「断る」
信奈に仕えるか、否か。七花の答えは否だった。
「なんでよ」
「興味ない」
「あんた、天下欲しくないの?」
「そんなもんいるか」
「そんなもんって、珍しい男ね」
信奈は珍妙な生物でもみるように呟く。
信奈がこいつを仲間にするにはどうしようかしらと考えている最中だった。
「ご主君、戦はお味方の大勝利です! ご無事でしたか?」
髪を一つに纏めて束ねて後ろに垂らし、意思の強い眉と瞳をしている騎馬隊を率いて前線で突撃していた鎧を着ている六(リク)こと柴田勝家が信奈に話しかけてきた。
「七花君、七花君! 巨乳よ、巨乳!!」
否定姫は勝家の鎧の胸の部分が大きく膨らんでいる事に指をさして興奮している。
「どうでもいい」
対する七花は勝家の顔をチラ見して、どうでもよさそうにしていた。
(女に興味がない? でも男好きには見えない)
七花を観察するように見つめる信奈。
「な、何だ? こいつら」
勝家が二人を見て戸惑う。
「旅をしている最中に間違って合戦場に入ったらしいわよ」
「それは運が悪いですな」
「そして、男の方に命を救われたから、褒美をあげなきゃ」
「御意」
勝家と話し終わって、信奈は七花達の方へ向いた。
「ところで、あんたの名前は?」
「今更だな。俺は七花だ」
「そっちも、旅をしている者としか聞いてないわ」
「私の名前は【フク】と申します」
「福にあやかりたいから、親がつけたのかしら」
「そのようなのですが、あてた漢字が不幸の不に、口説く口になりまして、縦に並べてくっつけると否定の否になってしまうのです」
「それは……残念な名前ね」
木の枝で漢字を書いてわざわざ説明する否定姫に同情する信奈と勝家。しかし、七花は呆れたような顔をしていた。
「そうなると、フクとは呼びにくいわね」
「では、一(イチ)とお呼びください」
「何で一なの?」
「不の一番上の傍が一に見えますよね」
「ええ」
「親がつけた漢字の一部分だけでも呼ばれたいのです」
「わかったわ、一!」
感動した信奈に涙を流している勝家。対する七花はよくもまあ嘘がポンポンでるなぁと感心していた。
それから、七花は足軽の亡骸がある場所へと向かったが、亡骸はなかった。織田の兵士の一人が申し訳なさそうに、亡骸は一箇所にまとめて焼いたと言っていた。