北方の白き少女 Heart of the admiral   作:ハルバーの懐刀

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ようやく書き終えたけど、自分でもびっくりするぐらい遅くなりました。
もう一つの物語を同時に書いているせいかな。
ようやく身体の調子も良くなったのに・・・。



No. 21 カエシテッ!

間もなく夜が明けて、太陽が顔を出す直前の時刻。

 

 

 

ハマグリ島の穏やかな浜辺に、小柄な人影が現れる。

 

それはゆっくりと砂浜を歩き、島内部の地下基地へと侵入した。

 

 

 

薄暗い通路にヒールのような足音が響く。

 

オレンジライトによる光がウサギのような頭部の影を通路の壁へ映し出した。

 

歩き続けたその影があるドアの前に辿り着く。

 

 

 

『ホッポの自室』

 

 

その看板を掛けられたドアが開かれて、部屋の中に何者かが入っていく。

 

畳の上に敷かれた布団の中に、ぐっすりと眠る白き少女の姿があった。

 

彼女の頭のある方には、何時も着ている白い服と手袋が畳み置かれている。

 

「にひひぃ♪」

 

侵入者が少女のような笑い声を漏らし、白手袋の右手で置かれていた“何か”を掴み取った。

 

「スゥゥゥ・・・スゥゥゥ・・・」

 

間近で動くその存在に気付かず、白き少女は寝息を立てながら眠り続ける。

その彼女の枕元に折り畳まれた1枚の紙が置かれた。

 

 

 

 

 

「スゥゥゥ・・・・・・・・・フワァァァ・・・ンンッ!」

 

数分後、深い眠りについていた白き少女が両手を伸ばすように上げた。

ゆっくりと上半身を起こした彼女は、寝間着を着ずに素っ裸の状態だった。

 

何故、彼女が寝間着を着なかったのか。

 

 

その理由は、ある駆逐艦の差し出した品物が原因だった。

 

「ホッポさま。これは不知火が仕入れた寝間着です」

「し、不知火さん・・・それは・・・」

「スケスケ・・・」

 

真顔の不知火が見せ付けるように両手で持つ衣服。

それは全体的に黒色で、肌が容易に見える透けたネグリジェである。

子どもサイズでありながら、まるで大人のような雰囲気を漂わせる寝間着だった。

 

無論、白き少女にそんな色気のある衣服を着る勇気はなかった。

 

「コ、コレ・・・」

「不知火のご用意した服を着れないとでも!?」

「だからって、そんな怖い目で司令官を睨んだら駄目でしょう!?」

「あらあら。我が儘ねぇ・・・じゃあ、私が着せて、ア・ゲ・ル♪」

「荒潮さん!? 駄目です! それ着せちゃ駄目ですから!」

 

無理やり着せようとした不知火は朝潮に止められ、手伝おうとした荒潮は慌てる五月雨に止められる。

 

結局、強引に手渡された黒ネグリジェしか寝間着はなく、白き少女はそれを着ずに黒パンツのみで就寝した。

 

「ンミュ~フク~」

 

若干寝惚けた状態の彼女が手探りで、枕元の普段着を掴もうとする。

彼女はいつも通りにワンピースと手袋を身に纏い、垂れ下がった照明器具の紐を引っ張った。

 

「ムッ・・・マブシイ・・・」

 

瞬きする少女は、正面の壁に掛けられた『!対絶 !メダ !い食駄無』と横に書かれた掛け軸を目にする。

 

山岸提督が書いたもので、隙があれば資材や食材を食べてしまう白き少女へ贈った言葉だった。

 

彼女自身もその食欲を抑えようと努力するが、気を抜くと身体が勝手に動くことがあるらしい。

 

「キョウモ、ガンバロウ!」

 

白き少女が意気込みながら立ち上がり、自室の外へ出ようとする。

その時、彼女はある違和感に疑問の声を漏らした。

 

「ン?・・・・・・ンゥ~・・・ア゛ッ!?」

 

そこでようやくあることに気付き、自身の首回りを両手で撫で回す。

 

 

“首輪”が無いのだ。

 

 

大好きな大和とお揃いの桜花紋章が付いた黒い首輪。

それが白き少女の首に巻かれていなかった。

 

「ドコッ!? ドコニイッタ!?」

 

彼女は必死で部屋中を探し回る。

そうしている内に部屋のドアが開いて、秘書艦の大和と不知火が入って来た。

 

「ホッポちゃん、おはようございます・・・あら?」

「失礼します。ホッポさま?」

 

彼女らが白き少女の狼狽えた姿を見て、慌てて彼女の元へ駆け寄る。

 

「どうしました?」

「し、不知火に何か落ち度でもありましたか!?」

「・・・ナイノ」

「「ない?」」

「クビワ、ホッポノ・・・ナクナッタ・・・」

 

2人は涙目になる白き少女を宥めようとした。

辺りを見回す不知火があるものを発見する。

 

「これは?」

 

彼女が見つけた物は文字が書かれた白い紙だった。

それを拾い上げた不知火がホッポと大和に内容を見せる。

 

「これは・・・果たし状?」

「恐らく、ホッポさま宛ての手紙かと・・・」

「ナニナニ・・・」

 

白き少女がその手紙に書かれた内容を読んでいく。

 

『白いちびっこ。あんたの大事なものを返して欲しかったら、すぐに島の外に居るこの島風と駈けっこしなさい!』

 

内容を見た3人が手紙を書いた存在に目を丸くした。

 

「島風さん?」

「ぜかまし?」

「シマカゼ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ―はっはっはっはっ!!」

 

ハマグリ島の少し離れた海上で、高らかに笑う最速駆逐艦の姿があった。

 

 

島風は白き少女のことが気に入らなかった。

 

出会った当初は、もう少しで追い付けるはずが海中へと逃げられ、勝負を有耶無耶にされたと勘違いする。

 

 

その後、命令無視の罰で営倉入りになったこと。

 

その脱走時に長門に愛の抱擁をされたこと。

 

見覚えのない謎の救出作戦に参加したこと。

 

廊下でパンツを引っ張られたこと。

 

早食い勝負を拒まれたこと。

 

長門によって強引に可愛がられたこと。

 

 

島風は、それら全てを白き少女の仕業だと決め付けてしまう。

 

不満を募らせる彼女は思い切って、独断である作戦を実行した。

 

「あの大和型とお揃いねぇ・・・ふ~ん」

 

島風は右手で持つ紋章が付いた黒い首輪を見つめる。

白き少女が山岸提督から貰った大事なものである。

彼女はそれをエサにして、因縁である白き少女と勝負しようとする。

 

「今度こそ島風の速さを思い知らせてやる!・・・おうっ?」

 

島風がそう呟いていると、朝日で照らされる島の方から白い影が見えてくる。

 

彼女が待ち望んだ相手が遂に姿を現した。

 

 

軍帽を被り、白い靴を履いた足で滑るように高速で移動する白き少女。

 

 

ハマグリ島の提督となった少女が頬を膨らませて、最速の駆逐艦の方へと水飛沫を上げて突き進む。

 

「さぁ、駆けっこの始まり! 負けませんよ!?」

「カエセ―ッ!!!」

 

 

 

幼き提督の姫 と つむじ風の駆逐艦。

 

 

妙な因縁の追い掛けっこが始まった。

 

「速きこと、島風の如し! 誰も私に追いつけないよぉ~!」

「「「キュウウウッ♪」」」

 

奪った首輪を自らの首に付け、万全な状態で海上を走る。

背中の魚雷発射管には、3体の連装砲ちゃんが振り落とされないよう器用に掴まっていた。

 

「カ~エ~セ~!!」

 

少し半泣きの表情で追い掛ける白き少女。

彼女は、なんとか島風に追い付こうと必死で航行し続ける。

 

「だから―! 島風には追いつけないって!」

 

更に加速した島風が白き少女との距離を伸ばし始めた。

それを見た白き少女は、左ポケットから取り出した空のドラム缶を投げ飛ばす。

 

「おっと!? おっそ―い―!」

「ムゥ~ッ!」

 

島風は投げ付けられたドラム缶を余裕で回避した。

命中しなかった苛立ちが白き少女の怒りを上昇させ、遂に自身の艤装を出現させる。

 

「テイッ!!」

「ちょ、ちょっと!? おうっ!?」

 

白き少女の右手に持つ二連装砲が轟音を鳴らし、逃げる島風の方へ砲弾を飛ばした。

撃たれた彼女はすぐに回避行動と取り、飛んできた砲弾の直撃から免れる。

白き少女の砲撃は明石の調整によって、驚異的な威力は抑えられているが、並の戦艦でも大破しかねない危険性を持っていた。

 

「コノッ! エエイッ!!」

「ひゃっ!? フック!?」

 

続けて島風に向かっていったのは、白き少女の左側にある艤装の口から出たクレーンだった。

先端のフックが逃げる少女の身体を引っ掛けようと、長いワイヤーを伸ばし飛ばす。

 

「そっちがそう来るなら・・・連装砲ちゃん!」

「キュ!」

 

島風に付き添う連装砲ちゃんの中で、一番小さい個体が返事をした。

その子は再び飛んできたクレーンのフックに、自身の小さな手で掴まりに行く。

巻き戻されたフックとともに、小さな連装砲ちゃんが白き少女の頭へと飛び付いてきた。

 

「キュ~!」

「エ゛ッ!? ウブッ!?」

 

白き少女の顔に張り付いた連装砲ちゃんが小さい両手で、彼女の白い顔を連続で叩く。

 

「キュ! キュ! キュ!」

「イタイイタイ! イタイッ!」

 

小さな妨害に遭う白き少女の速度が落ち、その隙にニヤけた島風が逃げ去ろうとした。

 

「にひひっ♪ やっぱりこの島風がいちば・・・えっ?」

 

彼女がそう宣言しようとした瞬間、遥か上空から先端だけ赤い砲弾が6発も降ってくる。

即座に動き回ってその砲撃を回避した後、海上に着弾した水柱で身体全体がずぶ濡れになった。

 

「わぷぷっ! 今のって・・・まさか・・・」

『島風さん・・・』

「ひっ!?」

 

島風の通信機から聞こえた彼女の名を呼ぶ戦艦“大和”の声。

 

普段の優しい雰囲気とは違い、身体全体が凍り付くような呼び声だった。

 

 

 

追い掛けっこする彼女らの後方から、煙を立たせる三連装砲の艤装を展開した大和と、護衛である3人の駆逐艦たちがやって来た。

 

「速いだけの駆逐が・・・徹底的に追い詰めてやるわ」

「よくも司令官を泣かせてくれましたね!」

「うふふふふ♪ 悪い子はどんどんお仕置きしちゃおうね~♪」

 

鋭い眼光をした不知火を先頭に、怒った顔で艤装を構える朝潮と、不気味な笑みを浮かべる荒潮が追従する。

 

「嘘でしょ!? おうっ!?」

「シマカゼ~!!」

 

張り付いていた連装砲ちゃんを艦載機のクロに咥えさせ、その妨害から抜け出した白き少女も砲撃とクレーン捕縛を再開した。

 

「あ、当たらなければどうということは・・・」

「ソコッ!!」

「お゛っ!?」

 

白き少女が放ったクレーンのフックが、焦る島風のはみ出た黒パンツに引っ掛かった。

またしても黒パンツが伸ばされていき、異常な力で引っ張られたことで左側がプツリと切れてしまう。

 

「ああ゛っ!? パンツ切れたぁぁぁぁぁ!!」

 

予想外の増援に気を取られ過ぎて、下着を破かれた島風が叫んだ。

彼女は左手で切れたパンツを抑えながら逃げ惑う。

 

「おいたが過ぎますよ、島風さん。次は直撃させます!」

「フフ・・・司令に手を出した己の不幸を呪うがいい!」

「早く司令官の首輪を返しなさい!」

「あらあら。可愛いお尻ね。弄り甲斐があるわぁ~♪」

 

冷ややかに通信でそう告げる大和は次段装填を行い、不知火・朝潮・荒潮の3人も砲雷撃を開始した。

 

「こ、こんなはずじゃなかったのに・・・ひっ!? や―め―て―よ―!!」

 

泣き叫ぶ島風は“触れてはいけないもの”に触れてしまった。

泣かせてしまった白き少女を守護する艦娘たちの猛攻。

 

今度は自身が泣かされる立場となる。

 

彼女は後方を確認しながら放たれる攻撃を死に物狂いで回避し続けた。

 

「このまま鎮守府に・・・おぷっ!?」

 

突如、前を見ていなかったせいで、得体の知れない何かと衝突した。

確かめようとした島風の身体がその何かに素早く拘束される。

 

「ひぐっ!?・・・ひぃぃぃっ!!」

「いつも通りですね・・・ですが、今回は特に、頭にきました」

 

島風が衝突したものは、青筋を立てた正規空母の加賀だった。

 

 

彼女は山岸提督から島風の不審な行動を事前に聞かされる。

 

それから偵察機“彩雲”によって、島風の行動は全て加賀に監視されていた。

 

 

両手で島風を羽交い絞めにする彼女が鋭い目で睨む。

 

「無断外出。窃盗行為。最早、言い逃れはできません」

「おっ、おっ・・・」

 

冷や汗を掻きながら震える島風。

その背中に張り付いていた2体の連装砲ちゃんも怯えて海面に落ちてしまう。

 

「鎧袖一触。心配いらないわ」

「ぐっ!? お゛お゛お゛お゛お゛う゛っ!!」

 

島風の腰を拘束する加賀の両腕に力が入り、悲痛な叫び声が辺り一帯に響いた。

耐え切れない激痛によって、最速の駆逐艦は白目で意識を失う。

不届き者を抱える加賀の元に、白き少女たちが集まって来た。

 

「カガ!」

「加賀さん、助かりました」

「ちっ、つまらな・・・いえ、何でもありません」

「加賀さんが何故・・・でも、助かりました!」

「折角、こっちで弄ろうとしたのに・・・仕方ないわね~」

 

加賀は右手で島風が奪った首輪を取り上げて、それを持ち主である白き少女に返還した。

 

「アリガトウ~」

「こちらの問題児がご迷惑おかけしました。正式な謝罪をしに、後日改めてお伺いします」

 

左腕で島風を抱える加賀が深くお辞儀をし、その場から静かに立ち去っていく。

 

白き少女は取り返して貰った首輪を付けて、安堵した表情を浮かべた。

 

「フゥゥゥ・・・オチツク・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ハマグリ鎮守府に多数の甘味が届けられ、白き少女と艦娘たちはそれを美味しく頂いた。

 

 

 

そして、同じ頃・・・。

 

 

トラック鎮守府の営倉では、1人の艦娘が腕や足をベルトで固定された白い拘束衣を身に纏っていた。

 

「どうして島風はこんな目に遭うのよ・・・」

「小娘だからよ」

「ひっ!」

 

急に開いた扉から加賀が入室し、彼女の声を聞いた島風が小さな悲鳴を漏らす。

 

「食事の時間です」

「い、嫌よ! またあんな焦げ臭いの食べたくないっ!!」

 

加賀が告げた食事を島風は極度に嫌がった。

 

 

先日、彼女は罰で営倉入りしただけでなく、ある特殊な“モノ”を無理やり食べさせられたのだ。

 

それは明石の裏カタログでも販売されている品物で、“磯の素の秋刀魚缶詰”である。

 

中身は真っ黒な秋刀魚の蒲焼が入っているが、ちゃんと食べられるよう加工されていた。

尚、その味についての詳細が一切書かれていない。

 

 

「本日の品は、それではありません」

「えっ?・・・って、何よそれぇぇ!?」

 

加賀は隠していた左手のモノを見せ付けた。

それはお皿に盛られたご飯の上に乗るカレーのようなもの。

しかし、一般のカレーのような“茶色”ではなく、毒々しい“紫色”となっていた。

 

「今回は、ひえ印のレトルトカレー。赤城さん曰く、味以外はまともだそうです」

「味以外にも見た目がおかしいよ!?」

 

そんな疑問の言葉を気にせず、加賀は拘束衣で動けない島風の傍へ近寄る。

彼女は右手に持つ銀色のスプーンを光らせて、一口分の紫カレーを掬い上げた。

 

「た、食べな・・・」

「食べなければ営倉入り1週間に、3日追加しますよ?」

 

異論を認めさせない加賀の言葉に、島風は泣きそうな表情で唇を噛み締める。

意を決した彼女はゆっくりと口を開けて、見るも恐ろしいその紫カレーを食べさせられた。

 

「んぐっ・・・もぐ、もぐ・・・うぷっ!?・・・」

 

一瞬だけ吐きそうになったが、目を瞑ったまま堪える。

 

「お味は?」

「・・・・・・い、いぞぐざぐで・・・にがいぃぃぃぃ・・・」

 

無表情の加賀は味の感想を聞いた後、続けて二口目の紫カレーを掬い上げる。

 

「ちなみにですが、明日は長門さんがキスをしにやってきます」

「なんで長門が来るのよ!? キスって何よ!?」

「揚げにんにくをたっぷり食べてくるそうです」

「いやああああああっ!! 意味が分からない!! ふざけるなあああああああっ!!!」

 

自身の仕出かしたことを棚に上げて、最速の駆逐艦は悲痛の叫び声を轟かせた。





今回の話で島風のファンから殴られるかもしれません。
決して島風に恨みなどはないはずですm(_ _)m
でも・・・ホッポとの絡みが何故か、こんなことに・・・。
次回は、そろそろ外国の艦娘を出してみます。

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