魔法のあくせられーた   作:sfilo

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新人戦2日目、大会は5日目であるが現在の一方通行には全く関係ない。朝から爆撃音で目が覚める。ベッドからゆっくりと起き上がり身支度を整えると外に出る。そこには既にフレーラが待っておりブリズベーンへと向おうとしていた。フレーラが言うにはシドニーでの抵抗は既に殆ど無く軍はケアンズへと最終陣地を敷いたらしい。そして自動兵器は既にシドニーを発ちブリズベーンへと侵攻している。道中の妨害も苦になるほどではなく順調らしい。そんな話をしながら一方通行とフレーラは人間の出すべきではない恐ろしい速度で進撃していく。

ブリズベーンの穏やかな朝は幻影かのように昼からは地獄絵図のようだった。とは言ってもそれはオーストラリア側の軍人にとってであり、一般市民は自宅に潜んでいるだけでよかったようだ。軍の戦車は学園都市の滑腔砲によって粉々になり海からの支援は海上要塞により期待出来ない。オーストラリアが音を上げるのは時間の問題に近かった。

一方通行達は侵攻先を変えた。あまりにもオーストラリア侵略が簡易であったのでフレーラと一方通行はケアンズに向かうことになった。学園都市のヘリ、六枚羽を改造し人が乗れるようにし全速力で移動する。

約3時間飛びっぱなしだった。そして爆弾の投下の様に六枚羽から二つの影が地上へ落下した。二人を降ろした六枚羽はオーストラリア側の攻撃が届かない位置に着陸し待機する。

地面に大きなクレーターを作った一方通行は軍の施設の方向を向く。キャンベラにあったものよりは小さいがオーストラリアの戦力をここに集結させているらしく、展開される戦闘は今までの中で最大となるだろう。それでも一方通行にとってやることは変わらない。ここを壊滅させ帰還しとりあえず休みたい。そんなくだらない願いが今の一方通行の原動力となっている。

施設が破壊し尽くされるのにそう時間は必要なかった。

 

 

「これで終いかァ?一通りブッ潰してみたがよォ」

 

 

爆炎の中から体一つで何事も無かったかのように歩き出す一方通行。彼の体に焼けた跡は一切無くゴミすら付着していなかった。

雨も降らず快晴であったため施設のあらゆる所で火災が起きていて、鎮火設備が全く機能しないほど破壊し尽くされていた。

一方通行と別行動をとっていたフレーラから連絡が入る。内容は六枚羽の元へ戻ることだった。彼、学園都市の目的が達せられたのだろうか一方通行に対する指示はこれで終わりだった。

一方通行が着いた時には六枚羽は既に発着出来る状態で待機していた。その手前でフレーラはズンと立っていた。

 

 

「殲滅したか。では任務完了だ、すぐに貴様を日本に返そう」

 

 

プロペラ音が酷い状態でも地面を媒介し声が伝わってくる。機械の体で特殊な振動でも起こしているのだろう。二人を乗せた六枚羽は機体を傾かせ学園都市勢の機体が集まる近くの都市へと移動する。

そこは既に戦闘が終了しており一般市民が街を歩き回るまで機能していた。オーストラリア侵攻といっても政治能力までは潰していない。軍事力をひたすら削ぐことで抵抗力を無くし服従せざるを得ない状況に追い込む。これが学園都市のやり方の一つである。

地方の広い公園に六枚羽が降りる。砂が辺りに散らばり周囲の光景が消え去る。ヘリから降りた2人は公園のベンチに座る。男二人でベンチに座るというのは少し奇妙だが今は致し方無い。

 

 

「貴様は日本に戻ってこれを九島烈という人物に渡してくれ」

 

 

フレーラが一方通行に手渡したものは一つのディスクだった。何が入っているのか聞かなかったが一方通行は大体の予想はついていた。

九島烈、九校戦のオープニングセレモニーで微弱な魔法で選手を驚かせた人物であり、十師族の家の人間。一方通行はこの程度の人物評価しか出来なかったがあの微弱な魔法はつまらないとしか思えなかった。能力制限状態の彼でも周囲のベクトルをある程度観測できる。そこに引っかかったため周りの人間が驚いていることに驚いた。

ディスクを手に取り少し経つと突如目の前にフードを被った男が現れた。瞬間移動系の能力者で現在のアレイスターの窓の無いビルへのアクセス権を持っている人間。彼が一方通行の手を取り目の前が暗転する。

 

 

***

 

 

飛んだ先は一方通行の宿泊していたホテルだった。時刻は午後3時、日本とオーストラリアは時差がほとんど無いため体に異常は感じられない。森崎と同室だが彼は今ここにいない。

そんな中フード男が初めて一方通行に声をかけた。

 

 

「これから必要になったら俺が飛んでくる。そして何時でも学園都市と連絡が取れるように端末にこの数字を入力しておけ。以後指示があるまで自由だそうだ」

 

 

これだけ言ってすぐに姿を消した。一方通行はフード男の能力が学園都市の力でサポートを受けていることを確信した。地球レベルの距離を飛ぶ能力など人間の脳では不可能。目標座標を視認出来ないしそれだけの距離を正確に把握する事など人間では出来ない。恐らく学園都市の衛星の力と一方通行同様、樹形図の設計者の力を借りて能力を運用しているのだろう。

一方通行は丁寧に畳まれたシーツの上に転がり今日使ってきた能力を電力で補う。その間腰のベルトに仕舞っていたCADを外し着替えを始める。オーストラリアは冬で薄手のコートが丁度良かったがそろそろ日本でも一方通行の服装は違和感を感じる。そのためブランド物のパンツと灰色の長袖を着用する。この格好だとチョーカーが丸見えとなるが日常生活に支障はない。

すると突然腹の音が鳴る。一方通行は九校戦の会場に屋台があったのを思い出しバスで向かうことにした。

大会会場は大きく盛り上がっていた。新人戦2日目ということで今はアイス・ピラーズ・ブレイクの試合中だった。

 

 

「このピリ辛チキンと黒胡椒チキン、カードで」

 

 

一方通行は多くある屋台のうち肉を出している店にしか興味はなかった。彼が野菜を食べてるところなど身内でも少ないだろう。同居人といた頃は強制的に直されたらしいが。

 

 

「はい、毎度。兄ちゃんも応援かい?今は今年注目の1年、司波深雪って子が出てるはずだよ。見てきたらどうだい」

 

 

気さくな屋台の主人に軽く挨拶して買ったばかりの熱いチキンを口の中に放り込む。そんなことをしながら歩いていると試合会場のゲート前まで来てしまった。一方通行は九島烈の所へディスクを渡そうと思ったが、どこにいるのかわからないため今日は諦めた。そこで今やっている試合を観ようとゲートをくぐる。

そこは歓声というかなんと言うか多くの感情が混じった会場だった。じっくりと見てみると司波深雪がステージ上で相手を圧倒し終わったところだった。一方通行にはよくわからないが自陣の氷柱を一つも倒さないで勝つことは凄いことなのだろう。そんなふうに淡々と評価してもう一つの黒胡椒チキンを口にした瞬間、突然後ろから声を掛けられた。この状況では人が多過ぎてベクトルを感知してもほとんど無視して来た。これが仇となってしまった。

 

 

「貴方が一方通行ですか?初日の試合見ましたよ、モノリス・コードにも出るんですよね?頑張って下さい」

 

 

にこやかな顔をしたスーツ姿の男からいきなりの応援エール。突然のこと過ぎて上手く判断出来ない。そういう訳で相手を無視しているかのような態度でやり過ごすことになった。振り返って試合会場を再び見ると選手らは帰宅しようとしていた。今日の試合はこれで終わりらしい。

屋台で食べ物を買うだけに外出したというのは気分が些か悪いためバスが出るまでの間に少し散歩をして帰った。

夕食時、一方通行は食堂へ向かおうとする。特段に食べたいというものは無いが屋台で食べた物が少しキツかったため飲み物が欲しかった。丁度良く今は一高が使える時間らしい。

食堂のドアを開けた途端、森崎も同時に扉に手をかけていたらしく彼は前のめりになった。転ばずにいたのは幸いだろう、しかしすぐに体勢を立て直し一方通行が歩いてきた通りを早歩きで辿っていった。

 

 

「あァ?何なンだよ」

 

 

呟きながら食堂に入る一方通行は注目の的だった。それもそのはず、二日目から姿を見せず今になって現れたのだ。それにオーストラリアにいたであろうと推測している人間もいる。

視線を気にすることなくドリンク置き場を見つけコーヒーを選択する。アイスコーヒーを片手に持ち空いているテーブルに腰をかける。そこに一人の男子生徒、司波達也が近寄って来た。彼は一方通行の向かい側に座り話しかけた。

 

 

「今まで何処にいたんだ?雫や会長が心配してたぞ」

 

 

無表情に近い顔から上辺だけの言葉が一方通行の耳に入ってくる。それに対し彼は状況を一瞬で判断したのか、杖を利用し立ち上がりながら口を動かす。

 

 

「話あンだろ、いいぜ付き合ってやるよ」

 

 

テーブルを後にし一方通行と司波達也、それに続いて司波深雪もついて来た。それに対して一方通行は何も気にかけなかった。

ホテルの外、月も表に出ず辺りは真っ暗な闇に包まれている。3人の距離はそれほど離れていないが、互いの顔をハッキリと認識できる明るさではなかった。

 

 

「オーストラリアで展開していた学園都市とかいう組織の仲間なのか?」

 

 

後ろからいきなり本題に入ってくる達也に一方通行は笑みを浮かべる。真っ直ぐ過ぎるというのが単純な感想だった。

 

 

「俺が答えたところで何が変わる?確認でもしたいのか」

 

 

歩きながら後ろを見ない一方通行。それに対し達也も答えていく。

 

 

「いや確実な証拠は無い。テレビにお前の姿らしきものを見つけてな。それに4月の件で海原という人間が俺達に接触してきた。個人的に調べたが行き着く先は全て学園都市だった。今の筑波にそれほどの力がある筈が無い......一体お前は何者なんだ?」

 

 

フフッと一方通行が薄気味悪く笑う。月明かりが差し込んで彼の白い体が光を反射する。

そこにあったのは白い翼。しかし翼と表現していいのだろうか、鋭利な羽先がいくつも司波兄弟の周りを囲んでいる。首筋に今にも突き刺さりそうなほど近い距離。

達也は特殊な眼を保持している。暗くて分からなかった等という言い訳は通用しない。彼は隣に立ち尽くしている深雪の肩を抱き安心させる。

すると一方通行の白翼が一瞬で霧散する。夏の夜に降り注ぐ粉雪のように空中を舞う。

 

 

「世の中人に聞いて全部分かるほど甘くはねェ」

 

 

彼はカツカツと杖を鳴らしながら深雪の側をこの世界に来て結構伸びた白い髪の毛を揺らしながら通り過ぎる。

辺りには静けさが支配していた。


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