これからもよろしくお願いします!
感想返しについて。
予想以上の感想件数に驚いています。
申し訳ありませんが、「甘すぎるグハッ」系統の内容の感想につきましては、どうか御容赦ください。当方も流石にあの件数への(ほぼ)同一内容の返信は当方の返信のレパートリーがあまりにも少なく、返そうにもできない状態です。本当に申し訳ありません。
なお、いただけたこと自体につきましては本当に感謝しております。この話がここまで長くなったのもその影響があります(感想から思い付いた部分も含まれています。)。
今後とも感想を、お待ちしております。「良いんじゃん」一言でもとても嬉しく、執筆(とは言えない拙いものですが)の励みになっています。
以上、どうかよろしくお願いいたします。
【追伸】
本文最終部分
「踏ん張りがつく」→「踏ん切りがつく」
に修正しました。肝心な締めなのに、本当に申し訳ありませんでした。感想で教えてくださった方、本当にありがとうございました。(12/14)
「伝染」→「伝線」に修正しました。(12/15)
5/3改稿
朝起きると司令の顔が視界一杯に広がっていた。頭のなかによぎる既視感。そう言えば、以前もこんなことがあった。その時との違いと言えば、あのときは司令に半ば無理矢理だったが、今回は自分から(あれで自分からかは微妙なところだが)同じベッドに入ったと言うところか。
どうやら、まだ司令は起きていないようだ。良い寝顔をしている。幸せなやつめ、憎たらしくすら思える。
自分の胸元に目をやると、着替えずに寝てしまっていたことに気がついた。すっかりシワがついてしまっている。タイツの膝も伝線しているから、ここだけ見るとどことなく怪しい感じがする。
せめて服の乱れを軽く直そうと手を襟元にやると、左手薬指にはめたものが目に入った。
…そっか。カッコカリしちゃったんだよな、昨日。
銀色に輝くそれが、寝る前のことを思い出させる。
司令にチョコを渡したこと。司令に指輪を貰ったこと。
……自分からキスしたこと。
一夜開けて残った感情はホンの少しの後悔と、有り余る羞恥心だ。しかし、それ以上に嬉しさもある。何とも複雑な心持ちだ。
起き上がり、着替えに自室に戻ろうとしたとき、ふと司令の顔が目に入った。
やっぱり、ここは起こすべきだろうか。
いやさ、自分も元は男の端くれ。男にとって何をされたら嬉しいかなんて手に取るようにわかる。
流石におはようのキスなんてやる度胸はないけれど、起こしてあげるくらいなら別に良いかな。
布団を剥がして司令を仰向けにし、腹にまたがる。苦しくないように体重はなるべくかけないようにする。どうやら司令もあの後、着替えずに寝てしまっていたようだ。軽く腹を触ってみると、意外と引き締まっていて良い体をしている。男の頃にこんな体だったらモテたんだろうか。
そして、肩を軽く揺する。
「しれぇー、朝だよー」
若干口が回っていないが、こっちも寝起きなんだからしょうがない。
暫く揺すっていると目が薄く開いたので、揺するのをやめる。
「…時津風? ……夢か」
どうやら今の状況が現実だとは思えなかったようで、二度寝の体制にはいる。
さっさと起こして着替えにいきたいので、少し乱暴に起こすことにする。
「しれぇー、朝だよー! 夢じゃないよー! おーきーてーよー!」
割りと大きめな声で呼び掛けながら、強めに肩を揺する。
さすがの司令も目が覚めた様子で、眩しそうに目を細めながら事態を把握しようとする。
「……なにしてんの時津風」
「やっぱり、男としては、朝は美少女に起こしてもらいたいのかなって」
私の言葉を聞くと、合点がいった一方で呆れた様子の司令。
「いや、確かに嬉しいよ? でももう少し起こし方ってもんがあると思うんだけど」
そうボヤきながら起き上がろうとするので、司令の上からどいてベッドから降りる。
「そうは言っても、最初ので起きなかったじゃん。それじゃ着替えてくるね」
まだ寝ぼけ眼の司令が手を振って送るのを背に、自室に向かう。
道中、どこかいつもと違う雰囲気を感じた。普段なら挨拶だけしてすれ違う艦娘達が、妙に距離を開けてくるのだ。それに、すれ違った後、数人のグループだと何か小声で話している。内容は気になるし、心当りがなまじ有るだけに、あまりいい気分にはならない。
自室に入るとまず反応したのは天津風だ。私が扉を開けるなり飛んでくる。その天津風越しに初風と雪風がこちらに振り向くのが見える。
「時津風、あんたあの噂は……本当みたいね」
顔を覗き込んだ後、左手を見て納得した様子の天津風。
「噂ってこれのこと? 何でもう伝わってるのさ?」
左手薬指にはめたものを見せながら訝しげに聞くと、思いもよらぬ答えが初風から返ってくる。
「あんたと提督の写真が食堂前に貼ってあるのよ。確か見出しは…」
「『朴念仁提督、遂に相手を決める!』だったかな」
初風の言葉を引き継ぐ形で雪風が答える。
写真……まさか青葉か!?
鎮守府で写真を撮るような艦娘なんて、それくらいしか思い当たらない。どうやらしてやられたようだ。
まさかこんなことになるとは…。
考えていても仕方がない。ひとまず着替え、写真を確かめに行くことにする。
あれ、タイツの在庫が減ってきたな。そろそろ買い足さなきゃ。
着替えている途中、天津風がにやけながら言う。
「青葉をどうするかは勝手だけど、食事が終わったらゆっくり話してもらうわよ?」
良いオモチャを見つけたとばかりに笑顔の天津風。
その顔にはなぜか薄ら寒いものを感じる。
「話すって…何をさ」
「決まってるじゃない。どっちから言ったのかとか、昨日はどこまで進んだのかとかよ」
どうやら敵はすぐ近く身近に居たようだ。想像しただけで頭が痛くなってくる。
「言わなきゃダメ?」
「ダメよ。そもそも話だけで許すって言うんだから感謝しなさいよ」
胸を張り、上から目線で偉そうに言う天津風。それなりに長い間付き合ってきてわかったが、こういう態度をしているときは大抵自分の弱味を隠しているときだ。
「感謝? 何に?」
そう聞くと、天津風は黙ってしまった。やはり、予想通り何かあるようだ。問い詰めるように天津風の目をじっと見ていると、初風がなんでもない事のように、爆弾を投下する。
「天津風は提督の事が好きだったのよね。でも提督は時津風にご執心だから、せめて司令の思いが届くように~、なんて。全く、妙にひねくれてるわよね」
それを受けた天津風は一気に顔を紅く染め、目を見開く。
「なッ、なんで言っちゃうのよ初風!」
「だって、秘密にしててなんて言われてないわよ。それに、時津風に感謝してもらいたいんでしょ?」
羞恥と興奮で顔を赤らめている天津風とは対照的に、初風は
いずれ面倒に巻き込まれる気がしたので、初風と天津風が言い合っている間にこっそり部屋を出た。
執務室で司令と合流し、食堂に向かう。
途中、現時点でわかったことを司令に伝える。
「ねえ司令」
こちらの心労も知らないで呑気に返事をする司令。
「なんだ?」
「その、昨日のことなんだけどさ、早速知れ渡ってるみたい」
これを聞いた司令は少し目線を宙に漂わせたあと、合点がいったように頷いて言う。
「わかった、青葉だろ。確かにあり得るな。バレンタインだったし、何かあると予想したんだろう」
てっきり焦ると思っていた私としては、司令の反応に肩透かしを食らった気分だ。
少し不満に思っていると、司令が付け足す。
「それに、知られたからってどうっていうものでもないだろ。文句があるやつが居たら、俺が言ってやるよ」
そう言って、私の頭に手を乗せる。
…なんだよ、カッコつけるなよ。
そういうの、苦手なんだって。
すぐ変な気分になるじゃんか。
暫く司令に流されていたが、頭を振って手を払い除け、気持ちを切り替えて食堂へと歩みを進める。
食堂に近づくにつれ、聞こえてくる話し声が大きくなっていく。その中には黄色い声も混ざっている。
食堂が見えるところまで来ると、入り口近くに人だかりができていた。20人は居るだろうか。駆逐艦から空母、戦艦まで多種多様な面子が壁を向いて、何かを覗き混んでいる。
自分たちが当事者なのは既に分かりきっているから、出来るだけ事を大きくしないように静かに近づく。そっと遠目に見るつもりだったが、誰かが気づいたのか、そこまで近くならないうちに視線を集めているものの前にいる人が私に道を作った。
この反応からして、相当なもののようだ。
嫌な予感が頭を責め立てるなか、意識を落ち着けながら近づく。
歩いていると、途中人混みのなかに島風を見つけた。視線を向けると意味ありげな目で返される。一体何だと言うのだ。…判りきってはいるが。
回りの視線が刺さるのを気にしながら近づくと、そこには一枚の写真と説明がきがあり、上に大きく見出しが書いてある。
《提督、ついに相手を決める!》
ゴシック体で書かれた見出しの下には、まさに司令が私に指輪をつけようとしている所を私の背後から撮った写真が。顔を背けていたため、司令の相手が私ということがバッチリわかる。真っ赤に染めた私の表情まで撮られているのを見て恥ずかしくなってきたが、ここまで来たら、と説明文を読む。
そこには最初私がチョコを渡したこと、司令が指輪を渡したときのこと、それの私の反応など、事細かに書いてある。あまりの内容に、こめかみがつり上がるのを感じる。ついでに言えば手書きの丸文字も気に入らない。
流石にここまでされたら、何か手を打たざるを得ない。
手始めに、青葉をとっちめてやる。
司令はどう思っているのか気になり横目で見てみると、満更でもないような顔をしている。
「ちょっと司令、なににやけてるのさ」
驚くぐらいしているだろうと思っていた予想は大きく外れ、少し苛つくのはしょうがないことだと思う。
だって、二人の時間を邪魔されたんだよ?
ちょっとくらい怒ったって良いじゃん。
周りに大きく聞こえないように、司令を睨みながら呟く。
司令は全く意に介さない様子で私の手を取り、食堂に入っていく。
「ち、ちょっと、こんなことしたら目立っちゃうじゃん!」
なおも小声で言うが、司令は気にせず食堂に入り、中程まで進んでいった。
そして、軽く咳払いしてからまるで戦国時代の戦の大将の名乗りのように告げる。
「今朝から話題なっているが、俺と時津風はケッコンカッコカリしたから! 以後よろしく! 以上!」
瞬間、食堂の時が止まる。それまで聞こえていた食器の音もピタリと止み、音が消えたかと思うと、今度はあちこちから小声で話しているのが聞こえる。
私と言えば、唐突な出来事に暫く固まってしまった。
ただただ司令の顔を見上げていると、司令がこちらを見て微笑む。
なんだよそれ! そんなに誇らしげにされたって、こっちは今凄く困っているんだけど!
暫くこちらを見た後食堂を見渡し、話し声が収まらない中再び話し始める。
「さて、そういうわけだが、折角だしな。時津風」
私の名前を呼ぶと体を向かい合わせに立ち、私の顎に手をやる。
そして、軽く持ち上げ、顔を近づけてくる。
え、まさか、此処で?
横目で皆の方を見てみると、口に手をあてたり頬に手をやったりして此方をじっと見ている。いつのまにか話声も止んでいた。
視線を司令に戻すと司令の顔は既に、今にもぶつかりそうな程近づいている。
もう、どうしようもない。
腹を括って目を閉じ、その時を待つ。
司令の吐息を顔に感じる。
司令の手が、顎を持ち上げる。
恥ずかしいことだが、そこから先は良く覚えていない。
現状からわかるのは既にご飯は食べ終え、執務室に戻ってきたということだ。自分の作業机お前に座り、ペンを握って書類を眺めているところで正気に戻ったのだろう。時計を見ると、既に朝食の時間から1時間が経っていた。
一体、何があったというのか。恐らくは今まで意識が半ばとんでいたのだから、よほど衝撃的だったのだろう。確認するのは怖さもあるが、周りにとくと見られた以上、自分だけ知らないというのも都合が悪い。
思いきって司令に聞くと、机の上から写真の束を拾い上げ、私に渡す。
「…なにこれ」
「パラパラ漫画の要領だよ。やってみ」
厚さ1センチほどの写真の束を反らせて、司令の言ったようにパラパラと指で弾いていくと、そこには決定的瞬間が収められていた。
司令が私にキスするその瞬間が。
目を閉じた私に迫る司令。重なり、離れると司令に寄りかかる。
「気に入ったか? やるぞ、それ」
見ると、恥ずかしいのだが、何故か何度も見てしまう。
それを見越したのか司令はニヤリと笑いながら聞いてきた。
「なっ……こんなもの他の人に見られでもしたら大変だよこれ! 私が預かっておくから!」
「あいよ」
「なんか文句ある?」
「ないない」
全く、困った人だ!
一日の仕事が終わり、風呂に向かう。
結局、今日は仕事が全く捗らなかった。唇の感触が蘇ってくる気がして集中できなかったのだ。
せめて明日からはいつも通りに戻れるよう、風呂にでも使ってリフレッシュしよう。
そう、思っていた。
浴場の扉を開けると、目の前には艦娘が一人立っている。よくよく見ると、青葉だ。
「あ、青葉! 私が言いたいこと、もちろんわかるわよね…?」
「ぐっ…な、なんのことかさっぱり…」
「なにしらばっくれてるのさ。こっちは写真を山ほど持ってるんだよ。こんなの青葉しかやらないじゃん」
じりじりと距離を詰めていく。
もう少しで青葉にたどり着けると思ったその時、後ろから腕が延びて、羽交い締めされる。見ると、犯人は金剛だった。
「ちょっ、金剛さん、何するんですか! あとその無駄に大きいのが当たってるんですけど!」
「何とは言ってくれるじゃないデスか。自分がやったことくらいわかってるでショウ? きっちり説明してもらいマース!」
金剛の腕から抜け出そうとするが相手は戦艦。敵うはずもなくそのまま風呂の椅子に座らされる。
「さて、先ずは…」
いつのまにか用意した、石鹸を泡立てたタオルを片手に迫る金剛。それを見た他の艦娘も集まってきて、いつの間にか取り囲まれてしまった。面子の中には島風など見知った面子以外にも空母等々、あまり関わりのないのも混じっている。
「え、えっと、ちゃんと説明しますから! 全部話しますから! だから勘弁してください!」
「私たちは納得しないんじゃなくて、気持ちを晴らしたいのデース! ふふふ、積年の思い、受け止めて貰いマース!」
涙ながらの頼みも一蹴され、もはや打つ手は無くなった。
ここまでか…。
金剛を初めとする提督に好意を抱いていた艦娘達からの責め苦は一時間弱にも及んだ。
体が時折痙攣している気もするが、気のせいだ、多分。
そう、なにもなかったのだ。何も……。
解放されて皆出ていったあとも一人では立ち上がることも出来ず、石鹸まみれのまま床に女の子座りで姿勢を保つのがやっとだった。
暫く放心していると、入り口から聞きなれた声が。首だけ回して見ると、雪風だった。
「うわぁ…お疲れさま。今流してあげるね」
シャワーで肩から順に石鹸を流してくれる。しかし、もちろん水をかけただけでは落ちきらないところもあり…。
「時津風、ちょっと、触るよ?」
「ま、待って! 今はダメ!」
「ダメっていったって、流さないと上がれないでしょ?」
雪風の柔らかい指が背中を撫でていく。
「…ッ! だめ、駄目だったら! 本当にダメなの!」
雪風もまた、願いを聞き入れてくれなかった。
「我慢してよ、すぐ終わるから」
雪風の言葉を信じ、声を殺して耐える。
全て流し終わったときには、息も絶え絶え、限界だった。
「ごめん雪風、もう無理…」
目を覚ますと、ベッドに横たわっていた。脇では司令がうちわで扇いでくれている。どうやらのぼせてしまったようだ。
「あれ、司令、雪風は?」
「雪風ならお前をここに運んだあと、すぐ帰っていったよ」
「そっか」
何だかんだで、雪風のお陰で風呂からあがってこれた。
今度お礼をしなきゃな。
「司令、もう眠いから寝るね? おやすみなさい」
「おやすみ」
目を閉じる瞬間、司令が優しく微笑んでくれたのを見た気がする。
……司令、いつか踏ん切りがつくから、それまで待っててね。