北方の白き少女 Heart of the admiral   作:ハルバーの懐刀

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最初はある艦娘の視点となっています。
8話で語られなかった出会いの詳細を出してみました。



No. 20 アイエエエエ!?

「ソノ・・・ハ、ハジメマシテ!」

 

 

初めてそれを目にした私の胸に衝撃が走った。

 

まるで身体中に電撃が走り、ロウソクへ火が灯されたような感覚だった。

 

 

「初めまして、トラック鎮守府の山岸 里子よ。里子と呼んでも構わないわ」

 

「ホ、ホッポ デス。ヨ、ヨロシク・・・」

 

 

灯された火がどんどん大きくなるかのように、私の胸に熱が籠っていく。

 

 

「本当に白くて可愛らしいわね。あなたが私の艦隊を助けてくれたのね?」

 

「アッ、ハイ。ソウデス・・・」

 

 

晴れた天気のせいではなく、燃え上がる熱が徐々に私の体温を上げていく。

 

 

「あなたのおかげで大和も無事に保護できたわ。心より感謝します」

 

「私も改めて感謝しますね♪」

 

「イエイエ! ドウイタシマシテ!」

 

 

砂地を踏む足が勝手に動き、目の前の可愛らしい少女の元へ向かってしまう。

 

 

「えっ? 長門さん?」

 

「長門? どうしたの? あなた・・・」

 

「エッ?」

 

 

次第にその愛しい存在へ近寄り、間近でその真っ白な少女を両手で抱き上げた。

 

 

「ナ、ナニ?」

 

「・・・」

 

 

その瞬間、私の理性が失われ、燃え盛る何かがそれを求めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

「ヒウッ!?」

 

もう我慢できん! なんだこの柔らかさは!?

まるで大福のようにふんわりとした心地良さ!!

暁達のような駆逐艦とは別物だ!!

 

「イッ!? ヒャ~!!!」

 

私の頬に伝わるその温もりは、胸に宿る熱量を増加させる!

 

「ヤ、ヤメテエエエエエッ!!」

「ちょっと!? 長門さん!?」

「長門っ!! 何してるのあなた!?」

 

熱い! 熱いぞ!! 熱くて身体が焦げそうだ!!!

 

「ヒエ~ンッ!!」

「止めなさいっ!! 長門!!」

 

止めるなんて出来ない!!

 

このホッポちゃんは私のものだ!!

 

そうに決まっている!!!

 

「イヤアアアッ!! アツイアツイ!! ホオズリイヤアアアアアッ!!!」

「ああっ! もうっ!! 大和!! げんこつしていいわ!!」

「了解ですっ!!」

 

ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん!

ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん!

ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん!

ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん!

ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん!

ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん!

ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん! ホッポちゃん!・・・

 

 

 

「いい加減にしてくださいっ!!!」

 

「ふごおおおっ!!!」

 

 

 

ある孤島で凄まじい轟音のような打撃音が辺り一帯に響いた。

 

これは白き少女が山岸提督と初対面した際に起きた事件である。

 

後に山岸は『連れて来なければよかった』と後悔していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある晴れた日のトラック島。

 

 

 

司令部の執務室では、机に置かれた数十枚の書類に目を通すポニーテールの女性提督が座っていた。

 

「里子はん、こっちのは終わったで」

「ありがとう、龍驤。少し休憩しましょうか」

 

山岸提督は、左隣の棚で書類整理をする軽空母の少女に視線を向ける。

そこには見慣れた赤い服ではなく、あの白き少女と同じ白いワンピースを纏った龍驤の姿があった。

 

「・・・ずっと指摘しなかったのは悪かったわ・・・それ、どうしたの?」

「・・・・・・やっと突っ込んでくれた・・・」

 

涙を流す龍驤はその服を纏う理由を説明し始める。

 

以前、北方棲姫が横須賀へ訪れた際に、そこで脱いだ白い服の詳しい調査が行われた。

その結果、何も分からず仕舞いで似たような服が生産されることになる。

彼女の着替えとして扱われる予定だったが、要らない何着かが余ってしまう。

 

仕方なく、それらは駆逐艦である暁たちや不知火たちの手に渡った。

そして、暁たち4姉妹のイタズラにより、龍驤の私服が全て洗濯されて、この例の服を纏うことを余儀なくされる。

 

しかも本日は龍驤が秘書艦を担当する日でもあった。

 

「あの娘たちったら・・・いいセンスね」

「どこがや!?」

「よく似合ってるわよ♪」

「こんなお子様な服ぴったりちゃうわ!! 嫌味か!!」

 

激昂する龍驤は両手で提督の机を強めに叩き付ける。

怒鳴られた山岸は笑いを堪えながら視線を逸らした。

 

「くぅ~! それになんで今日ウチが秘書艦なんや? 何時もの長門はどないしたんや?」

 

彼女は執務室を見回すも長門の姿は見当たらず、代わりに山岸のため息の吐く声が聞こえた。

 

「休暇らしいわ」

「はぁ?」

「今日と明日。どうしても休みたいと届出を出してきたのよ」

 

山岸がある一枚の書類を差し出し、それを受け取った龍驤も呆れ顔になる。

 

「休ませていいんかい・・・」

「特に問題も無いから、許可したわ」

「確かに、敵さんが見当たらないから暇やけど・・・秘書艦休むて・・・」

「・・・本気で正式な秘書艦を別の娘に代えようかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦艦専用の宿舎内。

 

 

 

歴戦の戦艦たちが住む宿舎の一室で、不気味に笑う女性の姿があった。

 

「ふっふっふっふっふっふっ・・・遂に・・・遂に手に入れたぞ!」

 

畳のある部屋の真ん中で正座する長門。

 

彼女は目の前に置かれたダンボールの荷物を両手で掴む。

躊躇なく開けたその中には、透明な袋で梱包された紫色の衣装が入っていた。

袋の外側に『夜戦グッズ 戦艦サイズ これであなたも夜戦忍者!』と書かれたシールが張られている。

 

「明石の持って来た裏カタログの品・・・これさえあれば・・・」

 

不気味に笑う彼女は自身の衣服を脱ぎ捨てて、ダンボールの衣装を手に取り始める。

 

 

 

 

 

同時刻、ハマグリ島内の地下にある工廠内。

 

白き少女と戦艦の大和が工廠の作業机の様子を観察していた。

 

「ミャ~」

 

そこには、黒い球体の艦載機が大口を開けて、工具を持った整備妖精たちに弄られていた。

 

艦載機であるタマがうっかり口を閉じたまま機銃を撃ってしまい、歯の隙間に銃弾が挟まってしまったのだ。

現在、ピンセットやペンチでそれを取る作業が行われていた。

 

「タマ、ダイジョウブ?」

「ミャ~」

「何故、その状態で撃ったのですか・・・」

 

呆れて理解できない大和は首を傾げる。

その時、整備妖精の1人が前のめりにこけて、持っていた小さなスパナがタマの小さな鼻の穴に入ってしまう。

異常な刺激を受けたタマが短く息を吸い始める。

 

「ミャッ、ミャッ、ミャッ! ブシィィィッ!!!」

「!」

「フワッ!?」

「えっ!?」

 

タマの口内で作業していた整備妖精がくしゃみによって吹き飛ばされた。

勢いよく飛んだそれは、白き少女の開いた口の中へと入ってしまう。

彼女は予想外の異物を飲み込み、顔を青白くして苦しみ始める。

 

「ンゥ~!!!」

「ホッポちゃん!? 大変! だ、誰か!!」

「ミャ、ミャ!?」

「何事でしょうか!?」

「大和さん、何が・・・司令官!?」

 

焦る大和が大声で助けを呼び、近くに居た不知火や朝潮が駆け付けた。

 

この後、他の整備妖精たちの協力により、垂らした紐で喉に引っ掛かった妖精を引っ張り上げることで事なきを得た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が落ちたハマグリ島の外周にある波打ち際。

 

その砂浜に黒い物体が小さな白い二本足で歩いていた。

顔は小さな白い目と四角い口は無表情に見える。

 

「キュ・・・」

 

それは砂浜に流れ着いた空き缶や流木を食べていた。

 

「モキュ、モキュ、モキュ・・・キュ?」

 

不意にその物体が無表情な顔を海の方へ向ける。

何かに感付いたそれは急いで砂中へと潜り込んでいった。

 

 

 

 

 

静かだった砂浜に長身の女性が現れる。

 

紫色のボディスーツを纏い、肩は露出していて、紫のアームカバーという色気のある服装。

 

そんな衣装を纏う戦艦“長門”がハマグリ島へ上陸したのだ。

 

「ふっふっふっふっ・・・ようやく辿り着いたぞ」

 

彼女はそう言って島の内部へと侵入しようとする。

 

「むっ!?」

 

そこで何かに感付いた長門が右側へ大きく跳躍した。

彼女が先程まで居た場所には、数本の黒い魚雷が突き刺さっている。

そして、ジャングルにある1本の木の上に黒い人影が出現した。

 

「あら。あらあら。やはり来たのね・・・姉さん」

「くっ!・・・陸奥か!?」

 

それはハマグリ鎮守府の長門型2番艦“陸奥”だった。

彼女も黒色のボディスーツを着用し、肩と太ももが露出して、黄色いスカートが左右に付いている際どい服を纏っていた。

それを見た長門が赤面しながら妹へ指を差す。

 

「な、なんて破廉恥な服を着ているのだ!?」

「姉さんもでしょう!?」

 

陸奥が姉の発言に思わず怒鳴ってしまう。

咳き込む彼女は同じく指を差して、あることを指摘する。

 

「姉さんの目的・・・それは私の提督でしょう?」

「そうだ!」

「あっさり言うのね・・・まぁ、いいわ。でもっ!!」

 

陸奥はそう言って、両手に黒い魚雷を1本ずつ持って構えた。

それを見た長門も何処からか同じ魚雷を右手で取り出す。

 

「姉さんにあの娘は譲れないの・・・私だって・・・」

「ん?」

「私だって! 満足に触れないから~!!」

「くっ!」

 

魚雷を逆手に持つ長門は飛び掛かる妹を待ち構えた。

陸奥は姉の手前に着地しようとするが、そこには予想外の黒い物体が浮き出ていた。

 

「えっ?」

「むっ?」

「キュ?」

 

先程危険を感じて砂中へ潜ったはずの黒い物体がそこに現れたのだ。

飛び降りてきた陸奥は避けることが出来ず、滑らかな表面のそれを踏ん付けてしまう。

彼女はそのまま滑るように体勢を崩し、顔から砂の地面に激突した。

 

「ぎゃふっ!!!」

 

倒れた陸奥は痙攣しながらその場で気絶する。

 

「すまんな、陸奥。だが、私自身もこれは譲れぬ!」

 

長門は動けなくなった妹を置き去りにして、忍び足で島の内部へ潜入し始める。

 

「しかし・・・陸奥もアレを買ってたのか」

 

謎の嵐が過ぎ去った後、黒い物体が砂中から顔を出し、周囲の安全を確認した。

 

「キュ?」

 

 

 

 

 

薄暗いハマグリ鎮守府内の通路。

 

難なく潜入した長門は音を立てずに進んでいく。

途中でピンクのネグリジェを着た不知火が気配に気付き、彼女の鋭い眼光で見つかりそうになった。

 

「あんな駆逐艦が居たのか・・・愛でれば歯応えのありそうな駆逐艦だな♪」

 

壁伝いに進む彼女の目にある部屋の看板が目に入る。

 

「むっ・・・あ、あれは?」

 

それには『ホッポの自室』と書かれていて、その看板を見た長門の表情が歓喜で満ち溢れた。

 

(やった。やったぞ! ホッポちゃんの自室! いや! この長門とホッポの愛の部屋!!)

 

音を立てないよう注意を払う長門がそのドアノブに手を掛ける。

開けたドアの先は真っ暗であったが、奥にある畳の真ん中に白い布団が見えていた。

 

(あの膨らみ具合・・・間違いない! あの白く愛しいアレが居る!)

 

「エヘヘヘ♪」

 

不気味な笑い声を漏らす長門は一歩ずつ布団の方へ忍び寄る。

手の届く範囲まで近寄った彼女が掛布団に手を掛けた。

 

「すぅ~はぁ~・・・ふんっ!」

 

息を整える長門が素早く布団を捲り、寝ているそれを両手で抱き寄せる。

 

「ホッポちゃ・・・むっ?」

 

しかし、彼女は抱き締めた際の感触に違和感を覚え、すぐに両手で持つそれを確認した。

 

「こ、これは!?」

 

長門が持つそれは愛しい白き少女ではなく、少女の服を着せたシーツの塊だった。

顔の部分は白い袋で“へのへのもへじ”が書かれている。

 

「変わり身の術だと!?・・・はっ!」

 

驚く彼女は部屋の出入り口に人の気配を感じ取った。

ぎこちない動きで振り向くと、そこには見覚えのある戦艦の艦娘が立っている。

 

「お久しぶりです。長門さん」

「あっ・・・あぁ・・・」

 

白き少女の秘書艦であり、彼女との絆が深い戦艦“大和”

彼女の周りは赤いオーラが帯び、その威圧感は離れている長門でも感じ取れた。

 

「山岸提督から不穏な動きがあると忠告されました」

「なっ!?」

「あなたがこんな凶行に走るとは、思いもしませんでしたけど・・・」

「読まれていた・・・だと?」

 

ゆったりと歩き寄る大和に、冷や汗を流す長門は動けなかった。

至近距離までやって来た彼女は不届き者の艦娘を睨み付ける。

 

「推して参ります・・・覚悟はいいですね?」

「ひっ・・・」

 

 

 

 

 

一方その頃、隣の大和の部屋では・・・。

 

白き少女が畳の布団で眠っていた。

 

「ヤマト・・・ヤワラカイ・・・・・・」

 

心地良い夢を見ているらしく、気持ち良さそうな寝言を呟く。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

彼女の寝る部屋の隣から断末魔のような絶叫が響いた。

 

それでも何事も無かったかのように、白き少女はすやすやと寝続ける。




今回は今まで我慢させた“ながもん”の登場回です。
改めてみると、これは酷かったかもしれません。
まぁ、結局は同じオチになっちゃったかなw
次回は・・・疎かにしていたあの娘を出してあげようと思います。

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