織田信奈の刀 ―私の兄は虚刀流―   作:怠惰暴食

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今川義元、登場

 【海道一の弓取り】今川義元は京への通り道の尾張が留守になっているという噂を耳にして、念のために国境の砦の情報を調べ、空き巣狙いの一戦を起こした。

 

 現在は皐月、五月であり、現代では六月である。

 

 すでに梅雨入りしている。

 

 天気は晴れだが、湿度と気温は高く、じめじめと暑い。

 

 丸根の砦を目前にして、義元は桶狭間山の麓で休んでいた。

 

 現在、丸根の砦を攻めているのは松平元康が率いる兵達である。

 

 義元の現在の格好は十二単を纏っており、七花とは違い馬に乗るときは大勢の小姓に押して貰わねばならず、しかも、この季節の暑さで脱水症状を起こし落馬する始末だ。

 

 そして義元は、自分は寝ていても部下に働かせていれば予定通りに進めるという作戦を立てる事を忘れない。だから現在、元康が丸根の砦を攻めている訳なのだが、そのために義元は現在、暇なので尾張領の農民達が自分達を歓迎して渡してくれた酒でも部下にも回して飲もうかと思っている最中なのだ。ちなみに毒見はちゃんとしている。

 

「しかし、一休みの最中に新しく作った鞠で蹴鞠でもしようと思ったのですけど、この鞠は硬くてとても蹴れたものじゃないですわ」

 

 そう言いながら義元は硬い鞠をペシペシ叩いて、そこら辺に投げた。

 

「では祝勝の前祝いでも始めましょうか」

 

 二万五千の兵達に回してもまだ十分余るのではないかという酒を義元はお猪口に注いで飲んでいく。

 

「あら、いいお酒ですわね。何処のお酒なのかしら?」

 

 まさか、それが否定姫の思惑通りと知らないで飲んでいる事を、酒をどんどん飲んでいき酩酊していくだろう義元は知る訳がなかった。

 

 否定姫が行った事は国境の砦に尾張が留守という噂を広めるために砦に赴任される兵達に誤った情報を教えて砦に広めさせた事。もう一つは信澄に七花からの頼みだと言って、大量の酒を義元が通ると思われる農村に渡して、今川軍がやって来たら、歓迎して大量の酒を今川軍に渡す事の二つが現在、成功している。

 

 ちなみに農村の若い娘達を避難させてある。今川兵の接待として連れて行かれたら困るからだ。

 

 否定姫がこの行動を行った理由は川並衆を使って三河で今川義元という人物についての情報を集めて、義元がどういう人物であり、どういう性格なのかを予想して導きだされた人物像を使って起こしたのだ。

 

 しかし、否定姫はこの行動を信奈に教えていない。もし否定姫の思惑が外れてしまったら、それだけで尾張は潰れてしまう。だから信奈に変な情報を持たせるものではないと思ったのだ。

 

 砦の事は仕方がないとして、もし義元が歓迎する農民を疑っていれば、大量の酒を何故、農民が持っていたのかを疑問に思っていれば、大穴で村娘達が一人もいない事を不自然に思っていれば、義元の行動は否定姫の思惑通りにならなかったかもしれない。結果として義元の行動は否定姫の予想していた通りのものだった。

 

 そろそろ日が落ちて夜になろうかという時間に飲み始めた義元の近くにある桶狭間山では七花が数名の忍の集団と戦っていた。

 




文章が短いから前の話と合体しても良いと思いますが、あえて合体させませんよ

否定姫の場合、こんな行き当たりばったりな策をたてないだろうなあ

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