ダンジョンに器用値極振りがいるのは間違っているだろうか   作:オリver

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感想欄で極振り達のあだ名が浸透していて嬉しいです。そして名前が出ているリベルタ君まで何故か技之助呼び。
これは名前が忘れ去られるのも時間の問題か……! ちなみに私も返信で技之助って打っちゃってます。ついあだ名使いたくなる。


そしてごめんなさい! 他の極振りまだ出せなかった! じ、次回こそは!


第七話

 ベルがヘスティアファミリアに入って半月が経過した。

 相変わらずの偏成長を続ける俺と、良くも悪くも普通の成長を続けるベル。相性の悪いステータスかと思いきや、ダンジョンでの戦闘では意外とうまく噛み合う。

 

「一歩左!」

「分かった!」

 

 掛け声にベルは体をずらす。その先で腕を振り上げていた犬頭のモンスター、コボルトに向け、俺は左手に持った弓に矢を番えた。

 トス、と飛翔した矢は軽い音を立てて喉に突き刺さる。

 

 すぐに次の矢を放ち、灰となったコボルトの体を突き抜けてその後ろのゴブリンへと命中させる。

 

「前方三体、後方一体! 先に後ろを片付けるから、前の奴ら押さえててくれ!」

 

「うん! 早めにお願い!」

 

「任せとけ!」

 

 言い残し、俺は【盗賊心得】(グリーディブラッド)で察知していた反対方向のダンジョン・リザードへと向き直る。

 【無限収納】(アイテムボックス)で弓を仕舞い、代わりにヴェルフの作品である、細くて軽い片手剣【蛇吉(にょろきち)】を手に取る。

 

 

 四つん這いになって這い寄ってくるダンジョン・リザードの、爬虫類らしく横に裂けた口にすっと刃を滑り込ませ、そのまま尾っぽまで駆け抜ける。同時に服にくくりつけておいたナイフを掴み、振り向きざまに投擲する。

 

『ギッ!?』

 

 すでに一匹片付けていたベルへの援護射撃。流石に距離があったせいか避けられ急所には命中しなかったものの、痛みで怯んだ隙は大きい。即座に肉薄したベルのナイフに切り裂かれ、消滅する。

 

 一応【無限収納】から弓を取り出して駆け寄るが、矢を番えるまもなく最後のゴブリンが倒れる。

 

「ようベル。ナイスアタック」

 

「リベルタも」

 

 ゆっくりと歩み寄りお互いカツンと拳を打ち付け、次いで頭の上でハイタッチをかます。良い戦闘だった時の恒例行事に、二人でニッと笑みを浮かべる。

 

 

 すれ違う冒険者に賞賛の声が上げられる俺達のコンビネーション。

 

 その実、未だ二人とも駆けだしの冒険者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はああああ!」

 

 ベルが少数のゴブリンを相手している間に、俺はもさもさとサンドウィッチを頬張る。

 ご飯休憩を挟むときはこうやって余裕があるときに交代で軽食をとる。敵が増えてきたら口に咥えつつ加勢するが、そうでなければ集中していた脳を休める意味合いも込めてのんびりと時間をかけて食べるのが日課となっている。

 

 ベルの危なげの無い戦いを見つつ、思考する。

 

 俺の【戦友鼓舞】(フィール・エアフォルク)の影響もあるが、それを抜きにしてもベルは良く戦えていると思う。目を見張るような戦闘センスがあるわけではないが、日々着実に成長しているのが分かる。吸収率は良い方だろう。

 

 

 

 このまま成長を続ければ―――近い将来、俺が足手纏いになることも容易に想像できる。

 

 

 

 他の極振り達の残した文章の中に、ランクアップについての記述があった。

 

 極振りはどれだけ偉業を達成しても、ランクアップが起きない。他のアビリティが低すぎるのか、はたまたスキルの影響か。不明だが、最古参の力子は何回も死線をくぐり抜けても未だレベルは1だとか。

 

 その代わりに起こる現象が、上昇アビリティの昇華。俺で言うなら器用ⅡやⅢといった進化が、他の極振りでも起こっているらしい。

 

 【クラスチェンジ】、と力子は名付けていた。条件はアビリティがMAX=1500の状態で小さな偉業を達成すること。

 俺の場合最初のクラスチェンジは、レベル2を含めた冒険者三人(酔っ払い)の撃破。二回目が、モンスターの囲みを切り抜けた時だ。……本当に大したことやってねぇな。レベルアップの大変さを考えると雲泥の差だ。

 

 

 まあ何が言いたいか、というと。俺はレベルが上がらないから、ランクアップ時のアビリティの底上げは期待できない。しかも普段はどう足掻いても器用以外は1も伸びてはくれない。それは、いつか庇いきれないほどの弱点となるだろう。

 

 他の極振り達は中層一歩手前ほどで限界を感じている。極振り同士で組んだ後はどうなのか知らねぇけど。

 俺も、このままでは火力と耐久が足りなくなる可能性が高い。武器、防具で補うにしても限度があるだろうし。

 

「リベルター。休憩交代まだー?」

 

「あ、わりぃ。今代わる」

 

 口の中のパンを飲み下し、剣を片手にベルとすれ違いつつモンスターと対峙。

 

 まあ、まだこの辺りの層なら危機らしい危機は無い。

 

 いつかベルとパーティを解散する日が来るだろうが、しばらくは大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ、ベル」

 

「……うん」

 

「なんかさ、静かじゃね? 五階層ってこんなにモンスター少ないのか?」

 

 ベルも不気味さを感じ取っているのか、どこか緊張した面持ちで慎重に歩を進める。

 

 普段は3~4階層で戦っているが、余裕な戦闘が続いていたのもあり、思い切って五階に降りてみた。

 

 

 キョロ、と辺りを見回すがゴブリン一匹いやしない。上の階層でさえ歩けばちょくちょく遭遇するというのに、難易度が上がった5階層で出現頻度が減るなんて事、あり得るのか?

 

 ……これじゃ、まるで。嵐の前の―――

 

「……!?」

 

 ビリリッ!! と体中に電撃のような衝撃が走り、ブワァっと鳥肌が立つ。

 【盗賊心得】(グリーディブラッド)による索敵に加え、【危機察知】(ヴォーパルハザード)で敵の強さを感知する。

 

 前方の曲がり角の奥から感じた格上の気配を感じた直後、ベルの手を取り上層へ続く階段を一直線に目指す。

 

「な、何!? どうしたのリベルタ!」

 

「いいから走れ! ヤバいのが来る!」

 

 走り始めてすぐに、ドスドスドスッ!! と重量感のある足音が後ろから響き始める。

 

 直線上の道に敵が来たことを感じたので、確認の意味を込めて、走りながら肩越しに振り向く。

 

「……! なんでだよ! なんであんなのが5階層に!」

 

「何? 何がいたの!?」

 

 俺の手を引き始めた敏捷値の高いベルは、全力疾走を続けながらチラリと後ろを流し見て―――血相を変えてさらに加速した。

 

「え、嘘……なんでミノタウロスが―――!?」

 

 

『ヴオオオオオオオオオッッ!!』

 

 ダンジョンを震わせるような、低い唸り声が背中を叩く。

 

 捕まったら死が待ち受ける追いかけっこが今、幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇっ……ベル、俺を置いていけ!」

 

「何言ってるのリベルタ! そんなこと出来るわけないよ!」

 

「このままじゃ二人とも殺られちまうだろ!」

 

 3分ほど、この5階層を逃げ回った。

 

 直線距離を長く進まなければならない4階層への道では追いつかれる。そう判断して俺達は5階層の曲がり角を細かく移動することで、なんとかミノタウロスから逃げ続けていられる。

 

 だが、それももう限界だ。

 

 ただでさえ敏捷値の低い俺を引っ張って逃げている時点で、ベル一人で走るより断然遅い速度。距離は着実に縮められている。

 

 さらに問題なのは、俺の体力だった。

 

 器用値以外は一般人ちょい上。肉体的な上昇はおそらく力、耐久、敏捷あたりに依存しているはずだから、器用ばっか高い俺はたったこれだけの全力疾走で完全グロッキーだ。くっそ脇腹痛ぇ。

 

 ベルも俺の状態が分かったのか、狼狽えた様子を見せる。少し考え、口を開く。

 

「だったら僕が残る! その間に逃げて!」

 

「んなもん死ぬに決まってるだろ! それよか戦闘するなら俺の方がまだ生き残る確率は高い!」

 

「……じゃあ僕も残って―――」

 

「足手纏いなんだよ、どっか行け!」

 

 ビク、と震えたベルは悔しそうに歯噛みして、数秒逡巡する。

 

「……助け、絶対呼んでくるから」

 

 不安そうな声色で それでもベルが最善だと考え出した結論なのだろう。言い残して、迷いを振り切るように走り去って行く。

 

 ……悪いなベル。足手纏いだったのはどう考えても俺だったのにな。

 

 

 

『ヴォオオオオッ!!』

 

 牛頭人体のモンスターと対面する。今まで戦ってきた魔物とは比べものにならない威圧感に気圧されながらも、強がってニィッと口元を吊り上げる。

 

 

「シッ!」

 

 先に仕掛けたのは俺。

 

 轟音を立てて横凪に振られた腕を、四つん這いになることで回避。その姿勢のまま加速し、ミノタウロスの横っ腹をすれ違いざまに斬りつける。

 

「うおっ……やっぱ全然効いてねぇ」

 

 うっすらと赤い線がついた程度。ボリボリと斬った箇所を掻いている様子からして、痛痒いレベルのダメージだな。もうそれダメージって言わなくね?

 

『ヴォアアア!』

 

 対して、ミノタウロスの攻撃。グッと握りしめられた拳の振り下ろし攻撃は唸りを上げ、俺へと迫る。やっべ、これ一発食らったらアウトなやつだ。

 

 ゾッとしつつも冷静に動き、大きく後ろに転がるようにして避ける。

 

 今までのように紙一重に避けることはできない。ミノタウロスの拳は地面へとめり込み、固い破片を周囲に撒き散らす。近くにいるだけで負傷しかねない。

 

 

―――だが、視える。

 

 ミノタウロスの動きが、拳の軌道が、一つ一つの挙動が。

 

「……レベル5相当の器用値嘗めんなよ」

 

『ガアアアアア!!』

 

 苛立ったように繰り出された拳、サイドステップで躱す。

 

 踏みつぶさんと振り下ろされた足撃、バネを使って一気に前進することで躱す。

 

 俺を掴み、握りつぶそうと前へ伸ばされた右腕、跳ねてそのまま腕に着地し、駆ける。

 

 登って牛頭の顔の目の前でニヤッと嗤ってやる。そして―――

 

『ガッ!? ゴアアアァァァ!!』

 

「おう……っと」

 

 ミノタウロスの左目を思いっきり斬りつけてやる。俺程度の力でも流石に目なら攻撃は通るらしい。

 我武者羅に暴れるミノに振り落とされる形で宙を舞うが、体勢を整えて綺麗に着地する。こちらにダメージは無い。

 

 

 後はなんとか、もう一方の目を潰せりゃ逃げれるんだけどなぁ……流石にもう警戒するよな。

 

 ついでに言えば左目は、完全には視力を失っていないだろう。痛くて今は目を開けられないだけだ。そのうち見えるようになる。

 遠近感が掴めないアドバンテージがこちらにあるうちに、なんとか戦況を良くしたい。

 

 【無限収納】から出した弓で残った右目に打ち込んでみるが、腕を前に出すことで防がれる。しょうがない、作戦変更だ。

 

 弓を仕舞い、右手に剣、左手にナイフを持って接近する。走りながら俺は、ミノの左目に向かって投擲の構えを取る。

 

 それだけで、ミノタウロスの上体が上擦る。その隙を見逃さず、俺は足下へ駆け寄り―――踵の腱の部分に斬り込んだ。

 

 

『ヴォアアア! ヴォアアアァァァァ!』

 

 怒り心頭なミノタウロスは、足にダメージを負った様子ではない。が、何度も同じ場所を斬りつければ、流石に痛みくらいは発生するだろう。移動速度さえ遅く出来りゃこっちのもんだ。

 

 俺の勝利条件は、右目回復前に左目を潰すか、片足を負傷させること。もとより撃破が目的ではないし、こっちが逃げられる条件が揃えば十分だ。

 

 

 俺の敗北条件は、一撃でも被弾すること。疲れも溜まっているし、集中力が切れる心配もある。こんな心臓に悪い攻防を繰り返すのは精神的にもきつい。……これはかなり分が悪いかもしれない。

 

「うおおらぁ! 来いや牛野郎……え?」

 

 気合いを入れるために雄叫びを上げ、再び斬りかかりに動こうとしたその時、【危機察知】(ヴォーパルハザード)が発動した。場所はミノタウロスの真後ろ……って、いつの間に? 索敵に引っかかる間もなく接近したって言うのか?

 遙か格上。レベル……5、相当?

 

『ヴォブゥ!? ヴゥオアアァ!?』

 

 ミノタウロスに、斬撃が次々に刻まれていく。俺の攻撃じゃほとんど傷つかなかった強靱な肉体が、為す術も無く解体されていく姿を唖然と見つめる。

 

 響くミノタウロスの断末魔。ブシャアアアと降り注ぐ真っ赤な液体……あ。逃げ損ねた。

 

 びちゃびちゃと鉄臭い血を被る中げんなりしていると、灰となって消えたミノタウロスの後ろに、金髪の女の人が立っていた。……うわめっちゃ美人。

 

「……大丈夫?」

 

「あーうん。なんとか「リベルタァァァァァッッ!!!」 おぶぅっ!?」

 

 とんでもないスピードで、白髪の赤目な少年が俺の元へ飛び込んできた。ていうかベルだ。痛い痛い! 鳩尾に頭グリグリするんじゃねぇ!

 

「無事だった!? どこも怪我してない!?」

 

 自分に血が付くことはお構いなしにペタペタと俺の身体を触り、五体満足であることを確認するとホッと息を吐き、泣きじゃくり始める。

 

「グスっ……良かったぁ……リベル、タ、死んじゃったんじゃ、ないかって……!」

 

「……心配かけて悪かったなベル。助け呼んでくれてありがとな」

 

 鼻声で途切れ途切れに話すベルの頭をわしゃわしゃと撫で、立ち上がる。助けてくれた女の人にペコッと頭を下げると、ベルは今更、その女の人がずっとこっちを見ていたことに気が付いたのか……羞恥からか、顔を真っ赤に染め上げる。

 

 良かったね、と言わんばかりに、女の人がクスりと笑った。耳まで赤くなったベルは、口をパクパクさせ―――俺を担ぎ上げた。

 

「だ―――」

 

「だ?」

 

「だあああああああああああっっ!?」

 

 

 走り回った後だというのに、すさまじい速度で逃走を開始する。

 

 ポカンと見送る女の人―――えーと、あの見た目は確かアイズ・ヴァレンシュタイン氏だっけか。ロキファミリアの―――に、俺は担がれた状態で手を振る。

 

「アイズさんー、助けてくれてありがとなー」

 

「わわわっ! 動くと落ちるよ!」

 

「運ぶ必要がそもそもないだろうに……なあベル」

 

「何?」

 

「惚れたろ、アイズ氏に」

 

「ほわぁぁぁぁぁぁ!? ななな何言ってるの!?」

 

「いやー確かに美人さんだもんなぁ。天然っぽい雰囲気も可愛いし、鬼強い面とのギャップがいいよな」

 

「べ、べべべ別にそんなこと思ってなんて……」

 

「ええー? そっか俺の勘違いか-。じゃあ俺狙っちゃおうかなーアイズさんのこと」

 

「うええっ!? なんでそうなるのダメダメ絶対ダメ!」

 

「なんだ、やっぱ好きなんじゃん」

 

「うわああああ!!」

 

 

 俺がからかい、ベルが面白い反応をする。先ほどまで死の危険があったとは思えないほどに、いつも通りの日常が訪れ始めていた。

 

 ……お互いに、罪悪感を隠して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――今回助かったのは運が良かっただけだ。いつもこうだとは限らない。

 

 強敵から逃げ切れなかった。俺のせいで、ベルまで危険に晒してしまった。

 

 

 器用以外のアビリティが足りないことが原因で……いつか、致命的な出来事を引き起こしてしまうんじゃないかと。

 

 俺には、そう思えてならなかった。

 

 

 




読み方決まりました。
【盗賊心得】(グリーディブラッド)

グリーディ→強欲な
ブラッド→血。気質って意味もあるらしい。

新登場
【危機察知】(ヴォーパルハザード)
ヴォーパル→必中の

ご指摘ありました。この単語は造語で、意味は[鋭い]が一般的なようです!

ハザード→危険

 相手の強さが把握出来る。およそのレベルは分かる感じ。

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