北方の白き少女 Heart of the admiral   作:ハルバーの懐刀

9 / 25
さらに登場キャラが増えます。明確に名前を出していないですが、解りますかね?



No.09 ダレカウワサシタ?

07:00(まるななまるまる)

 

トラック鎮守府にある工廠前の広場。

山岸提督の前に、大和を中心に時雨、白露、扶桑姉妹、二航戦の2人、第六駆逐隊の4人が整列していた。

 

そんな彼女らの元へ、工廠の出入り口から桃色の長髪をした女性が走ってくる。

 

彼女は艦艇の修理や艤装の改装を担当する工作艦“明石”

艦娘たちの命とも言える艤装を支えるこの鎮守府で欠かせない存在だ。

 

「遅れました! 申し訳ありません!!」

「5分前集合だけど、ちょうど時間だから問題ないわ」

 

山岸は持っていた懐中時計を上服に付いている右側の横腹ポケットに入れる。

彼女の左隣へ明石が慌てて並び立った。

 

「では、本日の予定を伝えるわ」

 

山岸は集まった艦娘たちを再度見回して、今日の予定を彼女らに言い渡す。

 

「大和を旗艦とした第2艦隊は、輸送担当の第3艦隊を護衛せよ」

「「「「「「了解っ!」」」」」」

 

大和、扶桑、山城、蒼龍、飛龍、白露がその場で敬礼した。

 

「残る第3艦隊となる時雨と暁たちは、明石を旗艦にし、彼女の物資を例の島まで輸送せよ」

「「「「「了解(なのです)っ!」」」」」

 

時雨、暁、響、雷、電がしっかりと敬礼した。

彼女らに指示を与えた山岸は、左側に居る明石の方へ振り向く。

 

「明石、頼んだわよ」

「お任せください!」

 

工作艦は元気よく敬礼し、すぐにその場から工廠へと戻っていった。

 

 

 

 

 

08:00(まるはちまるまる)

 

島の貨物船内部にある船室にて。

 

「スゥゥゥピー・・・」

『ザザ・・・』

「フワッ!?」

 

寝息を立てる白き少女の傍にあった無線機が鳴り出した。

その音ですぐに覚醒した彼女は、仰向けのまま足で蹴って移動する。

 

「ンショ、ンショ、ン、アイタッ」

 

少女は頭から進んでいたため、無線機に衝突してしまう。

彼女は頭の当てた部分を摩り、起き上がってから無線機を操作した。

 

『・・・ッポちゃん!・・・ますか?』

「ヤマト?」

『もうすぐ・・・まに到着し・・・』

「モウ、ソンナジカン!?」

 

白き少女は急いで立ち上がり、部屋の窓から飛び出る。

 

「トウッ!!」

 

彼女が入り江に向かって飛び込んだ瞬間、その着地する海上にはすでに艦娘たちが到着していた。

そして、少女が着地する地点には・・・・・・駆逐艦“電”が立っていた。

 

「はわわわっ!?」

「イナヅマッ! ドイ・・・」

「「フギャアアッ!!」」

 

ダイナミックに激突した2人はその衝撃で気絶してしまう。

仰け反るように倒れる少女たちは、海面で仰向け状態のまま浮かんでいた。

 

「ホ、ホッポちゃん! 電ちゃん!」

「ちょっと、何やってるのよ!?」

「ハラショー」

「まさに雷の如く・・・って、私じゃない!!」

 

大和と暁が倒れた2人の元へ駆け寄り、響と雷を含めた他の艦娘たちは呆然と見ていた。

 

 

 

 

 

砂浜の日陰で座る北方棲姫と電の額にバッテンの絆創膏が張られる。

周りには傘を持つ大和と残りの駆逐艦たちが集まっていた。

扶桑姉妹と二航戦の4人は島の周辺を見回っている。

 

「ゴメン、イナヅマ」

「いえ・・・電が避けなかったのも悪いのです」

 

互いに謝罪し合っていると、明石がある物を抱えてやって来た。

彼女が手に持つそれは白い靴だった。

 

「初めまして、ホッポちゃん。明石と申します」

「アカシ? ハ、ハジメマシテ」

「提督から話は聞きました。まずは、これを履いてみて」

 

明石は手にした白い靴を少女の前に差し出す。

彼女はその靴を手に取り、自身の素足に履かせた。

 

「オオー!?」

「どうかしら?」

「ピッタリ! ハキゴコチイイ!!」

 

白き少女はその場で立ち上がり、2,3回足踏みをする。

 

「ご満足いただけたようね。元は第六駆逐隊の予備でもある艤装の靴だけど、少し改良してから白く塗装したものよ」

「電たちとお揃いなのです!?」

「オソロイダッ!」

「海上を航行するだけでなく、海中に潜っても問題ないわ」

「タメシテミル!」

 

彼女はそう言って、入り江の浅瀬へと走り向かう。

その海上を優雅に航行し、潜れる場所の海面へ勢いよくダイブした。

少女は今までの移動に支障がなく、海中へ潜っても水が入らない靴に驚く。

 

(もう痛い思いをしなくて済む・・・)

 

再び海上へ浮かび上がってから、大声で明石に向かって叫んだ。

 

「アカシー! アリガトウー!!」

「どういたしましてー!」

 

お礼を言われた工作艦は嬉しそうに手を振る。

 

「さて! 早速作業を始めるとしますか!」

 

 

 

 

 

明石を含めた艦隊が島へ来た目的。

 

それは山岸提督が北方棲姫にお礼として、何か欲しいものがないか聞いたことが始まりだった。

 

 

まず一つ目は、彼女はずっと素足だったことで、少々痛い思いをした経験があった。

そのため、海を走り、潜っても問題のない靴を欲しがった。

 

これは鎮守府に居た明石の技術ですぐに開発できた。

 

 

次に求めたものが、貨物船への出入りが楽にならないか、である。

 

提督たちも少女の手作りエレベーターに驚いたが、不安定さと一人ずつという問題が明らかとなった。

そのことを明石に相談してみると、島へ昇降機を持っていく提案を出してきたのだ。

 

結果、明石たちは組み立て式の昇降機を島まで輸送することになった。

彼女の徹夜してまで作ったそれは鎮守府の資材が使われている。

 

 

大和と北方棲姫が見守る中、貨物船の右側で明石と駆逐艦たちが作業を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、トラック鎮守府内の執務室では・・・。

 

「助かるわ。金剛」

「YES! 里子ぉー! これぐらいノープロブレムデース!」

 

高速戦艦の金剛が山岸の書類整理を手伝っていた。

 

「それにしても、長門はどうしたのネー?」

「あの娘は昨日から寝込んでいるわ・・・」

「ほ、Why? ど、どういうことデース?」

 

彼女の質問に山岸はため息を吐くかのように答える。

 

「いつもの病気よ・・・」

「あ、I see(なるほど)・・・」

 

秘書艦“長門”は先日の出来事から立ち直れず、仕事を終えてから不貞寝し続けた。

時節、唸るような泣き声が部屋から聞こえてきたと、隣部屋の扶桑姉妹が文句を呟いていた。

 

「そ、それより、里子ぉー! さっきNewfaceが登場したと連絡があったデース!」

「そうだった!・・・それに彼女らもやって来る頃だわ」

 

山岸は慌てて机に散らばった書類を片付け始める。

 

「金剛、冷たい麦茶を3つ用意して!」

「了解デース!」

 

 

 

「里子提督、新しい艦をお連れしました」

 

数分後、執務室に榛名が3人の艦娘たちを引き連れてやって来た。

 

 

1人目は、黒髪の長いポニーテールをし、白手袋に白のセーラー服と赤いスカートを纏う長身の女性。

 

2人目は、黒髪のショートヘアーで左目に眼帯と頭部左右に龍角のような艤装が付いている。

服装は黒服に短いスカートと黒いニーソックスを履いた姉御な女性。

 

3人目は、紫がかった黒のセミロングヘアーで、頭上に天使の輪のような艤装が浮いていた。

服も2人目と似た黒服だが、胸元辺りのみ白く装飾され、手元は黒い手袋、足は靴以外何も履いていない。

 

 

彼女らは机に座る山岸提督に敬礼をした。

 

「軽巡矢矧、着任したわ。提督、最後まで頑張っていきましょう!」

「横須賀から来たぜ。オレの名は天龍。フフフ、怖いか?」

「天龍ちゃんと同じく横須賀鎮守府から転属されました。龍田だよ」

 

3人がそう自己紹介をすると、山岸も立ち上がって挨拶する。

 

「ようこそ、トラック鎮守府へ。この最前線で指揮する山岸 里子よ。階級は中佐。里子と呼んでもらっても構わないわ」

 

お互いの挨拶が終わった後、金剛がお盆に乗せた麦茶を持ってやって来た。

 

「どうぞー、よくひえ~・・・じゃなかった。冷えてるデース」

「ありがたいわ」

「おぅ! もらっとくぜ」

「あら~ありがとう♪」

 

3人は受け取った麦茶を飲み始める。

その間に、彼女らは山岸からこの鎮守府での主な活動や規律の説明を受けた。

 

 

 

麦茶を飲み終える頃に、山岸からの説明が終了する。

金剛が空になったコップを受け取り、執務室のドアから退室していった。

 

「大体の説明はこれで終わり。では、早速だけどあなた達には出撃してもらうわ」

「おおっ! そう来なくっちゃな!」

「了解! 軽巡矢矧、いつでも出撃します!」

「あら~お早い出撃ですね」

 

士気が高まる軽巡洋艦の3人。

山岸は左側で立っていた榛名に目を向ける。

 

「榛名、龍驤と彼女らを連れて例の島へ。旗艦はあなたでいいわ」

「はい! 榛名! いざ、出撃します!」

「例の島、とは?」

 

矢矧が山岸の言葉に疑問の声を上げた。

他の2人も同じ気持ちらしく、そんな彼女らに山岸が答える。

 

「この鎮守府の重要な機密よ。着任したあなた達にも共有してもらう必要がある」

「重要・・・」

「機密~?」

 

天龍と龍田が真剣な表情で山岸の言った言葉を連呼する。

 

「無論、これは他の鎮守府や大本営などに口外しないように・・・すればこの鎮守府が危機に晒されるわ」

「「「・・・」」」

「そんなに身構えなくても大丈夫よ。ただそこにあるものを見てくるだけでいいわ」

「「「あるもの?」」」

「さ、さぁ、御三方! こちらへ付いて来てください!」

 

未だに理解できない3人を榛名が少々強引に引き連れていった。

 

 

 

 

 

例の島では・・・。

 

「よし! できた!」

 

明石が満足げな表情で貨物船の右隣に設置したものを見つめる。

 

そこには菱形で収縮する機構“パンタグラフ式”の昇降機が出来上がっていた。

全体が緑色の錆止めペンキで塗装され、上部の昇降台には開閉できる箇所がある手摺りが付いている。

土台である下部には燃料で動く発電機と操作パネルが設置され、上がる床の方にも操作パネルが付けられていた。

 

「オオー!?」

「流石、明石さん」

 

木陰に座っていた北方棲姫と大和が出来上がった昇降機を見に来る。

白露、時雨、第六駆逐隊の四姉妹は作業終了後に休憩を取り寛いでいた。

 

「ふっふー、あたしの一番のおかげだよね!」

「そ、そうだね。姉さん」

「ちょ・・・レディーもちゃんと手伝ったわよ!」

「私も手伝った」

「私もいるじゃない!」

「電も手伝ったのです!」

 

抗議の声を上げる暁姉妹を余所に、白き少女と戦艦の艦娘が昇降機の横に付けられた梯子で昇降台へと上がる。

明石が操作パネルに手を置き、昇降台に乗った2人に声を掛けた。

 

「船の半分の高さまで上げるから、その後はそっちの方で操作を試してみて下さい」

「分かったわ」

「リョーカイ!」

 

明石が操作パネルの電源稼働ボタンを押し、昇降機の稼働音を響かせる。

そのまま彼女は横にある▲ボタンを押して、2人が乗る昇降台を上げていった。

 

「アガッタ、アガッタ」

「飛び跳ねると危ないですよ」

 

明石は昇降台を貨物船の半分辺りまで上げてから停止させる。

停まったことを確認した少女が操作パネルの▲ボタンをゆっくりと押した。

 

「ヤマト、カンパンノイチ、オシエテ」

「もう少しよ・・・・・・そこで止めて!」

「ハイッ!」

 

2人の掛け合いにより、昇降台が甲板のある位置からちょうどいい高さで停まった。

白き少女が手摺りから乗り上げて、下にいる明石たちを覗き見る。

 

「ツイタヨー!」

「ホッポちゃん! 危な・・・」

「アッ・・・」

 

バランスを崩した少女が手摺りを乗り越えて、白髪の頭から落ちてしまう。

 

「「「「「ホッポちゃん!?」」」」」

「テイッ!」

 

大和たちが叫ぶ中、白き少女は咄嗟に艤装を展開させて、左側のクレーンを昇降台の手摺りに引っ掛ける。

 

「ウグッ!?」

 

少女の身体は後ろ腰から吊り下がるように地面から1m位の高さで止まった。

彼女が無事だったことに、その場に居た艦娘たちが胸を撫で下ろす。

 

「フウ・・・・・・ンゥ?」

 

白き少女は艦娘たちが頬を赤らめていることに感付く。

彼女がその理由を聞こうとしたとき、上に居た大和から声が届いた。

 

「ホ、ホッポちゃん! お尻! お尻が!!」

「オシリ? オシ・・・リッ!?」

 

少女はそこで今まで気付かなかった事実を知ることとなる。

艤装を出す際、お尻辺りから現れることは感覚で知っていた。

しかし、実際はお尻と腰の間辺りからで、服の中から出現していたのだ。

そのため、彼女のスカート後ろが捲れ上がり、黒のヒモパンツが“丸見え”となる。

 

「あたしより、大人なパンツだと・・・?」

「いい下着だね。僕も履いてみたいよ」

「レ、レディーより、一人前の下着を・・・」

「ハラショー♪」

「アダルトだわ!」

「い、電も本気を出せば・・・」

「ほうほう、興味深いパン・・・もとい艤装ですね」

 

下にいた艦娘だけでなく、上から見下ろす大和も顔を隠すように両手を当てていた。

 

「ミ、ミルナ――――――ッ!!」

 

白き少女は左ポケットから空のヤシの実を取り出して、見続ける艦娘たちに投げ付けた。

 

 

 

 

 

榛名たちの出撃後、執務室では山岸と金剛がゆったりと紅茶を飲んでいた。

紅茶は金剛が用意したものだ。

 

「仕事の後のTea Timeは最高デース!」

「そうね。ようやく軽巡の艦娘も来てくれたことだし・・・」

「横須賀の天龍と龍田は期限付きだと聞いたネー」

「しばらくの間よ。前の鬼級を倒した報酬でもあるわ。あとは・・・」

 

和やかに話す金剛の通信から緊急の連絡が入った。

 

『金剛姉さま! 聞こえますか!?』

「榛名? どうしたデース?」

『先程、パラオ所属の連絡船とすれ違いました!』

「パラオの連絡船!? Shit!!」

「!?」

 

金剛の言葉に、山岸提督が険しい表情で後方にあった放送端末を操作する。

 

「全艦に告ぐ。1Sを発動」

 

彼女はその言葉を放送し、金剛の方へ振り向いた。

 

「里子ぉ・・・」

「さて・・・あの引き籠りが動いたか。どういう風の吹き回しかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トラック鎮守府の執務室に異様な空気が漂う。

 

山岸は腕を組んで机に座り、その左隣に金剛が無表情で立っていた。

 

 

 

彼女らと対面するように立っている人物。

 

白い軍服姿で帽子も被っている若い男性。

その顔は見ただけでイラつく程のにやけた顔をしている。

左頬には白いガーゼが張られていた。

 

 

 

彼の右隣には、秘書艦であろう艦娘が一人いた。

 

桃色のセミロングにゴムでポニーテールをした髪型の少女。

白い手袋と白のカッターシャツに黒いブレザーベストが羽織られ、黒のスカートと鼠色なソックスという容姿。

 

彼女は陽炎型2番艦の駆逐艦“不知火”である。

 

 

 

「久々だね。里子提督・・・」

「山岸よ・・・下の名前を許可した覚えはないわ」

「これは失敬・・・いつもの如く手厳しいな」

 

山岸は彼に対して、トゲのある言葉を飛ばす。

 

「それで・・・この鎮守府へは、何しに来たのかしら? パラオ鎮守府の“久留井 壮太”(くるい そうた)少佐?」

 

彼女がそう質問すると、男性提督は帽子のつばを右手で持ち上げた。

 

「以前に君の艦隊が、我が艦隊の護衛任務に助力していただいたことがあったね」

「助力ではなく、救援に駆け付けただけよ」

「まぁ、そうとも言うね。それで我が艦である朝潮があることを呟いていたのを聞いてね」

「あること?」

「黒い球体が浮いていた・・・というのをね」

 

それを聞いた里子は何も動じずに、首を傾げる仕草をする。

 

「何よそれ? あなたまた危ない薬でも手を出したの?」

「なっ、何を言う! い・・・い、いや、俺は薬物になぞ手は出していない」

 

何やら焦る久留井の身振りに、彼女は気にせず話を続けた。

 

「ふ~ん・・・っで? あなたの見た幻覚がどうしたの?」

「だから幻覚じゃなくてっ! 朝潮が見た敵らしきものだ!」

「それがどうしたのよ?」

「そいつについて、何か情報は知らないかね?」

 

山岸は彼の質問の内容に疑問を抱き始める。

まるで本音は別にあるかのような問い掛けに思えたからだ。

 

「知らないわよ。調べたければ、大本営にでも行きなさい」

「俺はそちらへ行けない立場なのでね」

「一応事情は知っているわよ。引き籠りさん♪」

「・・・」

 

痛いところを突かれたのか、ぐうの音も出なくなる久留井。

そんな彼が別の話を切り出してくる。

 

「そういえば最近、君のところでは資材の備蓄が増えたかね?」

「スケベ」

「なっ、なんでそうなる!?」

「人の職場を覗こうとしたからでしょう? 後で憲兵隊に報告するわ」

「ま、ま、ま、ま、待て!話を聞け!」

 

右手を出して止めようとする彼が話を続けた。

 

「君の所にはあの大和すらいるのだ。そんな艦娘が何度も出撃すれば、資材も赤字になるはず・・・なのに供給先での資材の確保量は今までと同じだ」

「だから?」

「別の収入源を・・・君は見つけたんじゃないのか?」

「・・・」

 

その質問に、彼女はため息を吐いて、組んだ両手を机に置く。

 

「おこぼれが欲しいのなら、上に言いなさいな。前に貰った手紙もそうだけど、私に言っても分け与えるつもりは一切無いわよ」

「そうじゃない。その収入源を・・・」

「ここはあなたの居る場所と違って、過酷な最前線。引き籠りのお坊ちゃまと相手する余裕はないのよ?」

「アレを見つけたんじゃないのか!?」

 

彼の怒りの言葉に一瞬だけ室内が静まり返る。

しばらくして、山岸が机に置いていた手を膝へ戻した。

 

「アレって言われても分からないわ」

「松尾少将が所有していた貨物船だ! あの行方不明だった船を見つけたんだろう!?」

「元少将の横領物なんて、腐ってるから間違っても探したくないわ」

「資材を積んだ船だぞ! 腐ってる訳が・・・」

「とにかく、知らないものを聞かれても意味がない。用事が済んだらお帰り願うわ」

「くっ・・・」

 

久留井は一度歯を噛みしめた後、ドアのある右側へ振り向く。

 

「戦艦の多い鎮守府は羨ましいね」

「そっちも2人居るじゃない」

「もう少し欲しいところだ」

「悪いけど、うちの金剛にセクハラした罪がある以上、あなたの元へ行きたいと言う艦娘は誰一人いないわ」

 

山岸がそう告げたことで、隣に居た金剛が鋭い視線で久留井を睨みつけた。

 

「Don’t touch me(私に触るな)・・・Forever(永遠に)」

「やれやれ・・・」

 

提督である男は、金剛に英語で嫌悪の言葉を吐きつけられてしまう。

その様子にほくそ笑む山岸があることを尋ねる。

 

「ところで、あなた・・・その頬どうしたのよ?」

「ふんっ、これか?・・・いつだったか、一週間くらい前に夜釣りをしていたら、顔にイカがぶつかって来たんだよ」

「やっぱり頭がおか・・・」

「違うわ! そのイカのせいで獲物を逃がすわ! 頬を岩に打ち付けて二針縫うことになるわで、散々な目にあったんだぞ!」

「それはお気の毒で・・・」

「・・・ちっ、では失礼するよ。行くぞ、不知火」

「了解」

 

2人は執務室のドアへと向かう。

彼らが退室した部屋の扉付近に、茶髪のショートヘアーで金剛とは違った巫女服を着た女性が立っていた。

 

「・・・」

 

彼女は久留井提督と不知火が歩いていく姿を見て、その後を遅れて追うように歩き始める。

 

3人があるT字路になった廊下を曲がり通った。

最後尾である茶髪の女性が遅れて曲がった時、不意にある声が囁くように響いてくる。

 

「陸奥は元気にしてるか?」

「・・・ああ」

 

いつの間にか彼女の後方に戦艦の長門が仁王立ちしていた。

声を掛けられた巫女服の女性はそう短く答えて、何事もなかったかのように歩き去る。

 

 

 

 

 

例の島の入り江では、ある出来事が起きていた。

 

「オッキイ・・・」

「ひ、響、これ・・・」

「デカいね・・・」

「デカ過ぎるわ!」

「大きいのです・・・」

 

北方棲姫と暁たちは、貨物船の付近にある草むらの手前であるものを発見した。

 

それは数日前に埋めた空のヤシの実を掘り返して、果肉の残りカスを食べる巨大な“ヤシガニ”である。

 

彼女らはそこらに落ちていた木の枝でヤシガニを突っつこうとする。

 

「オオッ!?」

「ホッポちゃん、危ないのです!」

 

突かれて怒ったヤシガニは白き少女が持つ木の枝をハサミで挟み折った。

その行動に5人は驚きながらも再度突っつこうとする。

 

 

 

そんな光景を見ている大和たち以外に、別の見物客が入り江の海面で立っていた。

 

「おい、チビどもと一緒に居るアレって・・・」

「し、深海棲艦?」

「あら~可愛らしい娘じゃない♪」

 

天龍、矢矧、龍田は初めて間近で見る無邪気な深海棲艦の姿に見惚れる。

その後ろでは、彼女らを引き連れた榛名と龍驤が少女の存在について説明し始めた。

 

「何日か前にな、ウチらの艦隊を手助けしてくれた娘や。敵意も全くないで」

「三日前にようやく姿を現してくれました。少々、臆病なので優しく接するようにお願いします」

「お、おう・・・」

「りょ、了解」

「了解~♪」

 

天龍と矢矧は戸惑いながらも返事をし、龍田だけはにこやかな笑顔で答えた。

 

「あとな、矢矧はんを建造する際に使った資材は、あの娘から貰ったもんや」

「えっ? じゃあ、私は・・・」

「あの娘のおかげっちゅうことやな。あとでお礼でもしといたらええよ」

「わ、分かったわ・・・」

 

龍驤から言われたことで、更に混乱する矢矧は聞き返すこともできずに返事をした。

 




こんな男ってどうしようもないのに、しぶとくその地位にいるのが不思議。
長生きできるかは保証がないですけどねw
特別出演:ヤシガニ

おまけでNGシーンが思いつきました。

「ミ、ミルナ――――――ッ!!」

白き少女は“右側の砲塔”を構えて、見続ける艦娘たちに砲撃した。

「ちょ、ちょ、ちょっと!? そんな物騒なものをレディーに向けないで!!」
「こ、これしきでは沈まんさ!」
「私じゃない!!」
「な、なので―す!?」
「姉さん、この一番は譲るよ」
「時雨!? あたしはこんな一番いらなーいっ!!」
「わっ、わたしも狙われてる!?」

上から見下ろす大和を余所に、駆逐艦たちと工作艦は少女の砲撃から逃げ回っていた。

一方、島の外では・・・。

「なっ、何があったのかしら?」
「まさか、島の中で敵が? 不幸だわ」
「飛龍、入って来た敵を見逃したの?」
「そんな、偵察は完璧なはず・・・多聞丸に叱られちゃう」

島内部からの砲撃音で扶桑姉妹と二航戦の4人が不安な状況に陥る。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。