北方の白き少女 Heart of the admiral   作:ハルバーの懐刀

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思った以上に更新が遅れました。
今回の話は、ある彼女が何故あの時に出られなかったか。
その理由を作りました。後付け設定的なもので。



No. 05.6 イタカッタヒ

謎の穴を発見した日から次の日。

 

太陽が水平線から顔を出した頃。

 

 

 

白き少女は再び島の密林で探索をしていた。

彼女はヤシの実以外の食糧となるものを目標にし、特に道を決めずに歩き続ける。

 

「・・・・・・アッ」

 

数十分経った時に、少女の下腹部からある生理現象が訪れた。

彼女は急いで草むらの多い地面へと向かう。

 

(紐パンは不便・・・)

 

少女がスカートとパンツを震える両手で押さえながら、催した余剰の水分を排出する。

 

「フゥ・・・・・・ンゥ?」

 

完全に用を足し終えた彼女の右足に、謎の小さな痛みが発生した。

まるで注射針で軽く刺されたような痛覚。

少女は痛みのある右足へ目を向ける。

 

「!?」

 

その正体を目にした少女が思わず息を呑んだ。

なんとそこには、右足のかかと辺りへ噛み付く茶色の蛇がいたのだ。

三角の頭にある牙を少女の足に深々と刺し込んでいる。

 

「ヘ、ヘビィィィィィッ!?」

 

彼女は思いっきり足踏みして、噛み付いた蛇を地面へ何度も叩き付けた。

 

 

 

『ハブ』

 

別名:ホンハブと言われ、毒性は同じ毒蛇のマムシより弱いが、大きな毒牙で大量の毒液を出す。

出血毒により、患部の壊死・機能障害を起こす程の激痛を与えてくる。

下手すれば心臓への負担も増え、アナフィラキシーショックなどの恐れもある。

 

 

 

 

 

「・・・・・・キメタ。“サンポ”シヨウ!」

 

 

 

船室内の畳で寛ぐ白き少女がそう宣言する。

 

朝の探索を終えた後、彼女は無線機からの声を待ち続けていた。

日が高く昇った時間帯まで待ち続けるも、誰の声もスピーカーから響いてこなかった。

 

(足は・・・今のところは大丈夫)

 

蛇に噛まれた少女の足は少し腫れていたが、人外な身体能力のおかげで酷い傷にはなっていなかった。

歩く際の痛みも無いため、特に応急処置もせずにそのまま放置する。

 

「オッサンポ♪ オッサンポ♪」

 

 

 

 

 

島から少しだけ離れた海面に立つ白き少女。

その場から勢いよく海中へと飛び込んでいった。

 

「・・・オオォォォォ!?」

 

水中へ潜った少女の目に、色鮮やかなサンゴ礁が映り込む。

その海底には、サンゴ礁以外に歩けそうな砂地や岩場などがあった。

また、そこに生息する魚の群れも多く、身体の光沢で鮮やかな色を放っている。

 

「キレイ・・・」

 

彼女はしばらく泳ぎながら綺麗なサンゴを眺めていった。

 

「・・・ン? ナンダアレ?」

 

ふと目に入ったのは、サンゴの上を物凄くゆっくりと動く物体。

平べったい身体に十数本の脚を持ち、その全身に沢山の棘が付いている30㎝のヒトデ。

 

「アブナイカモ・・・」

 

少女は妙な生き物に興味を示すが、その多数の棘に怖気付いてしまう。

結局、彼女はそのヒトデらしきものには手を出さずに泳ぎ去った。

 

 

 

『オニヒトデ』

 

成長の速いサンゴが好物の大型ヒトデ。

体表面の棘には毒物質が含まれ、刺されば激痛やアナフィラキシーショックの危険性もある。

 

 

 

 

 

「ヨット!」

 

白き少女が海底の砂地へ足を付けた。

彼女は元の人間だった頃に体験できなかった海中散歩を始める。

 

(小魚が一杯・・・)

 

青や黄色、赤といった小魚たちが優雅に泳いでいる。

食卓の魚ぐらいしか知らない少女に、その小魚たちの詳細を知る術は無かった。

そんな彼女がサンゴの横にあるものを発見する。

 

「コレハ・・・ウニ?」

 

黒く丸っこい身体から、お箸ぐらいの長さがある鋭い棘を無数に持つ物体。

その棘がうねうねと動き、生き物であることがすぐに理解できた。

彼女はその生物へゆっくりと右手を伸ばす。

 

「・・・イタッ」

 

少女の右手に針の刺さる感覚が襲い掛かった。

よく見ると、ミトン手袋にその生物の棘が折れ刺さっている。

棘は手袋を貫通し、少女の中指まで突き刺さっていた。

 

「コレモ、アブナイ」

 

彼女は刺さる棘を引き抜いて、その場を後にする。

 

 

 

『ガンガゼ』

 

ウニの種類で刺さると酷い痛みを引き起こす毒性を持っている。

棘は鋭利で刺さりやすく、逆刺のせいで人の皮膚に残る可能性がある。

 

 

 

 

 

「ウン? コレハナニ?」

 

次に見つけたものは、丸っこい石ころのような大きさのもの。

周りにラッパ状の柔らかそうなものがびっしりと付いている。

少女はまたも無警戒にそれを手に取った。

 

「コレモ、ウニカナ?・・・アッ!」

 

彼女はその物体に張り付く小さなカニを発見する。

そのカニを摘むために、物体を左手で持ち、右手の手袋を口で外した。

 

「ン~・・・・・・アレ?」

 

少女がカニを捕まえようとすると、物体に付いていたラッパ状のものが彼女の指先に引っ付く。

慌てた彼女が物体を落とし、指に付いたものを剥がしていった。

 

「ナンダコレ?」

 

白き少女は右手に若干の痺れを感じ取るが、気にせずに手袋を付けて歩き出す。

 

 

 

『ラッパウニ』

 

表面のラッパ状の部分にある叉棘(サキョク)で噛み刺し、神経毒を注入する危険なウニ。

痺れ、息切れ、痙攣を引き起こす可能性がある。

『ゼブラガニ』という小型のカニが好んで潜んでいることもある。

 

 

 

 

 

「アッ、“タコ”ダ」

 

白き少女があるサンゴのある岩場付近で、掌よりも小さいタコを発見した。

それの身体には、青く光る丸い模様が浮かび上がっている。

彼女は珍しさと可愛さでそのタコを捕まえようとした。

 

「マテ~」

 

必死で這い逃げるタコを追い掛ける少女。

しかし、岩場の隙間に逃げられたことで、仕方なく諦めることにした。

 

「ニゲラレタ・・・」

 

 

 

『ヒョウモンダコ』

 

小型のタコだが、フグ毒と同じテトロドトキシンを持っている。

毒は噛み付いて注入。呼吸困難や酷い場合は心停止に至る。

 

 

 

 

 

そんな落胆する彼女の足元に、イモの形をした貝が転がっていた。

その貝の軟体部分から細長いホースが出現し、それの先っちょが海底の砂で休憩する小魚に向けられる。

 

「デテコナ・・・イ゛ッ!?」

 

少女は右足に鋭いモノが刺される感触で飛び上がった。

先程のイモの貝が小魚へ向けて、ホースから銛のような針を射出する。

だが、危険を察知した小魚が逸早く回避したため、貝の針は少女の右足にあるくるぶしの辺りに突き刺さってしまう。

 

「イタイイタイ! イダイ~!!」

 

 

 

『イモガイ』

 

獲物に毒銛を撃ち込んで狩りをする貝の一種。

コノトキシンという神経毒を持ち、その毒銛は人間だと30人分の致死量に相当すると言われる。

 

 

 

 

 

「ウ~イタイ~ハナレロ~!!」

 

少女は右足に突き刺さる貝の針を本体ごと振り放そうとした。

その足を激しく動かして、海底の砂地へ叩き付ける。

 

「オッ?」

 

少女の乱暴な振り解きによって、足に刺さった貝の銛がポロリと外れた。

彼女は右手で刺された右足を持ち上げる。

刺された所は少々赤くなっていたが、針などは残らず取れていた。

 

「フゥ・・・」

 

まだ痛みがあるらしく、少女の足に少し痺れる感覚が疼いている。

彼女が構わず進もうと右足を踏み込んだ瞬間、その足の裏に鋭い何かが刺さった。

 

「ア゛~ッ!?」

 

少女はすぐに砂地から浮き上がり、海中に漂いながら右足を両手で抱える。

彼女が踏み込んだ辺りには、砂に埋もれた不細工な顔の魚が背ビレを立てていた。

 

 

 

『オニダルマオコゼ』

 

擬態能力が高い魚で、背ビレの十数本の棘は強力な神経毒と、サンダルですら貫通する程の丈夫さを持つ。

沖縄地方では、フグより美味い高級魚らしい。

 

 

 

 

 

「ウゥ~・・・ジンジンスル~」

 

貝に刺されたものよりも段違いの痛さ。

白き少女は楽しんでいた海中散歩を止めて、上の海面が見える辺りまで浮上する。

 

「キョウハ、モウヤスム・・・・・・ハッ!?」

 

少女の視界にある物体が映り込み、すぐにその場で停止した。

それは行灯(あんどん)のような傘を持ち、4本の触手を垂らすクラゲである。

彼女はその生物に見覚えがあったため、それに触れないよう迂回した。

 

「アブナカッ・・・ウワッ!?」

 

少女が迂回した直後に、今度は青い触手を垂らすクラゲが現れる。

傘の部分が風船のように膨らみ、海面上にプカプカと漂うクラゲの本体。

その触手は本体よりも長く垂れ下がっていた。

 

人だった頃の記憶には無い生物だったが、見た目がいかにも毒クラゲだと少女は瞬時に判断した。

 

「サッサト、カエ・・・ンギッ!?」

 

少女がその青いクラゲを避けて行こうとした瞬間、彼女の右足にとてつもない激痛が走った。

 

「ヒギャアアアアアッ!?」

 

彼女の足辺りには、薄い青色の傘を持つクラゲが多数の触手を垂らして泳いでいた。

そのクラゲの触手が少女の右足に触れたのだ。

今までに経験したことのない痛みで、少女が激しく悶え始める。

 

 

 

『アンドンクラゲ』

 

小型のクラゲで、その毒性は激痛を引き起こす程の強さがある。

群れで海水浴場に現れることもある。

 

 

 

『カツオノエボシ』

 

通称:電気クラゲ

まるで電撃を受けた痛みを与える毒を持ち、二度目に刺されてアナフィラキシーショックで危険に晒されることもある。

 

 

 

『オーストラリアウンバチクラゲ』

 

別名:キロネックスと言われ、地球上で最も強い毒を持つクラゲ。

但し、ウミガメには何故か効かないため、食われる立場である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウ~ン・・・イタイ~イタイヨ~」

 

 

 

夜中の貨物船の船室内で呻き声を出す白き少女。

 

強烈な痛みを受けた後、タマ達によって船室内へ運ばれた。

畳の床へ寝転がると、まるで意識を失うかのように眠りにつく。

それでもミミズ腫れした右足の痛みが彼女を苦しませた。

 

「ミャ・・・」

「ミャフ・・・」

「ミ゛ャ・・・」

「“ショクシュ”ハ・・・イヤ~・・・」

 

仰向けで寝る少女の呻き声を聞き、畳に転がる3機の艦載機たちが心配な声を漏らす。

 

「・・・・・・ミャ?」

 

突然、タマがある気配に気付き、船室の窓を見上げた。

 

「・・・」

「・・・ミャッ!?」

 

そこには、見たこともない女性らしき存在が居た。

 

月の明かりしかない真っ暗な中で余り見えないその姿。

左手に二門の砲塔を付け、黒い角付きの帽子と足の横にある魚雷発射管。

太ももからの足が無く、謎の力で宙に浮いていた。

 

それは頭の左側に垂れるサイドテールを靡かせて、ゆっくりと白き少女の傍へ近付いていく。

 

「ミャ! ミャ・・ミャアッ!?」

「・・・ゴメンネ」

 

白き少女を守ろうとしたタマがそれの右手で優しく払い除けられた。

寝転がる彼女の足元の傍で、それは浮かせた身体を着地させる。

 

「ウ~ン、ウ~ン・・・」

「・・・」

 

それは黒い手袋の右手を動かして、少女のミミズ腫れした右足を持ち上げた。

 

「・・・ンゥ・・・」

 

少女のくるぶし辺りに、それの柔らかな唇がそっと触れる。

すると、少女と彼女の身体が青い光を帯び始めた。

その光とともに少女の腫れ上がる右足に変化が訪れる。

 

「ウ~ン・・・ウッ・・・・・・」

 

酷く腫れ上がっていた右足が元の綺麗な白い肌へと戻っていったのだ。

そして、苦しさを訴えていた少女の呻き声も止まる。

代わりに安らぎの証拠である寝息が聞こえ始めた。

 

「スゥゥゥ・・・スゥゥゥ・・・」

 

それは少女の可愛らしい寝顔を確認した後、身体を浮遊させてから窓の方へ向かう。

満月の夜空が映る窓へ行き、頭だけ振り向いて、寝入る白き少女を見つめた。

 

「オヤスミナサイ・・・シレ・・・イエ、“テイトク”・・・・・・・・・ケホッ」

 

彼女は咳き込みながら窓の外へと消えていった。

 

 

 

「ンンゥゥ・・・・・・タコ・・・クッテヤル・・・スゥゥゥ・・・スゥゥゥ・・・」

 




紹介された生物は大体がウィキで解説されていたものです。
まぁ、被害者のホッポちゃんが特別であったこともあり、必ずこうなるとは言えません。
皆様も正しい情報をお調べになってから被害に遭って下さい(嘘

ようやく此処まで来ました。
書きたかった話がもうすぐで更新出来そうです。
次回もお楽しみに!

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