ダンジョンに器用値極振りがいるのは間違っているだろうか   作:オリver

6 / 11
遅くなりました! 展開にめっちゃ悩んでおります。

今回。情報収集(?)の回です。


第六話

「よっすよっすエイナさん。急に呼び出しなんてどしたの? あ、そこの喫茶店でお茶でも」

 

「行きません。……リベルタ君、ちょっと応接室まで来て貰える?」

 

 ヒラヒラと手を振り軽い足取りでやってきたら予想外のガチ目のトーンの声にすげぇにビビった。あれ、これ確実に怒られる雰囲気だ。なんで?

 

 何かしでかしただろうか、と首を傾げつつも、黙って着いて行く。例によって俺の寝床より柔らかいソファーに腰をかけ、ピンと背筋を伸ばす。

 

「ねぇ、リベルタ君。君のレベルっていくつ?」

 

「え、もちろん1だけど。知ってるだろ?」

 

 何を今更。むしろ器用意外の基本アビリティに至っては伸びてすらいないというのに。

 エイナさんは俺の言葉に双眸を細め、どことなく見極めているようにも見える。

 

「じゃあ、証拠として背中のステータス見せて貰ってもいい?」

 

「別にいいけど」

 

「……えっいいの?」

 

 聞いてきてなんで驚くのか分からない。エイナさんがステータスを他の人に話すとも思えないし、俺は一向に構わないぜ。……ところで証拠ってどゆこと?

 

 俺の言葉に何故か訝しげなエイナさんは頭にハテナマークを浮かべつつも、俺が捲り上げた背中を見るために移動する。どうやらスキルの部分は見せなくてもいいらしいので、脱いだ服をスキルの位置に巻き付けることにした。

 

 

リベルタ・エーアスト

Lv.1 

 

力:I=10

耐久:I=10

器用Ⅲ:MAX=1500

敏捷:I=10

魔力:I=10

 

 

「……」

 

「エイナさん?」

 

 後ろで何も反応が無いのでそっと振り向いてみると、エイナさんが眼鏡を外し、目頭をきゅっと摘まんでいた。「疲れてるのかな……」とポツリと呟き、目を何度か擦った後に再度背中を見て、また目を擦る。なんかエンドレスになりそうだったので服を降ろし、向き直る。

 

「前に言ったじゃん。変わったステータスしてるって」

 

「……え? じゃあさっき見たアビリティは本物?」

 

 うん、と頷くと、エイナさんは目を大きく見開き、パクパクと何か言いたげに口を開閉して―――

 

「えええええええええええ!? 何なのこれぇ!?」

 

 うん、その叫びはヘスティアとベルから散々聞いたよ。最近は慣れたのか何も言わなくなってきたけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 珍しく取り乱したエイナさんが落ち着いた頃を見計らって、声をかける。

 

「【尊価代償】ってスキルの影響でさ。能力の成長が偏っちゃったんだよ」

 

「偏るにしても限度があるよ!?」

 

 訳が分からない、と言った表情を浮かべていたエイナさんは一回気を取り直すように首を軽く振り、次いで申し訳なさそうに謝罪する。

 

 

「……実はリベルタ君がレベルを偽っているんじゃないかって報告が来てて……疑ってごめんね」

 

 エイナさんの元に最近、こんな書類が寄せられてきていたらしい。

 

『ダンジョンの3階層付近で、どこのファミリアでも初心者指導をしてくれる上級冒険者がいる』

 

『あの動き、ぜひうちのファミリアに引き抜きたい。所属教えて』

 

『黄土色の髪で、駆けだしらしい白髪の後輩と一緒に潜っていた。先輩の鏡』

 

 ……え、これ俺? 評価美化されすぎじゃね? 何も知らない人から見るとこんな感じに見えるのか。

 

 器用値の影響で動きが鋭い俺に声をかけてくる冒険者は多かった。折角だから一緒にパーティを組んだりしたし、ついでに指南も行ったりはした。大したことしてないと思っていたし、スキルも使わないようにしてたんだが意外と目立ってたんだな。

 

 

 見た目の特徴から、件の上級冒険者が俺だと判明した。しかし実際には駆けだしのレベル1の冒険者として登録してあった。

 

 レベルの虚偽申請にはペナルティが科される。すでにヘスティアファミリアは黒とされ、罰金の処遇がほぼ決定していたらしい。マジかよ怖ぇな。

 

「上層部にはスキルの影響だって言っておくね。本当にごめん、リベルタ君」

 

 むしろエイナさんが確認してくれて助かった。ペナルティは回避できるだろうけど、そのためには見ず知らずの信用できないギルド職員達にステータスを見せなきゃいけないだろうし。それはすごく嫌だ。

 なので「気にしていない」と手を振るが、エイナさんは納得していないのかむむ、と唸っている。……はっこれはもしかしてお食事に誘うチャンス!? 今なら断られない気がする!

 

「あ、そうだエイナさん。この後―――」

 

「そうだ! その【尊価代償】ってスキル、ギルドのデータ調べたら何か分かるかも。他のアビリティ伸びてなかったみたいだけど、もしかしたら伸ばせるように―――どうしたのリベルタ君、そんなに唇噛みしめて」

 

「……や、なんでもない。調べてくれると大変に嬉しいです、はい」

 

「そう? じゃあちょっと待ってて。資料探してくるから」

 

 部屋を出て行くエイナさんを見送りつつ、考える。

 ヘスティアは俺の成長を見て「前代未聞」だと言った。なら、ギルドに情報がある可能性は限りなく低いだろうと俺は思う。そもそも、そんなに何人もいたらおかしくないか、こんな成長の奴。

 

 あーあ、さっさとデートに誘えば良かったなーなんて考えつつ。スキルの情報を期待しないで待っていた俺は、10分ほどでエイナさんが持ってきた大量の書類に目を白黒させることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あまりにも量が多かったので、教会へと持ち帰らせて貰う。別に極秘情報の類いでもないので構わないらしい。

 

 帰ってきたがベルもヘスティアもいなかったので、一人で資料を読みあさることにする。手分けして読みたいところだったが、内容も気になるので待っていられなかった。

 

『この書類を読んでいるってことは、君も【尊価代償】が発現したってことだよね?』

 

 こんな前書きから始まった。やけに枚数が多いと思ったが、まさか【尊価代償】持ちの人間が書いた内容が整理されないまま残っていたのか? 話し言葉じゃ長いわけだ。

 

『いやぁ、今のところ私しかいなさそうだけど。それでも、いつか発現する人のために、このメッセージを残したいと思います。―――ザマアァァァァ!!!』

 

 ビリッ。

 思わずちょっとだけ破いてしまった俺は悪くないと思う。そういえば俺の切った場所以外に三箇所切れ込みがあったがなんでだろうか。

 

『はい、ごめんごめん。ちょっとストレス溜まってて。うん、ちゃんと情報は残すから! あ、私は力子(ちからこ)! よろしくね!』

 

 流石に本名っぽく無いのでコードネームだろうか。その文の下には『自己紹介乙 by守備男(しゅびお)』と書いてある。書き込んでいいのかこの書類。

 

 ……え? 力子以外にも【尊価代償】持ちいんの?

 

『えーまず。このスキルが発現した段階で上昇対象能力以外は諦めた方がいいと思うよ。願った分補正が付くって説明に書いてあるくせに、「もう要らない」と思っても上昇率戻ってくれないから! 心のどっかで執着が残ってるのかな? 私はそんなつもりないんだけどなぁ。あと下方修正、上昇より明らかに強すぎると思う。これもう伸び率ほぼゼロじゃね?』

 

 ……これはなんとなく俺も予想はついていたが……改めてそう言われると厳しいものがあるなぁ。

 最近は一切『器用値増えろ』と念じていないにも関わらず器用はどんどんと伸び、他のアビリティは10のまま不動を保っている。ぶっちゃけ器用が1000伸びるより他のが1伸びる方が嬉しかったりする。

 

 力子のこの文章の後には、今までの試みが綴ってあった。

 

・必死に「力要らない!」と願うこと数日。効果ゼロ。

・「他の能力欲しい!」と願うこと数日。効果ゼロ。

・逆に力欲しいと少し願う。伸び率増えてそのまま固定。

・耐久が伸びるように体を張る。効果ゼロ。

・敏捷が伸びるよう走り込む。力が上がった。

・器用が伸びるよう遠距離武器に挑戦。弓が引きちぎれる。

・魔力が上がるように本を読んだ。肉体強化の魔法が発現。

 

 結果。読んでいて涙ぐましい努力の甲斐なく、他のアビリティは1も伸びなかったらしい。

 

 

 あ、ここにもコメントがある。

 

「やりこみ感謝。そして黙祷 by守備男(しゅびお)」「情報あざっす。しかしマぁジっすか……厳しいっスねーby(はや)たん」「ありがとう。私のも別の書類に書いておくわ by魔女りん」

 

 ……多いよ! なんか一気に増殖したよ! 何人いるんだよ!

 

 その後ろに「魔女りんありがとー! by力子(ちからこ)」。おい情報提供者、後から覗いて書き足してんのか。とりあえず俺も「さんくす。キチィな by技之助(わざのすけ)」と書き込む。これで基本アビリティ勢揃いだな。

 

『他のはどうせ伸びないから、ただひたすら対象能力の上昇を願ってた方がいいかもね。良いスキル発現すればカバーできる場合もあるし。で、冒険者続けないならさっさと恩恵捨てた方がいいかも。私なんか、最近は持った食器割っちゃったり、相手の肩軽く叩いたら関節外しちゃったり。最近誰も近寄ってくれない(泣)』

 

 すげぇなそれ。全く制御効いてねぇじゃねぇか。「これでも飲みなよ つ酒 by守備男(しゅびお)」「ジョッキも割れるんじゃねぇっスか by(はや)たん」「私もよく暴発するのよ。器用値欲しいわー by魔女りん」「器用うらやま by力子」。

 これは書き込まざるを得ないと判断し、「呼んだぁ? by技之助(わざのすけ)」と後ろに続ける。まだ見る奴がいるかは知らんけど。

 

『あとは基本、親しい人以外には黙っていること! 他の神が気づいたら絶対おもちゃにされるし、大規模なファミリアじゃないと無理矢理な引き抜きされる可能性もあるよ』

 

 分かってるよ。ヘスティアにも散々言われたし。

 「おk」「おけ」「りょ」の後ろに「かしこまっ☆」と綴る。

 

『で、ダンジョン行くなら無理しないこと! 途中まで楽勝だったのに、ちょっと敵が強くなるとすぐ死ねるから! 耐久特化じゃないなら、少し痛みに慣れておくことも必要かも。いざって時怯んで動けなくなると困るし』

 

 おお、体験者らしい具体的な意見だな。参考になる。

 「僕は必要無し by守備男(しゅびお)」「力子ちゃん大丈夫っスか by(はや)たん」「暴発で痛いの慣れてるから必要無し by魔女りん」「噛まれるのはまた違う痛みだと思うよ魔女りん。あと(はや)たんありがとう。無事じゃなかった by力子(ちからこ)」「力子お陀仏様 by技之助(わざのすけ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅー」

 

 夕焼け空が一番綺麗に見える時間帯になったころ、俺はようやく最後の一枚まで読み終えた。

 力子だけでなく、他の三人も自分の体験談を書類に纏めていた。全て話し言葉でその度にコメントが挟まるもんだから随分と読むのに時間がかかった。が、有意義な内容を見れたとは思う。

 

 全員が強調することは『油断しないこと』。階層を下に降りるほど短所が目立ち始め、どうにもならない事態に遭遇してしまうこともあるらしい。

 力子のノンフィクションのグロ話はエグかった。短所が足を引っ張った結果、仲間を危険に晒してしまう事も多いらしいので、本当に引き際を見誤ってはいけないと感じた。

 

 さて。最後の一枚に目を通そうか。

 

『はーい、ここまで読んでくれてありがとう! この情報が少しでもあなたの役に立ったらいいな、と思います』

 

 おう。ありがとな力子。

 

『で、この書類、実は一番最近のものです。とある報告をするために、この一枚を書きました! 実は―――』

 

「僕たち4人」「出会って、意気投合して!」「パーティよく組むようになったのよ」

 

 ……はい?

 

『なんかね、【尊価代償】持ちって近づくとなんでかお互い分かってね』

 

「親近感が湧くというか」「同類だと認識できるっス!」「ビビッと来たわ」

 

 

『それでね、あと一人「器用」がいないけど、どこかにいるかもしれないので!』

 

「場所は教えられないけど」「身バレ怖ぇっスから!」「個人情報だし」

 

『気づいたらこっちから声かけさせて貰うね。偶にでもいいので、一緒にダンジョン行こう!』

 

「器用値はよ」「便利君大歓迎っス」「楽しみにしてるわ」

 

『そして最後に。あなたの極振りライフに幸あれ!』

 

「頑張れ」「短所に負けるなっス!」「行けるとこまで行きましょ」

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 

 

「ありがとな! 会えるの楽しみにしてる。極振りサイコーだぜ! by技之助(わざのすけ)




ストックしてあった話だと今回で力子ちゃんと出会わせていたんですが、流石に早すぎるかなーと思ってこんな形に。

あとすみません。ちょっとラウルっぽい話し方の奴がいますがもちろん違います。もう頭の中で速たんはこの口調なんです……! 今更変えられない。

他のアビリティへの下方修正の度合いですが、詳しくは不明ですがほぼゼロ固定との情報をリベルタ君は得ることができました。器用値だけで生きなされ。

次回、おそらくミノ戦。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。