織田信奈の刀 ―私の兄は虚刀流―   作:怠惰暴食

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否定姫、月を見て何を思う

 今川との戦いの後、尾張では各地で宴会が始まっていた。織田のほとんどの兵達は戦で移動しただけなので、ほとんど体力が余っているから朝までやるかもしれない。

 

 七花が今川との戦いで貰った褒美は二つある。

 

 一つは川並衆を織田で抱え込み、七花の直属の部下にする事、もう一つは雨の中戦ったので疲れた身体を癒すための大きい風呂を要求した。この風呂で七花と桶狭間で戦った川並衆、そして大猪である赤兜と共に入り、七花は川並衆と親しくなり、赤兜は風呂を気にいったようだ。

 

 そして、七花は宴会には参加せず、うこぎ長屋に帰ってきてから直ぐに眠った。今川との戦いに桶狭間山で戦った忍連中と疲れが溜まっていたのだ。

 

 何人か七花を宴会に誘いに来ていたが、七花の眠っている姿を見て、邪魔をしてはいけないと長屋を五月蝿くしないように長屋から離れて宴会に参加していた。

 

 今、うこぎ長屋にいる人物達は眠っている七花、その七花を見えない場所で護衛している五右衛門と川並衆連中、そして一と名乗っている否定姫。

 

 月を縁側で見ながら、否定姫は頭の中で集めた情報を整理していた。

 

 何故、尾張幕府が終了したか、それは九代目将軍が千人近くの警備兵がたった一人の七花に城攻めをされて、しかも八代目将軍の暗殺に許したとして尾張城の警備兵を全員解雇して城ががら空きになってしまったため、もしくは解雇された恨みとして警備兵が謀反を起こした。実際、尾張城には売れる物は全てなくなっていたそうだ。普通ならば警備兵を徐々に交換するのが現実的だ。滑稽としか言いようがない。

 

「無様と笑ってあげるのがいいのかしら」

 

 でも腹を抱えて笑う事ができなかった。

 

 五右衛門が今は亡き徹尾家から持ってきた資料を見てから尾張幕府の終了は必然的に起こされたのではないかと思ってしまった。

 

 織田信奈。初めて名前を聞いた時、旧将軍がいたころの戦国時代の武将、織田信長について思い出した。

 

 四季崎記紀が残した記録に織田信長の名前があった。その信長は四季崎記紀がこの国の未来を任せても構わないという人物であり、四季崎記紀が信長専用の変体刀を作った事もあった。しかし、信長は変体刀の毒に耐えられず、ただの人斬りに成り下がってしまい、旧将軍との戦で戦死した。

 

 その時、四季崎は悲しんだらしい。

 

「最初は似てるだけだと思っていたんだけど」

 

 五右衛門が持ってきた一つだけくしゃくしゃに握り潰された資料。あれを初めて見たとき否定姫はゴミか何かだと思った。しかし、読んでいくうちに身体が内側から冷えていく。もしくは心が凍ってしまうと思った。

 

 くしゃくしゃの資料に書かれていたものは妊娠した女に投薬してどんな子供が生まれるか、もしくは妊娠した女の腹を切り開き子供に直接、投薬または改造を施して子供にどんな影響がでるか、どんな子供をどんな教育や暮らしをさせたらどんな性格になるか……くしゃくしゃになった資料には外道としか言い表せない程の膨大な数の人体実験の記録が詰まっていた。

 

 否定どころの話ではない。あんな資料は拒絶、もしくは断絶させなければいけない。否定姫は悪魔の資料を念入りに焼いて、崩して、庭に撒いた。あんなものが自分の庭にある事は耐えられないが仕方ないと思うしかなかった。

 

「もしかしたら、鑢七実は人工的に作られた天才だったのかもしれないわね」

 

 七実はアレを読んだのだろう、だから資料を握り潰し、みぎりだと思われる女を殺しに行った。

 

 今のこの状況も四季崎記紀の思惑通りではないのか?

 

 織田信長に似ている少女・織田信奈に四季崎記紀の唯一現存している完了形変体刀である【虚刀・鑢】を渡すために、奇策士が鑢七花を連れて完成形変体刀を集める旅にでかけて七花を鍛錬し、収集した後に所有者である奇策士を殺し、変体刀を全て破壊する。まるで彼らの刀集めの旅は今のこの状況の為にあるのではないかと思ってしまう。

 

「おい」

 

 後ろから声をかけられる。

 七花だ。

 声をかけてきた七花はまだ寝たりないのか目を少し擦っている。

 

「あら起きちゃった?」

「寝ろ」

 

 七花は否定姫をまっすぐ見据えてそう言った。

 

「あら?」

「いいから寝ろ」

 

 機嫌が悪いのか声を荒げながら言う。

 

「そうピリピリした感じをだしながら考え込むな。寝られない」

 

 どうも否定姫が嫌な雰囲気を出しながら考えていたため、七花は起こされたようだ。

 

「ごめんなさい」

 

 否定姫の謝罪を聞くと七花はまた布団にもぐり込む。

 

「なるようにしかならないんだ。今、考えたところでどうしようもない」

「……それもそうね」

 

 まだわからない事は沢山ある。しかし確実に自分達は巻き込まれている。ここで変な考えに囚われてしまって動けなくなるよりは少しでも他の情報も集めて自分達が有利になるように動いた方がましだ。なら自分が今、するべき事は決まっている。

 

「おい」

 

 すぐ近くで声がする。

 

「何かしら?」

「何で同じ布団に入ってくる」

「だって、また同じ事考えそうで恐いのよ。今夜は一緒に寝てもいいでしょ?」

 

 否定姫がするべき事、それは今まで落ち込んでいた分を取り戻すように、いつもより過激に七花をからかう事である。

 

 この夜、何があったのかはご想像にお任せする。

 




失踪中から何とか投稿

前の話から時間が開くと何を書こうとしたのか忘れてしまいますね

だから、今回もおかしいところがあると思います。

少しでも違和感を無くすための話なのにおかしいとは……でも頑張る予定です

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