今回は前回にも増して甘ったるいです。
書いていてこっちがあまりの甘さに砂糖で窒息死しかけました。
それでも良いと言う紳士淑女のかたは、どうぞお読みくださいませ。
追記
サブタイトルの最後に「その後。」を追加。
(2015/12/7 21:30)
5/3改稿
「これなんだけどさ」
机の中から取り出したチョコを司令に見せると、そのままお互い固まってしまった。
司令との距離がそれなりにまだある状態で差し出したのは流石に良くなかったようだ。司令も、よく判らないといった顔をしている。
変に緊張して話を切り出しただけにずっこけてしまった気持ちを入れ換え、司令に歩み寄る。出来るだけいつも通りに。
あれ、いつも通りってどんなんだっけ。
司令の手が届く距離に近づくと同時に、右手で差し出す。
出来るだけ動揺を悟られないように表情を作って、あたかも、どうということでもないように渡す。
「こんなの作ってみたんだけど。どう?」
司令がこれをどう受けとるかまだ判らない今、気があるように見られないようにする。
別に、私から告白するわけじゃないのだ。相手が言ってきたら、それに対応するだけ。
司令は、少しの間目線をチョコと私の顔とで行ったり来たりさせて、生唾を飲み込んだ。
まて、なんだその反応は。もっと気楽に受け取れないのか。なぜそんなに溜めるんだ。早くサッと受けとれば良いじゃないか。
やっぱり、こんな包装にするからいけないんだ。もっと地味なやつにしておけばここまでならないで済んだだろうに。
予想の内にあったとはいえ、目の前でこうも反応されると、こちらも緊張してくる。
そして、すっかり緊張して固まった表情で司令が言う。
「これは、その、そういうことなのか?」
顔を半ば赤らめながら、こちらを伺うように、ためらいがちに言う。
その時、何か自分の中で切り替わったものを感じた。
首を熱いものが駆ける。頬が火照ってくる。
どうやら、司令が自分に好意を持っていたのは本当だったようだ。
今まで此方としては半分は男同士のように気軽に接してきたつもりだったが、司令としてはやはり自分は女なのだ。
さて、ここからどうするのだ、私よ。
「いいから、さっさと受けとれって! ほらほら!」
結局、答えは出せなかった。
司令の質問には答えず、司令の胸元に強引に箱を押し付けて退散する。
もうこれ以上司令と同じ場所にいたら、此方がどうかしてしまいそうだ。
先程から体が熱くてしょうがないのだ。
これもすべて司令の反応のせいだ。
司令があんな反応するから。
早いところ執務室を出ようと踵を反してドアに足早に向かう。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、時津風!」
あと数歩でドアに付くところで、司令が呼び止める。
そのまま扉を開けて部屋を出てもよかったのだとは思うが、後ろ髪を引かれる気がして、振り替える。
「…なにさ」
「渡したいものがあるんだ」
最後に見た顔よりももっと緊張した様子で、呼び寄せる。
訝しげに思いながら机の前までいくと、司令が小さな箱を渡してくる。
「これなんだが」
手に取ったのは白い小箱。
あれ、これどこかで見たような…。
「開けて良い?」
「お、おう」
一声かけてからふたを開けると、中には、指輪が。
反射的にすぐ閉める。
待った待った!
まじか!
え、え、なにこれ!?
何が起きたのか理解できないが、とりあえず話を続けようとする。いまの流れでわざわざ見せたってことは何か理由があるのだろう。
「で、誰に渡したいの? 初風?」
そう聞くと、司令は何をいっているのか要領を得ない様子で返事する。
「初風? いやいや、なんでそうなる」
「そう、じゃあ天津風?」
自分にわざわざ見せてくるとなると、うちの艦隊くらいしか心当たりがない。
想像に困っていると、呟くようにして司令が言う。
「違う違う。俺が渡したいのは…時津風だよ。お前だよお前」
予想だにしない、いや、あえて考えていなかった答えを告げられる。
そうだ。そりゃあそうだよ。いまの流れだもん。
え、でもそれはつまり、私ってこと? へ?
「え?……え! …私!? いやいやいや。え?」
あまりの衝撃に意味をなさないことを口走ってしまう。
そんな私に、司令が告げていく。
「その、初めてあったときから気になってたんだ! だから上に無理言って秘書官にさせてもらって、それからもずっとだったんだ!」
その内容は、一目惚れしたことからそのあと更に惚れたことまで、顔を覆いたくなるような、恥ずかしいことが並べられている。
その内容をひとつ聞くたびに、頬が熱を持つ。
そして、一通り、想いを伝えた司令は仕切り直して、一呼吸置いて、告げる。
「時津風、指輪を受け取ってくれ!」
自分で言っていても堪えるものがあったのかすっかり顔を赤くした司令は、私に顔を向け、目をまっすぐ見つめてくる。
なんかもう、だめだ。
冷静に考えるなら男と元男がこんな風になるなんて、絶対におかしい。
おかしい、ハズなんだ。
でも。
どうしてだろう。
そんな気が、全然起こらないや。
あーもう、良いっか。
司令の熱のこもった視線のなか、一呼吸いれて、言う。
「司令!」
呼び掛けると、肩を震わせる。
鼓動が耳に障る中、小箱を司令に突き返す。
その途端、司令の顔が呆ける。
待ちなよ司令、ちゃんと聞いてよね。
「あのさ、こういうときって、箱ごとじゃ無いでしょ普通!」
自分でも、やっていることに驚いている。
でも、一度思い付いたら体が勝手に動いてしまったのだ。
司令の手に箱を押し付けから、左手を差し出す。
「ほら! ……さっさとしてよ!」
ほんと、なにやってるんだろ。
元男だよ?
なにやってるんだろ、私。
司令が目の前で起こっていることを受け止めきれていない様子で、手に箱を持ったまま固まった後、ハッとして箱から指輪を覚束無い手つきで取り出す。
指輪を持った司令の手が近づくのが恥ずかしくて、顔を背ける。
そのまま待っていると、司令の手が、私の手を取るのを感じる。
一瞬怯えて手を引いてしまうが、そのままでいると、指先に硬いものを感じる。
そして。指の半ばで留まる。
「……できたぞ」
「……うん」
暫くそのままだった手を離して、向かい合う。未だ気恥ずかしさが抜けない中、沈黙を嫌がり、呟く。
「ねえ……これで終わりなの……?」
何を言っているんだ俺は。
なんか雰囲気に流されすぎじゃないか。
さっきだって、手を離すときちょっと心苦しくなったり、本当にもう、どうしてしまったのだろう。
でも、なんだか、そこまで嫌じゃないんだよな。
呟いてから少し経って、司令の手が肩に乗る。
大きく、節立った手だ。男の頃の「俺」もこんな手だったのだろうか。今はもう忘れてしまった。
軽く掴まれ、引き寄せられて、そのまま司令の懐に収まる。
司令の手が背中に添えられる。
目の前に広がるのは、司令の胸。広くて、がっしりとしていて、小柄な自分だとそれがなおさら強調される。
司令に抱き寄せられて空いた両手の行き場を探し、結局、司令の背中に落ち着く。
そして、自分から司令に抱きついてみる。
僅かな膨らみが司令に当たるが、そんなことはどうでも良い。ただ、司令の体温を感じられるのが心地よい。
もう、言い逃れはできない。
司令が、好きだ。
「…ねえ、元男だよ? 良いの? 他にも可愛い艦娘なんて一杯いるのに」
流石に話すときぐらいは顔を見せるべきだろうと顔をあげて言うと、自然と上目遣いになっていることに気づき、恥ずかしさで直ぐにまた顔を胸に埋める。
若干の自己嫌悪に陥っていると、司令が返事を返してくれる。
「悪いが、他の艦娘にはそういう感情が持てなくてな。もちろん大事なんだが、やっぱり、好きになったのは時津風だけかな。……って、なにいってるんだろ俺」
自傷気味に言う声が聞こえる。視界は一面胸だが、表情は容易に想像できる。
全くもう。
嬉しいじゃないか。
ここまで思ってくれるなら、うん。
少し気持ちを落ち着けるために深呼吸する。
あ、司令の臭いだ。
…変態かよ。
意を決して、顔をあげる。司令の目を見て、告げる。
「司令。その、あのさ、私も好きだからね」
感情が先走って言葉がつっかえながらも、何とか言えた。
それを聞いた司令は面食らった顔をしたあと、目をつむって深呼吸する。
「どうしたのさ」
「……あのな、時津風。それ、元男なら破壊力わかってるだろ?」
真顔になってから司令は私の脇に手を差し込み、そのまま持ち上げた。
「え、ちょ!なんでそんなに力あるのさ!」
「そこはお前が可愛いからってことで」
「なッ…!?」
真顔の司令と真っ赤な顔の私。
対照的な状況のなか、司令は、私を寝室に連れ込み、ベッドにおろす。
え、え、嘘。まじで。これってあれだよね。
「そういう」ことをするってことだよね。
いやいや、流石に早いんじゃないかな~…まだ気持ちの準備出来てないんだけど。
それに痛いって言うじゃん。痛いのは嫌だな…。
不安に思い、司令に聞く。
「ね、ねえ、流石に早いんじゃないかな?」
「なにがだ? ……あー、うん、すまん、そう言うことじゃないんだ。また一緒に寝たいなって。それだけだ、すまん。…だめか?」
何が言いたいのかすぐ理解した司令だったが、すまなそうに弁解する。
真剣に謝る司令をみて、途端に自分が恥ずかしくなる。
やばい。この勘違いはヤバイ。まさかここまで善人だとは。思えば、あんなことを言われたら、「俺」だったら押し倒してたかもしれん。…司令、自制できるの凄いな。
それにしても、この空気どうしよう。
…そうだ。もっと掻きまわしちゃえばいいや。
思ってからは、早い。
「ねえ司令。ちょっとしゃがんでよ」
「ん? これくらいか?」
司令をベッドに腰かけた自分の前で中腰にさせる。
よし。この高さならいける。
不思議そうにしている司令を他所に立ち上がる。
そして司令の肩に手を置き、目を細めてから、唇を重ねた。
時間が、止まった。
どのくらい経っただろうか、ただ重ねただけの唇を離す。
「その、今はここまでで許してね。おやすみなさい。……好きだよ」
一言残して布団に潜り込んだ。
取り残された司令は何が起きたのかすんなりと飲み込めず、立ち尽くしていた。
(いったい何が起きたって言うんだ…。)
(夢、じゃないよな…。)
頬をつねるという古典的方法で(夢の中でも痛いらしいが)現実を確認した司令は、今日一日を想っていた。
朝からどことなくよそよそしい時津風の振る舞いや島風の耳打ちなど、「いつも」とは違っていたのは分かっていた。しかし、まさか自分が考えた「最高」の結末を一足飛びに上回るとは予想だにしていなかった(当たり前と言えばそうだ)。
ちょっとしたお菓子の差し入れ風に渡してきたチョコには心底驚いたが、その後は更に想像を軽く上回ってくれた。
指輪を渡して突き返されたときは、それはもう崖から突き落とされでもしたかのように思ったが、「着けてくれ」なんて言われたときには歓喜が一周まわって自分をフリーズさせた。
今でも、その時の時津風の表情はありありと思い出される。
思いきったように手を差し出してくる時津風の目は潤んでいて、幼い見た目の癖に妙に色っぽくて。
指輪をつけるときに手が震えてしまったのは不甲斐なかったが、時津風がそっぽを向いていたお蔭で醜態は晒さずにすんだ。
それに、なんと言ってもついさっき。
(キス、したんだよなぁ…。柔らかかったな…。)
急に時津風の顔が視界一杯に広がったかと思ったら、次の瞬間キスしていた。
まさか、たった数分でこんなに発展するなんて。
暫く感慨に
ベッドに視線を向けると、そこには時津風がすやすやと寝ている。この部屋にはベッドはひとつ。ソファーはあるから、寝ようと思えば出来なくもない。
(でも、いいよな?)
誰とも知らない人に確認をとって、ベッドに入る。
時津風はベッドの横半分に、内側に顔を向けて寝ている。そのため、自然と時津風と面と向かって寝ることになる。
気恥ずかしさはある。しかし、時津風の寝顔を眺める欲が上回った。
あぁ、可愛い。
恐らく人生で最も幸せであろう気持ちのまま、眠りについた。