北方の白き少女 Heart of the admiral 作:ハルバーの懐刀
今更ですが、キャラ崩壊注意です。
本当に今更です。
でも、今回の話の前で言わないといけない気がして・・・。
ある晴れた日のハマグリ島。
麦わら帽子を被る白き少女が、島の外周にある砂浜を歩いていた。
彼女は右手に持つ釣竿を肩に掛けて、残る左手で大きなクーラーボックスを持ち運ぶ。
「ココニ、シヨウ!」
白き少女がある砂場にクーラーボックスを置き、その中から取り出したゴカイを釣り針に付ける。
彼女は餌の準備を整えた後、後ろへ引き倒した釣竿を勢いよく前方へ振り下ろした。
「エェェェイッ!!」
飛ばされた餌付きの釣り針が遠くの海面に沈み落ちる。
しばらく佇む白き少女がまだ見ぬ獲物を思い浮かべた。
「サンマ~♪ マグロ~♪ トビウオサ~ン♪」
ご機嫌に歌う彼女の釣竿に、早速当たりらしき引きが入る。
意外に早い食い付きに喜ぶ白き少女が、すぐにリールを回しながら踏ん張った。
「オッ、オオッ!? トテモ、オッキイノ!」
彼女は高速でリールを回し続けて、食い付いた獲物を逃さないようにする。
「オオッ!? ヤッパリ、オッキイ! デカイ!」
釣り糸の先端が沈む海面に、大きな魚影らしき黒い影が見えてきた。
白き少女は最後の踏ん張りで、釣り上げようと竿を持ち上げる。
「ウ~ン!・・・・・・ンッ?」
釣り糸を引っ張り続ける彼女があることに気付いた。
今まで釣り糸を強く引っ張っていた力がいきなり止まったのだ。
しかもその力はまだ維持したままで、釣竿もしなった状態で動いていない。
気になった白き少女が釣り糸の先を見つめた。
「・・・エッ?」
「・・・」
そこには、白金色の長髪に綺麗な白肌を持つ少女が水面から顔を出していた。
彼女は白文字で“511”と書かれた水兵帽を被り、首の左側にアンテナが突き出ている。
そのアンテナには、白き少女が投げ入れた釣り針が餌を失くした状態で引っ掛かっていた。
「エエ゛エ゛ッ!?」
「?」
同時刻、基地の入口付近では、赤い和傘を持った大和が辺りを見回していた。
「全く・・・こんな朝早くに何処へ行かれたのですか・・・」
困った顔でため息を吐く彼女の前方から、慌てて走ってくる五月雨が現れる。
「あっ、大和さん! ちょうどよかった!」
彼女は息を荒げながら大和の手前で立ち止まった。
「五月雨さん、どうしたのですか?」
「じ、実は・・・先程、舞鶴の艦娘がおこしになりました!」
「えっ? 舞鶴の!?」
予想外の来客に大和が驚きの声を上げる。
大本営から事前連絡も無しに艦娘が派遣されたことで、彼女は何者かの諜報が来たと警戒していた。
少し困惑気味な大和が五月雨に尋ねる。
「その艦娘は、どちらに? そ、それと・・・艦種は?」
「えっと・・・駆逐艦が2隻で・・・入り江の方で待っています!」
ハマグリ島の入り江にある砂浜。
大和と五月雨は、舞鶴からやって来た2人の艦娘と対面していた。
2人とも外国の水兵のような紺色の水兵帽と制服を着ている。
ワンピースのような制服で股下が見えそうなぐらいスカートが短い。
艤装は腰回りに装着されていて、左右に魚雷発射管とその上部に単装砲が付いていた。
また手持ちで小銃型の単装砲を右手に持っている。
「Guten Morgen.(おはようございます)僕の名前はレーベレヒト・マース。レーベと呼んでください」
「Guten Tag.(こんにちは)私はマックス・シュルツよ。マックスでもいい」
レーベと名乗る灰色ショートカットの少女が、手持ちの単装砲を肩に掛けて、海軍式の敬礼をした。
マックスと名乗る赤毛ショートボブの少女も同じように敬礼する。
真面目な表情の大和と五月雨が彼女達へ敬礼し返した。
「貴方たちが・・・舞鶴の?」
「Ja.(はい)僕たちはドイツ出身の艦娘です。今は舞鶴で他の駆逐艦と一緒に訓練をしています」
「大本営のある人から、ハマグリ島へ向かうよう指示された。それと、この手紙も届けるようにと・・・」
大和はマックスが取り出した手紙を受け取り、封を開けてから中身を確認した。
そこには確かに、舞鶴所属である艦娘たちをハマグリ島へ派遣すると書かれている。
また、許可を出した“米満 正人”の直筆である名前も記入されていた。
「米満大将・・・里子提督に知られたらどうな・・・」
彼女がそう言いかけた時に、下の欄に書かれた山岸提督の名前も発見する。
どうやら2人の提案によって、この駆逐艦たちの派遣が決まったらしい。
まるで疲れたようにため息を吐く大和が落ち着きを取り戻す。
「それでは、早速基地内を案内しますが・・・」
「あの・・・その前に・・・」
「はい?」
レーベが恐る恐る手を挙げて、隣に居たマックスがあることを話し始める。
「実はもう1人連れて来たんだけど・・・到着したら何処かに行った」
「それって、逸れたんじゃ・・・急いで探さないと!」
「落ち着いて、五月雨さん。此処は日向さんに・・・」
「オ~イ! ヤマト~!」
通信機で呼び出そうとした大和の耳に、聞き慣れた白き少女の声が入って来た。
彼女らが声のした方向へ顔を向けると、奇妙な光景がその目に映った。
「・・・」
「カンムス・・・ツレチャッタ・・・」
白き少女が持つ釣り竿から垂れている釣り糸。
その先端にある釣り針が、彼女の隣に居るスカート付きウェットスーツを纏う少女のアンテナに引っ掛けたままだった。
「Guten Tag.(こんにちは)ドイツ海軍のUボート、潜水艦U-511です。ユーとお呼びください」
執務室では、潜水艦の少女が軍帽を被る白き少女に自己紹介をした。
提督である少女がドイツの艦娘たちを興味津々に見つめていき、その左隣に居る大和に話し掛ける。
「ヤマト、カイガイニモ、カンムス、イルノ?」
「ええ。現在、確認されているのはドイツ・イタリアの2つです。演習目的でこちらに派遣されることもあるそうですよ」
「“ドイツ”ト“イタリア”・・・」
実は白き少女は内心凄く驚いていた。
元の身体だったときに、取り入れた知識の中で海外艦の情報は一切無かった。
初めて見る外国の艦娘に驚きながら、その存在を頭の中で認識する。
秘書艦の大和は手に持った書類を見た後に、ドイツの艦娘たちと話し始めた。
「滞在期間は、1週間でしたね?」
「Ja.(はい)その期間中に僕たちと、そちらの艦隊で演習せよと・・・」
「好きに過ごしてくれと、米満大将から言われなかった?」
「・・・」
「そうですね・・・不知火さん達と、駆逐艦同士で演習を行いましょう」
「駆逐艦同士での演習・・・得意じゃないけど、頑張るよ!」
「確か横須賀の“セイエイ”と言われる駆逐艦が此処に・・・やります!」
「・・・」
大和が駆逐艦の2人と会話している間に、何も言わないユーは白き少女をまじまじと見つめていた。
「えっと・・・ユーさん?」
「そういえば、僕も初めて見るのだけど・・・ここの提督って、深海棲艦、ですよね?」
「米満大将が言っていたことは本当だった・・・」
レーベとマックスも物珍しそうに白き少女の姿を見ていく。
「見たことない艦・・・」
「カ、カン?」
無表情のユーが白き少女に近付いて、その柔らかそうな頬っぺたを揉み始めた。
「ムニュ~」
「思ったより柔らかい・・・変わってるね」
その様子を見守る3人の内、マックスもユーの左側へと近付いていく。
「ふ―ん・・・」
「ン?」
彼女も真顔で屈み込み、いきなり右手で白き少女のスカートを捲り上げた。
「ヒャアアアッ!?」
「ちょっとおおおっ!?」
「・・・?」
「黒色か・・・」
「何してるんだよ!?」
マックスの取った行動に、白き少女と大和が大声で叫んでしまう。
レーベは自身の帽子で不埒なことをした妹の頭を叩き付ける。
すぐ傍でそれを見ていたユーは何も言わずに佇んでいた。
翌日、ハマグリ島近海で駆逐艦たちによる演習が行われる。
旗艦の不知火に護衛の朝潮と荒潮という元横須賀出身の精鋭艦隊。
「見せて貰いましょう。ドイツの艦娘の性能とやらを・・・」
「し、不知火さん?」
「私もあの娘たちのお尻が気になるわ~♪」
彼女らの相手は、舞鶴から来たレーベとマックスに、潜水艦であるU-511が加わった艦隊である。
「だ、大丈夫だよ・・・ね?」
「陽炎型、朝潮型・・・ふ―ん・・・」
「・・・」
全員が自身の装備を確認した後に戦闘態勢を整えた。
「エンシュウ、カイシ!!」
彼女達から少し離れた海上で、白き少女が拡声器による合図の声を出した。
海面に立つ彼女の後方には、飛行甲板に乗せた瑞雲を弄る日向と、彼女に曳航された小型ボートに乗る大和の姿があった。
「周囲の警戒はお願いしますね」
「任せろ。今日も瑞雲日和だ」
彼女らも駆逐艦たちの演習を遠目から眺めている。
白き少女は拡声器を下ろして、砲雷撃を始めた艦娘たちの戦いを観戦した。
「オオ―・・・」
過去に大和や不知火たちが行った戦闘と違い、砲弾と魚雷の撃ち合いだけの控えめな戦いだった。
それでも高練度の不知火たちの攻撃は的確で、ドイツの駆逐艦たちが次々と被弾していく。
レーベとマックスはすぐに反撃するが、それらは全て華麗に回避されてしまう。
「ヨウシャナイ・・・ン?」
観戦していた白き少女があることに気付く。
ドイツ側の艦娘で3人の内、駆逐でない潜水艦の娘が見当たらなかったのだ。
深く潜って隠れていると思われたが、彼女からの魚雷が発射されていなかった。
「ユー、ドコイッタ?」
「ん? あの潜水艦が見当たらないな・・・」
「えっ、ユーさんが? 何処に・・・」
日向と大和も潜水艦が居ないことに気付き、周囲を見渡しながら探し始める。
もうすぐで演習が終わる予定時刻なのに、何もしないU-511は行方知らずであった。
「ドコイッタンダロウ・・・・・・ン?」
白き少女が異様な気配を感じ取り、自身の足元である海面へ視線を飛ばす。
そこには白い肌の顔を向けたユーの姿があった。
「マックスの言う通り・・・黒・・・」
特に何もしない彼女は真上に居る少女を眺め続ける。
「ナ、ナニシテルノ!?」
白き少女が慌てて股下を左手で押さえて、その場から1歩下がった。
その数秒後に、浮上したユーが腰の部分まで海面から姿を現す。
「そこに居たのか・・・」
「ユーさん!? まさかずっとそこに!?」
日向と大和も顔を出した潜水艦の姿に驚きの声を出した。
そんな2人に気にせず、ユーが白き少女に向かって手招きする。
「?」
呼ばれた少女はユーの手前で対面するようしゃがみ込んだ。
「ナニ?」
「・・・ん」
「エッ?」
突如、ユーがしゃがみ込む白き少女の顔を両手で掴み、その柔らかい唇をいとも簡単に奪ってしまう。
「・・・んちゅ」
「ンンッ!?」
「「!?」」
その行為を目撃した戦艦たちが言葉を失った。
数秒続いた“ソレ”はすぐに正気を取り戻した白き少女によって引き離された。
顔を赤くした白き少女が困惑気味でユーに問い質す。
「ナッ! ナナナナ、ナニスルノ!?」
「キスすると練度が上がると・・・」
「チ、チガウ! チガウ!」
「違う?・・・舌も入れなきゃ駄目?」
「マッテ~! ヤメテ~!」
尚も続けようとするユーの大胆な行動に、赤面する大和が戸惑ってしまう。
「駄目です! 日向さん! ユーさんを止めて・・・って、何してるんですか!?」
指示を出そうとした大和が、『Handycam』のロゴが入った8ミリビデオカメラで撮影をする日向に突っ込んだ。
「何処からそんなものを・・・」
「瑞雲の格納庫から取り出した。記録を撮ってくれと頼まれてね」
「誰にですか!? それよりもユーさんを止めて下さい!!」
一方、演習を終えた海上では・・・。
「見かけ倒しかと思ったら・・・やりますね」
演習を終えた不知火が白き少女に組み付くユーの姿を眺めていた。
「不知火さん! そんなことより、この人を何とかしてください!」
「これが朝潮型・・・いい装備ね」
中破でパンツが丸見え状態のマックスが、抵抗する朝潮のスカートを捲ろうとする。
「ひぃぃぃっ! そんなに触らないで!」
「あらあら、酷いじゃない。本当に女の子か確かめているだけよ?」
「僕は正真正銘“女の子”ですっ!!!」
怪しい笑顔の荒潮は、中破状態のレーベの身体を弄るように触っていた。
三日目の朝。
ハマグリ島で唯一の自家栽培している畑で、白き少女を含めた艦娘たちが作業を行う。
主に不知火・朝潮・荒潮・五月雨といった駆逐艦たちが水やりと収穫をしていた。
日向と陸奥も収穫された野菜を籠に入れて、基地内の方へと運んでいく。
「オオ―」
「いい感じのプチトマトですね。食べてみます?」
「ハムッ・・・ンッ! オイシイ♪」
白き少女と秘書艦の大和も収穫作業を手伝っていた。
その近くではドイツの艦娘たちも同じように野菜を収穫している。
「レーベ。このGurke(きゅうり)・・・」
「凄く大きいね・・・」
「私のだと大き過ぎて入らないね。レーベは?」
「使わないよ! 食べ物で遊ぶ気!?」
収穫作業するレーベが30㎝近くあるきゅうりを持つマックスに怒鳴った。
「?」
白き少女と一緒にプチトマトを取っていくユーが、青いプチトマトを2つ手に取った。
彼女は特に気にもせずにその内の1つを口に入れる。
「はむっ・・・・・・んむっ!? ぺっ! ぺっ!」
「ダ、ダイジョウブ?」
「ユーさん、それ熟してないから食べられないですよ・・・」
白き少女と大和が必死で食べた物を吐き出すユーを心配した。
「む~!」
苦い思いをしたユーがもう1つの熟してないプチトマトを茂みの方へ投げ捨てた。
その後、彼女は白き少女の元へ行き、またもキスしようと迫っていく。
「ナンデ~!?」
「ちょっと、ユーさん!?」
「口直し~」
「キュ?」
茂みの方で散歩していた黒い物体の頭に、ユーの投げた青いプチトマトが当たった。
それは転げ落ちた青いプチトマトを凝視し、躊躇なく丸呑みにしてしまう。
「モキュ・・・プキュッ!!」
しかし、食べた物が口に合わなかったらしく、口から砲弾のように弾き飛ばした。
四日目の夜。
地下基地内にある風呂部屋では、身体にタオルを巻いた白き少女が頭を洗っていた。
「ツカレタ・・・」
彼女は提督としての仕事だけでなく、ドイツの艦娘との交流に忙しい日々を送っていた。
特に潜水艦のユーは、妙なアプローチで彼女の純粋な心を乱すことが多かった。
(長門より、厄介かも・・・)
シャワーで髪を洗い流した後、部屋の奥にある四角い浴槽へ歩き向かう。
浴槽内には少し白く濁った湯が入っていた。
「フゥゥゥ・・・・・・ン?」
白き少女がしばらく湯に浸かっていると、右隣の異様な気配に気付いた。
そして、謎の気配があった湯の中から気泡とともに、白金色の長髪を持つ頭部が浮かび上がる。
「フワアアアアアアッ!?」
そこに現れたのは、何故かスクール水着を纏ったユーの姿があった。
「ナンデイルノ!? ソレニ、ソノミズギ、ナニ!?」
「これ? これ“でっち”がくれたもの・・・」
「“デッチ”ッテ、ダレ~!?」
「それよりもキスを・・・」
「イヤアアアアッ!! ヤマトッ! ヤマト、タスケテエエエエエエッ!!」
七日目の夜。
本日がドイツ艦たちの滞在する最終日であり、そのお別れ会を基地内の食堂で行うこととなった。
「カンパ~イ!」
「「「「「かんぱ~い!」」」」」
白き少女と、大和や不知火たち、ドイツの艦娘らが唱和して、それぞれが持つジョッキを掲げた。
大きな丸テーブルには、収穫した野菜と近場で捕った魚やエビなどの天ぷら料理がずらりと並んでいた。
飲み物は、イチゴ味やメロン味の燃料、大和のラムネを含めたジュース類以外にも、レーベたちが持参したドイツのビールも用意された。
「どれ・・・私と陸奥で味見してみるか」
「ん~♪ 美味しそうなビールね♪」
「ワタシハ?」
「駄目です」
白き少女が試しに飲もうとして、それを真顔の大和に止められてしまう。
しょんぼりする少女を余所に、少し笑う日向と陸奥が黄金色のビールを一口だけ味わう。
「ほう・・・これは・・・切れのある喉越しだな」
「軽快な感じで辛口ね・・・美味しいわ」
「僕たちも普段飲んでいるビールです♪」
「Pilsner(ピルスナー)ドイツ北部で好まれているものよ」
2人の感想を聞いたレーベとマックスがそのビールの詳細を述べた。
「むぅ~ぱくぱく・・・」
少しふくれっ面なユーは、不恰好な握り箸でエビなどの天ぷらを食べ続けていた。
機嫌の悪そうな彼女の様子に、心配した荒潮が話し掛ける。
「あらあら。ユーちゃん、どうしたの?」
「ん? アマシオ・・・」
「荒潮よ。決して甘くないわ」
落ち着いた雰囲気で話す荒潮を見て、食事を止めたユーが話し出す。
「演習勝てない。練度も上がらない」
「私たちベテランだし・・・そんな早くは上がらないわよ?」
「此処のアドミラール、全然キスさせてくれない」
「どうしてそこまでキスに拘るのかしら?」
不思議に思った荒潮がそのことを尋ねると、ユーがある1枚の書類を取り出した。
それは日本語とドイツ語で書かれた書類であった。
「米満大将に、もっと早く練度を上げたいって言ったら・・・あの娘とキスしてみたらって・・・」
「あの叔父さんは重要な機密を・・・もう少しお仕置きされるべきね」
「お仕置き?」
「何でもないわ♪」
そんな彼女らが話している最中に、後方から騒がしい声が聞こえ始める。
2人はお酒を飲んだ戦艦辺りが騒いでいると思い、その方向へ視線を飛ばした。
「「!?」」
「チュウウウウウウ・・・」
「んむぅぅぅぅぅぅっ!?」
そこでは、レーベに覆い被さる白き少女が彼女にキスしていた。
強烈な吸引で小柄なドイツの艦娘が痙攣し始める。
「なっ!? 日向さん! 陸奥さん! 飲ませたのですか!?」
「あ、あら。あらあら?・・・何時の間に?」
「いや、飲まないようにビールは確保していたぞ・・・」
大和に聞かれた2人が否定し、全員がその原因の元を探し回った。
「うわあぁん! また私ぃぃぃっ!? むぐっ!?」
「チュウウウウウウ・・・」
「んむぉぉぉぉぉぉぉ!?」
五月雨が襲われている間に、その近く居た朝潮がある空のボトルを発見する。
「大和さん! これが原因だと思われます!」
「それは?」
「あっ、それ・・・私が持ってきたSchnaps(シュナップス)」
ビールを飲んでいたマックスがそのボトルの中身を説明し始めた。
「ジャガイモから作られた蒸留酒。度数は40度もある」
「何でそんなものを持ってきたのですか!?」
「食後に飲もうと思って・・・」
呑気な彼女が大和へそう答えていると、白き少女がボトルを持つ朝潮に飛び掛かった。
「司令官!? やだっ、まっ・・・むっ!?」
「チュウウウウウウ・・・」
「むんぅぅぅぅぅぅぅ!?」
涙目で目の焦点が合わない顔になる朝潮。
抵抗できずに沈黙する彼女を見て、大和が呆然としていた不知火へ指示を出す。
「不知火さん! 例の物を!! 早くっ!!」
「りょ、了解っ!!」
指示された少女が急いで食堂のドアから退室していった。
彼女を見送った大和は、次の指示を飛ばそうと考えて、戦艦の2人が居る方向へ目を向ける。
「日向さん、陸奥さん、あの娘が戻るまでにホッポちゃんを・・・って、またですか!?」
そこに居た日向がビデオカメラで、暴走する白き少女の姿を撮影していた。
その左隣に居た陸奥も興味深そうに覗いている。
「お子様には見せられない記録になりそうだ・・・」
「そうね。それじゃあ、お姉さんも♪」
「陸奥が入ると“検閲”に引っ掛かるから駄目だ」
「どうしてよ!?」
日向は空いている左腕だけで陸奥の首輪を掴み捕らえ、ビデオカメラを持つ右腕の姿勢を維持した。
失神した朝潮から離れる白き少女が、次の獲物を探しに立ち上がる。
彼女の蕩けた赤い瞳が天ぷらを食べ続けるユーの姿を捕らえた。
「ア゛~♪」
「!」
白き少女は警戒もせずにゆっくりと歩き寄る。
対するユーは持っていた箸を落とし、歩いて来る少女の雰囲気に後退りした。
しかし、落とした箸の1本を踏み付けて、その場で尻餅をついてしまう。
「あらあら。大丈夫?」
「いけない! ユーさん、逃げてっ!!」
近くに居た荒潮は笑顔で尋ねながらその光景を見物している。
焦る大和が倒れた彼女へそこから逃げ出すよう呼び掛けた。
それでも座り倒れた潜水艦の娘は立ち上がることもせず、近付いてくる白き少女の姿に釘付けとなる。
「・・・んっ♪」
彼女は待ち望んだキスがされると期待し、両手を大きく広げて待ち構えた。
素早く覆い被さった白き少女がユーの唇を奪う。
「ンチュ♪」
「んむっ」
「チュウウウウウウ・・・」
「んみゅぅぅぅぅぅっ!? んんっ!? んぅぅぅぅぅぅっ!!」
その後、不知火が持って来た麻酔薬によって、酔った白き少女の暴走は無事に止められた。
翌日、舞鶴へ帰還予定のレーベとユーが大破していたため、ドイツの艦娘たちの帰還が1日遅れることとなった。
帰還当日の島の入り江では、ハマグリ鎮守府の全員に見送られる3人のドイツ艦が出港しようと砂浜に立っていた。
「此処に来てよかった。レーベの惚けた顔も撮れたし・・・」
「えっ? マックス!? さっきなんて言ったの!?」
「キス・・・凄かった・・・」
「アウッ・・・」
ユーの発言で白き少女が赤くなった顔を両手で覆い隠す。
秘書艦の大和も頬を赤くし、右手を口に当てて咳き込んでしまう。
「Auf Wiedersehen(さようなら)」
「Tschüss(じゃあね)」
「・・・Bis bald(またね)」
「バイバ~イ!」
白き少女は出港する3人に右手を振り続けた。
(次に会う時は、日本のお淑やかな女性を学んできて欲しいなぁ・・・)
そう願う少女だったが、この時の彼女はまだ知らなかった。
日本の潜水艦たちによって、“U-511”が信じ難い改装をされる運命を・・・。
ホッポちゃんの物語に初の海外艦。
レーベ、マックスを含めたユーちゃんがメインのお話。
マックスのキャラが思い浮かばず、何故か変な娘になっちゃいましたw
そして、ユーの積極的な行動はちょっと考えています。
とある感想によって、再び“よっぽちゃん”を再来させました。
今回は偶然にできたので、被害は少なめです。
次回は日常か、怖い話か・・・どっちにしようかなw