織田信奈の刀 ―私の兄は虚刀流―   作:怠惰暴食

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七花と否定姫、信奈と美濃の蝮に会い話をする

「ここは?」

「正徳寺だ」

 

 目の前の景色の問いに勝家が答える。

 

「ここが信奈の居城か?」

「違う。この場所で信奈様は美濃の蝮と会うんだ」

「美濃の蝮?」

「斉藤道三のことだ。本当に知らないのか?」

「色々歩いたが、合戦場に遭遇したのは初めてなんだ」

「そうか……。ここで姫様は斉藤道三の娘を義理の妹として貰いうけて、縁戚関係を結ばれる予定なんだ」

「男ならともかく、信奈が奥さんを貰ってもなぁ」

「そう言うことだ。それから、信奈様を呼び捨てにするな」

「俺はまだ信奈に仕えてないぞ」

 

 勝家が七花を睨みつけるが七花には効かない。そんな二人に信奈は近づいていく。

 

「七花。行くわよ」

「何処へ?」

「斉藤道三のところへ」

「なんで?」

「来ればわかるわ」

 

 そう言って七花の裾を引っ張る信奈に頭を傾げる七花だった。

 

 信奈は七花を犬千代という名の小姓の少女と否定姫がいる場所へと連れて行った。その場所で信奈は着替えるために三人から離れて何処かに向かった。

 

「あんたも来たんだな」

「違うわ。本当は七花君と犬千代ちゃんの二人だけを連れていこうとしてたんだけど、難しい話は七花君にはわからないわよって言ったら、ここに連れてこられたわけ」

「確かに俺には難しい話はわかんねえ」

「……行く。蝮が待ってる」

 

 犬千代がそう言って先頭を歩く。七花と否定姫はその後に続いた。

 

 正徳寺の本堂。その中に道三の小姓の女の子侍が入り口立っており、本堂の真ん中付近に置いてある席に老いてはいるが筋肉質のがっしりとした禿頭の好色そうな面構えの親父が堂々と座っていた。この親父こそが美濃の蝮こと斉藤道三なのだろう。

 

 道三は入ってきた三人の内、七花を眺めて、ほうほう……こいつは……と呟いていた。

 

 少し時間が経過した時に信奈はやってきた。

 

 さっきまで来ていた【尾張のうつけ者】の格好ではなく、最高級の着物を艶やかに着て、結っていた髪をはらりと落とした、見る人の視線を釘付けにする美少女だった。

 

「へえ」

「あら」

「うおおおおおお」

 

 七花と否定姫は感嘆を、道三はうなっていた。

 

 そこから先は信奈が有利に事を進めていた。

 

 信奈の夢、日本にある古い制度を廃止して、南蛮に対抗できる新しい国へと生まれ変わらせる事。

 

 信奈の夢に否定姫は考えこんでいたが、信奈の言葉に耳を傾けて集中していた道三達に考えこんでいる否定姫の姿は視界に入らなかった。

 

 信奈が有利に事を進め、美濃を安全に手に入れるかと思われた時、道三が軍略で信奈と戦ってみたいと言い出した。

 

 そして、二人が開戦の宣言をしようとした時に口を挟んだ者が居た。

 

「ところでお二人とも」

 

 否定姫だ。

 

「何じゃ?」

「何よ?」

 

 熱を無理やり冷まされて不機嫌な二人。

 

「四季崎記紀をご存知ですか?」

 

 否定姫の言葉に『何を言ってるんだ、こいつは?』と眉を顰める。

 

「刀鍛治でしょ、それが何?」

 

 信奈が不機嫌に言う。

 

「良かった。実は私は尾張幕府に勤めて、四季崎記紀について調べていたんです」

「それで?」

「そして、私は四季崎記紀を調べていくうちに、知ってはいけない事を知ってしまい、幕府に追われる身となりました。このお面は幕府から私を逃がそうとして亡くなってしまった部下の形見です」

 

 七花が倒した右衛門左衛門のお面を手に持ち、惜しい人をなくしたという表情をする否定姫。その様子に今は無き尾張幕府の知ってはいけない事とは何だろうと七花以外の全員が気になりだした。

 

「四季崎記紀は元を正せば占術師の家系でした」

「意外な職業じゃな」

「私は占いなんて信じてないわよ」

 

 二人は異なる反応をしているが否定姫は気にせず続ける。

 

「何千年も前から続く歴史ある占術師の家系でした。そんな家系で生まれた四季崎記紀が何故、刀鍛治をしていたかはわかりますか? 先に否定させていただきますが、占術師という職業が嫌だったからという答えではありません。四季崎記紀の一族の悲願であり目的のために彼は刀鍛治になったのです」

 

 実際、信奈は「占術師の職が嫌だからじゃないの?」と言おうとしていたところ、先に否定姫に否定されてしまい口をつぐみ考えることにした。

 

「占術師ねえ、過去や前世なんてものに刀鍛治にはならない。占いだから未来を占う……知ることかしら? でも、未来のために刀鍛治になるものなのかしら?」

 

 信奈はたどたどしく言葉を紡ぐ。

 

「信奈様、正解に近い答えをありがとうございます。四季崎記紀が刀鍛治になったのは歴史の改竄のためです。未来に起こるだろう災厄を回避するために」

 

 否定姫の災厄という単語に七花と否定姫以外のこの場にいる全員の顔が難しい顔をする。

「災厄のう、それは一体、どんな災厄なんじゃ?」

 

 早く答えを聞かせろと道三は否定姫に尋ねる。

 

「数千年前、四季崎記紀の一族の初代が残した予言。今から、およそ百年後くらいでしょうか、この国は諸外国から一斉に攻撃を受けて滅びます」

 

 その言葉に知っている七花と否定姫以外はしばらく固まり、誰も言葉を口に出さなかった。

 

「それは、四季崎記紀の一族の狂言としか思えないわね」

 

 しばらく、沈黙が続いた後、口を開いたのは信奈だった。しかし、口調が固い。

 

「ですが、四季崎記紀は未来を知る予知能力があった。それは確実です」

「なんで、そう言いきれるのよ」

 

 予知能力と聞いて、信奈は胡散臭そう顔で不機嫌そうに言った。

 

「四季崎記紀が作った変体刀は全て、未来の技術を使われて作られたものだからです」

 

 否定姫の言葉に信奈はますます胡散臭そうな表情を強めるが、否定姫は言葉を続ける。

 

「私は一つだけ四季崎記紀が作った変体刀を見たことがあります」

「何それ? 自慢?」

「いえ、信奈様はこれからの戦の主役は種子島だと言いましたね」

「ええ、言ったわ」

「私が目にした変体刀は種子島を更に進化させたものです」

「何ですって!?」

「今はご存知の通り、四季崎の変体刀は全て壊れているので色々省きますが、その変体刀は二つの種子島で一つの変体刀として扱われ、両方とも種子島よりも小さく、人によっては片手で扱えるほどの大きさであり、片方は六発、もう片方は十一発の弾を込めることができ、姫様が所有している種子島とは違い、一発撃つと弾を込める必要がなく、そのまま連発することができる種子島なのです。そんな種子島が現在、南蛮で取り扱っているでしょうか? 六発ならもしかしたらできるかもしれませんが、十一発も弾を込めることができ、更に片手で扱えるかもしれない種子島を……」

「むむむ……」

 

 信奈は唸っていた。そして残念そうに言った。

 

「何で、その変体刀が壊れているのよ」

「それは追々説明させていただきます。では、四季崎記紀は予知能力を持っていたということでよろしいでしょうか?」

「実物を見てから判断したかったわ。だから完全には信じられないけど、一応信じてあげる」

 

 信奈は唇を尖らせながら、四季崎記紀について認めた。

 

「信奈様が信じられないと思うのは、よくわかります。私も最初は信じられませんでした。そのために部下を使って海外の情勢を調べました。現在の海外情勢は戦争と侵略、それが当たり前のことなのです。そして、百年後を予測してみたところ、戦争と侵略の規模が違い、鎖国を続けて世間知らずになっている今の日本では、あっという間に蹂躙されるでしょう。その事を知ってしまった私は幕府に追われる身になってしまったのです」

「確かにワシが尾張幕府なら余計な混乱を生むかもしれない芽を摘むじゃろうな。じゃが、何故そのことをこの場で言う必要がある?」

 

 否定姫の話を道三は一応信じることにしたのか、道三は否定姫に海外からの侵略については尋ねなかったが、否定姫を見定めるように言葉を選び、尋ねた。

 

「実際、信奈様の話を聞くまでは、そこにいる七花くんと話し合い、百年後の人達に覚悟を持って戦って貰おうと考えていました」

 

 否定姫はそう言いながら七花を見て、そして、視線を道三と信奈の方へと戻して言葉を続ける。

 

「しかし信奈様の話を聞き、信奈様なら世界に対抗できる国をつくる事ができるのではないかと考えたのです。そして、百年後の人達に丸投げにはせず、信奈様に日本の命運を賭けてみたいと思ったのです」

 

 そこで言葉を区切り、否定姫は次に道三の目を見て言葉を続ける。

 

「百年という永いとも、短いとも思える期間。そんな中で道三様は信奈様と戦い戦国大名として最後の花を咲かせたいと考えている中、回避できるかもしれない戦争で余計な時間と被害を出して、信奈様率いる織田家を疲労させるわけにはいきません。どうか、私に信奈様を賭けさせてください。どうか、この日本の命運を信奈様に託してください。どうか……」

「もうよい、演技であろうとなかろうと、別嬪さんに騙されるのは男の甲斐性。その話が事実であれ、法螺であれ、別嬪さんであるお主にそこまで言わせてしまったら、今ではワシ自身が禿げ爺だが、昔は美青年で通った男の名前が泣く、ワシはお主に騙されよう」

「ありがとうございます」

 

 否定姫の感謝の言葉を聞き、道三は信奈の方を見る。

 

「信奈どの。織田家に侍なしとは、たばかられたのう。そこの別嬪さんも、そこのかぶき者も、織田の中にこれほどの者達がおるとは、老いぼれたワシが勝てるわけがない」

 

 穏やかな表情で道三が信奈に言った言葉により、織田と美濃の蝮との戦争は回避されたのだった。

 




未来から来たという設定は使えないから、難しいですね。一回、七花さんを使って強い人たち50人と戦って貰うことも考えてました。

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