七花と勝家が戦った次の日、変わった事が何個かあった。
最初に朝に会った犬千代の服装が変わっていた。
ど派手な虎の毛皮を頭から被り、帽子の代わりに虎の頭をつけて、背中にはビロードの南蛮マントをはためかせ、腰には南蛮風の半ズボン。更に顔には赤い塗料で隈取りが施されている。隣人の変わった姿に七花と否定姫は驚きを隠せなかった。
「……犬千代ちゃん、何があったの?」
恐る恐る犬千代に尋ねる否定姫。
「……ぐれた」
「なんで!?」
「……かぶいた」
「これは、かぶいたと言える!?」
犬千代は否定姫との会話をそこで打ち切り、とてとてと七花に近づいて、七花の絢爛豪華な十二単の袖を掴んで――
「……おそろい」
顔を少し染めて嬉しそうに呟く犬千代の姿に七花は首を傾げ、否定姫はなる程ねと納得した。
朝食を食べて、ぶらぶらと何処かに出かけようとした時、犬千代から声がかかった。
「……にぃに、何処行く?」
「「にぃに!?」」
七花と否定姫が同時に叫ぶ。
犬千代が変わったところ、その二である。
「……信奈様の兄かもしれないなら、あたしらにとっても兄だと昨晩勝家が……」
どうやら、【にぃに】とは、七花の事で意味は兄という事らしい。
次の変化は町や市、人のいる場所にいると七花の事を「にいちゃん」とか「あんちゃん」と気安く知らない人達に呼ばれるようになっていた。
「多分、これは七花君が勝家ちゃんを倒した事と信奈の兄かもしれない事が混ざった結果じゃないかしら?」
「そうなのか?」
「尾張には勝家ちゃんよりも強い武将がいないらしいから、しかも勝家ちゃんは尾張の兵が認める程の強さ、その勝家ちゃんを圧倒的に倒した七花君の強さに対しての惚れこみと信奈ちゃんの兄かもしれない事が混じって今の呼び方になったと思うわ」
「そうか」
茶屋でういろうを食べながら、七花と否定姫がそんな話をしていると
「兄上~」
信澄が七花のもとへと駆けてくる。
「おう、信澄」
「兄上、夕方頃から時間がありますか?」
「悪いな、明日から少し尾張を離れて行動するための準備をしないといけないんだ」
「そうですか、一度、兄上が何をしていたか聞いてみたかったんですけど」
信澄はしょんぼりしている。
「それは今川との戦いが終わった後だな。侘びとしてういろうを一つやるよ」
「いただきます」
兄であるかもしれない七花からういろうを貰い嬉しそうに食べる信澄。こうして見ると男の娘ですね。
「こら、信澄。まだ見回りは終わってないぞ」
勝家が近くにやってきて信澄に拳骨を落とす、口の中のういろうを意地でも吐き出さずもぐもぐ食べながら、殴られた箇所を両手で押さえて涙目になっている信澄であった。
「兄者、おはよう」
「おはよう、勝家」
勝家も変わった。まず七花の呼び方が【兄者】になり、気さくに話しかけてくるようになった。時々、恥ずかしいのか顔を染めるときがある。
「兄者、お願いがあるのですが、兄者も訓練に参加して貰えませんか? 兄者が参加してくれると兵の士気も上がると思うんです」
「悪いな、俺は一人で行動するのが得意だし、明日から少し出かけないといけない場所があるんだ」
「そうですか」
勝家はしょんぼりしている。
「侘びとして、ういろうを一つやるよ」
「いただきます」
勝家は七花から貰ったういろうを美味しそうというより嬉しそうに噛み締めている。
「七花君、そろそろ買い物に行きましょう」
「そうだな」
否定姫に言われて七花は茶屋に代金を払い、信澄と勝家に別れを告げて、否定姫と共に移動する。
「信澄から面白い話を聞いたわ」
移動最中に否定姫は話しかける。
「どんな話だ?」
「七花君が尾張の人達には、【尾張の兄ちゃん】または【尾張のかぶき者】って呼ばれているそうよ」
「尾張のかぶき者かぁ」
「信奈ちゃんが尾張のうつけ者なら、兄である七花君は尾張のかぶき者みたいな認識かしらね」
「そうか、なら尾張のかぶき者らしく、行動するとしようか」
そう呟く七花はどこか嬉しそうだった。
ここまで、読んで貰うと、わかりますが
自分はこの小説でお兄ちゃんな七花さんとブラコンな信奈。お兄ちゃんと慕う姫武将達を書きたかったんですよね
だから、お兄ちゃんという設定がでるまで、伏せてました。書けない場合もありますから
七花と信奈がラブラブするのを期待していた人はごめんなさい。
この小説では七花と信奈がラブラブすることはあります……あれ? なんかおかしいな。まぁ、いいか