いじめ?俺には関係無いな 作:超P
浩太「母さんは寂しいんだよ」
真也「…………は?」
浩太「最近、みんなで食事とかしてないだろ?だから母さん、ちょっと出来心で他の男に引っかかっちゃったんだよ」
真也「何言ってるの……?父さん?」
浩太「俺も最近、母さんと話してなかったし……もっと母さんの事を分かってあげるべきだったな。………よし、母さんをここに呼ぶか!」
達也(継母をここに呼ぶ。話を聞く限り咲も真也もその継母とはうまくいっていない。そして親父との夫婦仲も上手くいっていない。さらに家に他の義理とはいえ娘に手を出すようなタチの悪い男を呼ぶ男グセの悪さ。そんな継母を呼んで何になるんだ?)
達也(そして継母の事を名前ではなく母さんと呼ぶ、つまり二人に継母を母親のこととして認める事を強要してる形に近い。向こうは最初から子供嫌いだったはずだ)
達也(末期だ…………真也と咲じゃ手に負えない)
浩太「その男が母さんを騙してるんだよ……………うん、その男が悪いんだ」
不気味な程の父のその笑顔は二人には害しか及ばさないだろう。
達也(それだけじゃない。継母に依存し、相手の男に全ての罪をなすりつけている。つまり親父の中では)
真也「待ってよ父さん、じゃあ父さんはあの人は悪くないって思ってるの?」
浩太「何言ってるんだ真也?悪いも何も」
達也・浩太『「母さんは騙されてるだけだ」』
咲「………………」
咲は何も言えなかった。
考えが甘かった、咲の中ではもう夫婦仲は冷めきっているのだと思っていた。
だが実際はもっと悲惨なものだ。
継母は最初からこの人の事を愛してなどいなかった。
この人が勝手に依存していただけ。
こんな簡単で、可哀想な事実だったのだ。
真也「父さん………」
真也は達也が家を出てからというもの、毎日父親に対して怒りを感じていた。
なぜ兄を追い詰めたのかと、なぜ自分達だけ愛したのかと。
けれど今、真也は父親に怒りを感じていない。
ただ哀れに思っていた。この人はおそらく誰からも愛されていない。
愛されているように見えていただけ。
こんなピエロのような父親がいるのだろうか。
達也「…………………………まぁ、あれだ」
浩太「…………」
達也「俺の部屋空いてる?」
咲「!」
真也「!」
如月家
真也「兄さん!ここが僕たちの部屋だよ!」
咲「こっちがわたしの部屋だよ!」
真也「こっちが僕の部屋!と言ってもカーテンで仕切ってるだけなんだけどね!」
達也「ちょ、うるさ」
長年の別居生活がようやく終わったからなのか、咲と真也は高いテンションで達也に部屋を案内する。だが
ドンッ!
咲・真也「「ひっ」」
唐突に隣の部屋から壁を殴るような音が聞こえる。
と言ってもうるさいなんて程度ではなく、壁をぶち破るような大きな音だ。
達也「……………ん?この家ってアパートじゃないよな?」
咲「うん。………隣はあの人の部屋」
達也「親父はどこにいんの?」
真也「……………車」
達也「………つまりあれか?親父は今奥さんの浮気相手に家を譲っていて、自分は車の中で生活していると?」
咲「う、うん。朝とか、あの人たちが起きてない時に家に入ってきて、支度とかしてる……」
達也「くだらねーなぁ………情けないねぇ」
達也「………………いまその母さんの相手はいんのかね?」
咲「多分、今叩いた人………」
達也「ふーん………」スタスタスタ
今、達也はほんの少しだけ怒りを感じていた。
自分が責められるのは慣れている。
自分に対する攻撃は精神的でも物理的でも、耐えることさえできればなんとかなる。
だが自分以外の人間となると話は別だ。
人間は脆い。
自分のように精神がおかしい人間でもなければ、ちょっとした攻撃でも簡単に崩れてしまう。
精神が不安定な父親、精神が未熟な妹、精神が未熟な弟、家族の生活を脅かすような輩はどうにも気に入らない。
達也「失礼するぞー」ガチャ
翔「んだテメェ⁉︎」ガバッ
継母「ちょっと何入ってるの⁉︎」
翔「うっわ……取り込み中かよ。……………にしても」
かつて自分が使っていた部屋とは思えないくらいに変わり果てている。
壁には下品な雑誌の切り抜きや下劣な写真、くだらない落書きに殴った跡。
そういう事に使う道具や避妊具は散乱し、ゴミも手伝って足の踏み場がない。
香水と整髪料が混ざったような鼻を劈く強烈な刺激臭で部屋が満たされていて気分が悪くなってくる空気。
ろくに手入れもしてない化粧品や洋服、そして貴金属。
どうやら本当にロクでもない使い方をしていたようだ。
達也「単刀直入に言う。出てってくれ」(ん?この男………あ)
翔「あぁ⁉︎テメェ誰だぁ?」
継母「ちょっとこいつ、………前に出てったガキじゃない」
翔「へぇ………おいガキ、殴られたくなきゃ俺の家から出てきな」パキポキ
達也「俺の家………ね」
翔「オラあっ!」ドスッ
達也(メリケンか………痛いなこりゃ)
男は容赦なしに全力で達也の顔に拳を叩き込む。
まるで小学生が後の事を考えないで殴るようにメッタメタに。
「オラオラァ!」ズガッバキッドガッグキッ!
おそらくホスト崩れか何かをしているのだろう。
香水臭い服、女受けする細い筋肉質の身体、そして気に入らん髪型、喧嘩慣れした拳。
それにしてとしてもメリケンで中坊の顔を殴打するのは酷過ぎやしないだろうか?
俺じゃなかったら軽く気絶してるな。
ま、気絶したほうが楽かもしれんが。
翔「はぁはぁ」
達也「…………ふぅ」(タバコなんて吸ってるからすぐに息が上がる。アルコールの匂い、酒もかなり飲んでるな。しかもこれは………流石にアウトだなこれ)
翔「参ったかよ⁉︎あぁ⁉︎」
達也(ん?………叫べばビビると思ってんのか?)
継母「翔くんかっこいい!」
達也(新しい母さんはまだ30にもなってねぇってのに………もうホストに入れ込んでんのかよ)
翔「でてけオラッ!」
達也「いやそういうわけにもいかないんでね」むくり
達也は何事もなかったかのように起き上がる。
それもそのはず、度重なる拷問の末、達也は自分の体の痛覚を遮断できるようになったのだ。
翔「ウォッ⁉︎な、なんだよお前!」
達也「アンタさ?警察呼ばれたらどうなると思う?」
継母「はぁ?何言ってんの?意味わかんないんだけど!」
達也「浮気してて?男連れ込んで?子供殴って?それで?挙句の果てに未成年と寝るとか…………何年刑務所での生活を望んでんの?」
継母「そ、それは」
達也「アンタもだぜ?アンタ………………今17だろ?先輩」
翔「……………お前、『達也』か」
達也は「気づくの遅えよ」
この翔という男、実は達也の元先輩である。
というのも既に女絡みの揉め事を起こして退学したのだ。
中学生の女の子を妊娠させ、その上中絶できなくなるほど育つまでその事を黙っていた。
その他にも色々やんちゃを続け、地方のホストクラブで拾われたのだ。
達也「一年間面倒見てくれたじゃねぇか」
翔「あれは」
達也「あーいいから、別にアンタの飲酒喫煙を注意とかする気はないし、危ない薬も俺は見てねぇから」
達也は 「それと…玉木先輩は一人で育てるってさ。たまに手紙来るけどな?相談とか」
翔「…………」
達也「……………まだいんの?」
翔「……冷めた、帰るわ」
継母「待ってよ翔くん!」
真也・咲の部屋
咲「………お兄ちゃん!」
真也「兄さん……!こんなに傷が!」
達也「救急箱ある?」
咲「待ってて!すぐ取ってくるから!」たったった
真也「…………あの人は?」
達也「男追って出て行った」(そのうち金目当てにまた来るだろうけどよ)
真也「………聞いてたよ」
達也「そっか」
真也「話してよ………」
達也「………………去年さ、いじめられてたんだわ」
真也「知ってるよ…………クラスが違ったからあんまりよくは知らないけど」
達也「あの先輩かなりヤバイ感じの連中とつるんでてな………ま、薬とか出てきた辺りからビビってあんま近寄んなかったけど」
真也「そんな怖い人が………」
達也「そんでさ、偶に呼び出されて色々とやらされてたわけよ」
真也「………どんなのを?」
達也「色々だな。3階から飛び降りたり、吸い殻とウォッカが混ざったジョッキを一気飲みさせられたり、トイレの個室で肺活量計ったこともある」
真也「…………………すごいね」
達也「まだいいほうだったよ。流石にバイクに引きずられた時は死ぬかと思った」
真也「うわぁ…………」
達也「あとあれだ、本を破られた時に一度ショックで先輩がたの話を聞き逃しちゃってな?その時にお仕置きで身体を固定したまま車に腕を繋がれて引っ張られた」
真也「………………それどうなったの?」
達也「肘と肩の関節が外れた時に悲鳴で警官が来た」
真也「………………だからそんな傷があるんだ」
達也「見てみる?一応手術して消したんだけどな………」
真也「……………辛くない?」
達也「何も辛くない」
おまえらがいるからな