織田信奈の刀 ―私の兄は虚刀流―   作:怠惰暴食

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七花と否定姫、うこぎ長屋でねねと出会う

 道三は【美濃譲り状】をしたためて、美濃を譲って隠居するらしい。

 

 その話を七花が否定姫から聞いたのは、信奈が道三の義理の娘となり、道三にさんざんセクハラされそうになり、信奈がきれて道三を殴ったり、蹴ったり、道三の足を持ち上げて、コマのように回転して道三を庭に投げたりして、会談が終わり、信奈の本拠地である城の帰り道だった。その時には信奈はいつものうつけ姿に戻っていた。

 

「そういえば、爺さんが手紙を書いてたときに、厠に行って帰ってこなかったが、どうしてだ?」

 

「簡単よ。道三なら手紙を書き終わった後にこっちにちょっかいを出すと思ったから、先に戻ったのよ」

 

 つまり、あれだけ、信奈を持ち上げて置きながら、信奈を道三のセクハラの犠牲にしたのである。

 

 清洲城。信奈の本拠地。尾張城とは違う城。

 

「私は城の本丸に行く。あんた達に住み家を与えるわ。犬千代が案内するからついて行って、後で会いましょう」

 

 信奈は城について、七花と否定姫にそう言うとすぐに何処かへ行ってしまった。

 

「……行く」

 

 犬千代がそう言って歩いていく。その後ろを七花と否定姫はついていく。

 連れて来られた先は家と家の間に垣根がなく、【うこぎ】と言う名の食用の植物の生け垣があちこちにあった。

 

「うわ~、貧乏みたいだわ」

 

 そう言いながらもはしゃいでいる否定姫はここでも生活できそうだ。七花の後ろについていき、一緒に生活をしていたからだろう。

 

「屋根があるから、増しだろう」

「そうね」

 

 家の縁側に座り、話しをする七花と否定姫。話を聞く限り、野宿もしていたようだ。

 

「……この建物が二人の住まい。その隣に私が住んでる」

「隣同時ね。よろしくお願いするわ」

「……よろしく」

 

 否定姫と犬千代の関係は良好に進む……と思われる。

 

「食料は生け垣に生えている【うこぎ】かしら?」

「そう。七花君、材料ある?」

「米が少しと味噌も少し、後は塩だな」

 

 否定姫に尋ねられた七花は十二単の袖に手を入れて、小さな風呂敷を取り出し、中から米が入った袋と味噌が入った袋と塩が入った袋を取り出して並べる。

 

「うこぎが入った味噌粥ができそうね。犬千代ちゃんも食べる?」

「……食べる」

 

 生け垣のうこぎを摘んで、味噌粥を作って、茶碗によそい、味噌粥を食べ始める三人だった。

 

「そろそろ、新しく食材や塩と味噌を買わないといけないわね」

「犬千代。食料売ってる場所に後で連れて行ってくれ」

「……それはかまわない。けど、その前に浅野様のところへ挨拶に行く」

「浅野?」

「……うこぎ長屋の主みたいな爺さま。長屋の侍の中では、一番偉い」

「それは挨拶に行かないとね」

「そうだな」

 

 七花達は味噌粥を食べ終えて、浅野様に挨拶に行く事になった。

 

「へえ、浅間様って、出てすぐに向かいの館に住んでいるのね」

 

 質素な屋敷の中へ、犬千代についていく形で入る七花と否定姫。

 

 七花達の前に座る。視点が定まっていない好々爺。これが浅間様なのだろう。

 

 七花と否定姫はこの好々爺がどんな人物か、犬千代の対応で判断する事にした。

 

 まずは犬千代を信奈と間違えた。次に犬千代がもともと柴犬と判明。最後に一昨日あたりに犬千代が男だったか、もしくは痴女的行動を取った事が判明。これらの情報により、七花と否定姫は判断した。

 

「耄碌してないか?」

「ボケてるとしか思えないわね」

 

 七花と否定姫の言葉に反応して、浅野は二人の方を見る。

 

「犬千代ちゃん。この二人は誰じゃ?」

「……信奈様に仕えることになった七花と一」

「そうか、そうか、でお二人の関係は何かいのぉー」

「……犬千代も知らない、何?」

「夫婦よ」

 

 七花の腕を組んでくる否定姫。

 

「そうかぁ、ワシにはそこの男の惚れた女が、そこの別嬪さんの部下に殺されて、男は死ぬためにやってきたはいいが、死なずにその別嬪さんの部下を殺した間柄だと思ったんだがのぉー」

「……訳がわからない」

 

 浅野の言葉に冷や汗を垂らす七花と否定姫、犬千代は首を傾げていた。

 

「更に、その男は惚れた女に恋ではなく愛でもない気持ちを抱いていたと思えるのぉー」

「流石に夫婦は嘘だが、変な事を言うな」

 

 七花は否定姫に組まれた腕を外して、そう言葉を返した。

 

「背が大きい男だの。ねねがもう少し年を取っておれば、嫁にやりたいところじゃがのぉー」

「俺の夢は日本を歩いて地図を書くことだ。嫁はいらん」

「数えで、八つなのじゃが」

「人の話を頼むから聞いてくれ」

 

(この爺さんが油断のならない奴なのか、耄碌しているのかわからない)

 

「ねねや、立ち聞きしとらんで入っておいで」

「おおっ、バレてた? 流石は爺様ですなー」

 

 襖が開いて体が幼いが、目に力がある女の子・ねねが浅間の膝元まで駆け寄る。

 

(本当にどっちなのだろう?)

 

 七花の謎は深まるばかりであった。

 

 その後は、ねねを交えて五人で楽しい雑談をしていた。

 


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