織田信奈の刀 ―私の兄は虚刀流―   作:怠惰暴食

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七花、美濃で様々な情報などを集めて尾張に帰還する

 信奈と夜中で話してから一週間が経過していた。

 

 七花は美濃での諜報活動で集めた様々な情報などを得て、清洲城に戻ってきた。

 

 美濃の豪族達が斉藤道三の義理の息子の義龍を担ぎ上げて謀反。

 

 道三は美濃の本城である稲葉山城を追われ、手勢を率いて長柄川へ押し寄せて再稲葉山城へ攻めようとしており義龍は十倍近い大軍で長良川へ出陣している最中であり、父子の間で合戦が始まろうとしていた。

 

 流石に七花も終わってしまった事にはどうしようもないので清洲城にいる信奈にどうするか聞きに行ったのだった。

 

 本丸に着くと、そこには信奈と勝家、犬千代と長秀が難しい顔をして話している。否定姫は聞いてはいるが、会話には参加していないようだった。

 

「おかえりなさい、七花」

「無事だったんだな、兄者」

「にぃに、心配した」

「七花殿、おかえりなさい」

 

 七花に気付いた信奈から順に言葉を貰うが、今はそれどころではなかった。

 

「なあ、信奈」

「蝮の事でしょ」

「! ああ」

「助けに行かないわよ」

「……そうか」

 

 しょんぼりする七花に、七花の力になりたいと思う勝家と犬千代なのだが、今は手伝う事はできない。

 

「駿河の今川義元がいつでも上洛を起こせる状態です。こんな時に美濃への援軍を出すと尾張が手薄になり、今川義元から攻撃を受けて織田は終わりです。零点です」

「私は徹頭徹尾、合理主義者なのよ。損得勘定をすれば誰にだってわかることだわ。美濃の国主でなくなった蝮に利用価値はないわ。このまま見捨てましょう」

 

 七花は信奈の唇のはしが引きつっている事に気付いていたが何も言わなかった。決めるのは信奈であって七花じゃない。それに七花には勝手に動いても責任は自分に返ってくるだけなので自由に動けるが、信奈は違う。信奈が行動を決定する事で尾張がどうなるか決まるのだ。好きに動く事はできない。

 

「それにこっちには美濃譲り状がある限り、美濃を攻める大義名分があるわ」

 

 信奈は道三が書いた美濃譲り状を取り出した。

 

 七花が見た限り未開封のようだ。気恥ずかしい事が書かれていたら困るから放置していたのだろう。

 

 否定姫以外の全員が美濃の譲り状の中身を覗き込むが、勝家には何が書いてあるのか、さっぱりわからなかった。

 

 そして、美濃の譲り状を読み進めている信奈が震えだす。

 

 なぜなら、自分の主君を追放するという悪辣な手段で出世を続け美濃の国主の座へと上り詰めた大悪人、「蝮」と呼ばれて恐れ続けられてきた斉藤道三が書いたとは思えないような内容が譲り状に書かれていたのだ。

 

 譲り状を読み終えたときに事態は進む。

 

 今度は小姓が駆けつけてきて、美濃から斉藤家の姫が落ち延びてきた事を伝えてくる。

 

 乳母らしき老女が信奈の足元に伏して一礼する。

 

「約束の妹をお送りする、重ねて援軍は無用、と道三より言伝を預かって参りました」

 

 その言葉に信奈は取り乱し、魔王の仮面が剥がれ落ちて一人の少女に戻ってしまった。

 

「ぜ、ぜ、ぜんっ、ぜんぐんでっ」

「落ち着け、信奈」

 

 全軍で美濃へ、そう下知しようとする信奈を七花は信奈の肩を掴んで軽く揺さぶる。

 

「そして、勝家も止めろ」

「しかし兄者」

 

 そして今度は信奈を失神させようとする勝家を止める。

 

「信奈、落ち着け」

「落ち着けるわけないでしょ!!」

「それでも、落ち着け。そこにいる道三が入りにくそうにしている」

 

 ………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

 

『へ?』

 

 

 言った七花、それから否定姫以外のその場にいた全員が呆けた顔で七花を見て、そして七花が示す方向にいた道三を確認した。

 

 ここで質問です。美濃の譲り状では別人のように手紙を書いて、今にも死にそうだけど助けはいらないと手紙と従者を通して相手に伝え、相手がその情報を全部知った直後には、すでに自分がピンピンして生きており相手のすぐ近くにいるとき、どんな顔をして会えばいいでしょうか?

 

 そんな複雑な表情を道三は本丸の中でしていた。

 

「……にぃに。何故、蝮いる?」

「俺が連れてきたからだ」

「兄者、何で蝮を連れてきたんだ?」

「もしかしたら、信奈が道三を助けに行くとか言うかもしれないから、選択肢から消しておこうとしてな」

「何故、七花殿はあの時、しょんぼりした顔をしていたのです?」

「もしかしたら、自分がやった行動って無駄だったのかなー、と思ってさ。いやあ、無駄にならなくてよかった」

 

 犬千代、勝家、長秀からの質問を嬉しそうに返す七花。七花の嬉しそうな言葉を聞くたびに信奈の体の震えは大きくなる。

 

「こ」

「こ?」

 

 信奈が言葉を発したとき、七花は信奈に注意を向ける。顔を下に向けて表情は見えないが手は刀の柄に乗っかっている。

 

「このドアホォオオオオオオオオ!!!!!!」

「おお?」

 

 信奈はそう言いながら刀を抜刀し、七花に斬りかかるが、七花はそれを手刀でいなして無効化する。

 

「大人しく斬られなさいよ」

「頑張れ、信奈。攻撃が少しかするまで、もうちょっとだ」

 

 二人の会話がおかしい。信奈は早めに七花が道三を連れてきたらこんな事にならなかったのにという憤りで刀を振るう、それに対して七花は信奈との斬りあいを家族のスキンシップに捉えているため、七花の人を小馬鹿にした言動に信奈は向きになって七花に連続で切りかかる速度が速くなる。鑢家的に見ると完全に兄妹喧嘩です。……虚刀流は刀が使えないから夫婦喧嘩だろうか?

 

 遊んでいる七花に対し、本気で七花に斬りかかる信奈の体力が先になくなるのは言うまでもなかった。

 




七花さんに新しい妹と思われる人物が出てきたらどうなるかなあと思いました。

七花さんなら暴走するだろうなあ

つまり、この話はこの作品を書こうと思ったときに絶対に書くと決めていたものです。

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