ps:推敲って大事ですね…。
5/3改稿
最近、自分でもよくわからない感情に悩まされている。司令と自分以外の艦娘が話していると気になって仕事が疎かになるし、司令に褒められると、そのあとの仕事が暫く手につかなくなるほど嬉しいのだ。
「もうそれは間違いないわね、恋よ、恋」
夜、仕事も終わり自室のベッドで、各々のんびりしているところで天津風に聞くと、直ぐにそう返ってきた。
恋ねぇ…。
自分のなかでも、その可能性は考えていた。客観的に見れば恐らくはそうなるのだろう。しかし、自分が元男であるので排除していたのだ。
「いや、それは無いと思うけどなー。だって相手は男だよ?」
「当たり前でしよ?時津風は女の子なんだから」
「そうは言ってもね…。男の部分も残っているわけで。もう混ざってる感じはするけどさ」
そう返すと、天津風は少し考え込んだ後、閃いたように突然ベッドから降り、なにかを机の棚から取り出して、顔の前につきだしてくる。
見ると、それは近場の大型ショッピングセンターのチラシだった。見出しには「バレンタインデー特集」と大きくかかれている。
「…つまりチョコを渡せ、と? なんで?」
感情の相談をしていたところ、急にこれである。意図が汲めず、訝しげに見ていると、天津風が如何にも名案だと言わんばかりの自慢げな顔で説明する。
「そうそう。で、もし時津風の感情が恋とかそういうのじゃなくて、あげたときも特にこれといってなにもなかったら『日頃のお礼』とでも付け加えればいいのよ」
なるほど、それなら自分の感情がどうであれ納得のいく理由ができそうだ。しかも、以前約束した、司令にお菓子を作るという事も同時にクリアできる。まさしく一石二鳥の名案だ。
しかし、問題は、そもそも作れるのかという所にある。今まで、前世も含めてチョコはもらう側だったから作ったことなんてない(そもそも貰ったことすらないのはここでは関係ないはずだ)。クッキーは経験があったから比較的気軽に挑戦できたが、チョコねぇ…。
「うーん、わかった。やってみるよ。でも、何すれば良いかさっぱりだよ?」
天津風に聞くと、初風、雪風に目配せをしてから待ってましたとばかりに言う。
「今度の休みにみんなで買い物にいきましょ。流石に作り方とかは私たちも教えられないから、間宮さんにお願いしようと思ってるわ。因みにもう了承はとってあるわ」
まるでこうなることが分かっていたかのような準備の出来具合に驚いていると、初風が心を読んだかのように答える。
「どうなりそうかなんて分かるわよ。バレンタインデーは女の子の一大イベントだし、それに私たちはあんたの姉なのよ? このくらいお見通しってものよ」
そう言う初風の目は慈愛に満ち、表情は柔らかい。
あまりにまっすぐ見つめられるので気恥ずかしくなり、目をそらす。
しかし、自分の事を考えてくれていたことは嬉しい。それに、自分のために何かしてあげようというのだ。これで感謝しなかったら、とんだ大馬鹿者だ。
「あ、ありがと。頼むよ」
面と向かって感謝の言葉を言うことも早々無いので、照れからか首もとが熱くなる。
思えば、秘書艦となってからというものの、あまりの忙しさから、天津風達と共に何かする機会も殆ど無かった。
そう考えると、買い物にいくのも楽しみになる。
一緒の時間を過ごせると嬉しく思っていると、天津風が私のベッドにのぼり、正面から抱きついてくる。
「あーもう、時津風ったら顔紅くして可愛い!」
私はベッドの上で女の子座り、天津風は膝立ちをしているため、顔が天津風の胸元に当たる。
「ち、ちょっと! あたってる、あたってるから!」
「女の子同士だし別にいいでしょ? なんか時津風って抱き心地いいのよね。動物抱っこしてるみたい」
抱きつくばかりか、頭を撫でてくる。指先で髪をすくように。くすぐったいが、悔しいことに気持ちいい。この辺は女の子になってからの感覚だ。男だったら撫でられること自体嫌がっただろうし、やはり女の子の部分は確実にあるようだ。…恋愛面はどうか知らないが。
最初は天津風の肩を押したりして、腕から抜け出そうとしていたが無理だとわかった。不服だが、諦めてなすがままにされる。
…別に撫でられていたいとか、そう言うわけではない。断じて。
「それにしても髪綺麗よねー。どうやったらこんなさらさらになるのよ」
「別に天津風と変わらないって。使ってるものが同じなんだし」
「そうなのよねー。ほんと羨ましいわ…。私なんていくらやってもいまいちだし…」
いや、天津風の髪も十分きれいなんですが…。
話していると、誰かか寄ってくる気配が。横に立たれたので、横目で見ると、雪風だった。
「天津風、私も撫でていい?」
「いいわよ」
まて、どうしてお前が許可を出すんだ。出すとしたら私でしょ。
雪風が私の背後に座り、頭を撫でてくる。天津風は前頭部、雪風は後頭部と前後から挟まれて撫でられるとくすぐったさが増し、心地よさもまた増した。
しばらくそのままで離してくれるのを待ったが、一向にやむ気配がない。あまりに心地いいので、眠くなってくる。まぶたが重くなり、姿勢を保つのも辛くなってきた。
「ねえ天津風、眠くなってきたから離してほしいんだけど」
「嫌よ」
提案するも、即刻却下される。こうなったら実力行使だ。天津風の後ろに十分なベッドの長さがあるのを天津風越しに確認すると、多少反動をつけて天津風を体ごと押し倒す。二人の驚きの声が聞こえるが、そんなことはどうでも良い。
天津風を下に、雪風を上に挟まれるような体制になる。
「じゃ、おやすみ」
これで寝られる…。
「…どうするのよこれ」
時津風が天津風を押し倒して、あっという間に時津風は寝入ってしまった。肩を叩いても一向に起きる気配がしない。
既に雪風は時津風の上からどいて、自分のベッドに座っている。天津風も時津風をどかそうとするが、大の字になって寝られているため、横に転がすことも出来ない。そのくせ、時津風の腕をどかそうとしても、何故かびくともしない。
結局、天津風一人ではどうしようもなくなった。海の上で発揮できる馬鹿力も、艤装のない今となっては使えない。
「良いじゃない。羨ましいわよ? 私はお断りだけど」
初風は事の始まりから傍観を決め込んでいる。今この状況でも手を貸そうという気は、更々ないようだ。
「雪風、時津風をどかしてくれない?」
最後の頼みの綱である雪風に聞くが、返事はせず、布団にはいって寝てしまう。
「あ、初風、電気消してもらえる?」
「ええ、じゃ、おやすみ」
初風が照明を消すと、いよいよ打つ手がなくなった。
「ちょ、ちょっと! 助けてよ! 薄情者! 鬼! 悪魔!」
悪態をつく天津風だが、二人は反応もしない。
ここまで来ると流石の天津風も諦める。せめても、と時津風の手を握り、そのまま眠った。
朝起きると、体の下に天津風が居た。
いったい何が起きているのか一瞬わからなかったが、直ぐに昨日の夜を思い出す。
天津風の上からどくと、ちょうど天津風も起きた。
「おはよう時津風」
「おはよう、よく眠れた?」
天津風に聞くと、眉間にシワを寄せて訴えてくる。
「『よく眠れた?』じゃないわよ。頭が乗っかってるから息苦しいわ、夜中に起きても時津風が乗っかってるから身動きがとれないわ、手は離してくれないわで大変だったんだから」
「そりゃ悪かったよ。でも元はと言えば天津風が離してくれなかったからだし。それに手なんて私繋いでないし」
「ぐっ…、それを言われると何も言えない…」
自らの負けを認め項垂れる天津風を横目にベッドから降りて着替えていると話し声のせいか初風も起きたようだ。
「なによ朝っぱらから、うるさいわね…」
目を擦りながら起き上がる初風。こちらに向けられる視線は冷たい。
「ごめん初風。ちょっと天津風と話してた。あれ、雪風は?」
初風に謝りつつ聞くと、初風は雪風の顔を覗きこんでから此方を向いて答える。
「この子まだ寝てるわよ、なんか羨ましいわね」
どこか皮肉ったような口調の初風。申し訳なさを感じ、再び謝っておく。
「ところで、今日が昨日言った休みの日なのよね」
すっかり伝え忘れてたと、軽く謝りながら告げる天津風。
まさか話を聞いた次の日に出掛けるとは思っていなかったが、思えば、今日を外すとみんなで出掛ける機会は当分先になりそうだ。
「今日って…、それ本気? いやまあ、行けるけどさ。何時に出るの?」
「朝御飯を食べたらすぐね」
ひとまず着替えと洗面を済ませて洗面所から部屋に戻ると、ちょうど雪風も起きたようだった。
「あ、おはよ、雪風」
「おはよー。皆は?」
まだ若干寝ぼけているらしく、間延びした返事をする雪風。ひとつ大きな欠伸をして、ベッドから起き上がる。
「いま顔洗ってるところ」
「私もいってくるねー」
「いってらっしゃい」
おぼつかない足取りで洗面所に向かう雪風を見送って、自分は執務室に向かう。
執務室の部屋をノックする。しかし返事は返ってこない。いつもの司令ならとっくに起きている時間のはずだと不思議に思う。
「司令、入りますよー?」
一応断ってから部屋にはいると、司令はまだ起きていないようだ。いつもなら座っているはずの司令がいない。着任してからはじめての出来事に困惑しながら足を進める。
「まだ寝てるのかな。司令? 起きてますー?」
寝室の扉をノックするが、それでも返事はない。流石になにか変だと思い扉を開けると、まだ布団のなかで寝ている司令が居た。
「なにやってるんですか司令。朝ですよー?」
ベッドの脇までいくと、司令が目を開けた。
「ああ、時津風か…。悪い、ちょっと体調が悪くてさ…」
そう言う司令の声はいつになく弱々しく、顔も赤い。汗もかいているようだ。
司令の額に手を当ててみると熱い。どうやら熱があるようだ。
「もしかして風邪かな? ちょっと待ってて。いま体温計とか持ってくるから」
一言残し、医務室に行って体温計や水を組んだ洗面器とタオルを借りてくる。
執務室に戻る途中、島風と廊下で会った。
「おはよ」
「おはよう島風。えっと、悪いんだけどさ、天津風達に司令が風邪引いたから今日は外出られないって伝えてくれないかな?」
島風に伝言を頼むと、快く承諾してくれる。こう言うときに素直にお願いを聞いてくれるのはとてもありがたい。
「あ、なんか手伝うことある? 」
「ううん。大丈夫。…あ、間宮さんにお粥をつくってもらうようにお願いしてきてもらえる?」
「おっけー。じゃ、看病頑張ってね」
そう言い残して去っていく島風。
本当にありがたい。
ありがたいのだが…。
最後の意味深長な笑いはなんだ?
司令のところに戻り、体温計を渡す。
「悪いな、手間かけさせちまって」
「大丈夫。病気のときくらい頼ってくれていいんだよ?」
しんどそうな顔をしても礼の言葉をかけてくれる司令。
こんなときまで、全く律儀な人だ。
タオルを絞って、司令の額にかけてあげる。
「おー、ありがと。気持ちいいよ」
「ぬるくなったら言ってね。後で水枕も持ってきてあげる」
よほど気持ちよかったのか、表情も和らいだ。
しばらくしてから体温計を取り出した司令は、その表示を見てため息をついた。
「はぁ、こりゃ本格的みたいだ。参ったな…」
司令から体温計を受け取り、見てみると、38度を指している。
「あー、ほんとだ。今日は一日休みだね。私がずっとついていてあげるから安心して。何かしてほしいことあったら聞くけど、なにかない?」
そう聞くと、司令は少し黙り混んでから答える。
「いや、今のところはないよ。それにしてもごめんな。今日は出掛ける予定だったんだろ?」
すまなそうにいう司令。
こんなときまで他人のことを考えるなんて、お人好し過ぎる。
「そんなことは気にしなくていいの。秘書艦なんだから当然でしょ? 」
「そうか、ありがとう。じゃあ、寝るよ」
「おやすみ」
目を閉じる司令を横目に、執務室の机の上の書類を見て、急ぎのものがないかチェックする。幸い昨日今日は無いようだ。
これで今日の仕事はもうない。これからは安心して司令の看病にあたれるというわけだ。
寝室に戻ると、司令は既に寝入っていた。ベッドの脇に椅子を持ってきて座り、心細かろうと司令の手を握る。心なしか、表情が和らいだ気がする。
「疲れがたまってたのかな。自己管理もしてほしいけど、私がいるときは無理しているようにも見えなかったし…」
原因を考えていると、何となく予想がついた。
もしかして、司令は私が部屋に戻ったあと、ベッドから起きて仕事をしていたのではないか。
年はじめの何かと忙しい時期だ、もしかしたら連日そんなことをしていたのかもしれない。
もしそうだとしたら、止めさせなければ。
しかし、口で言ったところで司令のことだから隠れてまたやるに違いない。
ならば…?
考えた結果、ひとつの名案が浮かんだ。
一緒に寝ればいいのだ。司令が寝るまで横にいてまっていれば、少なくとも仕事にすぐ戻ることはできまい。もしかしたら私が寝てから仕事をやるかもしれないが、その時はきっと気づくはずだ。なんだったら、提督に抱きついてしまえば…。
そこまで考えて、以前司令に連れ込まれて一緒に寝たときのことを思い出す。
…抱きつくのは無しだな。此方が恥ずかしい。
考えを振りきるように頭を振ってリセット。
暫くそのまま過ごしていると、執務室の扉をノックする音が聞こえた。
「島風です。入りまーす」
扉を開けて入ってきたのは島風、手に持っているお盆には丼が乗っている。どうやらお粥を持ってきてくれたようだ。
「あ、島風、こっちこっち」
島風を寝室に呼び寄せる。
「お粥持ってきたよ。あと、天津風達にも伝えといた。『私たちで買い物してくるからあんたは司令についていてあげなさい』だってさ」
「ありがと。あ、ごめん、お盆は司令の机の上に置いてもらえる?」
「おっけー」
そういって執務室に向かおうとした島風だが、突然歩みを止めた。視線の先は、私が司令の手を握っているところにある。
「…もうできてるの?」
ニヤニヤしながら聞いてくる島風。質問の意図がよくわからず、聞き返す。
「できてるって何が?」
「そりゃあ、司令と時津風に決まってるじゃん」
ますます意味がわからなくなってくる。
「私と司令がなにさ」
また聞き返すと、島風は更に笑みを深めて言う。
「だーかーらー、司令と時津風はもうケッコンカッコカリを済ませたのかなってこと」
島風のいっている意味が漸く飲み込めたと同時に、今の傍目から見た状況に気付き、手を離そうとする。しかし、司令も此方の手を握っているので簡単には外れない。
「そんなことしてないし、そんな関係じゃないよ!」
「おーおー、そんなに顔を紅くして、お熱いですねー」
茶化すように言って、執務室を出ていく。此方はすっかり島風のペースに持っていかれて、動揺している。首もとから顔にかけて、カッと熱くなる。
執務室を出るとき、島風が一言残す。
「お幸せにどうぞー!」
「うっさい! さっさと行きなよ島風!」
島風の言葉に思わず叫んでしまった。流石の司令もおきてしまう。
「なんだ、時津風。何かあったか?」
「いや、なにもないよ。島風がお粥持ってきてくれたんだけど、食べる?」
「うーん、じゃあ、少し食べようかな」
なんとか誤魔化すことが出来てほっとする。
お粥をとってくると、司令は上半身を起こしていた。
司令の体の前にお盆を差し出す。
「はいこれ。どう?自分で食べられる?」
そう聞くと、司令は左手で体を支えて、右手でスプーンを持ち食べようとする。しかし、力があまり入らないのか、持ち上げてすぐスプーンをどんぶり茶碗のなかに落としてしまう。
「すまん、きついみたいだ」
「そっか、ならたべさせたげる」
スプーンをとり、食べやすいように少しだけお粥をとって、息をを吹き掛けて冷ましてあげる。
「はい。あーん」
「ちょっ、それやるの!?」
今までの弱気な態度はどこへやら、大きな声をだす。
「自分で食べられないんだからしょうがないでしょー? ほら、口開けてよ」
暫く司令の口の前にスプーンを突きつけていると、観念したのか口を開けた。
一度食べ始めると調子づいたようで、結局、1膳分ほどあったお粥を完食した。
「よかった。食欲はあるみたいだね。…ってありゃ、顔赤くなってる。ちょっと大変だった?」
司令の顔を覗くと、明らかに食べる前より顔が赤い。
「た、たぶん食べて体が暖まったんじゃないかな」
「そうかな。それならいいんだけど」
「おう、じゃ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
腑に落ちないが、司令が横になったので、手を差し出す。
「…その手は?」
「手、握っててあげるから出してよ」
そう言うと、司令は驚いた顔で答える。
「い、いや大丈夫だよ。それよりタオルを交換してもらえるかな?」
「ん? そう。分かった」
洗面器を持って冷たい水を汲んで帰ってくると。既に司令は寝ていた。
「うん、思ったより元気そうでよかった」
額に新しいタオルをかけ、ベッドの脇に座る。
手を握ろうかと思ったが、断られたのを思いだし、きっと暑かったのだろうと考えて止めた。
時津風の看病は続く。
中途半端なところで終わって申し訳ない。次回に続きます。