織田信奈の刀 ―私の兄は虚刀流―   作:怠惰暴食

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七花と否定姫、眼鏡っ子狸との会談に出席する

 季節は夏。

 

 桶狭間の戦いで今川の本陣で大暴れをしていた【尾張のかぶき者】と呼ばれている、虚刀流七代目当主、鑢七花はうこぎ長屋の縁側で否定姫と並んで、信奈から貰った手羽先を食べていた。

 

「ここんところ、同じようなものばっかり食ってる気がするなぁ」

「多分、勝家ちゃんが主に持ってくる【八丁みそ】と【たまり醤油】の二つが大量にあるから他の味付けにしにくいのよね」

 

 笑顔で七花に向かって兄者と呼びながら、五人いても使い切る事はできないほどの八丁みそとたまり醤油を持ってくる勝家を思い浮かべる七花と否定姫。

 

「旅に出た時はその土地の料理とか色々食べてたよな」

「そうねえ」

「たこ焼きとかうまかったな」

「ええ、あのソースも濃かったわね」

「そろそろ別のものが食いたいな」

 

 うんざりした顔で呟く七花。それに対して否定姫はくすくす笑っている。

 

「この前、外国の言葉で書いてある料理本を買ったから、家にいても飽きないように食事を作る事ができると思うわ」

「へえ、外国の言葉か、凄いな」

「流石に簡単じゃないから、翻訳に時間がかかるわね。現在、翻訳できて、すぐに作れそうなものは【マヨネーズ】くらいかしら」

「まよねーず?」

「使用方法は調べている最中だから、もう少し待ってちょうだい」

「まあ、うまかったら何でもいいや」

 

 骨だけになった手羽先を処分しながら七花は言う。

 

「それより、信奈に呼ばれてるんだろ」

「そうね。ちょうどいい時間だし行きましょうか」

 

 二人は昼食を終えて清洲城へ向かう事にした。もちろん、会談の最中に食べる茶菓子を清洲城へと向かう途中の店で買ってからである。

 

 清洲城の大広間で七花は小柄な狸のような格好をした南蛮眼鏡をかけている少女をういろうをまるまる一本齧りながら観察していた。

 

 【眼鏡っ子狸】の名前は松平元康というらしい。しかも桶狭間山で戦った忍者の主君だと否定姫から耳打ちされた。

 

 七花に観察されている元康は現在、七花の【疑妹】、信奈にぽんぽんと肩を叩かれていた

 

「久しぶりね、竹千代」

 

 犬千代に尋ねると二人は幼馴染み。しかし、幼馴染みになった原因は信奈の父、信秀に誘拐されたから、色んな意味で可哀そうな人生である。

 

 信奈の言葉にぺこりとお辞儀をしながら微笑んで返事をする元康。しかし、声が乱れ、狸耳が痙攣するかのように震えていた。

 

「震えているな」

「震えているわね」

「何があったんだろう?」

「……犬千代が説明する」

 

 小刻みに震えている狸耳を見てひそひそ話している七花と否定姫の間に犬千代が入ってきた。

 

「……眼鏡たぬきは織田家に囚われていた頃、来る日も来る日も幼い信奈さまの一の家来としていじめられ……こほん、かわいがられていた」

 

 幼かった信奈は元康を見つけると口癖のように狸鍋にしてやると言いながら、しょっちゅう元康を縛って木の枝からぶらさげていたらしい、現代では大問題だが、人生の大半を虚刀流に費やしてきた七花は「小さい頃はそんな事をして遊んでいたのかぁ」と信奈の過去に興味を示し、否定姫も幼い頃から人を自分の手足のように使っていた為、「まあ、そんなものよね」と昔は自分もそんな頃があったなあと懐かしんでいた。

 

「……たぶんその頃の恐怖を、体が覚えている。だから、うちの姫には逆らえない」

「そうか」

(敵にならないなら安心かな)

 

 七花は身体の力を抜いた。場合によっては元康をこの場で処分する気だった。

 

「犬千代、褒美だ」

「……あ~ん」

 

 七花は手刀でういろうを切って、切った部分を右手で摘まんで犬千代の口に運ぶ。犬千代は躊躇いも無くういろうを口に含んでモグモグ食べていた。

 

「うまいか?」

「……美味しい」

「そうか」

 

 口をモグモグしながらういろうを味わって食べている犬千代の頭を七花は撫でていた。その姿はまるで兄妹のようだ。

 

「何やってんのよ!?」

 

 信奈が七花と犬千代の様子に気付いて声を荒げていた。

 

「吉姉さま(信奈の幼名)、この方たちは?」

 

 元康は首を傾げながら七花を見上げる。

 

「紹介するわ。あっちで優雅にういろうを食べている綺麗な女性が一で、こっちの子犬のように可愛い女の子が前田犬千代で、その犬千代を餌付けした後に手籠めにするつもりの男が七花よ」

「そうですか~。私は松平元康、あだ名は竹千代です~。よろしくです~」

 

 信奈から手篭めと聞いて元康の笑顔は引き攣っていた。しかし七花は気にせず

「どうも」と頭を下げた。

 

「ところで信奈?」

「なによ」

「手籠めって何だ?」

 

 本気で首を傾げる七花に信奈は絶句した。知らないとは思っていなかったのだ。

 

「そう言えば、七花君って、そっち方面は疎いんだったわ」

 

 ういろうを食べた後、そう呟いてから否定姫は我関せずにお茶を啜っている。信奈を助ける気はないようだ。

 

 元康は七花が手籠めするような輩ではない事に安心したが、信奈の言葉に首を傾げる。

 

 犬千代はどうすればいいのか、信奈と七花に視線を向けてオロオロしながら、ういろうをモゴモゴするばかり……

 

 元康との会談は有限。しかし、【疑兄】の無知にどう説明すればいいのか信奈の頭の中はごちゃごちゃになっていた。

 

 結局、口をパクパクさせるだけの信奈に飽きた否定姫が助け舟を出すかたちで終了した。

 

 さっきの自業自得的で墓穴を掘った信奈は不機嫌そうに唇を尖らしている。犬千代はようやくういろうを食べ終えたようで、どうしたものかとオロオロしている。七花と否定姫は何事もなかったかのように、ういろうの次に饅頭を食べ始めた。

 

「とりあえず、吉姉さまのおかげで、私は三河で独立できました~。これからは尾張と同盟し、吉姉さまの妹分として末永く仲良くしていこうと思います~。っていうか、恐くて逆らえません~」

 

 変な空気をなんとか払拭しようと元康は信奈に頭を下げる。

 

 独立したての三河は弱小国。

 

 しかも、東にある今川義元の旧領・駿河を飲み込んだ最強の一人と称されている【甲斐の虎】・武田信玄の大軍が控えている。

 

 そして、武田信玄は元康の事を【今川のパシリ】ぐらいにしか思っておらず、従属ならともかく対等な同盟を結ぶ気はないのだった。

 

 だから、元康としては信奈と同盟する以外に、三河の独立を保つ術は無い。

 

 さらに臣下の服部半蔵から、少人数で五千の本陣を瓦解させた人物が織田にいるので気をつけるようにと進言され、どんな人物か調べようとすれば、またしても半蔵に安心して寝られる日がなくなるためおやめくださいと忠告された。

 

 まさか、その人物達が目の前で残り一つの饅頭をどっちが食べるかジャンケンをして、最終的に犬千代に食べさせるという行動をした七花と否定姫だとは元康は思ってもいなかった。

 

 犬千代にまた餌付けした事により、信奈は不機嫌になるが、また墓穴を掘るわけにはいかないとして竹千代との会話に集中する。

 

 天下統一を目指す信奈も元康を利用しようと考えている。

 

 一つ目は三河を対武田の防壁として利用し、その間に西にある美濃を奪って京の都へ進軍しようと考えている。天険の要害・稲葉城を擁する美濃は強国であり、東側にある武田との戦線を構える余裕はないのだ。

 

 二つ目に三河が味方陣営にいると、尾張の人間ならみんな大好きな八丁みそを安値で調達しやすくなる。

 

 だから、その後の信奈の要求は元康に三河全土を支配させる事を認めるが八丁みそを作っている八丁村を譲れから始まり、奪わない代わりに「尾張商人に八丁みそを安く売れ」と「尾張との境にある関所で八丁みそに関銭をかけるな」の二つを元康に条件としてのませた。元康は八丁村を取り上げられない事に安心して、信奈は軍兵の食費にかかる予算を削減できると喜んでいた。

 

 こうして、東は元康が、西は信奈が受け持つとの事で尾張と三河の同盟締結が完了した。

 




久しぶりの投稿。

そして、家の中で見つからなかった信奈の野望3巻を結局、中古で買ってきました。

今回は複線としてマヨネーズをはっておいて、回収できたらいいなと思います。

しかし、色々混ぜてみたい作品がでてきましたね。

進撃の巨人と鋼殻のレギオスを混ぜてみたり、ハイスクールD×Dとはたらく魔王様も混ぜてみたりとかしてみたいですね。

※怠惰暴食「念願の織田信奈の野望三巻を手に入れたぞ!」

1.転ばしてでも奪い取る(別の混ぜ物を見てみたい)

2.お前を転ばすのは最後だ(このまま行けばいいんじゃないかな)

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