【習作】キヨシ投獄回避ルート   作:PBR

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第14話 ケイゾク

 

 情報の授業中に起こったガクトのクソ漏らしというハプニング。それ自体は故意に行われたという事で、キヨシは既に気にしていなかったが、ガクトのクソ漏らしよりもシンゴの去り際の言葉の方が気になっていた。

 

(何故だ。アイツらはどこで俺と花さんが付き合っていると誤解した。一応、花さんには馬鹿共が俺と花さんが付き合っていると誤解しているとメールしておいたが、今のところ返信は無い。まぁ、アイツらの元に直接行ってシメてくれていれば誤解も解けて楽なんだが……)

 

 放課後、ガーデニング同好会で管理している花壇に水をやりながら、キヨシは自分のこれまでの行動で男子がどこを目撃していたかを確認する。

 彼らがキヨシと花が会っている場面を見たのは三回。一度目は花がおしっこしたとき、二度目は中庭でアイスを食べたとき、三度目は先日のドーナツを食べていたときだ。

 勘違いされた可能性が高いのは二度目のアイスを食べたときだろう。男子らの立場に立って考えたとき、自分の友人が可愛い女子と二人でアイスを食べていれば付き合っているのかと邪推する。

 そして、そのときのイメージを持ったまま三度目のドーナツを食べる姿を見れば、やっぱり付き合っていたんだと確信を持つ。

 思い込みの激しい彼らならば、誤解のフィルターが掛かった状態で見てくるので、さらに誤解を加速させてきそうですらあった。

 

(誤解に至った流れは分かった。けど、流石に俺が花さんを襲うのはないだろ。俺が好きなのは千代ちゃんで、花さんも確かに可愛いとは思うけど、そういう恋愛の対象としては見た事がなかったし。いや、可愛いけどね。うん、そこは同意するけど)

 

 このキヨシ、意外とノリノリである。いくらなんでも花を襲ったという誤解は解いておきたいが、友達から「オマエら付き合ってるんだろ、正直にいえよー」と言われるのは結構気分がいい。

 そんな事を言われるという事は、自身には彼女持ちのオーラがあるという事であり、まわりからカップルと勘違いされる様な仲の良さということ。

 次に花に会ったときに殺されるかもしれない恐怖はあるが、シンゴ達が勘違いしていると伝えた事で、上手くいけば怒りの矛先は向こうに行く。

 他の男子四人をシメた後ならば彼女も少しは気分が晴れているはずなので、接触するならそのタイミングだとキヨシは考えていた。

 そうして、かなりの打算を含んで友達を生贄に捧げて花との関係修復をキヨシが目論んでいたとき、植物に水を与えている彼に近付く一つの影があった。

 

「美しい植物たち……だね!」

「あ、理事長。こんにちは」

 

 やってきたのは先日会ったばかりの理事長。何やらクッキーの缶らしき物を持って現れたことで、話があるのだろうかとキヨシは水を止める。

 濡れた手を拭き、待たせていたことで頭を下げると、理事長は気にしていないと話し始めた。

 

「少し話をする時間はある……かね?」

「ええ、いまは大丈夫ですけど」

「それは良かった。実は君に頼みたい事がある」

 

 言いながら理事長は大切そうに持っていた銀色の缶を差し出して来た。缶の蓋にはサインペンで『我が愛しの尻たち』と書かれている。

 彼が尻に関して造詣が深く、さらに並々ならぬこだわりを持っている事は先日理解した。

 そこから推測するにこの缶の中身は、

 

「り、理事長、女性の尻を削って保存したんですかっ!? 普通に犯罪ですよ!」

 

 彼の尻コレクションに他ならない。

 いくら尻が好きだからといって、好みの尻を保管しておくなど正気の沙汰ではない。

 触れて指紋が付けば共犯者にされてしまう。キヨシは全力で距離をあけて、足元にあった園芸用スコップを手に取り近付けば刺すぞという意思表示を見せる。

 急に生徒から犯罪者呼ばわりされ、さらに武器を向けられた理事長は焦るが、とりあえず誤解を解くため話を聞いてもらおうとする。

 

「ま、待ちたまえ。君は大いに誤解してい……る!」

「誤解ってなんですか! 警察に調べられてもいいように、犯罪の証拠を男子寮に置きに来たんじゃないんですか?」

「違う。尻はその人物についているからこそ魅力的なのだ。尻のみを愛するは真の尻好きにあらず。素敵なヒップとの出会いを経験した君ならば分かってくれるはずだ……ろう!」

 

 いくら尻好きでもそんな猟奇的な趣味はしていない。むしろ、持ち主ごと愛するのが真の尻好きであると理事長は熱く語る。

 そして、君なら理解出来るはずだと言われ、キヨシは脳内メモリーから花の桃尻を引き出し、あれが別人の尻であったらと想像してみた。

 思い浮かべるのは学園で出会った女子たち。千代、その友人のマユミ、裏生徒会長の万里、副会長の芽衣子、表生徒会長のケイト、副会長のリサ、BL好きのみつ子。どの女子もそれぞれの魅力に溢れているのは断言できた。もし、花の桃尻が彼女たちについていればどうだろうか。

 千代、割とありだ。

 マユミ、まぁまぁありだ。

 万里、ちょっと違う。

 芽衣子、全然違う。

 ケイト、なんか違う。

 リサ、違う。

 みつ子、少し違う。

 脳内審議した結果、一年生である千代とマユミはありのような気がしたが、花本人についている状態と比べれば魅力が僅かに損なわれているように思えた。

 本人と尻は切っても切り離せない。本人あっての尻、尻あっての本人ということをキヨシは改めて理解した。

 

「……確かに、別人の尻だったらあれほど衝撃を受けなかったかもしれません。分かりました。理事長を信じます」

「ありがとう。では、改めて説明させてくれたまえ」

 

 キヨシがスコップを引っ込めれば、理事長は安堵の息を吐いて笑顔を浮かべた。

 説明するというのでキヨシはアウトドアチェアを持って来て座り、彼が膝の上に置いた缶に視線を送りながら話を聞く。

 

「これは私が出会ってきた素敵なヒップたちとの掛け替えのない写真(メモリー)。けれど、これを万里に見られてしまったの……だ」

「ああ、それは父親として最低ですね」

「うぐっ……ま、まぁ、その通りだ。だからこそ、私は教育者として、父親として、そして男としてのケジメで封印しようと思った」

 

 父親が女性の尻の写真を持っている姿など見たくはないだろう。それが年頃の娘となれば、余計に複雑で嫌悪感すら抱いて父親を軽蔑するに違いない。

 千代ならば少し怒る程度だったかもしれないが、見られたのが万里なら彼女は絶対に父親を赦さない。相手のことを深く知らないキヨシですらそれだけは理解出来た。

 理事長も自分の娘の性格は分かっているだろう。だからこそ、しっかりと反省して一度は手放そうとした。

 

「しかし、埋めただけでは再び掘り起こしてしまう。意志の弱い人間だと笑ってくれて構わない。だが、これは私にとって魂の一部でもあるの……だ!」

 

 魂というより欲望の塊である。そうキヨシは思ったがこの場面でそんな事をいえば台無しだ。

 故に、相手のシリアスな雰囲気に合わせて『決め顔:哀愁モード』を装備したまま、理事長の話を黙って聞いた。

 

「私は再び手にしてから考えた。どうすればちゃんと封印出来るかを。そして、思い付いたのは、キヨシ君、君という信頼出来る人物に預かってもらう事だった」

 

 理事長の様な立場ある大人から信頼されているのは嬉しい。男の少ないこの学園の中で、そんな絆を持てた事は確かな財産だ。

 けれど、けれどである。いくらそんな人物が信頼して自分を選んだと言っても、女性の尻の写真を預かってくれという不純な理由では、信頼への感動も八割減だった。

 どうせ男子寮は一人で使っているので預かることは問題ない。キヨシとしては頼みを聞いてもいいとは思ったが、どうせならもっとまともな理由で頼って欲しかったと思うのも無理はない。

 決め顔の仮面を被った少年が心の中でそんな事を考えていたとき、話を続けていた理事長は、不安げな表情で尋ねかけてきた。

 

「封印は戒めである。だから、どうか赦される日が来るまで預かっては貰えないだろう……か?」

「別にいいですよ。湿気取りを入れて、ビニールにでも包んでしまっておきます」

「なんと、即決とはサンク……ス! では、預かってもらう君には特別に私の愛しの尻たちを紹介しておこう。これは86年ブラジルで出会った……」

 

 この話をすぐに終えて水やりを再開したい。そう思ってキヨシは即答したというのに、理事長は写真を取り出して一枚ずつ丁寧に思い出を語った。

 写真に写る尻はどれも美しく魅力的な尻である。だが、理事長は先ほど言っていたはずだ。尻のみを愛するは真の尻好きにあらずと。

 理事長が見せた写真には女性の身体がデカデカと写っていて、くびれた腰に形のいい大きな尻とそこからすらっと伸びた足から、写っている女性がスタイル抜群なことは理解出来る。

 しかし、肝心の顔が写っていなければ、胸好きと尻好きの間で揺れている少年にとってどの写真も似たような物にしか見えなかった。

 

(……花さんのお尻の方がいいや)

 

 説明を聞きながら途中で死んだような目をしたキヨシは、理事長が南米美女の尻について熱く語ったことで、自分は花の桃尻のような柔らかそうで可愛いお尻が好みだと気付く事が出来た。

 まだまだ心は揺れているが、とりあえず好みの尻を理解出来たことだけは理事長に感謝するのだった。

 

◇◇◇

 

 ガクトがクソを漏らした日の夜、キヨシが理事長との間に絆を芽生えさせたことである一つの危機が回避されていたとは知らぬ男子たちは、なんとかウンコMP3を手に入れられた事で脱獄が上手く行きそうだと夕食中に話していた。

 

「多くの犠牲を払いはしたものの、なんとか無事に脱獄を迎えられそうでゴザル」

「ゴホッ……おい、カレー食ってるときにその話はすんなクソメガネ。せっかくの飯が不味くなるだろうが」

「ジョー君が自分で言っちゃってるよ」

「あ、わりぃ」

 

 娯楽が少なく食事が数少ない楽しみであるが故に、この監獄内においては『ウンコ食ってるときにカレーの話すんな』という定番のギャグすらも万死に値する悪行である。

 計画が上手く進んでいることを喜ぶのはいいが、なるべく今日の忌まわしい事件には触れずに話せとジョーが言えば、ガクトは申し訳なさそうに言葉を選びながら話を続けた。

 

「実は今日の刑務作業中、トイレの裏から排水溝を通ってゴミ置き場まで行けることが分かったんでゴザル」

「えー、それは大発見だね! トイレからゴミ置き場の穴までどうやって行くのか気になってたけど、そのルートなら副会長に気付かれずに行けるね」

 

 陸上部の地区大会当日、脱走用の穴のあるゴミ置き場の方へ行く上手い方法がまだ思い付いていなかった。

 副会長にばれれば終わりで、どうにか見つからずに移動する方法はないかと考えていたとき、トイレの窓から排水溝が見えた。

 排水溝は学校中に張り巡らされており、そこを通れば気付かれずにゴミ置き場に到着が可能だと既に確認してある。

 これで後は、出来る限り匍匐前進での移動速度をあげて、ときどき駅までのルートを外に出て確認して当日まで過ごすだけだ。

 作戦が具体性帯び決行日が近付きつつあることで、ガクトがやる気を燃やしていれば、今まで黙っていたシンゴが急に口を開いた。

 

「ガクト、実はその事なんだがよ。当日、脱獄しなくてよくなったぜ」

「ど、どういう事でゴザル? まさか、今頃になって止めろというのでゴザルか?」

「ちげーよ。実はオマエが漏らして風呂に行ったときに、キヨシから着替えを持って行ってやれって頼まれたんだ。そんとき、チャンスだと思って伝えておいてやったのよ」

 

 もしや、ここに来て協力をやめるというのか。ガクトが心配そうに尋ねれば、シンゴは安心しろと笑って事情を話した。

 元々、ガクトもキヨシに伝えることを第一目標としていたが、それが不可能だと思って身を削っただけに、思わぬ形でチャンスが生まれたと聞いて大いに喜ぶ。

 

「ま、誠でゴザルか! それは朗報でゴザル。アリバイ工作の準備がまさかそのようなチャンスを作り出すとは思ってもゴザらんかった」

「ははっ、まぁ、キヨシも当日に秋葉でデジカメ買う予定だったみたいでさ。ついでだからってすぐOKしてくれたよ」

 

 頼んだところキヨシは簡単にOKだと言ってくれた。それを聞いたガクトは感動して目に涙を滲ませ、鼻をすすりながら袖で目を拭うと、三人の方へ向き直り頭を下げた。

 

「シンゴ殿、誠に感謝いたすでゴザル。これまで協力してくれたジョー殿とアンドレ殿にも心からの感謝を。出獄すれば皆とキヨシ殿にもお礼をせねばならぬでゴザルな」

 

 仲間に大きな借りが出来た。これはちょっとやそっとじゃ返せないとガクトは困ったように笑いながらカレーを口に運ぶ。

 最初から美味しかったが、今は余計に美味しく感じておかわり出来ないのが残念だった。

 けれど、脱獄する必要がなくなったのなら、あと少しで出獄して好きな物を食べられる様になる。外に出れば最初に食べるのはカレーにしようとガクトは心に決め、改めてこんなにも上手くいくとは思わなかったと話す。

 

「しかし、危険を冒さず関羽雲長&赤兎馬フィギュアを手に入れる事が出来ようとは、脱獄すべきか悩んでいたときには思いもしなかったでゴザル」

「……え?」

 

 ガクトの話を聞いていたとき、シンゴが目を見開き食事の手を止めた。

 いま、何かおかしな単語が混じっていなかっただろうか。そんな風に思いながら、シンゴは隣に座るガクトに改めて聞き直す。

 

「ガ、ガクト、今オマエ何て言った?」

「ん? いや、悩んでいたときにはこうなるとは思っていなかったと」

「ちげーよ! フィギュアの名前だよ!」

「それは関羽雲長&赤兎馬でゴザルよ。三国志を代表する豪傑でゴザル。シンゴ殿もちゃんと伝えてくれたのでゴザロウ?」

 

 自分の好きな武将の名を口にするガクトはとても楽しそうだ。それだけに、シンゴは相手の表情が曇る事を確信して、とても気まずそうに残念な知らせを伝えた。

 

「わ、悪いガクト。さっきの話は忘れてくれ。オレ、あんま覚えてなくてウンピョウのフィギュアとヘギソバを頼んじまったんだ」

「…………は?」

 

 瞬間、ガクトの表情が固まる。

 相手の言っていることが理解出来ずにフリーズしたガクトは、たっぷり三十秒経ってから全身を震わせ再起動する。

 

「な、何をどう間違えれば三国志の豪傑がデカい猫になるんでゴザルか!! さらにいえば、赤兎馬とヘギソバなど一文字も合ってないでゴザルゥ!!」

 

 先ほどまで抜け目のない男だと尊敬していたというのに、最も重要な部分を間違えたと聞いて、ガクトはシンゴに掴みかかってお前は馬鹿かと怒鳴りつける。

 あまりの迫力にシンゴは顔を引き攣らせるも、割と惜しいところまではいっていた事を伝え、少しは落ち着けとなだめようとした。

 

「い、いや、同じ四文字だし母音と最後のバは合ってるだろ」

「ふざけるなでゴザル! その程度の一致で同一と見なすのなら、シンゴ殿とチンコは同一でゴザルぞ!!」

「テ、テメェ、協力してやったってのに、人をチンコ呼ばわりとかふざけんなクソ漏らし!」

「結果的に何もしてないでゴザロウが! いますぐ訂正してこいでゴザルゥ!!」

 

 自分の名前がチンコに似ていると指摘されたシンゴは、流石にカチンときて立ち上がるなり相手を掴み返す。

 二人が取っ組み合いの喧嘩を始め、ジョーとアンドレは食事中にやめろと引き離そうとするも、ジョーたちが喧嘩を止めるよりも早く、更生室の檻が開いて高速の鞭が舞った。

 

「五月蝿い貴様ら! 飯くらい騒がずに食え!!」

「おぼろっ!!?」

 

 二人の喧嘩を止めたのは副会長だった。看守室で彼女も食事をしていたはずだが、騒げば音が響いて看守室にも聞こえるのだ。

 シンゴもガクトも互いに掴み合っていたというのに、副会長の鞭はガクトの腰と顔面にだけヒットして彼を吹き飛ばす。

 掴み合っていた相手が倒れれば流石にシンゴも冷静になり、副会長が帰ってもまだ倒れて悶えているガクトに近付いて手を差し伸べた。

 

「だ、大丈夫か?」

「うぐぐ……いや、シンゴ殿、取り乱したとはいえ暴言済まなかったでゴザル」

「そんな、オレの方こそチャンスを無駄にして悪かったよ」

 

 一気に喧嘩に発展した二人は、終わるときも一気に冷静になるようで、互いに謝罪すると椅子に座りなおして食事を再開した。

 それを見たジョーとアンドレも安心してカレーを食べながら、そういえばずっと気になっていた事があったと思い出し、顔だけガクトの方へ向けて喋りかける。

 

「ゴホッ……ガクト、実はずっと気になってたんだが、オマエ何で情報の授業中にキヨシにメールしなかったんだ?」

「メ、メール?」

「ああ、パソコン使ってたんだからキヨシの携帯にメールするくらい出来ただろ。必死にウンコの音を探してるから、何かメール出来ない理由でもあるのかって授業中から不思議に思ってたんだ」

 

 ジョーがずっと気になっていたのは、何故ガクトがアリバイ工作の準備などと遠回りな事をしていたのかという事だった。

 情報室のパソコンがあれば、各生徒に割り振られた学校用メールアドレスを使って、キヨシの携帯やパソコンにメールを送る事ができた。

 学校用メールアドレスにメールがくれば携帯に通知が来るように設定してあるので、仮に携帯のアドレスを忘れていたとしても、学籍番号+共通ドメインのアドレスを入力するだけでキヨシの学校用アドレスにメールを送れたはず。

 それほど確実な手段があったというのに、どうして敢えてアリバイ工作の準備をしていたのかジョーが尋ねれば、ガクトは見るからに消沈して頭を抱えていた。

 

「な、なぜそれをもっと早く教えてくれなかったんでゴザルか」

「いや、オマエとシンゴが計画の準備をするっていうから……ゲホッ」

「小生、完全にクソの漏らし損でゴザルよ……」

 

 アリバイ工作の準備を気にするあまり、ガクトはメールを送るという手段があることを完全に失念していた。

 それを教えてくれていればクソを漏らす必要もなかっただけに、落ち込んだガクトの脱力っぷりは凄まじい。

 食べ終わった食器を前に出し、テーブルに突っ伏したまま「あー……」と変な声を出す。傍から見ると気持ち悪いが、彼の落ち込む理由も分かるので、アンドレがまだ時間はあると励ました。

 

「ま、まぁ、まだ時間はあるし。キヨシ君に訂正を伝えられなくても、計画通りってだけだし元気だそうよ」

「あー……そうでゴザルな。うむ。それでは皆の衆、もうしばらくご協力をお願いするでゴザル」

 

 最大のチャンスは逃したが、まだ計画が失敗したわけではない。伝えるチャンスが巡ってくるかもしれないし、ダメでも計画を実行に移せばいいだけだ。

 身体を起こし自分の顔を手で叩き活を入れ、他の者へ向き直ったガクトはもうしばらく頼むと改めて協力を申し込んだ。

 

 

 


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