北方の白き少女 Heart of the admiral   作:ハルバーの懐刀

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早めに投稿したかったのですが、思った以上に遅れてしまいました。
怒涛の後半戦・・・この場合、夜戦と言った方がいいのだろうか?w



No. 18 ウィ~ヒック!

夜のトラック鎮守府内にある宿舎付近。

 

 

 

「「ひぃぃぃぃぃっ!!」」

「マ~テ~♪」

 

舗装された地面を暁と響が全速力で走っていた。

彼女らの後方からは、酔っ払った白き少女が同じ速度で追い掛けてくる。

 

「なんであんな娘になっちゃったのよ~!?」

「暁もウイスキーを飲めばなるかも・・・」

「そんなわけあるか!! って、ウイスキー? あんたまさか!?」

「・・・」

「また、内緒で取り寄せたのね~!? 司令官に知られたらどうするつもりなのよ!?」

「問題ないさ。私は酔わないし」

「そんな問題か~!!」

 

 

 

 

 

約5分前。

 

駆逐艦専用の宿舎内。

 

 

 

放心状態の電を運ぶ彼女の姉たちが薄暗い廊下を歩いていく。

彼女らの自室手前で、長女である暁が引き戸を開けた。

その部屋の中へ末っ子を背負う三女の雷と次女の響が入っていく。

響が手際よく布団を敷いて、雷が背負っていた電を寝かせた。

 

「今日は騒がしい夜になりそうね!」

「暁、夜更かしは駄目だよ?」

「わ、分かってるわよ!?」

 

部屋の外へ出た響が暁と話しながら歩き出す。

4,5歩歩いたところで、彼女らはある異変に気付いた。

 

「あれ? 雷は?」

「すぐ後ろに・・・・・・ん?」

 

2人が何気なく後ろへ振り向くと、そこには誰も居なかった。

しかし、自分たちの部屋の扉付近で、何かが蠢いているのが見えてしまう。

 

「「っ!?」」

 

彼女らはそこで衝撃的なものを見てしまった。

 

「チュウウウウウウ・・・」

「んむぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

白き少女が三女を床へ押し倒し、柔らかそうな口で相手の唇を奪っていたのだ。

強烈な吸引の音が姉たちの方まで伝わってくる。

 

「プフゥ・・・ペロッ」

「し、れい・・・か・・・あはっ・・・もう、こ・・・えが、きこえ・・・あはっ!」

 

末っ子と同じ状態にされた三女が途切れた言葉を呟いた。

吸い終えた白き少女が左側へ顔を向ける。

離れた場所で自分を見つめる2人に気付き、彼女はゆっくりと立ち上がった。

 

「「ひっ!」」

「エヘッ♪」

 

怯える2人を見つめながら白き少女が走り始める。

彼女らも反射的にその場から、宿舎の出口へと即座に走り出した。

 

「マッテ~♪」

「ぴゃ―――っ!!」

「雷、お望みの顔になったね」

「言ってる場合か――っ!?」

 

 

 

 

 

宿舎周りで逃げ回る2人。

それでもしつこく追い掛けてくる白き少女を振り切ることが出来なかった。

焦る長女が右隣で並走する次女へどうするべきか聞いてみる。

 

「どうする!? どうするのよ!? 響!!」

「・・・餌をやって時間を稼ぐしかない」

「餌!? 餌って何よ!? 何も持って・・・」

「ていっ」

 

突如、駆逐の次女が姉の足を蹴り、並走していた彼女を躓かせた。

置き去りにされた暁はそこで次女の言葉を理解する。

 

「ひ、響ぃぃぃぃぃぃっ!! あんたって娘はぁぁぁぁぁぁっ!! みぎゃあああっ!?」

「ごめん、姉さん・・・後でその船体は拾ってあげるから・・・」

 

彼女はそう言って、司令部のある方向へと走っていった。

このまま他の艦娘たちと合流し、大勢で酔った白き少女を捕縛する考えである。

 

「まずは里子に報告を・・・っ!?」

 

暁型の次女がそう算段する最中で、不意に彼女の左足が止まった。

彼女の意志とは関係なく止まったため、盛大に前のめりでこけてしまう。

 

「痛たた・・・何が・・・」

 

こけた少女が左足に目を向けると、そこには黒い球体の物体があった。

 

「えっ・・・」

「ミ゛ャ~」

 

それは白き少女が扱う艦載機の1機だった。

白い歯がある口で次女の左足のすねに噛み付いている。

 

「クロ? なんで・・・」

「ミ゛ャ~」

「ごめん、クロ。離れて」

「ミ゛ャ~」

「お願いだから、早く離し・・・はっ!?」

 

彼女が噛み付いた艦載機を必死で引き剥がそうとすると、自身へ近付いてくる足音を聞き取った。

それは長女を襲っていたはずの白き少女が歩く音である。

ゆっくりとその方向へ目を向けて、やって来る足音の主を視認した。

 

「ミッケ♪」

「・・・」

「チュウ~♪」

「あはっ・・・あはは・・・」

 

響はそこで己のしたことを後悔するが、目の前に来た無慈悲な罰から逃れられなかった。

 

 

 

「ダスビダーニャ・・・んむぐっ!?」

 

 

 

 

 

「あ、あ、あ、青葉、見ちゃいました・・・」

 

 

 

響が襲われている位置から少し離れた植え込みの草むら。

その中からある人物が飛び出してくる。

 

紫色の短いポニーテールをしたセーラー服の女性。

横須賀鎮守府の重巡洋艦“青葉”

 

「これは・・・とんでもないものを撮ってしまいました」

 

彼女がこのトラック鎮守府に居る理由。

それは姫級である少女が着任したことで、何か凄いネタがあると予想したからだ。

しかも本日は彼女の着任祝いということもあり、青葉は『何かが起こる』と感じ取った。

 

「いやはや・・・響ちゃん、ご愁傷様です」

 

今日も重巡の彼女は愛用の一眼レフカメラを手にし、絶好のシャッターチャンスを撮る。

 

「さて、今回は此処までにしておきましょうか」

 

現在、青葉は休暇届けを利用し、無断でこのトラック鎮守府に潜入していた。

彼女自身、これ以上の深入りは危険と判断したため、逸早く撤退準備を行う。

素早い身のこなしで、草むらから近い宿舎の横へ隠れ込んだ。

 

「ここから近い浅瀬は・・・あっち・・・ん?」

 

重巡の彼女がそこから一歩踏み出したとき、後ろのスカートの裾が何かに引っ張られた。

彼女はまるでロボットのようにカクカクと首を後ろへ曲げる。

 

「・・・」

「エヘヘ♪」

 

彼女のスカートを引っ張ったのは、頬を赤らめた白き少女だった。

向けられたその笑顔に、青葉は顔を引き攣らせてしまう。

 

「わ、ワレ、アオバ・・・」

 

 

 

 

 

「オイチ♪」

「はっ!・・・はおばっ・・・はられ、まひた・・・」

 

僅かな時間だけで重巡はその場で轟沈される。

彼女は仰向けにだらしなく寝転がり、スカートの湿った部分から湯気が立っていた。

 

「フ~ン♪ フフフ・・・ンゥ?」

 

白き少女がその場から立ち去ろうとすると、歩き出した右足に青葉のカメラが当たる。

 

「ン~?」

 

彼女がそのカメラを拾い上げ、未だに失神する重巡と交互に目を向けた。

 

「!」

 

そこで少女は何を思い付いたのか、手の持ったカメラを寝転がる青葉に向けて、連続でシャッターを切り始める。

 

「ン~♪」

 

特に何も考えずに撮っているらしく、カメラのボタンを押しまくった。

やがて、気付かない内にカメラのフィルムを使い切ってしまう。

 

「ウ~♪」

 

白き少女は使い切ったカメラを地面に置き、そこから彷徨い歩くように立ち去った。

 

 

 

 

 

工廠から少し離れた場所の倉庫

 

 

 

そこでは、白露型の駆逐艦たちが少女の行方を捜していた。

 

白露と時雨、春雨と五月雨の二手に分かれて、大きい倉庫内を見て回る。

 

「提督、何処に行ったのでしょうか・・・」

「近い・・・この辺りのはず・・・」

「春雨?」

「えっ? あ、な、何でもないです!」

 

ボーキサイトの木箱置き場で捜索する春雨と五月雨。

木箱を退けて探す五月雨は、少し様子のおかしい春雨に声を掛けた。

 

「五月雨、少しあちらを見てきます!」

「あっ、ちょっと、春雨!? 待って!」

 

突然、走り出した春雨の行動に、五月雨が手を伸ばして止めようとする。

そんな彼女の制止を無視し、春雨はある場所へと走り向かった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

 

彼女が辿り着いたのは、白露と時雨が捜索するもう1つの倉庫。

主に燃料入りドラム缶が保管されている場所でもある。

到着した駆逐の少女が重い鉄製の引き戸を開けた。

 

「ホッポちゃん、居ま・・・はっ!?」

 

扉を開けた彼女の目に、信じ難い光景が入ってくる。

 

「き、気持ち、いいし・・・あっ、ついし・・・恥ず・・・かしいし・・・」

「ぼ、僕も・・・ここまで、か・・・うっ・・・」

 

2人の姉たちがだらしない表情で仰向けに倒れていた。

長女は何故か両手でピースサインをし、次女は両手で胸を抑える体勢のまま震えている。

どうやら、一足遅く白き少女に襲われてしまったようだ。

 

「そんな・・・白露姉さん、時雨姉さんまで・・・」

 

彼女が驚きの声を漏らしていると、倉庫の外から五月雨の叫びが響いてくる。

 

「うわあぁん!! むぐぅ!?」

「五月雨!?」

 

春雨はすぐに振り返って、倉庫の外へ飛び出した。

叫び声のした左側を見ると、そこには五月雨に覆い被さる白き少女の姿があった。

 

「チュウウウウウウ・・・」

「んむぉぉぉぉぉぉっ!?」

 

少女に吸い付かれた五月雨が涙を流し、身体を痙攣させながら失神する。

十分に吸い取りキスをした白き少女が立ち上がり、やって来た春雨の方へ顔を向けた。

 

「イタ~♪」

「し、司令官・・・」

 

駆逐の少女が思わずそう呟き、向かって来る小さな少女を無防備に待ち構える。

 

(ま、また・・・アレを味わうなんて・・・でも、今は・・・)

 

彼女は足を曲げて、少女との視線の高さを合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆逐艦たちが轟沈(キス)させられてから約10分後。

 

 

 

「何故だっ!! 何故見つからんっ!!!」

「そんなにお姉さんと、火遊びしたくないのぉぉぉっ!?」

「「ホッポちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」」

 

長門型戦艦である姉妹は、懲りずにトラック泊地全体を探し回っていた。

 

 

 

 

 

同時刻、司令部の正面玄関前。

 

 

 

彼女らの叫びを聞いていた山岸たちは、損傷させられた艦娘たちを保護していた。

空母組が襲われた少女たちを入渠施設へと運び込んでいく。

 

残った戦艦組は山岸と一緒に相談することになった。

 

「どうして、長門さん達はホッポちゃんに襲われないのでしょう?」

「きっとアレね。酔っているけど、本能的に避けているのかも・・・」

「あっはっはっはっはぁ! とことん嫌われているのネー!」

「は、榛名も襲われるのでしょうか・・・」

「あんな状態で、捕まえられるのかしら・・・」

「姉さまは、私がお守ります・・・」

 

中々、目標が捕まえられないことに悩んでしまう一行。

そこで山岸は何かを思い付いたらしく、ある指示を戦艦たちに伝えた。

 

「扶桑と山城は此処から先行して捜索を。金剛と榛名には別の作戦で捕獲してもらうわ」

「えっ、は、はい!」

「分かりました!」

 

指示を受けた扶桑姉妹が早足で真っ直ぐ進んでいく。

それを眺める山岸は悲しげな表情で見送った。

 

「さて、後は・・・3人共、彼女らの後を追うわよ」

「えっ?」

「What?」

「里子提督、それは一体・・・」

「・・・・・・扶桑、山城、ごめんね」

 

 

 

 

 

山岸の言う通り真っ直ぐ進む戦艦の姉妹。

 

特に何もせずに、周りを見渡して、目標の少女を捜索した。

 

「姉さま、大丈夫でしょうか?」

「心配ないわ、山城。戦艦の2人でなら抑えられるでしょう」

 

自信のある姉の後ろから付いていく戦艦の妹。

不安な表情で彼女が後ろを振り向いたとき、それは前触れもなくいきなり現れた。

 

「わぷっ!?」

「えっ!?」

 

いきなり扶桑の右側から白い何かが飛び掛かって来たのだ。

戦艦の彼女は押し倒された後、すぐにその唇が奪われてしまう。

 

「チュウウウウウウ・・・」

「んもぉぉぉぉぉぉっ!?」

「ね、姉さまぁぁぁぁ!?」

 

叫ぶ妹の目の前で、件の少女が姉を悶絶させた。

動かなくなった獲物を確認すると、今度は近くに居た戦艦の妹へ視線を飛ばす。

 

「ひっ!?」

 

睨まれた彼女は逃げ出すこともせず、その場で固まってしまった。

そんな彼女に白き少女が足を曲げて、飛び掛かる体制を整える。

 

「ああ、やっぱり・・・とても不幸だわ」

 

 

 

 

 

「ホ、ホッポちゃん・・・」

「これは・・・凄まじいわね」

「Wow・・・強烈なKissネー」

「榛名は、見てられな・・・うっ・・・」

 

ちょうど山城が襲われている所へ、山岸と戦艦3人が追い付いた。

4人は白き少女の行動に顔を赤らめてしまう。

その内の榛名は垂れた鼻血を手で抑えていた。

山城が沈黙した直後に、少女は彼女らの存在に気付く。

 

「アッ・・・」

「「「「!」」」」

 

白き少女は新たな獲物へ向かっていくが、俊敏さが無い千鳥足でふらふらと歩いてきた。

 

「大和! 出番よ!」

「えっ!? 里子提督!?」

「あなたが受け止めた後に、2人で抑えさせるわ! 金剛! 榛名! 頼んだわよ!」

「了解デ―ス!」

「あっ、待ってください。鼻血を・・・」

 

戸惑う大和が山岸に背中を押され、歩いてくる白き少女と対面する。

意を決した彼女は、地面に両膝をついて、迎えるように両手を拡げた。

 

「ア~♪」

「きゃっ!?」

 

白き少女が戦艦の胸元へ飛び込むように抱き付く。

彼女の全体重を預けられ、咄嗟にその身体を抱き支えた。

 

「ン~♪」

「えっ」

「ン~♪」

「その・・・」

「ン~♪」

「うう・・・」

 

抱かれる少女がキスを強請ってくる。

大和は周りに人が居ることもあり、恥ずかしい気持ちで一杯だった。

けれども、彼女の願いを断ることもできず、その体制のままでお互いの顔を近付ける。

 

「ンチュ♪」

「んぅ・・・」

「チュウウウウウウ・・・」

「んんぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

白き少女の口が大和の唇に引っ付いた瞬間、彼女の強烈な吸い込みが始まった。

戦艦の身体全体にある神経に、まるで電撃を流されたような感覚が襲う。

 

「んっ・・・くっ・・・」

 

彼女はそんな快感に流されず、なんとか耐えようと試みた。

抱える腕に少し力を籠めて、今の体勢を維持しようとする。

 

「チュウウウウウウ・・・」

「くぅぅぅっ!?」

 

更なる吸引で意識が飛びそうになるが、彼女自身の根性で持ち堪えた。

 

「チュウウウ・・・」

「んっ、んんっ!」

「チュウ・・・」

「ん・・・?」

「・・・」

 

少し涙目になる大和は、此処で白き少女の吸引力が弱まっていることに気付く。

徐々に吸う力が小さくなっていき、少女が口を離すと同時に寝息が聞こえてきた。

 

「スゥゥゥ・・・スゥゥゥ・・・スゥゥゥ・・・」

「あっ・・・」

「力尽きたみたいね」

「キュートな寝顔ネー♪」

「つ、突いてみても、いいですか?」

 

どうやら、あの千鳥足の時点で燃料(気力)が僅かだったらしい。

白き少女は戦艦の胸元ですやすやと気持ちよく寝入ってしまう。

大和は眠った少女を抱えたまま立ち上がった。

 

「ご迷惑おかけしました」

「いいのよ。悪いのはこちらだし・・・今日はその娘と一緒に休みなさい」

「わかりました」

 

戦艦の艦娘が軽くお辞儀をした後、宿舎のある方向へ歩いて行った。

 

(・・・ちょっと・・・・・・“燃料漏れ”しました・・・)

 

 

 

見送った3人は司令部へと足を進める。

 

「騒がしい夜になったわ」

「それでも、いいものが見られたデース!」

「榛名も、感激しました!」

「貴方たちは気楽でいいわね」

 

テンションの上がった金剛とティッシュで鼻血を拭き取る榛名。

2人を連れて歩く山岸の元へ、担架である人物を運ぶ蒼龍と飛龍がやって来た。

 

「あっ、里子提督、ちょうどよかったです」

「蒼龍、どうしたの?」

「先程、宿舎近くで発見したのですが・・・」

「この人、何しに来たんだろう?」

「?」

 

後方に居る飛龍の呟きで、彼女らは担架に乗せられた女性を見る。

 

「青葉?」

「このカメ子何しに来たデース?」

「わわっ、燃料漏れしています・・・」

 

山岸にとって、面識のある横須賀の艦娘。

彼女は“何故此処に居るのか”を不思議に思い、重巡の腕の傍らに乗っかるカメラを手に取った。

 

「取り敢えず、入渠させて置きなさい」

 

 

 

 

 

一方、出撃ドック内では・・・。

 

 

 

「何処に居るのよぉぉぉ!!」

 

最速の駆逐艦である島風がドック内を捜索し続けていた。

彼女は目標が見つからないことに業を煮やす。

彼女の周りに居る連装砲ちゃん達も怒りで飛び跳ねる。

 

「見つけたら、あの白い顔を墨で落書きしまくってやる!!」

 

そう意気込む島風がドックの昇降機に向かうと、誰かがその昇降機で降りてきた。

それは上半身が前屈みになっている戦艦“長門”の姿である。

駆逐の少女が驚きのあまりに後ろへ飛び退いてしまう。

 

「おうっ!? な、長門さん? 驚かさないでよ・・・」

「・・・」

「ど、どうしたのよ?」

「・・・し、ま・・・かぜ・・・」

 

彼女の呻くようなその呼び掛けが不気味に感じられた。

ゆっくりと一歩ずつ歩いてくる戦艦。

最速の駆逐艦は身の危険を感じて、後方にあった反対側の昇降機へ向かう。

 

「っ!?」

 

彼女が慌てて走る両足を止めた。

もう1つの昇降機からも同じ戦艦である妹の姿が降りてきたからだ。

 

「しま、かぜ・・・ちゃん・・・」

「ちょ、ちょっと・・・何なのよ!?」

 

じわじわと戦艦の姉妹に詰め寄られる駆逐の少女。

唯一の出入り口である昇降機を遮られ、海に繋がるゲートは閉じている。

ほぼ逃げ道を封じられた少女の目に薄らと涙が出てしまう。

足元に居る連装砲ちゃん達も戦艦たちを恐れて互いに抱き締め合う。

 

「もう、この胸の熱さは止められん」

「私も爆発寸前なのよ・・・」

「「だから・・・」」

「・・・」

 

少女は冷や汗を出して、彼女たちの言葉を聞いた。

そして、不意に俯いていた彼女らが両手を拡げて襲い掛かってくる。

 

「島風ぇぇぇっ!! 愛でさせろぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「今日はがんばっちゃうわよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

「ひっ・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「「「キュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥっ!!!」」」

 

ドック内から複数の壮絶な叫び声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、トラック鎮守府に朝がやってくる。

 

 

 

ある宿舎の部屋。

 

 

 

「と~っても美味しかったわよ。天龍ちゃん♪」

「うぅぅ・・・龍田・・・」

 

2つあるベッドの内、窓に近い左側ベッドに、何も身に着けず寝ている軽巡たちが居た。

大事な部分は白いシーツで隠されていて、眼帯の女性は両手を顔に当てて泣いている。

その傍で横たわるセミロングの女性は、隣で涙を流す姉を眺めていた。

 

「なんでこんなことしたんだよ!」

「だって~、折角出来上がっちゃったんだし・・・それにセカンドキスを盗られ・・・」

「だからって、襲うことはねぇだろう!?・・・ちょっと待て、セカンド!? ファーストは!?」

「それは横須賀で頂いたわよ~♪」

「くぅぅ・・・それとっ!! なんなんだ“アレ”!!! ありえねぇだろう!!」

「知り合いの軽巡から貰ったものよ~。改造する際に邪魔になるって・・・」

「そんなもの貰ってんじゃねぇよぉぉぉっ!!!」

 

 

 

 

 

別の宿舎では・・・。

 

 

 

「実に良かったぞ、島風」

「島風ちゃん、連装砲ちゃん、可愛かったわよ」

 

窓の外を眺める長門と陸奥。

その姿は疲労が全く無い高揚状態で、身体の周りからキラキラと光が溢れていた。

 

「あっ・・・ふ・・・」

「「「・・・・・・」」」

 

長門の使うベッドでは、何故か赤いバニーガールの衣装を着させられた島風が白目で気絶していた。

もう一方のベッドには、身体中にキスマークを付けられた3体の連装砲ちゃんが倒れていた。

 

 

 

尚、この一件で長門と陸奥は、1ヵ月も駆逐艦たちから避けられるようになってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アダマ、イダイ゛~」

 

宿舎にある空き部屋で、布団で寝る白き少女が頭痛を訴えた。

その傍には、正座して看病する大和の姿もあり、手にしたコップの水を少女へ差し出す。

 

「本日はお休みしてください。もう一泊してから、島へ帰りましょう」

「ソウスル・・・」

 

白き少女は二日酔いのため、布団から出られない状況に陥っていた。

 

ちなみに少女本人から聞いた話によると、昨夜の事件はあまり覚えていないらしい。

例の飲み物を飲んだ後、色んな“大和”が現れて、無意識に抱き付いていったとのこと。

 

(ちっちゃな大和に、刀持った大和、大和がもっと増えて・・・カメラ持った大和?)

 

妙な記憶に困惑する少女。

 

 

 

後に判明したことだか、明石の検査結果によると、白き少女と接吻した艦娘の練度が若干上がったと報告された。

これにより、白き少女にキスしようすると駆逐艦たちが増えてしまう。

 

『ヤメテェェェッ!!』

『だ、駄目です! 提督が恥ずかしがっていますから!』

 

大半は少女本人が過剰に拒んでしまい、大和や山岸に止められることが多かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの珍事件から二日後。

 

 

 

ある演習場である海域にて、空母同士の演習が行われた。

熟練で練度の高い軽空母1人へ、練度の低い軽空母とその付き添いである軽空母の2人が挑む。

 

「・・・・・・」

「「ぶふぅぅぅぅっ!?」」

 

相手の姿を目視した軽空母の艦娘“飛鷹”と“隼鷹”が噴き出してしまう。

彼女らは軽空母らしい金糸の装飾がある巫女服を身に纏っている。

 

しかし、事前に知らされた相手の軽空母は、何故か第六駆逐隊の白いセーラー服を身に纏っていた。唯一のトレードマークである艦首のサンバイザーだけは被っている。

 

「・・・・・・」

 

顔だけ俯いたまま、彼女らと対面する軽空母。

そんな彼女の姿を見た隼鷹が指差しをしながら笑い出した。

 

「ぶはっはっはっ!! どうしたんだよ!? その服!!」

「ちょっと、隼鷹。失礼よ・・・」

 

なんとか笑いを堪える飛鷹と爆笑する隼鷹を余所に、沈黙していた軽空母の少女が呟き始める。

 

「・・・のせいや・・・」

「「?」」

「・・・隼鷹の・・・あんたの・・・全部・・・あんたのせいやぁぁぁぁっ!!!」

 

龍驤が自前の艤装である巻物を広げて、夥しい数の艦載機を発艦させた。

その矛先は全て飛鷹ではなく、隼鷹の方へ向けられる。

 

「やっべ! わ、笑い過ぎた!? ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待てよ!?」

「隼鷹、あなた本当に何をしたのよ!?」

「し、知らないよ!! あっちで祝いがあるから、秘蔵の酒を一本送ったぐら・・・」

「沈めやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

山岸からの罰を言い渡された龍驤は、第六駆逐隊の服を纏い、1週間ずっと演習をさせられる羽目となる。

それからしばらくの間、他方の鎮守府内で駆逐の姿をした空母の話が広まっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、横須賀鎮守府にて・・・。

 

 

 

「やっと帰れました・・・」

 

トラック鎮守府に潜入していた青葉が横須賀の港へと帰還した。

彼女は白き少女の被害により、入渠も兼ねて一泊することになったのだ。

艤装を整備妖精へ預けた後、提督の居る司令部へと向かう。

 

「なんて言い訳をしましょうか・・・」

 

無断で別の鎮守府へ向かったことは、恐らく叱られるだろうと予想された。

 

「?」

 

ドックから出てきた彼女はある違和感に気付く。

ここ横須賀では、艦娘以外にも多数の海軍兵士や憲兵といった軍関係者が在住していた。

そんな彼らが青葉を見て、小声で何かを話している。

 

「な、何でしょうか・・・?」

「青葉殿ぉぉぉぉぉっ!!」

 

彼女が疑問に思っていると、見覚えのある艦娘が走って来た。

陸軍のような黒い軍服の服装を纏う艦娘“あきつ丸”である。

彼女は青葉の前まで急停止し、涙目で話し掛けてきた。

 

「大丈夫でありますか!?」

「えっ? ちょっと、あきつ丸さん? 何が・・・」

 

戸惑う重巡の彼女に、揚陸艦の艦娘がある新聞を取り出す。

 

「これを見るであります!」

「これ?・・・え゛っ!?」

 

青葉はその新聞に書かれていることに仰天した。

 

そこには、己自身のあられもない姿で倒れた写真が掲載されていたのだ。

タイトルは『青葉型重巡、襲撃される!』と書かれていた。

 

「青葉殿! 襲撃者の姿は確認されたのでありますか!?」

「・・・えっ!? いや、その・・・・・・」

 

襲撃者は例の北方棲姫だが、青葉自身の無断潜入も明らかとなってしまう。

それは例え口が裂けても言えないことだった。

 

「一瞬だったもので・・・分からなかったです」

「ふむ、相手は相当な手練れでありますな・・・」

「は、はぁ・・・」

「でも、安心するであります! 我が自慢の憲兵隊が青葉殿をお守りするよう命令されたであります!」

 

彼女はそう言って、未だに事態が飲み込めない重巡を連れて走り出す。

 

「提督からの許可もあります。これから24時間、青葉殿をお守りするであります!」

「て、提督から!? それに、24時間って!?・・・」

「艦娘を襲う不埒な輩を処罰する。それが我が憲兵隊の使命であります!!」

「ちょ、そんな~!!」

 

涙を流す重巡の彼女がまるで連行されるように連れて行かれた。

 

 

 

実は、昨日の内に山岸が青葉のカメラのフィルムを交換し、それを大本営に居る知り合いの大将へ送ったのだ。

それからすぐに新聞が発行され、青葉の痴態が周知されてしまう。

また、憲兵隊にも知られてしまい、彼らは艦娘を襲った不届き者を捜索し始める。

 

真相を知る青葉は自身の羞恥と後悔に苛まれることとなる。

 

「どうしてこんなことに・・・・・・誰か、許して・・・」

 




どうしてこんな娘にしたのか。
それは酔った姫級が見たかったからですw
特に幼いこんな娘が飲んだらどうなるか。
想像しただけで笑いが堪えきれなかったですw
今回は張り切ったから、ギャグな回は衰えていくかも・・・。
ちなみに急いで書いたので、確認作業がちょっと不十分です。
恐らく近日中に修正作業をするかもしれないです。

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