日は資料を貰ってくるだけだから、すぐ終わるさ」

 

「うん。そうだね」

 

 安心した時津風は座椅子の背もたれに寄りかかり、大きく伸びをした。

 

「あー疲れた…、しれー、ちょっと寝るからご飯の時間になったら起こしてー」

 

 そう言うと、座椅子から座布団をとって二つ折りにし、枕がわりにして横になる。どこか懐かしい畳の香りが心を静めてくれる。

 

 

 暫く休んでいると、ふと思い付く。

 

「そういえば、今日の会議って何したの?」

 

「だから、夏祭りの打合せだよ。前にも言ったろ?」

 

「あれ、そうだっけ。なにか決まった?」

 

「とりあえず、それぞれの鎮守府で共通してやることは決まった。艦娘の模擬戦闘と林檎アメの出店な」

 

「模擬戦闘はわかるけど、何で林檎アメ?」

 

「やっぱり祭りと言えば林檎アメだろ! としつこく主張する奴が居てな」

 

「なるほどねー」

 

 雑談のあとは静寂が部屋を支配する。しかし、不思議と心地よい。さっきとは違って。やっぱり私には司令だな、なんて思っていると、いつの間にか眠りについていた。

 

 

 夕食は豪勢な部屋食だった。いつも通りに司令と向かって食べてはいるが、服装が今日は浴衣であるせいか、妙に目新しかった。数々の小鉢に箸をつけていくと、半分を過ぎた辺りでお腹がいっぱいになってしまった。しょうがないので司令にあげると、元からの自分の分も合わせて全部平らげてしまった。妙なところで成人男子の司令と幼い女の自分の違いを意識することになった。

 

 

 晩御飯も食べ終わり、少し休むと仲居さんが布団を敷いてくれた。そのときは二枚の布団が敷かれようとしたのに、司令が『一枚でいいです』なんて言うから、仲居さんはやってはくれたものの、内心驚いていたに違いない。仲居さんが居なくなってから司令になぜそんなことを言ったのか聞くと、いつも同じベッドに寝てるじゃないか、とまるでこちらがおかしいかのように言われた。たぶん私の方が普通のはずだ。

 

 

 

 お腹も落ち着き、やることもなくなったので司令と一緒に布団に入った。妙に気恥ずかしくて、司令と背中合わせになった。

 

 そのまま寝ようかと思ったが、昼間の出来事を思い出した。まさかあんな事やこんな事まで根掘り葉掘り聞かれるとは思っていなくて翻弄されたが、最後には皆祝ってくれたので、何だかんだで優しい人たちだった。

 

 

 一日を振り替えると、伝えたいことができた。普段なら気恥ずかしくて言えないようなことだけれど、お互いの顔が見えない今なら言える気がする。

 

「…ねえ、司令」

 

「なんだ?」

 

「昼間に秘書艦の皆から聞いたんだけどさ、その、ケッコンって本当は凄く大変なんだね」

 

 意を決して言うと、司令は返事をしない。どうやら、最後まで聞き役に徹するつもりのようだ。

 

「みんな大好きな司令とケッコンするためにいっぱい頑張って、ようやく手に入れるような、大切なものだったんだね」

 

「ねえ、司令、私ね、初めてそれを聞いたとき、とってもビックリしたんだよ? でも司令が指輪を貰うためにその分頑張ってくれてたんだなって思うととっても嬉しかった」

 

 口に出せば出すほど、次から次へと心の底から湧いてくる温かい思いが自分を包み込む。そして、一番言いたいことを、最後に告げる。

 

「司令、変わり者の私を選んでくれてありがとう。司令に出会えて良かった。これからもよろしくね。……大好きだよ」

 

 

 

 今一番伝えたいことを伝えると途端に今までの恥ずかしさが込み上げてきて、布団に潜り込む。

 

 

 暫く経って、もしかして司令は寝てしまっていたのかと思い始めた頃、ようやく司令が口を開いた。

 

 

「時津風…」

 

 そう呟くと、司令は寝返りを打って体を時津風の方に向け、そっと抱き締める。予想だにしない行動に思わず体を震わすが、すぐに落ち着いて体を委ねる。

 

「俺の方こそ、時津風に出会えて良かったよ。初めは本当に驚いたんだぞ? 可愛い娘だなって思ったら元男だなんて言うんだから」

 

 司令の発言に再び体を震わす時津風だが、司令は抱く力を少し強めて続ける。

 

「でも、俺は時津風の今までを全部含めて、大好きなんだからな。俺はお前がその姿になる前のことも、全部肯定する。その姿の前の頃のお前があってこそ、今のお前があるんだからな」

 

 そこまで言うと自分の体の下に強いていた腕で時津風の頭を撫でながら続ける。

 

「正直なことを言えば、元男だからこそ、気兼ねなくおまえと話せたんだ。そして、それがあったからこそお前のことを良く知れたし、想いを伝えるところまで行けたんだ。全部お前のお陰だよ、時津風」

 

 

 司令の想いを聞き届けた時津風は、優しく司令の腕を解いて、面と向かう。

 

「ねえ司令」

 

「なんだ?」

 

「大好き」

 

「ああ、俺も大好きだぞ、時津風」

 

「ここまで来て捨てたらただじゃおかないから」

 

「お前を捨てるだなんて俺ができるわけ無いだろ。二人といない、最高のパートナーだ。死ぬまで付き合ってもらうぜ」

 

「こっちこそ。覚悟しておいてよね」

 

 其処まで軽口をたたきあうと、時津風は、胸元を顔を埋め、司令は優しく撫でる。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして夜は穏やかに過ぎていった。


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