ダンジョンに器用値極振りがいるのは間違っているだろうか   作:オリver

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遅くなりました! やっと投稿出来た……!



第八話

「神様、ただいま帰りました!」

 

「おっかえりーベル君! リベルタ君!」

 

「なんだよいっつもベルにばっか抱きついて! 贔屓だ贔屓だ!」

 

「そのわきわきとした手をどうにかしてから言ってくれよ」

 

 あ、いっけね。欲望が動きとして出ちまった。

 どこかねちっこい動きをする俺の指先を見てドン引きするヘスティア。その思いに比例してか抱きつきを強くするもんだから、ベルにあの胸器がさらに押しつけられる。そこ代われゴラァ。

 

 真っ赤な顔した役得のベルに嫉妬の視線を送りつつ、バタっとベッドへ倒れ込む。

 

「更新ー」

 

「そうふて腐れるなよリベルタ君。それにしても今日は帰ってくるのが早かったけど、二人とも何かあったのかい?」

 

「あ、実はですね―――」

 

 ベル、説明乙。

 でも、あたかも俺がおとりになってベルを逃がした、みたいな言い方はやめろよな? 逃げ損ねただけだからね?

 

「リベルタ君無茶はしないでくれ……君が死んだらボクは悲しいよ。柄にも無く泣き喚いてしてしまうかもしれない」

 

「リベルタごめん……僕がもっと強かったら、一緒に戦えたのに」

 

「逃げ切れなかった俺が悪い。謝んなよベル」

 

「……僕、リベルタの隣で戦えるくらい強くなってみせる。……そして、いつか追いつくんだ」

 

 あの人に。そう言葉を続けたベルに対して俺は、何も言えない。

 俺はベルみたいに、強い想いが無かったから。上辺だけ取り繕った言葉を返すのも失礼だと思ったからだ。

 

 

 

 

リベルタ・エーアスト

Lv.1 

 

力:I=10

耐久:I=10

器用Ⅲ:MAX=1500→器用値Ⅳ:D=512

敏捷:I=10

魔力:I=10

 

スキル

 

【創成己道】(ジェネシスクラフト)

・器用の成長率に上昇補正。

 

【尊価代償】(サクリファイス)

・成長補正スキルの効果増大。

・他の能力値成長率の下方修正。

・上昇対象能力値への成長願望が強いほど両補正ともに強固なものとなる。

・補正能力に準じたスキルが発現しやすくなる。

 

【無限収納】(アイテムボックス)

・三秒以上触れた物質を、念じることで収納空間に送ることができる。

・同じく念じることでいつでも取り出すことが可能。

・触れる箇所が固体である必要がある。また、生命体は収納できない。

 

【戦友鼓舞】(フィール・エアフォルク)

・戦闘時、一定範囲内の眷属の基本アビリティ上昇補正。

・同恩恵を持つ者にのみ効果を発揮。

 

【審美眼】(プルフサイト)

・武器、防具など制作物の善し悪しが分かる。

・道具アイテムの効果が分かる。

 

【盗賊心得】(グリーディブラッド)

・隠密能力向上

・索敵能力向上

 

【危機察知】(ヴォーパルハザード)

・相対した相手の強さを把握出来る。

 

【暗視順応】(ディスタント・リセンブラス)

・暗闇での視界の確保が可能。

 

【理外者】(ルシフェル)

・神に対して嘘をつくことが可能となる。

・神による『魅了』の完全無効化。

 

 いつもと変わりなく異常な成長の俺に対して慣れたのか、「おー伸びたね」と小さな反応で羊皮紙を渡してくる。むぅ、初めの頃の仰天した反応が恋しいぜ。

 

 ベルも更新がちょうど終わったのか、服を着ている最中だった。その横で、ヘスティアが写したベルの羊皮紙を置いて指で擦って……うん? 今何か消したか?

 

「はい、ベル君のステイタス」

 

「結構敏捷が伸びてますね。……あれ? 神様、スキルの欄に二箇所(・・・)掠れたところが……もしかして何か発現しました?」

 

「いいや? ちょっと手元が狂ってね。いつも通り空欄だったよ」

 

 ですよねー……と頭をカクンと落とし、苦笑いを浮かべるベル。ヘスティアに目配せをすると「何も言わないで」と視線が返ってきたので、事情は掴めないものの口を噤むことにした。

 

 

 

「―――で、さっきの何?」

 

 ベルがトイレに発ったタイミングでヘスティアに尋ねる。

 

「……ベル君にスキルが発現した。それも二つも」

 

「良いことじゃねぇか。言ってやんないの?」

 

「聞いたことも無いレアスキルだったんだ。隠し事が出来なそうなベル君に話すべきじゃ無いとボクは判断した」

 

 なるほど、と俺は頷く。

 俺にも言えることだが、レアスキル持ちはヘスティア以外の他の神達にとっては非常に魅力的に映る。ベルにスキルのことを伝えて、情報が漏れてしまえば、強引な引き抜きが決行されるであろうことは容易に想像できる。

 

「ベルは違和感覚えるんじゃねぇの? 隠し通せるか?」

 

「……分からない。どれほどの効果があるスキルなのか予想がつかないんだ」

 

「ちょいと見せてみ」

 

 ベルのステイタスが書かれていた羊皮紙を手に取り、消された部分を直すように促すと、俺はスキルの効果で神に嘘を見破られないこともあってかヘスティアは別段渋ることも無く復元を始める。

 

「……なんだ、こりゃあ―――」

 

「二人で何話してるの?」

 

「「うおう!? ヤバい!」」

 

「ちょっリベルタそれ僕のステイタスだよね!? なんでビリビリに破くのさ!」

 

 ふう、危ない危ない。見るのに集中しすぎてベルが戻ってきたことに気づかなかったぜ。【盗賊心得】仕事しろ。

 

「今日エイナさんをデートに誘えなかったのはお前のせいだからだベル!」

 

「えっどっちにしろ断られるから同じでしょ?」

 

「正論で傷を抉るんじゃねぇ!」

 

 破いた言い訳考えたらまさかの手痛いしっぺ返し食らったでござる。いや、でもお前が「エイナさん大好き-!」とか叫ぶから。頬染めてんのに誘えるわけねぇだろ。無意識に女引っかけやがってこれだからモテる奴は……!

 

 この後俺の一方的ないちゃもんにより口論になるのだが、10分くらいで自分が惨めになって一人落ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

ベル・クラネル

Lv.1 

 

力:I=77→I=82

耐久:I=13

器用:I=99→H=103

敏捷:H=148→H=172

魔力:I=0

 

スキル

 

【憧憬一途】(リアリス・フレーゼ)

・早熟する。

・懸想(おもい)が続く限り効果持続。

・懸想(おもい)の丈(たけ)により効果向上。

 

【共闘希求】(ファミリィス・ルゼル)

・対象者の成長の影響を受ける。

・対象の分散により効果減少。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冒険者さん、落としましたよ?」

 

 翌日。いつものようにまだ寝ているヘスティアを起こさないようにダンジョンへと向かう矢先のことだった。

 

 バベルの頂上から感じた視線に俺が睨み返したタイミングで、隣を歩いていたベルは声をかけられた。同じく視線を感じていたベルは俺と一緒に驚いて飛びずさるが、その先にいたのはどう見ても一般人のウェイトレスさんだった。な、なな何だよ脅かしやがって……! 別にビビってねーし!

 

「あっすみません、ちょっと驚いちゃって……」

 

「いえ、それよりこの魔石って冒険者さんのですよね?」

 

「あれ? 昨日換金したはずだけどなぁ……わざわざ拾ってくれてありがとうございます」

 

 首を傾げつつもベルははした金にしかならなそうな小さな魔石をしまう。

 ……ベル、ちょっと待て。少しは疑え。

 

 俺が見ていた限り、ベルは魔石を落としてはいなかった。ということは、あの小さな魔石は元々あの店員さんが持っていたものだろう。落とし物と称して渡すことで会話の取っ掛かりを作り、最終的に商売の方向へ持っていくつもりに違いない。

 

 俺達が朝食がまだであることを聞くと、店員さんは自分のまかないを持ってくる。おいそれ一人分だろ。なんでベルと俺二人分として渡してくるんだ。足りるわけねぇだろ。

 

 そして朝食を貰った代わりに今晩、彼女の働く酒場で食事を取ることになった。絶対頼んでもいない飯が運ばれてきて余計に金を使わされる予感しかしない。

 

 シルと名乗った店員にジト目を送ってもどこ吹く風。……でかい店だからぼったくりはしないだろうけど、一応気をつけとこ。まあヤバかったらすぐにベル連れて出て行けばいいや。

 

 そんな風に軽く考え、ベルをさっさと連れてここから離れようとした時。

 

 

「ミアさん昨日は本当ごめん! これ椅子壊した弁償代!」

 

「まったく、あんたは何回うちの備品壊せば気が済むんだい! 酒癖悪いにもほどがあるよ!」

 

「いや、酔い方はいい方だと思うけど……ただ単に制御が効きにくくなるだけで」

 

「なんでもいいけど、毎回壊されるこっちの身にもなりな! お金持ってくるだけじゃなくて、誠意として皿洗いくらいやったらどうなんだい!」

 

「絶対割るから勘弁して……」

 

 紅い髪の人間(ヒューマン)が店に駆け込み、店主らしき人とそんなやり取りを始める。

 ……それにしても、なんだろう。会話内容が何か引っかかるんだが。

 

 そっと店内を覗き込む。

 

 同時に、視線を感じたのか紅髪が振り返った。

 

 後ろで結んだ髪と同じ色の真紅の瞳の女性。あどけない顔に対して背は女の人にしては高く、165Cほどはあるだろうか。工房の作業着らしき上着を腰に巻き、袖をたくし上げた格好は女っ気が全然無いのにどこか似合っていて、『可愛い』というよりはどこか『綺麗』『格好いい』といった印象を持つ。

 

 

「……」

 

「……」

 

 ―――近づくと同類だと解る。あの書類にはそう書いてあったっけか。

 

「……力子?」

 

「会えて嬉しいよ技之助-!」

 

 バッ!! と両手を広げてこちらへ駆けてくる力子に対して俺は。

 

「そうだな。俺も嬉しい」

 

 背骨を砕かれたくは無いので、抱擁をヒラリと避けつつそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー! いっつも二人でダンジョン潜ってるんだ。ベルに……技之助!」

 

 一緒にダンジョンに行かないかと提案してきた力子に対して、俺と同じ極振りだと知ったベルは二つ返事で了承し、彼女が装備を整えるまで待ってから三人でバベルまで来た。そのままダンジョン一階層へと歩を進める。

 

 力子の格好はもはや攻撃のことしか考えていないのか、防具の類いを着けず先ほどの作業着のままで、左手にくくりつけたでっけえクロスボウと、右肩に担がれた重量感のある巨大な長大剣がすさまじい存在感を放っている。重さが気になったので剣を貸して貰ったが案の定ベルと二人がかりでも持てなかった。落としたときに地面めり込んでたけど材質何で出来てんだよあれ。

 

「名前リベルタだって。全く、忘れんなよ……力子」

 

「リベルタもね……さっき自己紹介されたでしょ? グレンさんだよ」

 

 そうそうグレングレン。グレン・アルバ。極東に近い土地の出身らしいから、正しくは『紅蓮』らしい。

 もう頭ん中で力子呼びが固定されちゃってるからなんか違和感あるんだよな。ていうか随分と格好いい名前だ。紅髪真紅眼の見た目に似合ってる。

 

 俺がガン見していることに気づいた紅蓮はよく分かっていないのだろうがドヤ顔を浮かべ親指を立てる。なんだろう、この残念感は。黙っていたら男女問わず人気の出そうな容姿なのに言動で台無しにするタイプだな。

 

「力子。力値どんくらい? 俺は最近発現して器用値はレベル6相当」

 

「リベルタ、ステイタスの詮索は良くな―――」

 

「あ、技之助まだ低いんだね。私はレベル13相当くらいかなー」

 

 大したことなさそうに言われた内容に、ブッとベルが吹き出し、俺も目を見開く。いや、ちょっと予想超えてた……何? 本気出せばオラリオ滅ぼせんじゃねぇのお前。

 

「まー耐久値が無くて体が保たないから本気は中々出せないんだけどね。反動軽減のスキルのおかげでレベル7くらいまでの力の行使ならフィードバックゼロだよ」

 

「加減してもオラリオ最強並かよ」

 

 現在のレベル最高値はフレイヤファミリアのレベル7、『猛者』オッタル。本気じゃ無いのに彼と同格なのだから紅蓮の規格外さがヤバい。これで器用値が初期値なんだからそりゃ皿くらい割りますわ。転んだ勢いで手を突いたらクレーター作りそう。

 

 

 紅蓮の話の衝撃が大きかったのか、ベルはダンジョンの壁の側に呆けたように立つ。

 

 その後ろで。ビキリビキリ、とモンスターの産み落とされる音が鳴り始めた。位置的に見やすい場所にいた紅蓮が真っ先に反応する。邪魔だったのか長大剣を地面に落とし(陥没)、ベルの元へすぐに間合いを詰める。

 

 紅蓮は思いっきり腕を引き絞り―――動く間もなかったベルの顔面ほんの少し横を打ち抜いた。

 

「えーい!」

 

 ―――ドゴォォォォン!!と力の抜けるような掛け声とは裏腹にとすさまじい轟音をたて、生み出される寸前のコボルトの頭を壁と共に破砕する。ベルの喉から「ヒュッ」と恐怖で引きつったか細い音が小さく鳴った。

 

「うわぁ……」

 

 思わずそんな声が漏れる。

 紅蓮が殴った箇所は無残にもコボルトの肉片が飛び散り、壁は放射状に大きくひび割れ、へこんでいる。これだけの大惨事を起こした本人はというと特に気にした様子も無く、むしろやりきった顔で目の前のベルにサムズアップを向ける。

 

「危ない危ない。ベル大丈夫だった?」

 

「……きゅう」

 

「あれ? ベル? ベル!? どうしたの敵に何かされた!?」

 

 おそらく人生初であろう壁ドンを恐ろしくダイナミックな形で食らったベルが衝撃、音、精神的ショックなどの影響を諸々に受けてしまったせいか白目を剥いて気絶した。とりあえず合掌しておいた。

 

「南無……」

 

「え、嘘、大丈夫だよね?」

 

「うん大丈夫だ。大丈夫だから、脈を測るために頸動脈に押し当てたその手をお願いだから離してあげて?」

 

 

 痙攣してるから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅蓮は両手が塞がっているので、気絶したベルを俺が担いで探索を続ける。どうせすぐ起きるだろ。起きなかったら紅蓮にもっかい壁ドゴンさせて起こしゃあいい。

 

「そい!」

 

 相変わらず軽い掛け声で攻撃を放つ紅蓮。地面に思いっきり長大剣を叩きつけて岩の破片を飛ばす戦い方が中心だ。時折直接斬りかかるが当然のごとく全て一刀両断。相当なオーバーキルをしていると見える。

 

「昨日お前がいればなぁ」

 

「ミノタウロスに襲われたんだっけ?」

 

「余裕だろ?」

 

「一撃だね」

 

 そうだろうなぁ。中層どころか下層のモンスターでも瞬殺できそうだもんな。

 

 そんなことを考えつつ、左肩に乗せたベルに揺れが行かないように気をつけながら右手の【蛇吉(にょろきち)】で敵を迎撃する。

 

「リベルタの動きすごいね。熟練の冒険者みたい。やっぱ器用値の影響?」

 

「だな。なんでもすぐに身につくようになった。あと、敵の動きが遅く見えるようにも」

 

「あー、それ知覚の加速かな。やっぱ器用値依存なのかぁ。動体視力辺りは力値に影響しているみたいだからまだいいんだけど、それもちょっと欲しかったな」

 

 でも力極振りで動体視力がいいなら攻撃も寸前までに気づけば迎撃か避けるくらいできそう。普通になんとかなりそうだな。

 

「お、奥に敵の反応あり。遠いしそのクロスボウ使おうぜ」

 

「一応持ってきたはいいんだけど、特注品の矢だから下層の稼ぎじゃ採算取れないんだよね……投石でもいい?」

 

「矢は回収すればいいんじゃないのか?」

 

「モンスター貫いてそのまま壁の奥深くまで入っちゃうから」

 

 何その威力。馬鹿でかい剣に目がいってたけど、そのクロスボウもひょっとして超重量なの? 紅蓮が矢をセットして俺が標準定めたら最強の遠距離攻撃になりそう。

 

 

 俺が妄想している間に紅蓮は足下の岩を蹴り砕き、拳大の大きさになった破片を一つ手に取る。

 

「―――フッ!」

 

 思いっきり振りかぶって投擲された石は唸りを上げ―――狙ったゴブリンの遙か手前の天井に衝突した。

 

「……!? えっ何今の音!?」

 

「おうベル目が覚めたか。すごい光景見れるぞ」

 

「……うわぁ」

 

 石を拾い上げ、全然関係無いところに投げつけちゃってはまた拾って投げる。まるで「数撃ちゃ当たる」とでも言わんばかりに。

 

 砕け散る破片で視界が悪くなっていく中、ちょうど袋小路に生み出されてしまった哀れなゴブリンは恐怖で一切動くこともできないまま、13回目の投石に頭を潰された。どうしよう不憫すぎて泣けてくる。

 

「……僕、絶対に紅蓮さんに逆らわない」

 

「俺は命をかけてからかう」

 

「お、極振りらしい考え。いいねぇ技之助!」

 

「極振りってこんな人達ばっかなの……?」

 

 ベルの呟きにまともな返事を返せる奴はこの中にはいない。

 

 

 

 

 




 ベル君に新スキル。悩んだけど影響を受けて貰いたかったので発現させてしもうた。後悔はしていない。

 そして力子登場。基本トラブルメーカー気質な子です。天然+格好いいキャラを目指して書いていきたい。普段は全力を出せないようにしましたが、解放条件はもちろんつける予定。

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