魔法のあくせられーた   作:sfilo

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説明回


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オーストラリアの首都キャンベラを統括したと言ってもまだ終わりではない。人口が最も多いシドニーや他の中心都市を破壊して指示者を潰さなければクーデター成功とはいえない。

アスカロンを地面に突き刺し小休憩を取るフレーラと一方通行。次の都市に向けて移動の準備をしている。

 

 

「充電は終わったのか、一方通行」

 

 

自らの体からコードを伸ばしているフレーラが一方通行に問いかける。彼の体は機械で出来ているため動力源は電気であり、一方通行のチョーカー型電極へ電力を送っていた。

 

 

「終わったな。これで30分は持つ」

 

 

一方通行からコードを返してもらうと自らの体内に仕舞い込むフレーラ。

一方通行は辺りの光景を見て回る。破壊されているのは殆どが軍部所有の建物や兵器。今は学園都市の無人兵器が残存兵力を叩き潰しているのだろうか、未だに轟音は鳴り止まない。だが2人の戦闘時よりは静かになっている。

魔法を使用されても無条件に突っ込んで目標物を破壊する一方通行。

戦場における的確な判断で周りの無人兵器を操作し、自らの大剣と魔術で戦場を圧倒するフレーラ。

学園都市勢力の中で知恵を持つ者は彼ら2人しかいなかった。

外部の知恵を持つものはこの世界において排他される存在である。誰が定義付けた訳でもなくこの世界の理として成り立っている。その為世界からの圧力に耐えうることが可能な者だけを学園都市は侵入させることが出来る。長時間の潜入は現在のところ一方通行にしか出来ない。彼が必要ないと感じて無意識のうちに反射しているベクトルの中に排他しようとする力がある。学園都市はそれを研究しようとしたが彼らの世界ではそんなもの観測できるはずも無い。その為ピンセットを使い現場の力場を調べたが何も検出されない。結果として一方通行に頼る他なかった。

フレーラが今の形を維持できているのは半人間という曖昧な存在であるためだ。学園都市の計算では長時間の滞在は許されないがある程度の期間は自由に動くことが可能という。

最後にグループがやってこれた理由、これはナノマシンによる保護である。だがナノマシンが圧力に耐えうる時間は12時間も無い。

このような様々な条件下で一方通行とフレーラは働かなくてはならない。

 

 

「では掃除を再開しようか」

 

 

突き刺した大剣を影に仕舞いスクッと立ち上がるフレーラ。それに呼応して一方通行も杖を利用して2本の足で立ち上がる。

 

 

「次はシドニーである」

 

 

無表情で戦闘地域を指定した。現在のシドニーはオーストラリアで最も多い人口を誇っており中核都市に位置する。キャンベラから辿り着くまで様々な妨害が彼らを襲ったが殆どを無視し無人兵器に任せた。一方通行に向かってくる魔法はすべて反射膜のおかげで一方通行には無害であり、フレーラは自身の肉体を魔術で強化しつつ水を操るルーンの魔術で飛んで来る魔法を薙ぎ倒していく。

猛軍の勢いで侵攻する学園都市勢にオーストラリア政府は為す術なしといったところだった。ニュージーランドや周辺の東南アジア諸国に応援を求めたものの、海上には学園都市の要塞が瞬時に建てられ無闇に近づくことが出来ない。

自動操縦の機械がオーストラリア近海を埋め尽くし他国からの支援を打ち切りさせ、大きな空母らしきものから陸上用の自動駆動鎧が侵入する。更にはHsAFH-11という無人攻撃ヘリが離陸しオーストラリアを襲う。

一方通行はそんな様子を第三次大戦の記憶を蘇らせながら見ていた。

周りの魔法師は魔法の効かない一方通行に銃器で対応しようとするが、銃弾を跳ね返され逆に大きな損害を受ける羽目になった。

シドニー到着寸前、フレーラは一方通行に停止の指示をする。不可解に思い前方を見る一方通行、そこには隊列の組まれた大規模な軍団が存在していた。

 

 

「少々厄介であるな、自動機械共は残党処理で後方を駆っているのだが、貴様に任せても良いか」

 

 

仕方ねェ、と一方通行はスイッチを再度入れコンクリートの地面に手を付ける。するとゴゴゴというの地鳴りが辺りに響き地面が割れる。地震では絶対に起こらないような地割れが整った隊列の足元にまで及ぶ。避けようにも地面が割れるスピードが異常に早いため中央にいた分隊は跡形もなく消え去る。数々の悲鳴が聞こえるがそれらを無視し一方通行はフレーラの後に続く。

彼らがやってきたのはシドニー中心に存在する銀行。ここの貸金庫に用があるらしい。2人は誰も居なくなったカウンターを飛び越え奥に進む。銀色の光景を目にしても彼らは感動することは無い。ただ標的を見つける。

 

 

「ここであるな」

 

 

汗一つかかないフレーラは227と番号の付いた金庫にたどり着く。肉体強化の魔術により破壊力を増した腕で無理矢理こじ開け中身を確認する。そこにあったのは輝かしい程大量にある宝石群だった。

 

 

「こンな宝石のためにオーストラリアにまでやって来たってのかよ」

 

 

一方通行は溜息を吐きながら床に座る。するとフレーラは目標物を発見したのか一つの赤いルビーの様な宝石をつまみ取り他を床に投げ捨てた。

 

 

「一方通行、これが私達が探し求めた物の一つ、賢者の石である」

 

 

古今東西賢者の石という物はある種都市伝説的な意味合いが深かったが、この世界では魔法式を保存するという役割を担う遺品の意味を含む。それとは別に学園都市でも賢者の石の研究を独自に進めていた。構成成分は不確定だが長い年月をかけた文明物の品であることは確実であって、効力は育まれた文明によって異なるらしい。天然の能力者を原石と呼ぶように天然に能力を発する遺物を賢者の石と呼んでいた。

フレーラは石を一方通行に渡す。

 

 

「貴様が管理しているといい。学園都市の目的はそれではないが本来の目標物を確保できなかった場合はそれが必要になる。くれぐれも無くすことは許されん」

 

 

石を手にした一方通行は賢者の石が持つ異様な力を肌で感じることが出来た。何か電磁波のようなゆっくりと穏やかであるが確実に身を圧迫する力。不思議な力を解析しようとするが次なる目的地へとフレーラに促された。

とは言ったものの現在の時刻は16時を過ぎたところであり次の目的地であるブリズベーンまでは非常に距離があるため夜を越すのはキャンベラに決定した。その間にも学園都市の自動機械達はオーストラリアの一般兵を掃討していく。

フレーラと一方通行はオーストラリア国内で顔が割れていないらしく満室気味のホテルに宿泊することが出来た。恐らく周りの自動機械の印象が強すぎて生身の人間が活躍していることなど知らないのだろう。食事はついてなかったがこんな非常時でもコンビニは開いていた。クーデターと言っても実際に被害を受けているのは国軍とそれを匿う市民らであり、学園都市の兵器に敵として認識されない限り攻撃されることは無い。それが段々と明らかになるにつれオーストラリア市民は軍隊の居場所などを密告するようになり学園都市の侵攻は思いの外進んでいた。

 

 

***

 

 

こちらは新人戦一日目の夜、勝利の話題で賑わっていた一高だがある噂が他校の間で広まっていた。それは''一方通行の新人戦出場について''である。一高としてはエントリーさせていないので何度も一方通行の新人戦出場を否定してきているのだが、あれほどのCAD技術を持つ一年生が本戦のみ出場ということはあり得ないなどと言った不愉快な噂が止まることは無かった。それに付け加え本人が何処にもいないという事態で本人からの否定の言葉を貰えないのも原因の一つであった。真由美達は現在一方通行の部屋にいる。テレビに映ったのが彼であるかどうかの手掛かりやどこかに行った形跡等を探していた。ついでに森崎も手伝っている。

 

 

「何も無いわね、これだけ私物が少ないと手がかりなんてあるのかどうかの判断すら難しいわね」

 

 

ベッドの上に並べられた一方通行の私物は少しの衣服とカードの入った財布だけだった。

真由美はこんなものから一方通行の足取りを辿る事など無理だと言って雫にあることを頼んだ。

 

 

「北山さん、アッくんに連絡はまだつかないのかしら」

 

 

「ダメですね。何度も何度も電話しているのですがコールも鳴らずに切れてしまいます」

 

 

侵攻当初の一方通行にはオーストラリアにおけるジャミングが影響しており、殆ど外部との通信は行なえない。だが現在では学園都市の侵略兵器が新たな通信網を敷いており通信は行えるが、そんな事は一般人はともかく現地に住んでいるオーストラリアの人々ですら知らない。

 

 

「それじゃ私にアッくんの連絡先教えてくれない?私から連絡してみるから」

 

 

そう言うと雫はアドレスを真由美に送り一方通行の捜索は解散となった。

その後夕食をとった真由美は自室で一方通行に電話してみることにした。もちろんテレビ電話の様な相手の顔が見えるタイプである。二、三のコールがなった後ツッと画面が切り替わる。

 

 

『あァ?』

 

 

「え、えっ、アッくん?」

 

 

繋がるとは思ってなかった真由美は驚き焦った。

 

 

『用がねェンなら切るぞ』

 

 

ムスッとしたような顔でハンバーガーらしきものを食べている姿が画面に映る。

 

 

「ちょ、ちょっと待って!今どこにいるの?みんな心配してるわよ」

 

 

何とか意識を切り替え一方通行の居場所を聞き出そうとする真由美、それに対し彼は興味が無さそうに指に付着したソースを口で舐め綺麗にしながら話す。

 

 

『オーストラリア、つかもう俺の出番ねェンだ。ならどうしようと俺の勝手だろ』

 

 

病室での摩利の予想は的中した。何をしているかは真由美にはわからないが一方通行は確実にオーストラリアに居る。身勝手な理論に振り回されそうになるが、真由美の頭はそう簡単に騙されない。

 

 

「そういう訳にはいかないの。九校戦に出場し学校の代表である以上貴方には団体行動の義務が課せられるわ。今すぐに戻って来いとは言わないけれど早いうちに戻って来なさい」

 

 

キリッとした仕事モードの真由美だが一方通行はこれでも興味を示さない。すると一方通行の映った真由美の画面に新たな人影が現れる。茶髪で白人の男だった。

 

 

『これがこの時代の通信媒体というものか。失礼』

 

 

男が端末に触れた瞬間画面がブラックアウトし通信が途切れた。恐らく情報を制御されたのだろうと真由美は考え次の事態を予測しながらベッドに沈んだ。

 

 

***

 

 

「オイ、他人が話してる時は割り込ンじゃいけないって習わなかったのか」

 

 

ハンバーガーを全て飲み込みフレーラに言う。

 

 

「それについては謝罪しよう。しかし私は貴様の護衛を兼ねている。貴様の情報が漏洩する事を防ぐためには通信をこれ以上させない事が賢明と判断し先程の行為に走ったのである。潜入は今の貴様にしか出来ぬことなのだ」

 

 

一方通行は長々と話すフレーラに飽き始め大きな欠伸とともに少々の涙を流す。

 

 

「つまらん事を言ったな、今日はもう休むといい」

 

 

一方通行と真由美はほぼ同時に睡眠に入った。




フレーラの名付け元はアックアの魔法名です

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