北方の白き少女 Heart of the admiral   作:ハルバーの懐刀

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ようやく艦娘たちが沢山出てくるようになったけど、やはり扱いは難しい・・・。



No.06 ツイテコナイデ

『ザザ・・・』

 

時刻は朝を過ぎた辺り。

突如、部屋中に響き渡る無線機の雑音。

その発生源に向かって、白き少女が俊敏な這い這いで近寄った。

 

「ヨイショ・・・」

 

彼女は音量の摘みを弄り、無線機から流れる声を聞き取る。

 

『・・・ちら、護衛・・・隊の朝潮・・・近にいる艦隊に救援を・・・』

『あらあ・・・潮ちゃん。こんな少量の敵・・・援要請しちゃうの?』

『数が少なくても相・・・軽巡3隻。こちら・・・駆逐の私達二人のみ。分が悪す・・・す』

『・・・うは言っても私より・・・よいくせに、随分と控えめね。そ・・・ころは大好き~』

『馬鹿な・・・と言わないでくだ・・・増援が・・・らどうする・・・もりですか?』

 

「アサシオ? ハジメテキイタ」

 

以前の記憶には入っていない名の艦娘たちの救援要請。

ある程度話を聞いた後、少女は出発準備をし始める。

 

 

 

「ングッ、ングッ、ングッ・・・ッ!? ケホッ! ケホッ!」

 

貨物室で少女が燃料を飲んでいる最中、気管に入ったせいでむせてしまう。

 

「エート・・・コレト、コレト・・・」

 

次に燃料や修復材、弾薬などを服の左ポケットに入れていく。

大和救出時に殆どの資材を使用した経験で、彼女は余分に持っていこうと二桁をも越える量を押し込んでいった。

また、いずれ必要になると思い、ボーキサイトの木箱や鋼材まで入れていった。

 

 

 

「トウッ!」

 

船の甲板から勢いよく跳躍した少女は、曲がりくねる海面の道を航行していく。

彼女自身、それは秘密基地から出撃するヒーローみたいだと楽しんでいた。

 

「ホッポ! シュツゲキ!!」

 

 

 

 

 

今回も位置が不明なため、少女はタマ達を発艦させる。

 

「ミャアアア!」

「ミャフウウウ!」

「ミ゛ャアアア!」

 

3機は空高く飛ばされた後、目的の場所を捜索し始める。

 

少女が視界を共有してから数分後、ようやく2隻の輸送船を護衛する艦娘とその真横から強襲する深海棲艦を発見する。

今回の発見者はミケ。

 

「ワッ・・・タイホウイッパイ」

 

襲っている敵は、タンスのような細長い箱の上部に6つ、左右に二門の砲塔が付いていた。

軽巡ホ級と言われる艦種らしく、それら3隻全てがでたらめに砲撃していた。

 

一方の迎え撃つ艦娘二人は輸送船の右側を防衛するため、深海棲艦の前に立ちはだかるように応戦していた。

 

「ソレジャア、ウシロカラ・・・ンゥ?」

 

少女がミケに指示を飛ばそうとした時、航行する輸送船の後方から何かが迫っていることに気付く。

 

それは白い仮面を被った女性で砲身化した左腕、右腕には大盾のような口付きの艤装、下半身には航行のための艤装が付いていた。

雷巡チ級と言われる人型に近いタイプだ。

 

(さっきの3隻が囮で・・・本命はこっち?)

 

艦娘も気付いていない陽動に、いち早く気付いた少女は攻撃目標をチ級に変更する。

 

「ミケ! アッチガサキ!」

『ミャフ!』

 

指示されたミケは輸送船の後方から接近する深海棲艦に向かって急降下した。

 

「!?」

『ミャフゥゥ!』

 

思わぬ乱入者にチ級が声の出ない驚き顔になる。

ミケはその隙に機銃を発射し、敵に銃弾を浴びせた。

 

「ッ!!」

 

すれ違いざまに銃撃したミケはそのままチ級の横を通り過ぎた。

邪魔された彼女は後方へ振り向いて、怒りのあまり左腕の砲身を発砲する。

その砲撃音は輸送船の横で迎撃する艦娘たちの耳にも届いた。

 

「なっ!? 新手!?」

「あらあら。本当に来ちゃったわね」

「喜んでいる場合ですか!? 荒潮、そっちを!」

「仕方ないわね~」

 

艦娘たちが後方の敵に気付き、迎撃するために二手に分かれる。

その間に旋回したミケが海上ギリギリで飛行し、再びチ級に向かっていく。

 

「ライゲキカイシ!」

『ミャフ!』

 

ミケの口から少し長めの魚雷が吐き出される。

それは真っ直ぐチ級に向かって、海面に軌跡を残しながら進んでいった。

 

「!?」

 

魚雷に気付いた彼女は左手の砲撃だけでなく、右腕の大盾の口から魚雷を発射して迎撃しようとする。

しかし、一発だけの魚雷にはなかなか当てられず、遂に彼女の大盾の下部に直撃した。

 

『ミャッ、フフフ!』

 

被弾したチ級は大盾の半分下が失われた上に、下半身の艤装にも亀裂が入ってしまう。

その様子にミケはご機嫌な声を漏らす。

 

「あらあら。これはこれは・・・」

「!?」

 

不意に聞こえた声に、チ級は後ろを振り向く。

そこには茶色の長髪の少女が右手に持つ二門の砲塔を構えていた。

 

「手負いを撃つのは好きじゃないけど・・・後ろから狙ってきたんだし・・・」

 

言葉を言い終える前に、彼女は手に持った砲塔を発砲した。

砲弾はチ級の頭部に命中し、立て続けに砲撃される。

4発目を撃ち終えた頃にはそれの上半身が綺麗に無くなっていた。

 

「うふふふふ・・・さて・・・」

 

敵を倒した彼女は上空で飛び続ける黒い球体に目を向ける。

 

「あれは何なのかしら?」

 

 

 

チ級を撃破した艦娘に、少女は何とも言えない悪寒が走る。

 

「ヨ、ヨウシャナイ・・・」

 

しばらく様子見でミケに上空から観察させた。

 

数分後、軽巡ホ級たちの後方から無数の砲撃が飛んでくる。

恐らく朝潮という艦娘の呼び掛けで、救援に駆け付けた艦隊の砲撃であろう。

これ以上の手助けは必要ないと判断した彼女は、ミケに帰還するよう命じた。

 

「ミケ、カエルヨ」

『ミャフ!』

 

 

 

 

 

まだ太陽が照り付ける島へ帰還した少女は、波打ち際から貨物船の後ろへと歩き出す。

 

彼女が向かう場所には二本のロープが垂れ下がっていた。

一本のロープには何も付いてなく、もう一本の方は先が4本に分かれて、木の板で出来た四角形の床が付いていた。

 

 

大和救出後、帰還した少女は再度タマに掴まって貨物船へと戻る。

彼女はタマの負担も減らそうと考えた末、簡易的な手動式のエレベーターを作り上げた。

 

まず、何故かあった滑車付きの鉄骨を使い、船の後部から斜めに飛び出るように括り付け設置する。

 

続いて、滑車部分に丈夫で長いロープをタマ達に通してもらった。

 

次に木の板で四角形の床を作り、垂れ下がるロープの片方に付ける作業を行う。

ロープの先に鉄の輪を結び付けて、それに二本のロープを垂れ下げる。

垂れ下がった二本のロープを交差させ、垂れ下がる四本のロープの先端に床の四隅の穴へ結びつけた。

 

これで床に乗り、もう片方のロープを引っ張っていけば昇りだけができる手動式エレベーターの完成である。

 

 

「ンショ、ンショ、ンショ・・・」

 

持ち前の怪力で少女は軽々とロープを引っ張っていく。

甲板の手摺り辺りまで上がった後、彼女は甲板へジャンプすると同時にロープを手放す。

落ちた床は砂の上に叩きつけられる。

 

「タダイマ♪」

 

出迎えてくれる者が居ないにも拘らず、帰ってきた少女はそう呟いた。

 

 

 

部屋へ戻ってきた少女は、取り出したヤシの実で食事を始める。

 

(あさしお?・・・とちょっと怖いあの娘。姉妹みたいだった)

 

今日目撃した出来事を思い返しながら、少女は次の日まで部屋に籠っていた。

 

(明日も違う艦娘が見られるかな?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝。

 

特に無線機から声が聞こえなかったため、少女は備品だらけの倉庫から掃除道具を探しに向かう。

 

元々、彼女は以前の生活で綺麗好きだったため、船内の散らかりようが気にかかっていた。

やることがない以上、せめて自分が住んでいる場所くらい掃除しようと考えたらしい。

 

念のため、無線機の近くにタマを置き、何か聞こえたら知らせるよう指示した。

 

 

 

「フンフンフフ♪ フン♪ フン♪ フゥン♪ フンッ♪ フンッ♪ フンッ♪」

(抜錨~♪)

 

少女は以前の世界で気に入っていた曲を鼻歌で歌う。

彼女の頭には白い三角巾が被さり、素足だった足には少し大きく黒い長靴が履かれていた。

ミトン手袋で手にした箒を使って、寝床の船室から廊下まで埃を掃いていく。

 

 

 

時刻は昼過ぎ。

調理室辺りまで掃除していると、少女の元へタマがやって来た。

 

「ミャ! ミャ!」

「アッ、キタ!?」

 

彼女は箒をその場に置いてから無線機のもとへ走り出す。

 

「・・・アタッ!!」

 

途中、少女はぶかぶかな長靴により盛大にこけた。

立ち上がりながらそれも脱ぎ捨てる。

 

 

 

『・・・の攻撃により、・・・城とともに中破し・・・』

『不幸だわ。でも・・・さまと一緒・・・』

『あたしが一番先に・・・撃されましたよ!』

『白露・・・なたは姉さまとちが・・・小破しただけでしょう!』

 

話の内容からすると、どうやら2人が大破で1人が小破したらしい。

 

『偵・・・機より入電。軽・・・ホ級2隻が接近・・・』

『・・・桑さん、ここは・・・と飛龍に任せてくださ・・・』

『やるよ、蒼龍・・・戦、第一次攻撃・・・発艦っ!』

「イソガナキャ!」

 

 

 

 

 

先日と同じく艦載機に捜索させると、件の艦隊はすぐに見つけられた。

今回の発見者もミケ。

 

艦隊は無事らしいが、2人ほど服と艤装がボロボロな姿だった。

 

(上下共に酷い状態・・・)

 

少女は頬を赤くしながら思わず右手で鼻を押さえる。

 

損傷した二人以外に、弓道で使う和弓を持つ女性が二人と、黒いセーラー服にオレンジのヘアバンドをした少女が動き回っていた。

 

「ンゥ?」

 

和弓を持つ女性たちが二の腕の外側に付いた飛行甲板へ数機の艦載機を着陸させる。

どうやら先程の無線で言っていた敵の迎撃に成功したようだ。

 

(これなら・・・何も必要な・・・あっ!)

 

少女は思いついたように左ポケットから黄緑バケツを取り出す。

 

(帰るまで心配だから、これを届けよう)

 

傷付いた2人の艦娘のために、少女は2つのバケツを用意する。

バケツ本体には付属品で置かれていたアタッチメントの取っ手が付けられていた。

彼女はさらに取り出した紐で二つのバケツの取っ手を縛る。

 

「タマ」

「ミャ」

 

戻って来たタマに二つのバケツが吊るされた紐を咥えさせた。

少女はタマにある方向へ右手を指し示す。

 

「アッチニイル、カンムスニ、ワタシテキテ」

「ミャ!」

 

バケツをぶら下げるタマは少女の示した方向へ真っ直ぐと飛んで行った。

 

「ミケハ、モドッテキテ」

『ミャフ』

 

 

 

 

 

「不幸だわ・・・」

「山城、元気出して・・・あなたのせいじゃないわ」

 

黒い長髪の女性が黒い短髪の女性に声を掛ける。

どちらも巫女服に近い服装が原型を留めないくらいボロボロになっていた。

艤装である後方の巨大な砲塔も砲身が折れ曲がるほど酷い状態である。

 

二人は扶桑型戦艦の姉妹。

姉の扶桑が落ち込む妹の山城の肩を叩く。

その後ろから緑色の着物を纏う蒼龍と、橙色の着物を纏う飛龍が航行していた。

 

「あそこで敵機直上は予想外だったからね」

「そうね。このままじゃ多聞丸に怒られるな・・・」

「あたしは里子提督に一番で怒られるのだ!」

「「それ喜ぶこと?」」

 

正規空母たちに突っ込まれるのは、彼女らの周りで動き回る黒いセーラー服の駆逐艦“白露”

少し前の戦闘で彼女は戦艦の護衛に回っていたが、何故か爆撃される直前でその爆風へ当たりに行く行動を開始した。

 

結果、扶桑や山城がまともに攻撃されてしまい、白露は紙一重に当たった程度の損傷を受ける。

 

彼女曰く、何でもかんでも一番でないと気が済まないらしい。

 

「ふっふー・・・・・・えっ? 何あれ!?」

「「「「っ!?」」」」

 

白露がふと目にしたもの。

それは黒い球体が何かをぶら下げながらこちらにやって来る姿。

そんな謎の物体に彼女はトリガー付きの砲塔を構える。

 

「まさか・・・」

「ふ、不幸が続くわ・・・」

「て、敵機!? こんな近くじゃ攻撃隊が・・・」

「蒼龍! 落ち着いて! ここは白露に任せましょう!」

 

他の4人も警戒するが、まともに攻撃できる距離ではないため、駆逐艦の白露に頼らざるを得なかった。

 

数秒も経たずに、それは彼女たちの目の前までやってくる。

 

「ミャ!」

 

唯一、砲塔を構える白露の前で、それは紐で吊り下げられた物を見せつけた。

 

「えっ? これって・・・修復材? なんで?」

 

白露が砲塔を下ろすと、それは彼女の手元辺りでバケツを渡そうとした。

 

「くれるの?」

「ミャ!」

「あ、ありがとう・・・」

 

駆逐の少女は無警戒に紐で括り付けた取っ手を手に取る。

その直後、黒い球体は咥えていた紐を離し、元来た方向へ飛び去った。

 

「「「「「・・・」」」」」

 

あまりの出来事に5人の艦娘たちが呆然となる。

そんな中、緑色の着物を着た女性が正気を取り戻した。

 

「はっ!? ひ、飛龍! 偵察機を!!」

「え、えっ!?」

「今の追っかけて! 早く!!」

「わ、わかったわ! 」

 

橙色の着物の女性が戸惑いながら一本の矢を空に放った。

 

 

 

 

 

「ミャ、ミャ、ミャ~♪」

 

一方、配達を終えたタマはご機嫌な様子で海上を飛行していた。

 

「・・・ミャ?」

 

そんなタマの後方から何かが接近してくる。

 

「ミャアッ!?」

 

何気に振り向いたタマはその正体に驚きの声を上げた。

それは艦娘が使用する“二式艦上偵察機”と言われる艦載機である。

 

「ミャ、ミャアアアアア!!」

 

突如追ってきた偵察機に、タマの飛行速度が上がった。

 

「マ、マズイ!」

 

ポケットにミケを入れていた少女の方もタマの視界で非常事態に気付く。

このままでは自身の存在すらバレる可能性も出てしまうからだ。

彼女はクロを投擲発艦させて、タマと共にある指示を伝える。

 

 

 

 

 

「よしっ! 追いついた!」

 

飛龍は飛ばした偵察機と視界を共有して、謎の黒い球体を追い掛ける。

蒼龍によると、数日前から目撃されている謎の艦載機がアレなのでは、と推測されたからだ。

また、山岸提督からもその正体について出来れば解明して欲しいと言われていた。

 

「この先に艦載機の主がいるのね?」

 

偶然出会ったチャンスを逃さないよう、彼女は黒い球体に張り付くように追跡する。

 

「ん? 上に?」

 

不意に黒い球体が上空へと昇っていき、いくつかある雲の1つへ向かった。

飛龍にとって、その行動は恐らく雲を利用して逃げ切るつもりだと予測する。

案の定、それは少し大きめの雲に入り込んだ。

 

「この程度・・・二航戦を舐めないでね!」

 

彼女はそれが入っている雲周辺に偵察機を迂回させた。

痺れを切らして出てきたところを再度追うためである。

 

「さぁ、出てき・・・えっ? 何っ?」

 

それは偵察機に乗る妖精からの連絡だった。

妖精は『11時の方向に艦載機らしきものを発見』と伝えてきた。

 

「敵・・・って、あれっ!? いつの間に!?」

 

飛龍の目に映ったもの。

それは先程雲の中へ入ったはずの黒い球体が遥か先の上空を飛んでいたからである。

遠くにいるそれはゆらゆら上下に揺れた後、後方へ振り向いて逃走を開始した。

 

「やられたっ! 早く追わないとっ!」

 

彼女は距離的に最早追い付けないと諦めかけるが、僅かな望みを頼みにその方向へ偵察機を飛ばす。

 

 

 

「・・・・・・ミャ?」

 

偵察機が去った後、雲の中へ逃げ込んだタマが飛び出す。

 

 

 

少女がタマとクロに指示したこと。

まず、タマが偵察機を誘導し、素早く雲の中へ入って留まる。

次に遠く離れた距離からクロが発見されやすいように出現する。

これで相手はタマが瞬間移動したかのように錯覚すると少女は考え付いたのだ。

 

結果、単純な策ではあったが、予想通りに偵察機はクロの方へと飛んで行った。

あれだけ距離を引き離せば、あとはクロも簡単に逃げ切るだけで完了である。

 

「ミャアアア! ミャアアア!」

「オカエリ、タマ」

 

まるでべそをかく子供のように鳴くタマが少女の元へ帰還した。

彼女が右手でタマを撫でていると、別方向からクロも戻ってくる。

 

「ジャア、カエロウカ」

 

少女が2機をポケットに仕舞い、拠点の島へ向かって航行を開始する。

その時、彼女の耳に微かなプロペラ音が入ってきた。

 

「ッ!?」

 

その音を聞いた瞬間、少女はすぐに海中へと潜り込む。

先程撒いたはずの艦載機が偶然こちらに来たからだ。

 

(危なかった・・・もうしばらく、この・・・ま・・・ま・・・・・・)

 

潜っていた少女の思考がいきなり止まり出した。

彼女が何も考えられなくなった理由は、目の前にゆらりと現れた2m以上の物体である。

 

人だったときに常識的に知っていた海の危険生物。

 

ある映画でも有名になった海の人食い魚。

 

 

“ホオジロザメ”

 

 

「ジョ、ジョォォォォォォォォズッ!!!」

 

少女は持てる限りの力でその場から逃げ泳ぐ。

間近に巨大な人食い鮫が現れれば、普通の人なら誰であろうと冷静で居られるはずがない。

彼女は喰われる恐怖のあまりに、艤装すら出さずに逃げてしまう。

 

「・・・?」

 

残されたサメはまるで興味がなさそうに泳ぎ続けた。

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・」

 

全速力で海中を泳いできた少女は島の砂浜で仰向けに倒れていた。

彼女は必死なバタ足による高速潜水で逃げ切ったが、肩で息をするほど疲れ果てる。

 

「コ、コワカッタ・・・」

 

いくら外見は怪力持ちの幼子でも、人間だった感覚はまだ健在である。

途中、彼女の肩に黒いモヤモヤのような物体がぶつかるも、それを気にするほど余裕がなかった。

 

「・・・チョット、ミズアビシタイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れで赤く照らされるトラック鎮守府。

 

司令部の会議室。

その室内には多数の艦娘たちが集まっていた。

 

入口のドアから反対の壁には左側に地図、右側にいくつかある内容が書かれたホワイトボードが取り付けられている。

 

ホワイトボード付近の右端には、椅子と机が置かれ、そこにはこの鎮守府の提督である山岸 里子が座っていた。

 

山岸提督から見て、手前には第六駆逐隊の4人や白露、時雨、島風の駆逐艦たち。

その後方には戦艦である扶桑姉妹、金剛、榛名、大和の主力となる戦艦たち。

そして、右側に蒼龍、赤城、龍驤と、左側に加賀、飛龍の空母たちが立っていた。

 

「全員集まったようだな・・・」

 

特に整列もせず集まった艦娘たちと対面するように、秘書艦である長門が腕を組みながらそう呟いた。

 

「山岸提督」

「許可するわ」

「では、本題に入ろう・・・」

 

山岸から許しを受けて、長門は地図のある場所を指差す。

 

「ここ数日、この付近の海域で謎の黒い球体をした艦載機が目撃されるようになった。目標は我々に対して支援するような行動をしている」

「ウチらを手助けしてくれてるんなら、問題あらへんのでは?」

「それが無視できないから、こうやって会議をしているのだ」

 

長門は楽観的な龍驤に鋭い視線を飛ばした。

軽空母の彼女は慌てて視線を横に飛ばしながら口笛を吹き始める。

続けるように金剛が山岸にあることを尋ねた。

 

「HEY、里子ぉー! 確か輸送船を護衛していたパラオチームも目撃したのネー?」

「その通りよ。まぁ、話がややこしくなるから、あいつには知らせないよう口止めしているわ」

「Wow! それはGoodネー!」

 

高速戦艦の娘は何かが嬉しかったのか、ダンスするように身体を左右へ揺らす。

そんな彼女に呆れながら長門は話を進めた。

 

「それでだ。今回は提督の頼みもあって、本格的にこの艦載機の正体・・・恐らくそれを利用する主の発見をすることが決まった」

「はわわ!? 本当なのですか?」

「やったじゃないの!」

 

長門の決定事案に電や雷だけでなく、他の艦娘たちも驚きの声を上げる。

 

「明日からその任務を開始させる。これに行ってもらうのは・・・第1艦隊だ」

 

この鎮守府の主力である、第1艦隊のメンバー。

以前の旗艦は長門だが、現在は新加入したばかりの大和が旗艦として、艦隊をまとめる存在になっていた。

メンバーは、制空を得意とする一航戦の加賀と赤城に、スピードに秀でた高速戦艦の金剛や榛名と最速の駆逐艦である島風だ。

 

「一航戦として、二航戦の屈辱・・・晴らして見せます」

「うぅ、頼みます。加賀さん」

 

偵察機を撒かれてしまった飛龍のために、加賀が自信満々にそう意気込んだ。

蒼龍も面目なさそうに赤城へ頼みかける。

 

「赤城さん、私からもお願いします」

「任せてください!」

 

空母たちがバトンタッチする間、高速の艦娘たちの話にも気合が入った。

 

「HEY、榛名、島風! 誰が先に見つけるか勝負ネー!」

「了解です、金剛姉さま。榛名! 全力で参ります!」

「一番速い私が見つけるのー!」

 

帰国子女の戦艦に勝負を挑まれ、その妹は素直に答え、駆逐の少女は両手で抱える顔付きの連装砲を振り回した。

 

「・・・」

「どうした、大和。元気がないな?」

「あ、いえ・・・そういうわけでは・・・」

 

長門が何かを思い詰める大和の表情に気付いて声を掛けた。

 

「第1の旗艦でもあるのだ。お前がしっかりしてくれないと困るぞ」

「で、でも・・・頻繁に私が出撃して・・・問題ないのでしょうか?」

 

彼女は自身の燃費について把握済みなため、この鎮守府の財政を心配してくれていたのだ。

そんな彼女に山岸が優しく答える。

 

「大和、この鎮守府なら大丈夫よ」

「えっ?」

「このトラック鎮守府は最前線にあるの。そのために長門を含めた主力となる戦艦が多い」

「た、確かに・・・」

「そんな彼女らのため、他の鎮守府より多めに資材を供給している。あなたを維持するぐらい問題ないわ」

「山岸提督・・・」

「里子でも構わないって、許可したでしょう?」

 

そう微笑む山岸に、超弩級の戦艦は元気を取り戻す。

 

「は、はい。里子提督・・・」

「ふふっ♪」

 

長門がその姿を確認した後、力強い声で彼女らに任務を言い渡した。

 

「では、大和を旗艦とする第1艦隊は、明日の朝07:00(まるななまるまる)に目標である艦載機の主の捜索任務を開始せよ!」

「「「「「「了解っ!」」」」」」

 

大和、赤城、加賀、金剛、榛名、島風が長門の指令を受けて敬礼する。

 

「次に、扶桑を旗艦とする第2艦隊は、第1艦隊の任務支援のため、同時刻に周囲の深海棲艦の掃討任務に当たれ!」

「「「「「了解っ!」」」」」

 

同じく指令を受けた、扶桑、山城、蒼龍、飛龍、白露が敬礼した。

 

「残る第3艦隊は待機! だが、目撃情報によると鬼級の存在が確認されている。艦隊の支援のため、いつでも出撃できるよう準備しておけ!」

「「「「「「了解(や)(なのです)っ!」」」」」」

 

待機指令の内容に、龍驤、時雨、暁、響、雷、電が納得の敬礼で返す。

 

「最後に! もし目標を発見した場合、何があっても絶対に攻撃はするな! 本日はこれにて解散! 明石と相談してから艤装チェックを済まし、明日に備えよ!」

 

長門の終礼で艦娘たちは会議室から次々と退室していく。

彼女らが出て行った後、山岸が長門にあることを伝えた。

 

「長門、万が一も考えて、第3が出ることになったら一緒に出撃しなさい」

「なっ!? しかし・・・」

「島の防衛は別で手配済み。それよりも大和たちの話が本当なら・・・あの鬼級はまだいる可能性があるわ」

「そうだな・・・こちらの艦隊も世話になったのだから、この手で返してやらんと気が済まない」

「手加減しないでね?」

「当然だ」

 

 

 

廊下を歩く第1艦隊の艦娘たちは捜索方法を話し合っていた。

そんな中、加賀があることを思いつく。

 

「そういえば、パラオの護衛艦隊が救援要請をした時にも現れたのね?」

「YES! 龍驤たちが駆け付けたときには、もう逃げた後デース」

「なら・・・この方法なら見つけられるかもしれません」

「どうするのよ?」

 

島風がその案の詳しい内容を尋ねると、加賀は立ち止まって右手の人差し指を立てた。

 

「エサで釣り上げます」

 

 

 

 

 

一方、夜が訪れた島のある小さな滝壺では・・・。

 

「ヘップシッ!」

 

白き少女が身体に小さ目の白いシーツを纏っていた。

彼女は島にある唯一の湧き水の場所で身体と、着ていたワンピースと手袋、大人パンツな黒下着を洗濯する。

 

しかし、貨物船には彼女のサイズに合う服がなく、代わりに破けて小さくなったベッドのシーツをバスタオルのように身体へ巻いていた。

少女の肌がシーツと同じくらい白いため、遠目から見ると裸にも見えた。

 

(昼寝して、休憩したら遅くなっちゃった・・・帰ろう)

 

少女は乾いた衣服を持って、貨物船へと戻っていった。

 




艦娘同士の呼称がちょい混乱しそう。特に不明なものも多いからこちらで考える必要があるし・・・。
こんな秘密基地にちょっと憧れる。腕力が入りますがw

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