【完】ACE COMBAT SW ‐The locus of Ribbon ‐ 作:skyfish
皆様に受けいられるかどうかわかりませんが21話です
楽しんでいただけたらうれしいです
それではどうぞ
ストライカーを履いた状態での水泳訓練がつい先ほど終わった。体力が残っている者は海水浴を楽しみ、砂浜で日光浴を楽しんでいる。
一方、岩陰の裏側
「(自主規制)(自主規制)(自主規制)」
盛大に何かをぶちまける音が響く。岩の表側では5本くらいの水筒を用意した宮藤がいる。
「だいじょうぶですかーー?」
「………あと2本投げてください」
「じゃあいきますよー? はい!」
宮藤は水筒を岩のうら側へと投げる。そのあとボトルが開く音と水を飲む音が岩越しでも分かるくらい大きく聞こえてくる。
「うう、まずい、しょっぱい、にがい、気持ち悪い―――うっ!? (自主規制)(自主規制)(自主規制)」
岩の裏側にいるのはメビウス1だ。海に放り投げられ溺れながら陸に進み、息がやばくなったら必死に浮いて空気を吸い込み、また溺れながら進みを繰り返しなんとか砂浜に辿り着いた。
しかし、海水を大量に飲んでしまいこのザマである。
数分後、砂を埋める音が聞こえ、メビウス1が岩陰から出てきた。でもその顔はかなりゲンナリとしていた。
「基地にもどって……寝る」
「付き添いますか?」
「大丈夫。ガキじゃないし」
メビウス1は水筒片手に砂浜を後にした。道中、自分の部屋まで戻るの面倒だな~と思っていた。どうしよっかな~と思ってたときにファントムⅡが目に入る。
「ま、大丈夫でしょ」
戦時中いつでも発進できるように自分の機体の傍で寝ることも多かった。よし、と決めた彼女は格納庫に置いてあるファントムⅡの主翼に座り込み背中を預ける様に寝た。
それから数十分後。基地の警報が鳴り響いた。ネウロイ襲来を知らせる音が木霊する。そんな中先ほどの訓練の疲労が溜まっていたせいか、いつもならすぐに飛び上がるメビウス1はなかなか起きなかった。
「…………………うるさぃ」
寝ぼけているのかサイレンを目覚まし時計の音と勘違いし止めようと手を伸ばす。次第に体が傾いていき――
「いだっ!」
主翼から落っこちた。
「いたた…て、警報鳴ってるじゃない」
慌てて立ち上がりハンガーを出る。格納庫1つ離れたところに皆が集まっていた。メビウス1もそれに急いで加わる。
「敵は?」
「超高速型が一機よ。でもあなたには遅い相手かも」
「現在シャーリーが先行、遅れて宮藤とリーネが向かっている」
美緒は地図を広げそこにネウロイの今までの進路と予測進路を書いていく。その線上には首都ロンドン。
「やはり首都が狙いか」
「しかも相手は超高速型。一撃離脱の拠点爆撃でもするつもりか?」
「やつらにそんな知性があるとは思えない。だがスピード勝負なのは確かだ」
「聞こえるかシャーリー! お前のスピードを見せてやれ!」
≪了解!≫
シャーリーの声が通信越しに聞こえてくる。勝敗のカギは彼女の手にかかった。
「私も準備しておきます。少し心配ですがファントムⅡで待機します」
「らぷたに乗らないのか?」
「……………相棒には悪いけど、今日は乗りたくない」
先ほどの訓練のことを思い出し変な汗をかいているメビウスを見てミーナは、結構トラウマになってるのね……とそっと呟いた。小走りでF-4Eが駐機してあるハンガーに入る。かけてあるパイロットスーツを着る。と、何やら慌てた様子でバルクホルンが走ってきた。
「大変だ! リベリアンのやつ壊れた機体で出撃したんだ!」
「は?……はあ!? 整備班は何してたの!」
「それが整備し終えたやつをルッキーニが壊したそうだ」
あのお転婆娘は何してんだ! と心の中で叫ぶ。とにかくまずいことになった。今のシャーリーの機体はいつ止まってもおかしくない状況だ。整備不良の機体では生き残ることなんてできない!
「だったらすぐに呼び戻して」
「今やっているが通信が繋がらないんだ」
こんなときに! と思いながら思わず舌打ちをする。
敵は超高速型。シャーリーの機体だと追いつける。だけどそのシャーリーの機体が壊れかけている。後続の宮藤とリーネだとスピードが足りない。このままでは首都は壊滅してしまう。
答えは一つしかなかった。
「俺がすぐに出る。ハンガーのシャッター開けろ!」
急いでパイロットスーツに着替え、コックピットに乗り込む。ファントムⅡを起動させる。その間にハンガーのシャッターが開いた。眩しい光が中に入ってくる。
「各部異常なし。エンジンは……今は問題なし。って、おいおいおい待て待て。なんでそれ着てんだ。そしてなんで乗り込むんだバルクホルン」
機器のチェックを進めている途中何かが乗り込む揺れがあったから後ろを確認すると、そこにはパイロットスーツを着込んだバルクホルンが座っていた。
「これは二人乗りなのだろう? なら私も同行したほうがいいはずだ!」
バッと手に持つものを私に見せてくる。それは以前私がシャーリーに渡したフライトマニュアルだった。なんであなたが持ってるの、と思いながらこんな無駄なことに時間を潰している暇はないと自身を律する。
「あ~もう分かりました! でもこれだけは言わせて」
「なんだ?」
「吐くなよ」
「誰が吐くか!」
メビウス1は前席を降りて後部席のバルクホルンのスーツの着込み、ヘルメットとマスクの装着、シートベルトを着ける。最後にメビウス1は言った。
「足元に赤いレバーがあるでしょう。それは脱出用のレバーよ。それを引けば緊急時に機体から脱出できるわ」
「風防は開けなくていいのか?」
「それ引いたときにキャノピーが吹っ飛ぶから大丈夫よ。でも体は曲げないでね。でないと骨折するから」
緊急時のことを考えてバルクホルンに脱出の手順を説明する。一通り終えた後自身も機体に乗り込みキャノピーを閉めた。機器の最終チェックを済ませ機体をハンガーから出す。
「こちらメビウス1、これよりバルクホルンと共にシャーリーを追う。彼女に連絡後は敵の追撃に移行する」
≪お願いします。二人とも気を付けて≫
「メビウス1、了解」
「ああ、任せえてくれミーナ」
短い会話で済ませる。F-4Eは滑走路へと移動する。
「メビウス1。これより離陸する」
エンジンを回し、機体を上昇させる。十分な高度まで上がり管制塔につなげる。
「管制塔。敵の位置を教えてくれ」
≪敵は現在ここから方位020の方角にいます。進路からして北海を目指しているようです。その後方にイェーガー大尉。その後ろに宮藤軍曹とリーネ軍曹が追っています≫
「了解した。いくぞバルクホルン」
「了解」
機首を方位020に向ける。今回はエンジンの調子も考えてアフターバーナーは使えない。しかし音速をギリギリ超えない遷音速で急ぐ。
「レーダーに感。手前に2つ。その先に1つ」
バルクホルンの知らせを聞いて機体を少し傾けて下を見る。自分たちの下方およそ1000メートル下を飛んでいた宮藤とリーネを追い越した。いや、それよりも
「ちょっと待て。なんで水着なんだ」
自分たちは戦争をしているのにあまりにも場違いな格好をしていたので頭を痛める。彼女たちを追い越して先に進む。
「レーダーだとそろそろシャーリーに追いつくぞ」
「あいつを探してくれ。俺も探す」
機体を減速させてメビウス1とバルクホルンはそれぞれの視点でシャーリーを探す。が、なかなか見つからない。ということは雲の中かその下を飛んでいるのだろうか? そう思い機体を傾かせて下を見る。
「メビウスあそこだ。私たちより前方」
バルクホルンがシャーリーを見つけたようだ。そちらを見ると小さいが人が高速で空を飛んでいる。
「確認した。通信は繋がるか?」
「シャーリー聞こえるか? 返事しろ! ≪ガガガッ、ザザ≫ くそ、だめだ」
「接近すればどうにかなるはずだ」
操縦桿を操作して、今も加速を続けているシャーリーの隣に着けるように機体を加速させる。
(なんだか速いな。時速800㎞を超えている…?)
シャーリーを見ながらメビウス1はふと思った。明らかに彼女のスピードはいつも見る速さでないからだ。HUDを確認する。自身の今の速さは時速1000㎞。………1000!?
「あいつどんだけ無茶してんだ!?」
「どうしたメビウス。何があった?」
思わず大声を上げていた。今自分たちはシャーリーと並走している。だからF-4Eとシャーリーは同じ速度で飛んでいるということだ。そして、その速度はすでにシャーリーの機体P-51Dムスタングの限界を大きく超えている。どうやったらそんなことできるのか知らないがこれではいつ空中分解してもおかしくない。
「早くシャーリーを止めるんだ。あいつのストライカーいつ壊れてもおかしくないぞ!」
「なんだって!? おい! リベリアン! 聞こえたら応答しろ!」
バルクホルンが怒鳴りつける。しばらくのあとこちらに気付いたのか顔を振り向かせた。
ものすごい笑顔で
≪あれ? なんでそれで来てるんだ?≫
「よく聞けシャーリー。お前のストライカーだが≪それよりもさメビウス≫なんだ?」
シャーリーが何か言いたげだったのでメビウス1は聞いてやることにした。あとになって思う。あの時自分はシャーリーに強引にでも基地に帰るように言っとけばよかった、と。
≪私。今日は行ける気がする!≫
「なにが?」
≪音速の世界さ!≫
「「…………は?」」
いきなりそんなこと言われてメビウス1とバルクホルンは共に言葉を失う。ただメビウス1はこのあと彼女がとる行動を今までの彼女から考察し、彼女を止めようとする。が、あまりにも遅すぎた。
「待てシャーリー! お前の機体は」
≪見ててくれよ? イッケーーーーー!!!≫
メビウス1の制止を聞かずシャーリーは自身のストライカーに魔力をありったけ注ぎ込む。その瞬間、ボッ! という音と鈍い振動が伝わってくる。シャーリーは傘状の雲を造りだし、メビウス1とバルクホルンが乗るF-4EファントムⅡを易々と超える速さで行ってしまった。
「なんだ? なにが起こった?」
状況の理解が追いつかないバルクホルン。そんな彼女にメビウス1はしゃべり始めた。
「あいつ………本当に音速を超えやがった」
「ほんとうかそれは?」
「ああ。間違いない」
何より加速する瞬間に彼女を包み込んだ雲。音速を超えたこと発生するソニックブームをハッキリと見ていた。まさか本当に音速を超えるとは思わなかった。魔法を使っているとはいえ、レシプロ機がモデルのストライカーで音速を超えたことに少しの間ボーっとしていたがすぐに現実に戻った。
「は! こうしている場合じゃなかった。追うぞ。あいつの機体、絶対壊れる」
「な、そんなにまずい状態なのか!?」
「ストライカーの強度は音速用ではない。もしそれで無理にスピード出したら……」
強度が足りずに空中分解する。そのことにバルクホルンはぞっとする。今のあいつは自分で自分の首を絞めているのと変わらないのだ。
「急ぐぞメビウス! あのバカを止めるぞ!」
「了解だ。加速して―――ん?」
前方になにやら点が見えた。それは空中を舞っている。少なくともネウロイではない。なんだ? そう思い、やけに小さいなにかを凝視する。
それは音速突破したことにより剥がれ落ちたストライカーの装甲の一部。
「やっべ!!!」
「うわ!? どうしたいきなり」
急いで機体の向きを変えようと動かす。だがその努力もむなしく。鉄屑はF-4Eの左エアインテークへと吸い込まれた。瞬間、内部から ガガガガガガガギギギ!!! と鉄同士がぶつかりあい、擦れ、傷つき、引き裂かれる音が響く。コックピットではアラートがけたたましく鳴り響いた。
「なんだ!?」
「左のエアインテークにゴミが入った! 左エンジン停止!」
「脱出するか!?」
「いや、まだ右エンジンは生きているから問題ない。自力で基地に戻れる。それよりもシャーリーと連絡は?」
「今やっている! 聞こえるかシャーリー。基地に戻れ!」
バルクホルンは繰り返しシャーリーに言う。しかし
≪ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!≫
明らかに自分の世界に入っている彼女に対しメビウス1とバルクホルンは
「「人の話を聞けえぇぇーーーーー!!!!!!」」
怒り交じりでマイクに怒鳴った。どうにかして彼女に追いつきたいが今の状態では無理だ。悔しいが諦めるしかない。
「あとは宮藤たちに任せるしかない。ミーナきこえるか。エンジントラブルにより帰投する」
≪大丈夫なの?≫
「問題ない。あとは宮藤たちに任せる」
≪分かりました。宮藤さん、リーネさんあとはお願い≫
≪了解!≫
シャーリーのことは宮藤たちに任せて自分たちは基地に戻った。
その後、音速を突破したシャーリーはネウロイに突っ込みネウロイは破壊。しかしその衝撃で気絶してしまうがあとから来た宮藤たちに助けられた。メビウス1とバルクホルンが乗るF-4EファントムⅡは無事に基地に帰還することができた。
すべて一件落着! と思いたいのだが、扶桑酒を飲むメビウス1はまったく思っていなかった。
「今日の飛行で気を付ければあと2~3回飛べると思ったのに、シャーリーの機体の破片吸い込んだせいでエンジンがイカレテしまったのよ。たしかに整備できない以上どんどん消耗して動けなくなるけど、だからといってこんなことでダメになるなんて。それにシャーリーもシャーリーです! 彼女は少し自重してほしいと言いますか……………」
今日は珍しくメビウスのほうが酔っている。彼女は先ほどからずっとマシンガントークでいろいろとしゃべっていた。その後眠ってしまったメビウス1にバルクホルンは眠った彼女に毛布を掛けた。
「眠てしまったな」
「ええ。まさか彼女が酔うなんて思わなかったけどね」
「壊れたあの機体はどうする? そのままにするのも邪魔なだけだぞ」
「それはメビウスさんに聞かないと分からないわ」
今日でF-4Eが飛べなくなりその後どうするか明日にしようとミーナたちは話した。その間メビウス1の夢の中
『うう。不本意とはいえ借りていた奴を壊しちまった。どうすれば………』
目が覚めるまでずっと頭を痛めていた。
メビウス1とは対照的にシャーリーはとてもつやつやした顔で安らかに眠っていた。
いかがでしたでしょうか?
最初は整備不良によるエンジントラブル→基地までの帰還は困難と判断、イジェクトして機体を海に捨てるという予定でしたが、変更しました。とくに理由はありません
最後まで読んでいただきありがとうございました