神を斬ろうとしたらいつの間にか佐々木小次郎。   作:天城黒猫

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骨が折れるし、少しスランプ気味だったから、遅れた……



番外編ーZEROー3話目

「────私達は俄然有利だ」

 

ケイネスは、冬木のホテルのスイートルームで眼下にあるネオンによって、彩られて冬木の街を見下ろして、そう微笑む。

今のケイネスの機嫌はいい。サーヴァント同士の戦いは、己のサーヴァントであるランサー(クー・フーリン)が、セイバーに負傷されるという結果になったが、あちらのセイバーも『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』によって、治癒不可能の傷を肩に負わせた。

 

────だが、そんなものは微々たるものだ。ケイネスの機嫌がいい最大の理由。それは魔術師殺しという、魔術師の癖に銃という科学を使用する魔術師の面汚しに誅罰を加えられたということだ。

ホテルの『豪華そうなものだけ並べた』という、貴族のケイネスにとっては、情け無い部屋も大して気にならない。それ程に機嫌が良いのだ。

このまま鼻歌でも歌いそうな程に、口は微笑んでいる。彼の婚約者であるソラウも余りに機嫌が良いので、呆れ顔だ。

 

────そんなケイネスに水を差す存在があった。

 

部屋に電話のコールが鳴り響いた。

 

「何事だ?」

 

ケイネスはそう呟いて、電話の受話器を手に取る。魔術師であるケイネスにとって、電話という現代機器は余り使いたくないのだが、そうは言っていられないだろう。

 

「お客様! すぐにお逃げください!! 怪物が────アギャアアァァァ!?…………」

 

受話器を耳に当てた途端、非常に切迫した声が聞こえてきた。そして、ホテルの従業員の悲鳴を最後に、人の声は途絶えた。ケイネスの耳に届くのは、何か肉を咀嚼するような音と、ナニカが這いずり回るような音だけだった。

ケイネスは受話器を置いて、ソラウの方を向く。

 

「どうやら、敵方の襲撃のようだ。恐らく下の階層は全滅だろう」

「大丈夫なの?」

 

ソラウが不安げに問いかけるが、ケイネスは絶対的な自信を持っている。と言わんばかりに不敵に微笑む。

 

「勿論だ。この階層を丸ごと買い取って、既に一部の空間を異界化し、猟犬代わりの悪霊を放っている。それに魔力基も幾つか置いてあるから、魔力切れの問題も心配しなくていい。それに────ランサー」

 

ケイネスは己が何よりも自信がある理由、空間の異界化よりも、悪霊よりも、それらを遥かに凌駕する絶対的な力(サーヴァント)を呼ぶ。

 

「おうとも、いつでも行けるぜ」

 

その男は、霊体化を解いて現れた。紅い槍を持ち、その目はギラギラと輝いて、これから戦うのが楽しみで仕方がないといっているようだ。

クラスはランサー、真名をケルト神話にて、最強と呼ばれる男、クー・フーリンである。

 

「この、私が従えているランサーもいる。何ら問題は無いさ」

「────マスター、早速おいでなすった様だぜ」

 

ランサーが槍を構えてそう言った矢先、ソレは扉を打ち破って現れた。

 

「ヒッ」

 

ソラウは思わず後ずさる。それも仕方がないだろう。現れたソレは余りにも不気味で、グロステクだったのだから。

蛸や人手を思わせるような外見。だが、色は青白く、無数の触手や牙が生えており、体の中心には鮫のような口があった。

 

「恐らくは召喚魔の類だな、だとすると敵はキャスターか。────ランサー、やれ!」

「応ッ!」

 

ケイネスの予想は当たっていた。ソレは確かにキャスターが召喚した海魔である。

ケイネスが指示を出した矢先、ランサーはまるで部屋の中を飛ぶように、後からゾロゾロと出てくる海魔の群れに突撃した。

そして、まるで子供が積み重ねた積み木を壊す様に、いとも容易く海魔の群れは粉々にミンチにされた。セイバーによってつけられた傷も、ケイネスの治癒により、消えている。痛みも感じない、絶好調だ。

 

「こんなモンか」

 

ランサーは槍に付いた海魔の体液を振り払って、そう言う。

 

「ランサー! 油断するな!」

「────な」

 

ランサーは驚愕する。今しがた蹴散らした海魔の体から、新たな海魔が姿を現したのだ。しかも今度は倍の数になって。

それはやられた海魔の体を、新たな召喚の触媒として、新たな海魔を生み出したのだ。海魔を屠る程、大量の海魔が召喚される。それを証明するように、ランサーが屠った新たな海魔から、また新たな海魔が現れた。

 

「クソッタレが!」

 

ランサーはそう叫びながら、槍を振るう。そして、海魔から新たな海魔が出現する。────それの繰り返しだった。しかも、海魔の数が倍ずつ、ねずみ算方式に増えていく。

 

「だ、らあッ!!」

 

ランサーは槍を振るう。振るう。振るう。振るう。そして、粉々になる側から、新たに増える海魔。海魔。海魔。────キリがない。

ランサーが屠った海魔の数は、既に100を越した。それでもなお、海魔の数は尽きない。寧ろ増殖している。

 

「ランサー! 部屋から押し出せ!」

「了解ッ!」

 

ケイネスの指示により、ランサーは部屋に入った海魔を、傷つけることはなく槍で押し出す。

 

「『霊月髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)』」

 

ケイネスは、己が最も信頼する最高傑作である魔術礼装、霊月髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を起動する。

 

「『壁になれ(wall)』!」

 

ケイネスの指示により、今まで液状だった水銀は、海魔に打ち破られた扉にピッタリとはまって、硬化する。水銀の壁。これにより、海魔の侵入は途絶えた。

 

「これで一安心……────な!?」

 

ケイネスはため息をついて、汗を拭う仕草をする。だが、すぐに焦り始める。扉は水銀により、海魔の侵入を塞いだ。それは確かだ。だが、ヒビが入った。扉にではない、その周囲の壁にだ。数本のヒビが、少しずつ、少しずつ広がって行き、────遂に壁は粉々に砕け散った。

そして入ってくるのは、勿論大量の海魔。その圧倒的な物量を持って、壁を打ち破ったのだ。

だが、それだけではなかった。冬木市を一望できる巨大な窓ガラス。そのガラスを割って外からも、壁を伝ってきた海魔が侵入してきた。

前にも海魔。後ろにも海魔。その合計は100を軽く凌駕するだろう。

まさに最悪の状況だ。いくらランサーが現代兵器を圧倒する戦力を持っているとはいえ、この大量の海魔には太刀打ちできないだろう。

 

────数こそが力。

 

海魔達は、それを実行していた。

 

「上等だ、ゴラァ!!」

「ソラウ、私の背に!」

「はい!」

 

ランサーとケイネスとソラウは一箇所に固まる。ランサーとケイネスの背後には、戦う事のできないソラウがいた。

 

「ランサー、全て殲滅せよ! 窓の外に落とせ!」

「言われなくてもそのつもりだ!!」

 

ランサーは、向かってくる海魔を槍で粉々にすることはせず、窓の外めがけて弾き飛ばす。

 

「『(hammer)』!」

 

ケイネスもまた、水銀の形を槌などの打撃武器にして、窓の外に弾き飛ばす。

海魔は倒しても、そこから新たに召喚されるだけだ。ならどうすればいい?

────倒さなければいい。

それが彼らが出した答え。確かにそれは、有効だ。生きているならば、触媒にできない。

この部屋から出るという手もあるが、それはほぼ不可能だろう。ここはビルの最上階、ケイネスの礼装を使用して飛び降りる事もできるが、外には大量の野次馬がいるだろう。魔術師であるケイネスにとっては、飛び降りて魔術を一般人に見せるというのは、許しがたい。中から脱出しようにも、この状況なら、廊下にも海魔がひしめいているだろう。────この部屋で海魔の数がなくなるまで戦わなければならない。

海魔の数が少なくなれば、脱出の道筋は見えるだろう。だが、それまでがとても長く、遠い。

 

「グアッ!?」

「マスター!」

「ケイネス!」

 

ケイネスは悲鳴をあげる。ケイネスの右腕と右足は、迫り来る海魔の一匹によって、噛みちぎられた。

心配したランサーとソラウが叫ぶが、ランサーは動けない。倒れたケイネスの分まで、海魔を対象しなければならないのだ。

 

「…………………………」

「大丈夫? ケイネス」

 

ソラウはケイネスの背を心配そうにさする。ケイネスはそんなソラウの顔を見て、次に、大量の海魔を見て、最後に────令呪を見た。

 

ケイネスはエリート、つまり勝ち組だった。その人生に挫折というものはなく、勝ち続けた。時計塔のロードの称号も手に入れたし、ソラウという美人な婚約者も手に入れた。

そして、聖杯戦争というものがあると聞き、それに参加した。ケイネスは今まで通りに、勝つだろうと思っていた。

────だが、実際はどうだ。こうして海魔に腕と足を食いちぎられ、部様に跪いている。

そんな最中、ケイネスが思った事。それは屈辱ではなく、今までにない感情。────死。

このままでは、ケイネスも、ソラウもランサーも死ぬだろう。それは許し難い。

 

「ソラウ」

「何!? ケイネス?」

「────好きだった」

「な────」

 

ケイネスは、ソラウの額に接吻し、己の右手を掲げる。そこには、サーヴァントへの絶対命令権である令呪があった。

 

「ランサーへ命じる。────ソラウを安全なところまで連れて行け。重ねて命じる。────ソラウを”護れ”」

「馬鹿な────」

 

ランサーはケイネスの令呪の指示により、ソラウの体を担いでビルから、脱出しようとする。

 

「テメエ、格好つけてんじゃねえよ!! テメエも来い!」

 

ランサーはケイネスへと手を伸ばすが、ケイネスは首を振るだけだ。

 

「いいや、私はここで死ぬだろう。血が足りないんだ、もってあと数秒といったところか……無様だなぁ、この私がこの様な怪物に食われて死ぬのだから。────ソラウ、この後教会に行って、脱落の指示を届けろ。ランサーはソラウに譲渡した令呪で自害させたまえ」

「ケイネス、貴方は────」

 

ランサーは、令呪の力に抗えなく、ソラウを抱えてビルの壁を”走って”行く。着地するときにケイネスからの”ソラウを護れ”という命令により、着地のショックは与えない。そしてそのまま、ホテルから海魔の手が届かない”安全”な場所へと、ソラウを抱えて向かう。

 

「ああ、責めて────」

 

ケイネスは最後に未練を残し、水銀の刃を持って己の体を粉々に裂いて、自害した。あの様な醜い海魔共に己の体を喰らわせるのは、プライドが許せなかったのだ。

 

 

 

 

 

────冬木の道を走る存在がいた。

それは速かった。車よりも、風よりも速かった。人に見つかることなく、霊体化して、気配遮断を発動して走っている。

その正体は、アサシン(佐々木小次郎)だ。

アサシンは、魔術の隠蔽も考慮せずに、あるホテルに攻撃を加えているという連絡が言峰から届き、様子を見るために移動していたのだ。

 

「これは────」

 

そして見たのは、ビルの壁面にひっついている大量の海魔。ビルのあちこちから煙が上がっており、窓の幾つかには血飛沫が付着していた。

周りには野次馬がおり、何事だと、指を指すものもいれば、カメラでその光景を撮るものもいた。

その光景をアサシンの視覚を通じて見ていた言峰から、あの海魔を全て殲滅しろ。という指示が入った。

アサシンとしても、それは賛成だった。あの海魔が町にでれば、ホテルだけではなく、被害は更に広がるだろう。

それは言峰も、アサシンも望むものではなかった。

アサシンは早速ホテルの壁を登る。

そして、そのまま屋上にたどり着き、そこから更に跳躍して、ビルを見下ろす。

 

「────野次馬が巻き揉まれることはないだろうな」

 

野次馬は大量にいるが、皆んなホテルから一定の距離を取っている。海魔が余りにも不気味すぎるからだろう。

中にも生存者の気配は感じられない。

 

「では────」

 

アサシンは、己の刀を実体化させて、構えを撮る。その構えは異様だった。アサシンの剣技(スキル)は斬撃に集約されている。────だが、一つだけ斬撃とは別の型────『突き』がある。

右手で刀の塚を持ち、左手は刀の峰に添えている。

 

「『牙突』」

 

そして繰り出されるは勿論、突きだ。

────だが、それは突きの範囲を超えていた。余りにも早く、正確に穿たれたその突きは、周りの空気を斬り裂いて、無酸素状態を生み出し、そこから更に衝撃波(ソニックムーブ)と、風の刃(カマイタチ)を生み出した。

それらは全て一箇所に収束され────一つの巨大な槍となった。

その槍は、ビルの屋上をたちまち貫いて、そのままビルを真っ直ぐに貫いて貫通した。────だが、それで終わらない。槍が消えた後は、無酸素状態だった空間に酸素が流れ込み、巨大な竜巻を作り出して海魔を粉々────塵にした。

 

「少々派手になったが……こんなものか」

 

アサシンは、更地となったかつてホテルがあった場所に着地して、そう呟く。

海魔達は、粉々を超えた塵に加工された為、死んだものを触媒にして召喚する事は叶わなかった。

後は教会が周りの一般人に催眠なりなんなりかけて、隠蔽するだろう────とアサシンはその場を去る。

ホテル一つを潰したことに罪悪感はあるが、やむを得なかった。

アサシンは完全に更地となったホテルを後にし、この騒動の原因────恐らくはキャスターだろう。それを倒そうと、その場を去る。この戦争にて一般人を巻き込む。それはアサシンにとって許しがたいことだった。

 

 

 

 

「ケイネス……」

 

ソラウとランサーは、ケイネスの命令によって安全な場所である、冬木の郊外にある丘の上まで移動していた。

崩れゆくホテルを見てソラウはそう呟く。

 

「ねえ、ランサー……」

 

ソラウはケイネスにあらかじめ譲渡されていた令呪を掲げる。ケイネスからは、ランサーを自害させて、この聖杯戦争から離脱せよ。と言われていたが────。

 

「私は聖杯戦争から離脱する気はありません」

「へえ? 良いのか?」

 

ランサーがこの聖杯戦争に呼ばれた理由。それは強者と戦いたい。そいう願いだ、だが、自害させられるならば、やむを得ない。今回は運がなかった。と覚悟していたが、ソラウはそんな気は無いようだ。

 

「ええ、私はケイネスを生き返らせるわ。聖杯はそれも可能なんでしょう?」

「確かにそれは可能だろうが……嬢ちゃんは嫌っていたはずだろう?」

「ええ、確かにさっきまではそうね、けど、なんて言うのかしら、あの『好きだった』に惹かれちゃったみたい」

「は────、そりゃあいい」

「ランサー、貴方に願います」

 

今までは余り良い印象ではなかったが、今回の出来事にて、惚れてしまったのだ。それは吊り橋効果と呼ばれるものの一種なのかもしれない。だが、それを指摘するには無粋だろう。

 

「聖杯を、ケイネスを生き返らせる為に取ってください」

「────その願い、この俺が承った」

 




ノッブ「ケイネスかっけええええええ!!」
おき太「ですねえ、自害するのがまた」
ノッブ「それよりも、牙突! アレなんじゃ! 最早元ネタの原型無いぞ!?」
おき太「確かにそうですね……なんでもエクスカリバーよりは少し威力が低いとか、なんとか」
ノッブ「なにぃ!? あのエクスカリバーと同等のエアよりも少し威力が低いじゃと!?」
おき太「エクスカリバーよりエアの方が凄そうな罠!」
ノッブ「是非も無し! 次回更新は再来週には行う予定じゃ!」

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