魔法のあくせられーた   作:sfilo

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遅くなりましたすみません
全部Emってヤツが悪いんだ


28

「お嬢様!!お嬢様は何処へ!?」

 

 

輸送ヘリの内部から忽然と消えた彼女の雇い主の娘を必死に探す黒沢、しかし見当たるわけがない。その時背後の鉄板がガラリと開いた。

 

 

「どォした、さっきからそンなに騒いで」

 

 

黒夜はダルそうな声で操縦席を見渡し彼女の騒いでいた原因を理解する。保護対象が消えたとなってはこのヘリにいる理由がない。彼女の判断はとても素早かった。

 

 

「ハッチを開けろ、一瞬でいい。嬢ちゃン助けに行ってやるよ」

 

 

何も言わずに理解した黒沢は市民にヘリにしっかり捕まるよう機内放送を利用し、その数秒後後部ハッチが開かれる。突風が入ってきたにも関わらず、黒夜は壊滅気味の都市の上空から飛び降りる。

恐怖心は多少あるが自身の能力を信用している。投げ出された体から両腕を地面方向に突き出し窒素爆槍を放つ。勿論これだけで威力が相殺される訳では無い。適度なタイミングで的確に重力に反発していく。ボス、ボスと放たれた槍達はすぐに消えていくがその分降下速度は小さくなっていく。

極めつけは付近のビルに体を押し付け窒素爆槍で無理矢理侵入する。体が多少傷ついたが今現在問題になるほどではない。

彼女はビルを降りながら手元の携帯電話でシルバークロースに連絡を取る。

 

 

「シルバークロース!北山雫の現在座標は!?」

 

 

『焦るな、既に向かっている。あのブレインめ、この事態を予測していたと思うのが当たり前みたいな感覚で連絡しやがって。人工衛星に住んでるからって調子乗ってるんじゃないか』

 

 

地上を爆走するドラゴンライダーは転々とする北山雫を最短ルートを通って追いかけている。駆動鎧に表示されている座標が飛び飛びなのは空間移動系の能力者が作用しているからであろう。

 

 

『ダメだ、追いつけない。奴ら連続してテレポートしてる!とりあえずお前をこのバイクに乗せる、話はそれからだ!』

 

 

黒夜は彼の意見を聞き指定されたとおりに道を駆け抜ける。

 

 

***

 

 

真由美達を乗せたヘリはベイヒルズタワー周辺の異形を美月が察しそれを幹比古が確認していた。勿論彼らはほぼ同時刻に浮上した雫のヘリの様子などわかるわけが無い。

魔法師協会本部の異変と共に彼らは中華系テロリストの侵攻があるのを全員が目で見ることが出来る。彼らはその侵攻を止めるべくヘリをヘリポートに着陸させ戦闘態勢に入る。

しかし幻想は儚くも崩れ去る。

魔法師協会の建物前で戦っている戦闘員やテロリスト、乗用車などを駆使して作られたバリケード、中華系の戦略兵器、全てが灰となる存在が戦闘の中心にいつの間にか存在していた。

フレーラ

学園都市が確保している兵器の中でも随一の破壊力を持ち圧倒的力差で戦場をこじ開ける開拓者。その存在に呂剛虎は恐怖心を抱いた。戦場で勝てるかどうかではない、逃げ切れるかどうか、こちらの方に重点がいってしまっている。

無言で佇むフレーラだったが止まった戦況が動き出した瞬間彼の姿は消えた。両陣営は不思議に思ったが今はそんなことを気にしている場合ではない。目の前に集中する魔法協会の戦闘員は敵陣の異変をすぐに察した。

大将である呂剛虎が先程現れた男に一方的に嬲られていた。反撃を繰り返そうにも絶対に許さないフレーラの体勢はバランスのとれた異常さを纏う。武器も持たず拳で呂剛虎のプロテクターを砕いていく。魔法による強化をしているのにも関わらず問答無用。周辺の歩兵らは既に退却の真似事を始めているようだったが、フレーラの戦闘による衝撃波が彼らを襲う。

グタリとフレーラの腕の中で力尽きた大男を片手で放り投げ、魔法師協会を目指す。バリケードが建物を囲んでいるがそんなものは関係ない。自分の影から排出したアスカロンを握り締め大きく一振り、爆撃が日本の戦闘員を襲う。

ヘリポートから降りてきた一高の援軍は協会前の惨状に目を疑った。自動車が炎を高く燃えており酷く焦げた部分が多数見られる。

 

 

「何よこれ......さっきまで戦っていたじゃない。私たちが到着するまで誰かが終わらせたってこと?」

 

 

真由美の呟きが緊張感を一層高める。

コツコツと階段を上る音が聞こえる。全員が身構えた先にはゴルフウェアの様な洋服を身にまとい、戦闘行為をしていたようには思えない外人がゆっくりと足を進めてくる。

 

 

「貴様らも義勇兵か?」

 

 

単純な疑問、フレーラにとって目の前の少年少女らは敵ではない。別に戦場にいるからと言って無差別に殺戮する訳では無い。戦力は削ぐだけで彼らはいまだに力を見せていない。

 

 

「ひとつ伺います、ここでは戦闘があったようですが貴方は何をしたのですか?」

 

 

敵か味方かもわからない大人に丁寧な口調で現状を聞く。フレーラは自分の名前を告げもせず聞かれたことにだけ答える。

 

 

「ああ、あれは戦闘行為などとは呼べん。ただのママゴトに過ぎんよ。ん?貴様らはもしかして魔法科第一高校の生徒か。運よく逃げ切れたのか、その命無駄にするべきでは無い。立ち去れ」

 

 

威圧感、戦場の空地を飲み込み自分のフィールドを展開するフレーラの実力は確かだった。脚が震える真由美だったがここで無抵抗のまま通すわけにはいかない。

その様子を掴み取ったフレーラは1つ余興を思いつく。

 

 

「よかろう、協会前で戦おうではないか。私もそこまで急いでいる訳では無い。次の作戦段階に移行するには時間がいくらかある。知り合いが一高に籍を置いているんでな、暇潰しにはなるだろう」

 

 

真由美、摩利、花音、五十里、レオ、エリカ、幹比古、全員はこの施設を死ぬ気で守らなければならない。協会手前の広い場にいる人間はほとんどと言っていいほど動いていない。守るという行為、動けるのは7名、深雪は内部の最終ラインで待機している。

つまりこの絶望的な戦力の塊を魔法師の卵数名で処理しなければならない。全員が目を配り大体の作戦を考えている間、フレーラは炎上している兵器や機械群を手当り次第広場から投げ捨てる。焦げた跡が無ければいつもの魔法協会の有り様。

 

 

「一方通行の馴染みだ、軽い暇潰し程度でいいだろう。オイ!例の物を送れ」

 

 

誰に向かって言っているのか分からなかった一高生徒だったが広場には以前見た穴が開いた。そう、シルバークロースがドラゴンライダーに乗ってやって来た時の穴。そこから出てきたのは脚部が異様に太い駆動鎧。顔面には機械的なパーツはない、そこにあるのは生身の顔。大人の男、更に軍人であることを忘れたように泣き叫び助けを求める。

 

 

「助けてくれええええ!!体が、体が動かないんだ!」

 

 

異空間の穴が閉じ元の状態へと戻る。

北山雫強襲部隊の一員であった駆動鎧に体を喰われた目も当てられない軍人。肉体の自由は機械によって奪われ脳波や他の人間特有な機能さえ残っていればいいものの、精神性を奪わない卑劣な構造。植物人間を機体の内部に入れても機能する特殊な性能の駆動鎧はその醜い顔面を金属の蓋で覆い戦闘の構えをする。

その醜態に一高生徒は学園都市の高度な技術と得体の知らない倫理性の損ないを感じた。この世界でもマッドサイエンティストと言う異常性極まりない魔法研究者は確かに存在する。しかしそれを推奨している訳では無い、むしろしっかり人道的な研究に力を注ぐよう指導される。

学園都市は逆。飛び抜けている者には莫大な金を積んでも研究させる。それが非人道的、非倫理的であっても変わりはない。それがSYSTEMへの手がかりとなるからである。

駆動鎧が横への飛跳体勢をとる。上部への行動を制限する代わりに左右の移動を加速させる。そのため脚部はあらゆる部分がカチャカチャと開いたり閉じたりする金属板が動く。

 

 

「では始めようか、頑張りたまえ一高諸君」

 

 

フレーラが手の平を叩くと駆動鎧は一直線に進む。しかし向かっている方向は一高集団ではない。フレーラに向かって飛び込む。予期しない出来事と同時に彼に接触した爆音が同時にエリカ達の耳を襲う。

 

 

「あがぁ......ぐぁぇ」

 

 

駆動鎧の内部から赤黒い液体が垂れ流される。それでもフレーラへの対抗をやめない駆動鎧は太い脚部を回転させ回し蹴りを繰り出す。それに対し手刀を水流関連の魔術で鋭利に尖らせ足の付け根から切断する。

 

 

「ふっ、どこかの誰かが外部から操作したか。構わんよ、余興が潰れてしまったのは残念だがな」

 

 

文字通りくしゃくしゃになった駆動鎧を中身ごと引き裂き大男は戦闘体勢をとっていた真由美らに向き合う。

絶望が始まる。

 

 

***

 

 

レオはこの状況に体が震えていた。武者震いでもあるし恐怖心からくるものもある。それはともかくこの魔法協会の防衛、自分に出来るのだろうか。雰囲気というか漂っているオーラが軍人に似ている。それは戒律が厳しいため鋭く研ぎ澄まされたナイフのような感覚ではない。柔軟にすべてを受け入れそれでなお壊すような、対象が定まった破壊ではなく無差別に取り敢えず壊す。

 

 

「では参ろうか、まずはそこの男か。相性がそれほどいいとは思わんが仕方ない」

 

 

レオに向けられた攻撃意思に固まる一高生らは対応しようとレオを中心に一層構える。しかし遅い。否遅いのではない、フレーラの高速戦闘が速過ぎるだけであって彼らは自身の最高のスタイルを貫いた。

 

 

「フン!」

 

 

フレーラの拳が魔法展開中のレオの体を貫く。彼の肺から空気の塊が吐き出る。同時に赤い液体も多少口から飛び出ている。彼に突き刺さった拳を横に振りレオはコンクリートの地面を転げ回る。

 

 

「せやぁ!!」

 

 

フレーラの一瞬の隙を突いて大蛇丸を振り下ろすエリカだったが、彼女の予想に反して彼は防御態勢を取らなかった。力一杯振り下ろす大剣は男の身体を貫く。

そんなことは無かった。接触した部分の服が多少切り裂かれ薄い表皮が現れるが傷はつかない。

 

 

「それで終わりか?」

 

 

疑問が頭の中で巡り回り次に何をすればいいのか判断出来なくなった。エリカは大蛇丸が避けられたりガードされたりするのは予測していた。しかし無防備状態のこの男に攻撃しても全く効いていない。一旦体勢を整えようと半歩後ろに下がった瞬間、目の前のフレーラが大型バイクで轢き殺される。

ガリガリガリガリガリ!!と金属どうしが擦りつけ合い火花が飛び散りながら一高生とフレーラの距離は大きくなっていく。

 

 

『ヤバイな、ドラゴンライダーの最高速度で轢いても死なないなんて。流石は学園都市の3大凶器、こんな火力じゃ押せないか』

 

 

フレーラを轢いたバイクからいつの間にか降りていた操縦者、シルバークロースは駆動鎧に包まれたまま一高の倒れているレオを担ぐ。それと同時に一緒に同乗してきた黒夜が人造アームから窒素爆槍を展開させ、ドラゴンライダーと正面衝突している男に真上から莫大な空気を叩きつける。

 

 

「何やってンだテメェら!!さっさと逃げる準備しろ!フレーラに敵対するなンざ馬鹿のやることだ、はやく建物の中に入れ!」

 

 

現時点から数百メートル先、フレーラは減速したドラゴンライダーを弾き、摩擦熱で溶けてしまった肉体を気にしながらも黒夜達を敵視する。

そして黒夜は真由美らに向かいさらに言葉を投げつける。

 

 

「フレーラに敵対しやがってよォ、オマエら死にてェのか?私ら学園都市の連中だって絶対に喧嘩売らねェのに、ったくよ。やっぱし呼ンどいて正解だったぜ」

 

 

フレーラがこちらへ爆速してくる寸前彼の足が止まる。それは上空に訪れた白い悪魔(てんし)によるものだった。




ちなみに3大凶器
フレーラ、脳幹、恋査

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