【完】ACE COMBAT SW ‐The locus of Ribbon ‐ 作:skyfish
オレ「ブリタニアなら、英国面ならやってくれると思ったんだ! それに実在があるなんて考えてた当初知らなかった。悪くねぇ、俺は悪くねえ!」
1944年9月16日13:00
God save our gracious Queen,
(おお神よ我らが慈悲深き女王(国王)を守りたまへ)
Long live our noble Queen,
(我らが気高き女王(国王)よとこしへにあれ、)
God save the Queen:
(神よ女王(国王)を守りたまへ:)
Send her victorious,
(君に勝利を)
Happy and glorious,
(幸福を栄光をたまはせ)
Long to reign over us,
(御世の長からむことを:)
God save the Queen.
(神よ女王(国王)を守りたまへ)
―――歌声。
町は守られた。
ヨーロッパ大陸の最後の砦になってから約3年。長くネウロイの恐怖に怯えていた市民たちが母国の国家を歌っている。空には昨日戦った戦闘機とウィッチが飛んでいる。ブリタニアだけではない。ガリアのネウロイの巣が消え去ったという情報は各戦線へと伝わり、ここほどではないがお祭り騒ぎである。この大戦に希望が見えてきたことに皆が喜びを分かち合っていた。
ただそんなにうまい話ではない。ガリアにはまだ残存のネウロイが潜んでいる可能性があるため今後は上陸部隊を派遣して陸軍主体の作戦を展開する必要がある。
戦争が終わるのはまだまだ先。だがそれでもこの喜びに浸っていた。
「なんだこれはあああああああっ!?」
外とは正反対にロンドンのある場所では大声が響き渡っていた。声の主はベルツ―――レオナード・スウィントン大佐である。
「なんだってこんなふざけたものを建造したんだ海軍は!」
「は。なんでもネウロイの攻撃を受けずに陸上に部隊・補給物資を送るためだと……」
「確かに有効だろうな。だがこんなもの設計図だけで無理だと分かるだろう! かねがね思っていたが何故この国の軍人は可笑しな兵器を正式採用するのだ!? 空軍のデファイアント、陸軍のジャンピングタンク、海軍のインコンペアブル!!! また私の胃を痛くくすきか!? そもそも潜水艦の運用方法ではない!!!」
これまでブリタニア軍の珍兵器開発を止めてきたのは他でもないベルツだった。最初はデファイアント。気付いたときにはすでに100機近く生産され、ベルツ自身説得と他戦闘機の模擬戦を経て実用性が無いことを証明させ表舞台から退場させた。ジャンピングタンクは書類で正式採用したあとすぐにストップをかけて何とかなった。インコンペアブルにおいては把握するのが遅く、完成したときの能力を見た時紅茶をふいたらしい。今も昔も軍内で力が強いブリタニア海軍相手に説得するのは困難だった。だから「じゃあ実際に撃ってみろ」と言い、やってみたら反動で船が転覆した(もちろん無人の状態でやった)などなど……。兵器開発に失敗は付き物だと自覚しているが、ベルツにとって頭が痛い記憶である。
付け加えるとこれは氷山の一角に過ぎないことをここに記しておく。そして新たなページが刻まれる
「それになんだこのパンジャドラムと言う物は!?」
「ロケット推進式陸上爆雷だそうです。転がりながらネウロイに当てるとか」
「動く相手に無理だと何故気がつかん!」
海軍の裏を探るために調査を命令した部下からの報告書を机に叩きつけながらベルツは言う。海軍が建造していたもの。それは輸送型の大型潜水艦だった。扶桑陸軍の潜水艦『三式潜航輸送艇』を参考に建造した。簡単に言うならブリタニア版の三式潜航輸送艇らしい。だがその姿は親である三式潜航輸送艇とは似つかないものになってしまった。
原因は「補給物資だけじゃなく部隊も上陸できる強襲揚陸潜水艦てのはどう?」と三式潜航輸送艇本来の目的であった能力を創ろうと考えたそうだ。結果出来上がったのは元の2倍近い大きさになった。
全長約110m。幅15m
最大積載量:歩兵二個小隊分+M4シャーマン中戦車2輌+α(パンジャドラム1個)相当
エンジン:ディーゼルと魔導エンジン搭載のハイブリット型
速力:通常時(ディーゼルのみ) 水上12ノット
水中8ノット
上陸時(ハイブリット) 水上最高20ノットまで増速
概要:船体の3分の1がエンジン。陸上上陸時にハイブリット式のエンジンを使用するが消耗激しく一度動かしたら壊れる。つまり使い捨て。
「ガリアが解放された今もう用済みだろう」
「そうですね。開発者は残念がってました」
「よし海軍工廠を強行視察するぞ。2隻目を造られていたらたまらん。というか造ってい
たら怒る」
ガリアが解放されたと言っても仕事が減るわけじゃない。今やるべきことをしながら
ベルツは他の重要なことを考える。
(ウォーロック研究所からコアの大元を押収、破壊したから問題ないが逃走中の奴らが
問題だな。マロニー大将に一番抵抗していた者たちだ。なにも起きなければいいのだが…)
ベルツは知らない。その大元のネウロイコアから小さいコアが切り取られ持ちされて
たことに。
501基地
第501統合戦闘航空団“ストライクウィッチーズ”の達成目標であるガリア解放を成し遂げ、数日後に同隊は解散。彼女たちはそれぞれの場所へと離れることとなる。
彼女たちは知っている。まだ一つだけ終わっていないものがあることを。その鍵を握る人物はベッドの上で横になり、宮藤の治癒魔法を受けていた。
「………………」
ただ静かに、天井を眺めている。それはだんまりを決め込んでいるではなく、何から話せばいいのか分からないからだった。彼女の手元にはリーネが返してくれた三枚の写真。それを501の皆が見てこの場が騒然となったのはつい先ほどの事だ。その中に宮藤芳佳に似た女の子が映っていたことも。
「メビウスさん……もう隠しておくのは無理です。……話してもらえますか。貴方のことを」
「―――――ああ。そうだな。もう潮時か」
メビウス1はゆっくりと体を起こす。隣にいるスカイアイとメビウス8に視線を向ける。
2人とも無言で俺と目を交わす。どうやら、OKのようだ。
「写真に同じ男が写っているだろ」
「ああ」
「それが俺だ」
「は?」
「ISAF空軍第118戦術航空団メビウス中隊隊長メビウス1 ソラ・カザマ。男性、年は28……それが俺の正体だ」
メビウス1の言ったことに皆が驚く。男性? 今目の前にいる彼女(メビウス1)が本当は男だったのかと。それを捕捉する様にミーナと美緒が言う。
「メビウスさんのいう事は本当よ。だからあなた達とお風呂を同じにしないようにしていたの」
「私たちも最初は信じられなかったが事実だ。現にメビウスたちはズボンの上に何かしらを穿いているだろ? メビウスの世界で我々のズボンは下着だからだ」
下着と言う言葉が出た時皆の顔が少し赤くなった。いくら軍人とはいえ歳は二十歳も満たない少女だ。世界観が違うとはいえ、彼女たちのズボンが下着として見られている世界に迷い込んだらを想像しているのだろう。
「ということは、スカイアイとオメガも男?」
「そうだ。私の本名はギルバート・ナガブチ。男性、32歳。メビウス中隊の担当管制官についている」
「エドガー・リーデル。男性、36。前の部隊『オメガ隊』隊長、今はメビウス中隊の8番機だ」
「…………なんで女の体になってるの?」
「そんなの、こっちが聞きたい」
分からないとジェスチャーするスカイアイこと、ナガブチ。一応の理由を知っているメビウス1はあまりこの場を混乱させないため言わないことにした。
「俺とYellow13の関係を話すのに話さなくちゃいけないことがある。ユリシーズ。そして大陸戦争…………俺たちの世界の戦争のことを」
メビウス1はゆっくりと話し始めた。その内容は彼女たちにとってあまりにも強烈だった。
1999年7月3日に発生した小惑星1994XF04通称“ユリシーズ”の落下。大陸に降り注いだ隕石の破片で発生から2週間で50万人が死亡したこと。
「そのときに、家族を失った」
驚く皆を余所に、メビウス1は、言葉を続ける。
その後の経済恐慌と発生した難民問題。その激化により軍事大国だったエルジアが中立国サンサルバシオンに侵攻。同国砂漠地帯に建造された隕石迎撃砲を対空砲として軍事利用する。それに反発したユージア大陸の国家群は同盟としてISAFを結成する。大陸戦争の幕開けである。
「開戦から劣性。その勢いを止めることが出来ないまま、ユージア大陸全域をエルジアに占領された。残されたのは俺の故郷であるノースポイントのみ。先だって戦線に加わった前メビウス隊が全滅し、まだ学生だった自分たちも加わった。撤退戦の支援でメビウス隊は俺と相棒だけになった」
メビウス1はもう一枚の写真。男たちの集合写真を見てしゃべる。
「相棒と2人でなんとか勝利していたとき、奴が現れた。Yellow13―――エルジア空軍第156戦術戦闘航空団アクィラ……黄色中隊。次々に落とされる味方機。機体を軽くしても性能差が大きく逃げられない。俺と相棒は命令を無視して交戦に入った。味方の撤退する時間を稼ぐために。だが結果は―――」
あの時のことを、メビウス1は鮮明に脳裏に焼き付いている。
戦いにすらならなかった。向こうは高性能機に対し、こっちは処分手前だった旧式。戦闘経験など比べるでもないベテラン揃い。無様に追いかけ回され、逃げるのに必死になり後部座席の相棒に耳を傾けず、囮射撃に騙され被弾した。時間稼ぎは成功したが代償として、相棒が死んだ。
「あの時から複座に乗るのはやめた。もう俺のミスで誰かを死なせたくなかった」
ここで乗った癖に最悪だな俺は。とメビウス1は付け加えた。
「落ち込んでいる暇なんてなかった。その後も俺は戦い続けた」
エルジア無敵艦隊“エイギル艦隊”の撃滅。偵察衛星打ち上げ支援のためコモナ諸島上空での大空戦。大陸上陸部隊を支援したバンカーショット作戦。ストーンヘンジ再攻撃作戦、その後にやってきた黄色中隊と交戦し一機を落したこと。中立国サンサルバシオンの解放。ウィスキー回廊の大戦車戦。そして、エルジア首都ファーバンティ侵攻。
「その時には俺は敵から“リボン付きの死神”と呼ばれていた。上空にいるだけで味方の士気を上げ、敵を恐怖に震えあがらせる存在になっていた」
始まったファーバンティ侵攻。真っ赤な夕日を背に黄色の13と死闘を繰り広げた。
「戦闘で俺の撃った機銃が奴の右エンジンに当たり出火した。それで終わりかと思ったがYellow13はその状態で戦闘を続行した。正面から撃ち合ってあいつを落した」
本当にギリギリの戦いだった。双方ミサイル尽きた最後のヘッドオンからの機銃攻撃。双方同時に撃ち合い、双方風防が弾け飛んだ。30mm弾が自分の真横を通り過ぎたことを今でも覚えている。
「あの時、Yellow13を殺したと思っていた。だが、そうじゃなかったようだ」
視線をマルセイユの方へと向ける。
「あいつが、黄色の13がトブルクに現れたのは1942年10月。被弾した戦闘機に遭遇したのが始まりだった」
マルセイユが自身が知る黄色の13について話しはじめる。極秘事項になっているが、マルセイユがストライカーの不具合で九死に一生を得た翌日に起こった。突然の警報とレーダーに映る影。索敵範囲の内側から現れたそれをネウロイと見て出撃し、その姿に驚いたこと。トブルクの町に堕ちるそれが機体を上昇させ海に突っ込み、彼奴が脱出したこと。その後の黄色の13と第31統合戦闘飛行隊「アフリカ」の関係をマルセイユは話してくれた。
「3カ月。負傷して隻眼のハンデを近寄らせない。その間の彼奴のスコアは48。ネウロイに包囲されても生還する技量に教官としてやってもらおうと考えていた矢先に、トブルク南部500㎞に新たなネウロイの巣―――ストーンヘンジだって言ってた」
「何っ!?」
スカイアイたちの空気が変わる。マルセイユは一枚の写真を取りだす。そこに映っているのは、愛機の傍に立つ13の姿。
「なんでか直ってた機体で出撃して…………帰ってこなかった。分かったのは彼奴1人だけでネウロイの巣を破壊したってことだけ。それと渡さなくちゃいけないものがあるんだ」
マルセイユはポケットからあるものを取り出した。それは封筒。
「『もし俺と同じ奴がいたら、渡してくれ』って言っていた。サンサルバシオンの酒場の少年にだって」
「13が……?」
メビウス1はマルセイユから手紙を受け取る。封筒にはサンサルバシオンのとある住所、酒場『スカイキッド』と書かれていた。エルジアの占領下だったころ何かあったのだろう。
「………分かった。必ず渡しに行く」
封筒をしまう。それを見計らってミーナが全員に言う。
「はい。これからメビウスさん……いえ、カザマさんと宮藤さんの大事なお話があるから皆さん部屋から出てください」
「我々も出よう」
「そうだな」
スカイアイたちも部屋を出て、残るのはメビウス1と宮藤の2人だけになる。最初に切り出したのは芳佳だった。
「あの、その写真に写っている私にそっくりな人は」
「ああ。俺の妹だ……ユリシーズで跡形もなく吹っ飛んだ。親父もお袋も」
メビウス1は目を閉じ、思い出すように呟く。
「最初にここに来て宮藤の顔を見たとき思った「やっと、皆のところに逝ける」って。迎えに来てくれたとあの時は本気で思った」
「あの、1つ聞いてもいいですか?」
「うん?」
「何故私のことを名前で呼ばないんですか?」
芳佳の問いにメビウス1は言おうか言わないか迷ったがいう事にした。
「同じだったからだよ。ヨシカ・カザマ。それが妹の名だ。あいつとお前は違うんだって意識するためにずっと………」
メビウス1は右手で目を隠す。涙目になっているのを見せたくなかった。
「あいつら(マロニー一派)の協力を拒んだらお前たちが人質にされると思った。だからあいつらに協力するフリをしたんだ。お前が死んだら俺は……俺は………」
涙が頬を伝う。宮藤はそれをただ見つめることしかできなかった。
ミーナたちは格納庫にいた。メビウス1のF-22Aストライカーを出すためにだ。
「少し待っててください。偽装用のタイルを剥がしますんで」
隠し場所を知っているホーマーに任せる。その間に皆がスカイアイとメビウス8にそれとなく大陸戦争のことを聞いてくる。
「エルジアもISAFもどちらも大義名分があった。だが正義でもなかった。双方深い傷痕が残った。俺の場合隊員が俺を庇って死んだ」
「私はサンサルバシオン侵攻の折り、市街戦に巻き込まれ妻を失った」
さらに最悪なのはFCU軍の戦車の放った流れ弾が中ったのだから始末が悪い。侵攻で混乱していたとはいえあまりにも酷い結果だった。また、この戦車もこの戦闘で破壊され乗員死亡しているから憎もうにも憎めない。あれから2年経つが、娘の行方が分からない。休暇を取って探しているが見つからないのだ。
「見つかるといいですね」
「ああ……そう言ってもらえると助かる」
「いいですか? やりますよ」
準備ができたのかホーマーはレバーを下す。すると床が開き、下からF-22Aストライカーが出てきた。さながら空母のエレベーターの装置だ。
「なんでこんな装置があるんです?」
「あったら便利と思い造りました」
「私の記憶にないのは?」
「報告しなかったからです」
「後悔は」
「ありません!」
「……はあ。もういいわ。もう考えるの疲れてきました」
眉間にしわを寄せてミーナは言う。まあ、隠し通すことが出来たから今は良しとしよう。
「それで。例のネウロイは?」
「カレー上空に留まったままです。状況に変化なし」
メビウス1を待っている。ここからは私たちが介入できるものではない。メビウス1であるソラ・カザマ少佐しかできないことだ。
(でも、あの体で……)
今の彼女の体は危険な状態だ。それを言っているのに出るの一点張り。分からないわけではない。だがどうしても止めたいと思うミーナだった。
「この調子なら、メビウス1が出るのは18時ごろだな」
「今の時期は陽が長いから戦闘に支障はないだろう。18時か……これも運命なのか」
スカイアイは空を見る。9月、そして18時。奇しくもメビウス1と黄色の13が闘った“ファーバンティ包囲戦”と同じ時間帯だった。
同日 18:00
空が夕日で赤く染まる。その空をソラ・カザマ―――メビウス1が飛んでいる。F-22Aストライカーをはき、右手には手持ち用のM61機関砲、腰に扶桑刀を帯刀している。
(あのときと同じ風景か)
ファーバンティ上空で真っ赤な夕日を背にYellow13と戦った。あのときと同じ舞台で戦うことになるとは思わなかった。
「来たぞ。Yellow13」
カレー上空。そこに彼女は、否。黄色の13は佇んでいた。黄色中隊カラーのSu-37ストライカー。右手にはGSh-30-1機関砲。背中には聞いてた通り紅いサーベルを2つ背負っている。人が消えたかつての都市パ・ド・カレーに佇むその姿はさながら亡霊のようにも見えた。
「戦場じゃない空で、あんたと一緒に飛びたかった」
決して叶う事のない。けど一度願ってしまったこと。敵でないあんたと飛べたらどんなにすばらしかったのか。今ではもう分からない。と、はるか後方。基地上空で待機している皆から通信が入った。
≪こちらスカイアイだ。メビウス1。幸運を祈る≫
≪お前は1人じゃないぞ隊長≫
≪メビウスさん……御武運を≫
≪私と剣道でやりあったようにやれ! メビウス1!≫
≪やられたら承知しないからな!≫
≪それ応援になってないよ……がんばってねメビウス≫
≪黄色の13 リボン付き 悔いのない戦いを。私はここで見守るからな≫
≪メビウスさん。どうか御無事で≫
≪まあ、頑張ってコイ≫
≪メビウス少佐。貴方の勝利を祈ります≫
≪メビウスさん。あの、その……頑張ってください!≫
≪どんなケガも治します。だから、帰ってきてください。必ず≫
「……あぁ、必ずな」
それだけ言って、メビウス1は気持ちを固める。
全力をもってYellow13の相手をする。
ISAF空軍第118戦術航空団メビウス中隊隊長メビウス1として
リボン付きの死神として
「メビウス1、
メビウス1と黄色の13は同時にバーナーを吹かし、すれ違う。
ユージア大陸の空でぶつかり合った2人は、異世界の空で再び激突する。
メビウス1 またの名を”リボン付きの死神”
黄色の13 またの名を”エルジアの大鷲”
宿命のライバルである2人の決闘が今、始まった。