織田信奈の刀 ―私の兄は虚刀流―   作:怠惰暴食

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七花、勝家と戦う

「それは亡くなった兵達の無念を晴らすためか?」

 

 七花の言葉に勝家は頷く。

 

「いや、あたし自身のためだ。あたしがあの時、あの場所にいても何も変わらなかったかもしれない、転がっていた死体の中にあたしが増えていただけかもしれない。それでも、あの時、私は戦いたかったんだ! 犯人を倒したあんたと戦えば、ずっとあたしの中にあるもやもやが、消えそうな気がするんだ!!」

「わかった」

 

 白装束を着て必死な様子で七花に迫る勝家に、七花は戦う事を承諾した。

 

 それから、二十分後に服装を変えず何も持たない七花と、白装束から合戦場で着ていく鎧を着て、流石に今川との合戦前のため、木でできた槍を構えている勝家が訓練場の中で向かい合っていた。

 

 審判をする四名、信奈、犬千代、長秀、否定姫が四方に立ち、そこから結構離れた場所で尾張の兵達(信澄も入っている)が見物している。もっとも、戦う二人と二人を案じる審判四人と信澄に比べたら、尾張の兵達は娯楽感覚で見ている。

 

「勝負を始める前に聞くけど。七花、本当に武器は使わないの?」

 

 兄かどうかは関係なく七花の事を心配する信奈は七花に尋ねる。

 

「ああ」

「七花君は二十年近く島でほとんど道具を使ってないから、武器を持つと弱くなるのよ」

 

 信奈の言葉に七花は武器を持たない事を肯定し、否定姫は七花の言葉をフォローするように嘘をつく。虚刀流の事はまだ信奈達には秘密にするようだ。

 

 場所は変わって、見物席はないので見物場で立っている兵達は賭けを行おうとしていたが、信澄に止められていた。

 

「兄上の方はともかく、勝家は本気なんだ。ぼかぁ、あの二人が本気で戦うところを茶化してほしくないんだ」

 

 信澄の悲痛な面持ちで出される言葉により、尾張兵はそこから伝播するように真剣な顔で試合を見る事にした。しかし、彼らの頭の中で一つ引っかかっていた。

 

(兄上ってどういう事だ?)

 

 そんなこんなで見物人達が静かになったのを知ってか知らずか、信奈は試合を開始する合図をだすために右手を上に上げる。

 

「いざ、尋常に……はじめ」

 

 信奈が右手を振り下ろす。

 

 勝家が七花に向かって走りだそうとするとき、すでに七花は勝家の目と鼻の先まで来ていた。槍を振るには不利な距離、勝家は後ろに跳んだ。目の前の七花は何故か右足を軸に横回転していた。

 

 虚刀流【牡丹】、七花は腰の回転を乗せた左足の後方回し蹴りを繰り出した。勝家は後ろに跳びながら、その回し蹴りを槍の柄で防御した。もし、勝家が後ろに跳んでなければ、七花の行動に気付かず、牡丹を食らっていたかもしれない。いや、七花はそれを見越して牡丹を使ったのだろう。

 

「くっ」

 

 牡丹を受けた柄の箇所がみしりと嫌な音をたてながら、勝家は後ろに跳ぶ分よりも七花に少し遠くに飛ばされた。

 

 勝家が着地する直前には、すでに七花は勝家に追いついて次の技を繰り出そうとしていた。

 

 虚刀流七の奥義【落下狼藉】を繰り出し、着地したばかりの勝家はそれを槍の柄で防御するしかできなかった。槍の柄が牡丹を受けた場所から折れる。落花狼藉は槍を折っただけで勝家には当たらない。まあ七花が勝家に当てないように注意しただけなのだが。

 

 勝家が半分になった槍を突き刺そうとするまでに七花は足払いして、勝家に尻餅をつかせ、手刀を勝家の首に突きつけた。

 

「続けるか?」

「……降参だ」

 

 七花の圧倒的な勝利だった。

 

 勝家が弱い訳ではない。彼女は弱兵揃いの尾張の中では一番強いし、その事を尾張に住む者達は身をもって知っている。日本有数の際者達との戦闘経験を積んだ七花が規格外に強いだけである。

 

 勝負は一分も経過していない。

 

「しょ、勝負あり!! 勝者、七花!!」

 

 目の前の光景に少し呆然としながらも、信奈は勝負の結果を述べる。信奈の言葉に周囲から割れんばかりの大歓声が聞こえる。勝家に勝った事により、七花は尾張の兵達に認められるだろう。勝家との強さの次元が違うと尾張の兵達全員に見せつけ、知らしめる事になったのだから、しかし、戦った当人達はどうなのだろう。

 

「立てるか?」

「あ、ありがとう」

 

 尻餅をついたままの勝家に右手を伸ばす七花、勝家はその手を両手でつかまり、立ち上がった。勝家の頬は少し朱に染まっているが、多分、負けた事が恥ずかしいのだろう。まさか、自分より強い男が現れて、自分の強さを完膚なきまでに叩き潰した相手に惚れるなんてベタな事がある訳が……まあ、関係ないので割愛する。

 

「あーあ、負けちまった」

 

 勝家は堅苦しい言葉使いを崩し、吹っ切れた表情の勝家は魅力的だった。

 

「ちなみに姉ちゃんは俺より強く。そして体が弱かった」

「まだ強いのがいたなんて、あたしは井の中の蛙かよ。もっと、強くならないと」

「頑張れ。それとこれからよろしく」

「……よろしく」

 

 七花と握手をする勝家の頬はやっぱり染まっている。これは多分、照れくさいのだろう。

 

 その日の夜は信奈と信澄の仲直りと七花の事で宴会があった事は言うまでもない。

 




せっかく審判を四人に増やしたのに、全員空気ですね

最初に落花狼藉を使ったら一瞬で勝負がつきますね。多分、槍が折れるまでの衝撃を勝家さんが受ける時を思ったら、アニメの刀語・炎刀の落花狼藉を炎刀でガードした右衛門左衛門を思い出して、勝家さんがボロボロになるだろうなと思い、槍破壊をメインにしました。

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