随時投稿していきます。
30.5
一方通行のいなくなった世界、北山雫にとってそれは初恋の人間がいなくなった世界に等しかった。騒乱の後に彼女とほのかはすぐに一方通行の住んでいた家に向かった。彼が消えた手がかりを探すために最も近い場所だと思ったからである。しかしたどり着いた土地には売り地と記された電子プレートが小さな家に掛けられてあった。
その場に崩れ泣き尽くす雫をほのかはただ眺めることしか出来なかった。気休めの慰めなど必要ない。それが親友として出来る最大限の配慮だった。
事実を確認し帰宅しようと足を路地の方へ向けた時、突然空き家から何かが崩れる音がした。その音に反応し雫は駆け足で玄関まで到達する。ガチャリと鍵は開いていた。土足で上がるのは流石に不味いので靴を脱ぎ一方通行の部屋のリビングに走っていく。一方通行が帰ってきているかもしれない、そんな微かな希望を胸に抱き目元の涙を拭いながら走る。リビングにたどり着いたが雫の求める光景は映っていなかった。
「ぐえ......流石の上条さんでも女の子2人の体重には耐え切れないので早くどいて欲しいのですが...」
「って、アンタ!どこ触ってんのよ!」
バリバリと青白い電撃がツンツン頭の高校生を襲うが右手をかざすだけでその電撃は消え去ってしまった。
その男は雫がやってきたことに気付くと初対面であるのにも関わらず軽い挨拶を始めた。
「あ、もしかしてここの住人さん?実は聞きたいことがあって」
彼の背中に同じ顔つきをした少女らがいるのにも関わらず話しかける男子高校生は素直にすごいと思う。
雫は話しかけられた男性の背中に乗っているある少女とは知り合いだった。
「ミサカ?」
そう呼ばれた御坂美琴ともう一人上条当麻の上に乗っていた人物、番外個体は素直な返事をした。
「あれーっ、雫じゃん。ヘイヘイヒーローさんよ、この子に聞けばあの真っ白バカの居場所が分かるかもしれないぜい、ってかここ一方通行の家じゃん。幻想殺しとはいえ運がいいねヒーローさん」
真っ白バカ、そう呼ばれたのは一方通行の事だろう。上条当麻は履いていた靴を脱ぎ、玄関のところまで自力でたどり着き空いていた下駄箱に自らの靴を入れる。
「うわっ、何この缶コーヒーの量。あいつコーヒー中毒なのは話には聞いていたけどここまで進行しているとは...貧乏学生のうちでは考えられない買い溜めです」
廊下のダンボールが積まれたのを確認する上条は空いていた箱からその場にいる人数分、5つの缶コーヒーを取り出しリビングへと持っていく。一方通行ならこのぐらい許してくれるだろうと思い空いていたテーブルに腰を下ろす。既に空き家状態のこの家だが学園都市からやって来た3人はそんなことを少しも知らないので出ていこうという気がしない。
「それでだ、俺の名前は上条当麻。訳あってこっちの世界に来たわけなんだが、まあよろしく頼む」
今では見ることの少ない学ランを来ている男性に珍しさを感じる。しかしその隣にいた中学生くらいの少女、御坂美琴の服装はこの世界のドレスコードに照らし合わせるとなんとも言えないようなものだった。短いスカートはあまり好まれない。
それとは別に顔はそっくりだが目付きや身長、服装が違う番外個体は少女間の紹介をし始める。
「この人の隣にいるのが私のおねーたまの御坂美琴、で向こうは左から北山雫、光井ほのか。じゃ早速話していきたいんだけど、雫?一方通行知らない?」
パパッと手早く紹介を済ませた彼女は本題に入る。学園都市から公式的に死亡扱いとなった第1位、一方通行の居場所。番外個体が知る限り彼はこの世界の魔法調査のために学園都市から派遣された部隊の一つに与しているようだった。
番外個体の質問に先程までの光景が頭に浮かび瞼が涙で満たされ始める。
「ありゃりゃ、これはマジでヤバイかもね。あの人は本当に死んだのかも知れないよ」
「もし死んだのなら学園都市は必死に隠すと思うんだけどな。第1位の死亡なんて外部から見たら大きい事件じゃないと思うが内部の統括理事会は力を誇示するために絶対に知らせないはず」
上条当麻のこれまでの経験則から一方通行の死亡はありえないと考えている。まして打ち止めを残して学園都市の仕事をしていたこと自体不思議に思う。
泣き止んだ雫は学園都市からやって来た3人に横浜で起きた事件を全て話した。
***
北アメリカ大陸合衆国、通称USNA、この国の中枢を構成する機関の代表ら一同はある会議室に集まっていた。日本における灼熱のハロウィンの終結が確認されてから数時間、アメリカでも問題視されるレベルの騒乱であり近代兵器や魔法に関する会議を早々に開こうとしていた矢先、ある団体が訪問してきた。
学園都市
横浜における大規模作戦を魔法なしで実行し近代兵器の歴史に真新しい点をいくつも残した組織。彼らはアメリカの重役らの前にいた。人間ではない、ゴールデンレトリバー。彼は典型的な太った役人と同様にふかふかの椅子に座り話を始める。
『さて、うちのトランスポーター、結構良かっただろ?ダラスやフロリダ、ワシントンにカリフォルニアそこからこのオーストラリアに飛んできたにも関わらず気分が優れないという訳では無い』
金属製のアームから葉巻が木原脳幹の口元に運ばれる。品質の良い葉巻なのか出てきた煙にも上品な香りが焼き付いている。この犬から吐き出された煙は宙を舞い上部の通気孔へと吸い込まれていく。灰皿に残った葉巻を置きゴールデンレトリバーは本題に入った。
『君達を呼んだのには理由があってね。別に楽にしてもらって構わない、そんなに固まっていると雰囲気に流されるぞ?』
木原脳幹は重役らにある資料を見せる。それは駆動鎧のモデルダウンしたバージョンの性能値と契約書が同封されていた。内容は今後のオーストラリア統治を学園都市に任せることとこの国を囲っているアメリカ海軍の撤退。
たったのこれだけだったがアメリカの高官はこれを認めるわけにはいかなかった。魔法という分野において現在アメリカは日本に多少の劣りを見せている。それを打破しようとするために様々な試行錯誤を行ったが差はみるみる開いていく。そこで姿を現したのが学園都市であり純粋な科学力で魔法師以上の戦力を持つ。これは日本にいる工作員からの情報もあるが最も彼らに印象付けたのは天使の力とアメリカが名付けた力。
中華軍の艦隊が一瞬で壊滅する大規模な爆発の少し前、日本魔法協会のビル前で起こったある戦い。勿論アメリカ独自で調べられる範囲は限られる。日本の十師族ですらこの力の発生過程や根源となるものの解明は進んでいないだろう。
しかし学園都市は違った。データを揃え自らが開発した力だとアメリカに提示してきたのである。
「それで我々がこの提案に賛同すればこの駆動鎧とやらとフレーラと呼ばれる人造兵器のレシピをくれるのかね?」
『悪いがフレーラは無理だ。なにせ開発費が君たちじゃ賄えないしプロトタイプにして完成形のモデルだ、それが破壊された今もう一度作ることは不可能に近い』
「我々を馬鹿にしているのか!?こんな低条件でお前達が支配する海域から出ろと?騒乱を招いているのは貴様らではないか!」
別のアメリカ側の人間が吐き叫ぶがゴールデンレトリバーは全く揺るがない。
怒号が終わり会議室に静かな時間がやってくると同時に脳幹の背後にワープホールが開かれる。そこから現れたスーツ姿の男が脳幹に耳打ちする。それを聞いた彼は察しある言葉を投げ出す。
『君達がもたついている間に議会は決定を下したらしい。大統領直々に合意したそうだ。無駄骨では無かったが時間稼ぎにもならなかったな』
椅子から降りて四足歩行で虚空に入るとスーツ男と入れ替わりになった。この男には名前も戸籍もない。実験の過程で作られ廃棄されずに生き延びてしまった遺児、意図的にそうした訳では無いが結果的に学園都市の手足として働いている。疑うことを知らず科学への関心も高いため脳幹ら木原一族は助手として彼らを雇っている。
準木原と言ったところだろうか。
男は何も告げず拳を固く握りしめる。その拳は能力によって青白い炎に包まれている。
ぼっと燃える腕に気づいた高官らは必死に抵抗策を考えた。しかしポケットに連絡手段となる情報端末もないし、窓を見つけだがこれはプロジェクタによって映し出された人工的な幻影にすぎなかった。扉も見当たらない。
悲鳴は外部へ漏れることなく下の階にあるフードショップでは平和なオーストラリアが描かれていた。
***
四葉家、その本邸を知る者は数少ない。
『初めまして、でいいのかな?四葉真夜』
彼女のパソコンに映し出されていたのは男にも女にも年少者にも老人にも見える手術服を纏ったある人間、アレイスター・クロウリー。どのようにアクセスしたのか不明だが彼女は気にしない。
この世界におけるアレイスターの立ち位置を知る者は少ない。第三次世界大戦は連合国対アレイスター個人という極めて単純な枠組みで行われた。それでも連合国は苦戦を強いられたは力の強さを感じさせる。魔法が確立される前に謎の異能の力で世界を支配しようとした。
『君達が殺したアレイスター・クロウリーはこんな姿だったかね?それとも魔術師らしい民族衣装のようなものを身に纏っていたか?まあいずれにしてもやることは変わらない。日本の十師族に宣戦布告でもしようか、そちらの次元の私の復讐とでも考えたまえ』
淡々と述べられる人工的に作られた音声は反響する。
『最後に一つ、魔法という技術は死に絶える』
プツンと葉山の手に持つノートパソコンの画面が真っ黒になり機能しなくなる。再び電源を付けようとした執事だが真夜はその動きを制止する。
窓から見える光景にいつもと変わりはない。アレイスター・クロウリー、四葉とも因縁の深いある異能使いが再び侵攻してくる。第三次大戦の時は個人というある孤立した戦力であったため未熟な魔法でも何とか対応できた。しかし今回は異なる。魔法が発達してきているのは間違いないがそれ以上に異なるアレイスターの持つ科学力が存在している。物量で攻めることの出来る機械兵器があれだけ発達すれば魔法師は苦戦を強いられるだろう。
そんな事態にも彼女は万全を期すためある作戦を葉山に命ずる。
「あの女と交渉を再開するわ、準備をしてちょうだい」
***
思いが連なり運命は絡みつく。意図しない出来事でも必然は有り得る。アレイスター・クロウリーは魔法の存在する次元への侵攻をプランに位置づけたり、アメリカの大統領は世界を支配するために学園都市との協力を決意したり、北山雫は失った大切な人に再び会うために謎の学生らと共に行動したり、四葉真夜は世界を相手にした異能使いと再戦するためにある人物に使いを出したり、白い人間が隔壁した世界で進化を遂げたり...
科学と魔術と魔法が交差する時物語は始まる。
更新速度は低下するかもしれません。
たくさんの感想ありがとうございます!!
ps.フェルグラストラクすんごい楽しみなんで2週間ぐらい次話ないかもです。