北方の白き少女 Heart of the admiral   作:ハルバーの懐刀

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今回は、コミカルな展開は少ないかも?
取り敢えずは、書いてみた感じで後に繋がるようなことは考えていないです。多分w



No. 19 ヨビダサレタ

日本の本土にある横須賀鎮守府。

 

 

 

その鎮守府が遠くから視認できる海上に、2人の艦娘たちが航行していた。

 

 

先頭には、小柄で桃色のポニーテールをした駆逐艦の少女が先導するように突き進んでいる。

背部の艤装である主機から突き出たアームの先には、右側に二連装砲と左側に魚雷発射管が付いていた。

それぞれが少女の左右で動き回り、何時でも発射可能な状態を保っている。

 

 

その後方からは、長身で赤いセーラー服と焦げ茶色の長いポニーテールをした女性が追従していた。

彼女の艤装は、前方の少女より巨大な艤装で、左右と後方に大きな三連装砲が付いている。

右手には三本マストのような赤い和傘が握られていた。

 

 

「不知火さん。敵影及び、他の艦娘の反応もありません」

「了解です。進路、航行ともに異常無し。予定通り15:00(ヒトゴーマルマル)に横須賀へ入港します」

 

先頭の少女が辺り一帯を警戒しながら、後方から来る戦艦の艦娘とその後方にあるものへ気を配る。

 

よく見ると、戦艦の彼女の腰回りにロープが括り付けられていた。

さらにその後方へ垂れ下がるロープは、小振りな木造のボートを引っ張っている。

曳航されているそれには、複数の木箱や緑色のドラム缶が乗せられていた。

 

「もうすぐ横須賀です」

「・・・ハッ!?」

「すみません。お疲れでしたか?」

「ダ、ダイジョウブ!」

「大和さん、もうしばらく控えてください」

 

不知火が後方の何かへ話し掛ける女性にそう忠告した。

彼女は左手を口に当てて、もう1人との会話を中断させる。

 

彼女らとは別の声の主。

 

それは戦艦が曳航するボートに乗った1つのドラム缶から聞こえてきた。

 

 

 

(何もしないで隠れるのは辛いけど・・・仕方ないからね)

 

他よりも大き目のドラム缶の中には、ハマグリ鎮守府の提督である北方棲姫が体育座りで隠れ入っていた。

少し狭い内部だが、少女の小柄な身体のおかげで窮屈な部分は余りなかった。

 

「友軍からの発光信号を確認・・・青葉さん?」

「なんとおっしゃっていますか?」

「このままドッグへ入港せよとのことです・・・余計な信号を・・・」

「?」

 

不機嫌そうな不知火の呟きに、眺めていた大和が首を傾げる。

 

 

 

 

 

ドッグ内では、黒い軍服の艦娘と多数の憲兵たちが整列して待っていた。

彼らは陸へと上がった2人に素早い敬礼をする。

 

「お待ちしていたであります」

「では・・・大和さん、後は頼みます。あきつ丸さんは引き継ぎをお願いします」

「総員、任務を開始するであります」

 

不知火が大和に会釈して、そこから1人で何処かへと歩き去っていった。

あきつ丸と呼ばれた少女が憲兵たちに指示を出し、ボートに乗る資材を次々と運び出す。

 

「そのドラム缶は私が運びます」

 

大和は艤装を消失させて、憲兵たちが運ぼうとした大きなドラム缶を両手で抱えた。

 

「会議室へご案内するであります」

「はい、お願いしますね」

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府の司令部にある会議室。

 

 

 

室内には、10人以上の白い軍服を基本とした提督たちが集まっていた。

彼らは年齢、性別、体格、軍服などの服装の違いが多く見られる。

 

 

 

彼らの対面側には、如何にも上官らしい黒い軍服の中年男性が立っていた。

彼の左胸に数枚の勲章が付けられている。

 

その左隣には、トラック鎮守府の提督である山岸 里子も居た。

 

 

 

静かに佇む彼らの耳に、室内の出入り口であるドアからノックされた音が聞こえてくる。

 

「入りたまえ」

 

黒服の男性がドアへ向かってそう言い放つと、開かれたその扉からあきつ丸とドラム缶を抱えた大和が入って来た。

 

「失礼するであります」

「失礼します」

 

軽い会釈をした2人は扉の手前辺りで立ち止まる。

彼女らの到着を確認した黒服の男性が右手で黒い軍帽を弄ってから話し始めた。

 

「では、全員が揃ったようなので始めるとしよう。今回は極秘の会議であり、秘匿するべき内容もある。機密保持に自信のない者は退室せよ」

 

彼の言葉を聞いた提督たちが互いに目配せするも、立ち去る素振りは全くしなかった。

そんな彼らの姿を見て、黒服の男性が口元を少し緩める。

 

「結構・・・早速だが、先に君らへ紹介したい者がいる・・・大和!」

「了解です」

 

呼ばれた大和が抱えていたドラム缶を目の前に置いた。

提督たちは彼女のことを紹介するのかと思っていたが、次に聞こえてきたある声に耳を傾けてしまう。

 

「ヨイショ! アッ、フタガ・・・」

「今開けます」

 

ドラム缶から聞こえてくる幼い声。

大和がその蓋を開けて、中に居る人物を出そうとする。

 

「ンショ!・・・ン~・・・アッ!?」

「「「「「!?」」」」」

 

ドラム缶の上部にある縁のところに、白いミトン手袋を付けた両手が現れた。

そこから何かが出ようとした瞬間、バランスが崩れたせいでドラム缶本体が前のめりに倒れてしまう。

重い衝撃音とともに、その中から少女の短い悲鳴が響く。

 

「アイタッ!!」

「ああっ!? ホッポちゃん!?」

「イタタタタタッ・・・ンショ、ンショ・・・」

「「「「「えっ!?」」」」」

 

中に入っていた者が痛みを堪えながら這い出てくる。

軍帽を被る真っ白な姿の少女が立ち上がり、驚き顔になる提督たちへ敬礼した。

 

「ハ、ハジメマシテ・・・ソノ・・・ホッポデス・・・」

 

白き少女は初めて目にする提督たちへ口籠った自己紹介をする。

一方の提督たちは、目の前に彼女の存在に目を丸くしていた。

 

望遠鏡などで遠くからしか見られなかった敵の姿。

その存在が自身の間近に居るからだ。

 

驚く彼らの中で、まだ若い青年の提督が黒服の男性に尋ねる。

 

「よ、米満大将。この少女は・・・」

「見ての通り、深海棲艦である姫級だ。それと同時に、君らと同じ提督でもある」

「姫級!?・・・それに、提督とは?」

「現在はトラック鎮守府の分遣隊として、ある島の鎮守府へ着任させている。ちなみにそこの大和が彼女の秘書艦だ」

 

大将がそう告げたことに彼だけでなく、同じように聞いていた他の提督たちも言葉を失った。

その状況に見かねた山岸提督が書類の束を提督たちへ手渡していく。

 

「まずはその資料を読んで頂戴。それから本題を話すわ」

 

 

 

 

 

数十分後、話を聞き終えた提督たちは冷や汗を掻いていた。

 

山岸や彼女の艦娘たちが体験した出来事。

 

その根源となった白き少女の存在。

 

どっちも常識では考えられないことだった。

 

「米満大将。私達に、どうして欲しいのでしょうか?」

 

肩章が付いたグレーの軍用コートを纏う女性提督が、右手で軍帽を整えながら問い掛ける。

 

「知っていて欲しいのだ。彼女・・・北方棲姫という存在を・・・」

「彼女を・・・ですか?」

「そうだ。そのために、信頼できる君達を集めたのだ」

「私達が・・・」

 

提督たちは大将が口にしたその期待に緊張してしまう。

 

「さて、堅い話は此処までにしよう。今後、対象となる個体を保護するために、同じ個体である彼女をよく見ていってくれ・・・ああ、過度な接触は許さんぞ?」

「エ゛ッ?」

 

大将からの不意な発言に、若干意識が飛んでいた白き少女が覚醒した。

すぐに数人の提督たちが少女の元へ近寄り、珍しげにまじまじと見る。

 

「フワッ!?」

「こんな近くで深海棲艦を見るのは初めてだな」

「里子先輩、こんな可愛らしい娘を隠していたなんて・・・ズルいですわ♪」

「確かに、姫級の特徴とよく似ている・・・」

 

若い青年提督は珍しそうに見つめ、同じく若い女性提督も羨ましそうに山岸へ話し掛けた。

そんな2人とは別に真面目そうなメガネの男性提督が白き少女を観察する。

 

「・・・」

「エ、エット・・・」

「・・・頭・・・撫でていいか?」

「アッ、ハイ。ドウゾ」

「・・・うむ」

 

白い短髪のオールバックで強面の男性提督が真顔で少女の頭を撫で始める。

一瞬だけ委縮した少女だが、すぐに彼の要望に答えた。

 

撫でられ続ける白き少女は他の提督たちの姿を見ていく。

 

(あ、あれって・・・前が見えるのかな?)

「ん? 私の顔に何か付いているかね?」

 

男性と思わしき中肉中背の提督。

しかし、彼の首から上は黄色いT型の被り物が被せられていた。

 

「ねぇ?」

「ハイ?」

「抱いていい?」

「ヒャッ!?」

 

栗毛でセミロングの女性提督の問い掛けに、驚く白き少女が1歩引いてしまう。

そこへ山岸が問題発言した彼女に丸めた書類で制裁を下した。

 

「私が何したのよ!?」

「大将の言葉を思い出しなさい!」

「抱き付くだけだったのよ?」

「言い方が許可できないわ!!」

 

2人が言い争っている間に、白き少女は少年のような提督と対面していた。

オレンジ色の短い髪の毛で幼い顔立ちをした白い提督の服を着る少年。

 

「えっと・・・」

「・・・ショタ」

「えっ?」

「ナ、ナンデモナイ」

(本当に居たんだ・・・)

 

白き少女は幼いのに軍人として生きる少年の存在に驚いていた。

少年提督の方は何も解らずに少女の姿を見つめ続ける。

 

「やぁ♪」

「ンゥ?」

 

突然、白い軍帽を被るイケメンな男性提督が少女に声を掛けてきた。

彼女自身、少し不安な気持ちもあったが、初対面で怯えるのは失礼だと思って短い返事をする。

 

「ナ、ナニ?」

「少しいいかい?」

「?」

「とうっ!!」

「!?」

 

彼は掛け声とともにその場で四つん這いになった。

自身の右側を見せ付けるようにし、笑顔で白き少女へ右手の親指を立てる。

 

「俺に座らないか?」

「イイ゛ッ!?」

「「「「「やめんかっ!!」」」」」

 

流石にその頼みごとは、他の提督たちにも不評だったらしく、イケメンの彼は袋叩きにされた。

尚、白き少女は秘書艦の大和に、少年提督はセミロングの女性提督に目隠しをされる。

 

「ホッポちゃん、見ちゃ駄目です」

(遅いです・・・本物の○ムだった・・・)

 

涙を流す白き少女が妙な提督との出会いに嘆いていた。

 

 

 

 

 

「この会合を開いて正解だったな」

「一部呼ばなくても良かったと、私は思うのだけど?」

 

白き少女と提督たちの触れ合いを眺める米満大将と山岸提督。

 

彼らがこの集会を開いた理由は、北方棲姫という存在を提督たちへ覚えさせるためである。

現状、目の前に居る彼女を保護することに成功したが、同個体である少女たちは見つかっていない。

事情を知る山岸たちだけでは手が足りず、捜索の範囲も小規模という効率が悪い状態だった。

 

そこで米満大将によって選抜された者たちに彼女の存在を教え、その捜索と保護である重要任務を受けてもらうことになったのだ。

 

「ある意味、賭け事な作戦だけど・・・」

「君や大和たちが体験した現象のことか・・・」

 

任務の一番の障害となる北方棲姫に関わる情報の強制消去。

 

しかし、大本営に残された姫級に関する書類は消されていなかった。

これにより、情報消去の対策として、彼らには北方棲姫の書類が手渡されることとなる。

 

「他の人間に情報が漏れるかもしれんが・・・」

「“あちら”に確保される方がもっと厄介よ」

 

山岸の危惧する理由は、白き少女による敵勢力の強化である。

鬼級や姫級といった最上位個体は、練度の高い艦娘でも苦戦を強いられる存在だ。

そんな彼女らが増加すれば、各鎮守府だけでなく、日本の本土ですら唯では済まなくなる。

 

「私としては、最前線の鎮守府で働く姪っ子が心配なのだが・・・」

「叔父さんに心配される暇なんてないわ」

 

大将の左腕が隣の姪っ子の頭へ伸ばされるも、彼女の素早い右腕によって払い除けられた。

 

「むぅぅ・・・撫でさせてくれないか・・・」

「私はもうそんな歳じゃないわ」

「叔父さんもこの程度は甘えたいのだよ?」

「この後のホッポちゃんのナデナデも許可しないわよ?」

「そ、それだけは勘弁してくれ・・・」

 

 

 

 

 

「オオ―ッ!!」

 

畳のある和室へ案内された白き少女が薄い桃色の浴衣を纏っていた。

所々に少し濃い桃色の桜の花びらが刺繍されている。

 

「お似合いですよ、ホッポちゃん♪」

 

同じように少し濃い目の桃色な浴衣を着る大和が微笑んでいた。

 

 

2人は山岸提督に連れられて、和室に待機していた女中たちに着替えさせられた。

それから彼女らは米満大将にあることを言い渡される。

 

「此処から少し歩いた海沿いの町で祭りが行われている」

「マツリ?」

「ど、どういうことでしょうか?」

「もう8月も終わるからね。君達にはささやかな休養だが、そこで楽しんできてもらおう」

「いいのですか?」

「なあに・・・今回の件での特別報酬が決まらなくてね。色々と苦労して、これだけしか用意出来なかった訳だ。非常に申し訳ない」

「そ、そんな! この報酬は凄く嬉しいです!」

「タイショウ、フトッパラ~♪」

 

喜ぶ2人に山岸提督が会話に加わった。

 

「私の方は米満大将ともう少し話し合う予定よ。あなた達だけでも楽しんできて」

「ウン! ヤマト! イコウ! イコウ!」

「あっ、ちょっと! ホッポちゃん!?」

 

白き少女は大和の手を引っぱり、司令部の廊下を走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂浜が見える道路。

 

暗くなった道を照らすかのように、夜店の屋台がずらりと並んでいた。

 

 

 

「オオ―! ヨミセ―! タベモノ―!」

 

はしゃぐ白き少女が歓喜の声を上げる。

彼女は元の身体だった時の幼い頃に経験した祭りの記憶を思い出していた。

 

「キンギョスクイ♪ ワタアメ♪ ヨーヨーツリ♪」

 

浮かれる白き少女は小さな下駄の音を鳴らし、近い夜店へと走っていく。

大和もその姿を見失わないように、早足で追い掛け始めた。

 

「待って! ホッポちゃん!」

「ワプッ!?」

「にゃ?」

 

白き少女が濃い青色の浴衣を着た女性と軽くぶつかってしまう。

その娘は少し紫がかった短髪で、右手にはクマの顔した綿あめを持っていた。

 

「びっくりしたにゃ―、怪我はないにゃ?」

「ウン。ヘイ・・・・・・ワタアメ!?」

「にゃ?」

 

白き少女の目が心配してくれる女性の綿あめに釘付けとなる。

 

「ソレッ! ドコデウッテル!?」

「にゃ、にゃ? あっちだけど・・・」

「ワタアメ―!!」

 

彼女は指差された方向へ走り出していった。

それを見た大和が慌てて追い掛け、残された女性は訳が分からず立ち尽くしていた。

 

「一体何だったにゃ?」

 

 

 

立ち並ぶ屋台の1つにやって来た2人。

白き少女が夜店の店主に元気よく注文をする。

 

「ワタアメ、ヒトツ、チョウダイ♪」

「しばしお待ちを・・・」

「え゛っ?」

 

大和は店主の姿に思わず疑問の声を漏らしてしまう。

 

グラサンに大きなマスク、三角巾に割烹着を着るその少女らしき姿。

そして、覚えのある桃色の髪と口籠るその声。

どう見ても陽炎型のあの少女にしか見えなかった。

 

「エット・・・」

「お代は要りません。どうぞ召し上がって下さい」

「エッ? イイノ? ヤッタ―♪」

 

代金を払わずに綿あめを貰った少女がご機嫌になる。

彼女が少し離れた場所で食べている間に、大和が店主である少女へ話し掛けた。

 

「あの・・・いいんですか?」

「代金はすでに貰っています」

「その、それは分かりましたが・・・不知火さん?」

「不知火は不知火という名ではありません」

「いえ、その・・・何故、そのような・・・」

「何か落ち度でもありましたか?」

「な、何でもありません!」

 

その店主の妙な威圧に臆する大和が後ずさる。

そんな彼女に右手を白き少女が左手で引っ張っていった。

 

「ヤマト、アッチヲ、ミテイコウ!」

「あっ、ちょっと!待って!」

「・・・」

 

2人を見送る店主の後方辺りから男性の呻き声が聞こえてくる。

 

 

 

「ヒンヤリ~♪」

「ん~! これは頭にきます・・・」

 

2人は気前のいいお兄さんが販売するカキ氷を仲良く食べていた

 

「サービスだ! ちっちゃい嬢ちゃんには2つ目やるよ!!」

「アリガトウ~♪」

「あの、お支払を・・・」

「お嬢ちゃん達が可愛いから、今回は全部タダにしてやるよ!」

「えっ?」

 

店主のお兄さんはお代も無しに、2人へカキ氷を手渡してくれたのだ。

 

 

 

ヨーヨーつりの店で水ヨーヨーを釣ろうとする白き少女。

赤色の水ヨーヨーの輪っかに引っ掛けるも、釣りカギの紙が水で破れて取れなくなってしまう。

 

「ン~トレナイ・・・」

「しょうがない。お嬢ちゃんにどれか好きな色1つやろう」

「イイノ!? アリガトウ!」

「ありがとうございます」

 

白い鉢巻をした老人の店主の計らいにより、白き少女は赤色の水ヨーヨーを手に入れた。

 

 

 

「えっと・・・あ、あきつ丸さん?」

「じ、自分はあきつ丸などではありませぬ! 唯の金魚すくいの店主であります!」

 

サングラスとマスクで変装した女性の店主が慌てながら否定した。

白き少女は2人のやり取りを無視し、真剣な表情で金魚すくいを続ける。

 

「ムゥ~・・・フンッ! ゴボゴボ・・・」

「「!?」」

 

いきなり自身の顔を水槽の水面へ浸す少女に、大和と店主が動揺しながら止めようとした。

 

 

 

 

 

2人はイカ焼きを食べた後、神社の境内へ向かう石階段で座り込んでいた。

 

「プフゥ~オイシイモノ、イッパイタベタ~♪」

「一杯楽しんだみたいですね」

「ウン!」

 

上機嫌になった白き少女が立ち上がり、舞うように踊りながら水ヨーヨーで遊び始める。

 

「アッ!」

「あら?」

 

彼女の振り回しによって、赤い水ヨーヨーが小さな手から弾き飛んで行ってしまった。

飛ばされたそれは階段の右側にある茂みの方へ入っていく。

 

「ホッポちゃんはそこで待っていて下さい」

「アッ、ヤマト!」

「すぐに戻ってきますから!」

 

それを見た大和がすぐに立ち上がって、茂みのある森へと入っていった。

彼女は暗い足元の草むらを見渡しながら少女のヨーヨーを探していく。

 

「う~ん、何処でしょうか?」

 

なかなか見つけられず、徐々にその足は森の奥へと歩き進んでいった。

 

「ひょっとして・・・通り過ぎたでしょうか?」

「何かお探しで? お嬢さん」

「!」

 

不意に声を掛けられて、彼女は聞こえてきた前方へ目を向ける。

そこに居たのは、白いタンクトップと黄土色の長ズボンを着る坊主頭の若者3人。

彼らの服装からして、明らかに軍関係の人間だと判断された。

 

「よかったら一緒に探してあげようか?」

「それと俺らともお付き合わないかい?」

「探し物よりそっちがいいぜ?」

 

彼らの言葉はナンパのようなものだが、少しずつ近付く行動は如何わしく見える。

大和はゆっくりと後ずさり、彼らとの距離を取ろうとした。

 

「ご心配せずとも1人で見つけられます・・・連れも待たせていますので・・・」

「それならそのお連れちゃんもご一緒にどう?」

「こんな美人ならもう1人も美人じゃね?」

「男はお断りだがな。はっはっはっはっ!」

 

にやけた顔で笑う3人が歩き続けると、中央に居た若者の頬に何かが飛んでくる。

 

「ぶっ!?」

 

それは大和が探していたはずの赤い水ヨーヨーだった。

高速で飛んできたそれは若者の顎に衝撃を与えた後、水をまき散らしながら風船の如く割れ散った。

 

「ヤマトニ、チカヅクナッ!!」

「ホッポちゃん!?」

 

大和の手前に白き少女が怒った顔で若者たちを睨み付けた。

対する若者たちは不機嫌な顔で邪魔者を見つめる。

 

「なんだこのガキ!?」

「子持ち? じゃないわな」

「取り敢えず邪魔だ。そこを退きな!」

「カエレ! カエレ!」

「ど、どうしましょう・・・」

 

ファイティングポーズで素振りしながら待ち構える白き少女。

一方の大和は、怒った彼女の乱入に焦っていた。

 

いくら小柄に見えても少女は深海棲艦の中で姫級と言われる存在だ。

その身体能力は通常の艦娘以上と思われ、実際にその実力を何度も目撃されている。

さらに彼女は以前にあった事件で、ある男性を重症に追いやったこともあった。

此処で迂闊に人へ危害を加えれば、軍内部での大騒ぎにまで発展してしまうからだ。

 

彼女が白き少女を連れて逃げるしかないと思い、その小さな身体抱き上げようとしたまさにその時だった。

 

「熱き指導おおおおおおおおおおおおっ!!!」

「「「い゛っ!?」」」

「「えっ!?」」

 

突如、凄まじい男の叫び声とともに、赤いジャージ姿の男性が若者たちの後方から飛び降りてきた。

彼は右手に持つ竹刀で瞬く間に3人の尻を弾き叩いた。

 

「ぎゃあっ!!!」

「ふぐぅっ!!!」

「んぎゃあっ!!!」

 

強烈な打撃を尻に受けた3人が這い蹲って、叩かれた箇所を両手で押さえた。

そんな光景を見た白き少女と大和は呆気に取られる。

3人の内、右側の若者が赤ジャージの男性を見て怯えだした。

 

「ひぃ! きょ、教官!?」

「嘘だろっ!?」

「なっ!? 横須賀の鎮守府へ行ってたはずじゃ・・・」

「お前たちぃぃぃぃぃぃ!!! 訓練をサボって何をしていたぁぁぁ!?」

 

怒りまくるジャージの男性が竹刀を乱れ振った。

その動きに怖気付く若者が必死に弁明し始める。

 

「こ、これには訳が・・・」

「ちょっと、気分転換に・・・」

「そ、そこのお嬢さんが困ってたら、あの子どもが何かを投げ付け・・・」

「馬鹿者おおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

「「「ひっ!?」」」

 

彼は罵倒するかのように大声で3人を叱りつけた。

 

「目の前の御方は、我が軍の少佐であらせられる!! 貴様らは上官に向かって何をしようとした!?」

「えええっ!? しょ、少佐!? あ、あんな子どもが・・・」

「敬礼いいいっ!!!」

「「「は、はいいいいっ!!!」」」

 

若者たちは尻の痛みを堪えながら素早い動きで海軍式の敬礼を行う。

白き少女と大和も咄嗟に敬礼を返した。

 

「兵卒の貴様らが訓練所から抜け出したことぐらいは、まだ怒りも抑えられる・・・だが!! 上官と付き添いの艦娘に対し、如何わしい行為をしようとしたことは絶対に許さん!!!」

「げぇ!?」

「なっ!? か、艦娘!?」

「そ、そんな・・・」

 

自らの犯したことを告げられて、3人の顔が真っ青になった。

赤ジャージの男性が白き少女と大和に向かって、90度近く腰を曲げて謝罪する。

 

「申し訳ありませんでした! この馬鹿者どもは、教官であるこの“熱気 隼人”にお任せください!!」

「あ、はい・・・」

「ウン・・・ネッキ、ハヤト?」

 

2人は困惑しながら短い返事をする。

赤ジャージの男性は再び竹刀で3人の尻を叩き付けた。

 

「「「ぎゃあああっ!!!」」」

「このまま訓練所まで走り込め! その後は朝までトラックを走り続けろ!」

「朝まで!?」

「お、鬼かよ!? 」

「それとロシアからある所長が訪問中だ。彼の指導も受けてもらうぞ!!」

「「「い、嫌だあああああっ!!!」」」

「喧しいっ!!! 駆け足しろおおおおおっ!!!」

 

涙と鼻水を流す若者たちが赤ジャージの男性とともにその場から走り去っていった。

残された白き少女と大和はお互いに目を合わせる。

 

「ナ、ナンダッタンダロウ・・・」

「さぁ・・・・・・で、でも! 何事もなくてよかったと思います」

「ウ、ウ~ン・・・」

 

釈然としない白き少女が考え込むが、安心しきった大和がその頭を右手で撫で始めた。

 

「フエッ?」

「さっきはありがとうございました。私のために庇ってくれて・・・これで何度目でしょうか」

 

白き少女はその言葉に思わず、白い顔を赤らめてしまう。

そんな彼女らの耳に聞き覚えのある音が轟いてくる。

 

「これは・・・」

「“ハナビ”ダ!」

 

2人が海側にある夜空を見上げると、オレンジ色の光を輝かせる大きな花火が打ち上がっていた。

白き少女が興奮しながら大和の手を掴み、石階段のある方向へと走り出す。

 

「ウエデ、ミヨウ!」

「ホッポちゃん、もっとゆっくり走ってください!」

 

 

 

 

 

石階段を登り切った辺りにある鳥居の下で、2人は夜空に咲く色取り取りの花火を堪能していた。

 

「キレイダナァ・・・」

 

大和は白き少女が花火に見惚れる姿を見続ける。

身体は深海棲艦でありながら、幼い子どものような感情で動き回る。

元が人間であったことを映し出しているかのように見えた。

 

「助けられてばかり・・・でも、今度は私たち・・・私自身が、あなたをお守りします」

 

彼女は小声でそう呟き、夜空に浮かぶ花火に目を向ける。

 

 

 

 

 

「ひやひやしたであります・・・」

「横須賀に居た熱気教官の到着・・・思った以上に早くて助かりました」

 

 

 

2人を監視するかのように茂みへ隠れる2つの人影。

マスクとグラサンを付けたあきつ丸と不知火だった。

彼女らは秘密裏に2人の護衛のため、尾行しながら不逞な輩が近付かないよう監視していた。

 

「あの一兵卒どもが提督の卵ですか・・・」

「あれは腐らせる候補に乗せられるであります。ご心配無用・・・」

「当然です。不知火の司令に暴言を吐いた以上、提督になる資格などありえません」

「横須賀へ連絡した際に、米満大将の怒声が聞こえたであります。あれ程怒っているのは久々に聞いたであります」

 

彼女らは目標に訓練兵が接触したことで、慌てて横須賀へ無線を飛ばすことになったのだ。

結果、救援に駆け付けてくれた教官により事なきを得た。

 

「子煩悩な叔父らしいですから・・・次の作戦でも山岸提督を参加させたがらなかったそうです」

「近々行われるアレでありますか・・・無理もないであります」

 

苦笑する2人は白き少女と大和の後ろ姿へ視線を戻す。

その時、白き少女が興奮のあまりに、石階段の辺りでバランスを崩した。

 

「ホッポちゃん!? 危ない!!」

「オットトト! アッ・・・アァァァァァァァ!」

「「!?」」

 

そのまま階段の下へ転がり落ちていった白き少女を大和が急いで追い掛けていく。

一部始終見ていた監視者の2人もその後を静かに追っていった。




今までに知った提督像というものを出してみました。
はっきりと書いていないですが、特徴的に分かってしまう濃い提督もいるでしょう。
米満大将もそれ程重要なキャラじゃなかったはず・・・。
本命の祭りはちょっと短く書いてしまったかな。
ちなみに教官のモデルは、身内がよく遊んでいたカプ○ンの格闘学園出身のキャラです。
まぁ、ネタキャラになるだろうと思って登場させましたw

次回は今まで我慢させていた彼女をメインにして書く予定です。
それと放置していた艦これランキング上位の娘もそろそろ出さないと・・・。

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