北方の白き少女 Heart of the admiral   作:ハルバーの懐刀

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此処まで辿り着くのに長い月日が経ちました。
皆様の応援のおかげでもありますね。
早く次回を書かねば・・・。



No.15 タダイマ!!

「・・・はっ!」

 

提督服の少年は、椅子に座る黒服の女性の膝へ座った状態で意識を取り戻す。

その小さな身体を拘束していた黒い手は、何時の間にか苦しんでいる女性の頭を抱えていた。

 

彼は苦しむ彼女の膝から立ち上がり、ゆっくりと部屋のドアへ足を向ける。

 

「ダ、ダメ・・・イ・・・カナイデ・・・・・・」

 

黒服の女性が座った状態で右手を指し伸ばした。

提督服の少年は無言のまま、両手で両扉のドアノブを掴む。

 

「マッテ!・・・ココ、ニイテ!・・・ドコニ、モ・・・イカナイデ!!」

 

必死に引き留めようとする女性が、這いつくばるように床へ倒れた。

それを聞いた少年が頭だけ振り向き、申し訳なさそうな顔で彼女にあることを告げる。

 

「ごめんね。知っている声が呼んでいる。行かないと・・・」

「ヤメテ! ソコハ・・・」

「自分を求めてくれるのは嬉しい。けれど・・・あの声は放っておけない。だからこそ、行かなくちゃ」

「ワタシヲ・・・タスケテ・・・ホシイ!」

「駄目、あの声は見捨てたくない・・・“提督”として、助けに行く!」

 

彼は決意の言葉を吐き、ドアノブを捻ってから勢いよく両扉を開けた。

その瞬間、少年の身体が白い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

巨大な空母棲姫の人型が白い長髪を振り回し、両手で頭を抱える程の叫び声を上げた。

彼女と艤装に纏わりつく亀裂の光が青色から赤色へと変化する。

 

突然の姫級の異変に、艦娘たちは戸惑いながらその様子を伺う。

 

「何が・・・」

「加賀さん! 敵機が!」

「!?」

 

赤城が空を指差し、そこにある光景を見た加賀が目を疑った。

 

「・・・・・・墜ちていく?」

 

空母棲姫が発艦させた白い球体の艦載機。

曇り空を覆い尽くす程飛ばされたその機体が、まるで制御を失ったかのように次々と海面へ落下していく。

気付けば何もせずに、艦娘側が制空権を確保していた。

 

「い、一体・・・何が・・・」

「・・・ウ、ソ?・・・ソンナ・・・コ、トガ・・・」

「?」

 

大和の両手で抱えられる駆逐棲姫が驚きの顔である方向を見つめる。

その先には、空母棲姫の右側にある巨大な艤装がプルプルと震えていた。

やがて、それの大きな口が開いていき、下顎の歯の内側にある黒い部分から白い何かが生えてくる。

 

「あれは?」

 

それは白いミトン手袋を填めた小さな右手だった。

その手は肉のような黒い部分から這い出て、歯よりも外側へ手を伸ばそうとする。

 

「「「「!」」」」

 

それを見ていた艦娘たちの中で、暁・響・雷・電たちの頭にガラスの砕け散った音が鳴り響いた。

自分にしか聞こえないその異変の音を聞いた彼女らの内、暁が深く息を吸い、大きな声で叫び出す。

 

「第六駆逐隊!! レディーに続けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

彼女はそう叫んだ後、高速で空母棲姫の艤装へと向かった。

指示を受けた妹たちも、同じ速度で長女の後を追う。

 

「おい! チビども!・・・ちぃ! 龍田! 矢矧!」

「あら~しょうがない娘たちね」

「援護するわ! 任せて!」

 

天龍が龍田と矢矧を連れて、飛び出した4姉妹の後を追った。

軽巡の3人は、駆逐の暁たちを狙おうとするチ級やル級などを撃破していく。

 

「グウ゛ウ゛ウ゛ッ!!!」

 

空母棲姫が右手を艤装のある方向へかざした。

その行動によって、艤装の口内が蠢き出し、這い出た白い手を呑み込もうとする。

 

「間に合えぇぇぇぇぇ!!!」

 

暁が背中の機関部を激しく稼働させて、自身の航行速度を速めた。

白い手が完全に引き戻される直前で、彼女の右手がそれを握り掴む。

それに続いて、左側から来た響が左手で掴み、雷も次女の左隣から左手で掴み、電は長女の右側から右手で掴んだ。

 

「今よ! 引っ張れぇぇぇぇっ!!!」

 

長女の掛け声で、その妹たちを含めた4人が白い手を引き出そうとする。

それに呼応するかのように、空母棲姫が更に苦しみ始めた。

 

「ヤ゛、ヤ゛メ゛ロ゛ォォォォォォォォォォ!!!」

 

彼女は震える大きな右手で暁たちを掴み取ろうとするが、金剛と榛名の砲撃によってその手が阻まれる。

 

「グウゥゥゥッ!!」

「ワタシたちの仲間に手出しはさせないデース!!」

「あなたの勝手は、榛名が許しません!!」

 

空母の姫は苦痛の元となる暁姉妹を摘み取れず、戦艦たちによる砲撃で邪魔されてしまう。

そうしている間に、4姉妹が持てる力の限りで白い小さな手を引っ張った。

 

「もう一回! せ~のっ! やぁぁぁぁっ!!!」

「ウラァァァァ!!!」

「でぇぇぇぇいっ!!!」

「なのでぇぇぇぇすっ!!!」

 

駆逐艦4人の力が合わさり、徐々にその白い手が腕の付け根辺りまで見えてくる。

次の瞬間、引っ張っていたそれが空高く弾き飛ばされたと同時に、暁たちが海面へ尻もちを付いた。

 

「「「「「!?」」」」」

 

艦娘たちは空中へ飛ばされたそれを見た直後に、頭の中でガラスが割れる音を聞いた。

 

 

 

真っ白な素肌と白い長髪。

 

黒い装飾が付いた白いミトン手袋とワンピースに、白い靴。

 

黒の首輪の真正面には、大和と同じ桜花紋章の装飾。

 

赤い瞳が輝きを放つ幼い顔立ち。

 

 

 

彼女らはその存在をすぐに思い出した。

 

そんな中で大和だけはまだ思い出せず、彼女に抱かれている駆逐棲姫がそのことに感付く。

彼女はすぐに膝だけで立つように浮かび、自分の右手で呆けている戦艦の左手を掴んだ。

 

「イッテ! アノコヲ、ウケトメテ!!」

「えっ!? ちょっと・・・」

 

駆逐棲姫は大和を左へ大きく振り回し、それが落ちてくる予測地点へ投げ飛ばす。

慌てる戦艦の艦娘が体勢を整えて、落ちてくる白いものを受け止めた。

 

「ぐっ!」

「オウフッ!?」

 

逆さまの状態で受け止められた白き少女。

その幼い顔をまともに見た大和の頭にも、ガラスの砕け散る音が響き、失われた記憶が蘇った。

 

「ホ、ホッポちゃん!!・・・あっ」

「ヤマト?・・・アッ」

 

大和は白き少女が逆さまになっていることで、スカートの中の黒パンツが丸見えなことに顔を赤らめてしまう。

急いでその少女を反対に回転させて姿勢を戻すが、それを眺めていた長門が鼻血を垂らしながらガッツポーズをした。

 

「見えた!!」

「じゃないだろう!」

「ごふっ!?」

 

日向が飛行甲板から瑞雲を真っ直ぐ飛ばして、長門の後頭部に特攻させた。

 

海面に足を付けた白き少女が大和を見つめる。

お互いの表情は、まるで引き離された恋人同士が再会したような喜びで一杯だった。

 

「ヤマト・・・」

「ホッポちゃん・・・」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」

「「!?」」

 

そんな感動を遮るかのように、悲痛な叫び声を上げる空母棲姫がその巨体を動かして、白き少女の元へ迫ろうとする。

 

「ワタシノ!! ワタシノ“テイトク”カエセェェェェェェェェェェェェ!!」

 

ゆっくりと航行速度を上げようとするその巨体の顔に、大和が主砲の三連装砲で砲弾を直撃させた。

彼女は真剣な眼差しで空母棲姫を睨み、静かに主砲の再装填を行う。

 

「この娘はあなたのものでも・・・私のものでも、誰のものでもない!」

 

超弩級の戦艦がそう宣言し、再び白き少女へ優しく話し掛けた。

 

「ホッポちゃ・・・いえ、“提督”ご指示をください」

「エッ? ヤ、ヤマト?・・・ソレニ、テイトクッテ・・・ナンデソレヲ?」

 

少し混乱気味な少女を余所に、大和が通信機で山岸に尋ねる。

 

「里子提督」

『しょうがないわね。許可するわ』

「里子提督から承諾できました。さぁ、ご指示を・・・」

 

そう言われた白き少女が周りを見渡すと、期待に満ちた表情で見つめる艦娘たちの姿があった。

一瞬だけ考え込んだ彼女はその場で回れ右をし、右手で司令官らしい号令の仕草をする。

 

「ゼンカン! コウゲキカイシ!!」

「「「「「了解!!」」」」」

 

白き少女の掛け声で、全ての艦娘が攻撃体勢に入る。

 

「キ゛サ゛マ゛ラ゛!!・・・スベテ! スベテ!! シズンデシマエェェェェェェェ!!!」

 

対する空母棲姫も右目を手で抑えながら、周りにあらゆる艦種の赤い深海棲艦たちを出現させ、己自身も艤装の飛行甲板から艦載機を発艦させた。

 

「こんな損傷、No Problem(大丈夫)! 私の実力、見せてあげるネー!」

「金剛姉さま、榛名も全力で参ります!」

「気分が高まった! 胸が熱いぃぃぃ!!」

「姉さん・・・せめて、鼻血だけは拭いてね」

 

金剛と榛名は三式弾での対空攻撃を行い、やる気の上がった長門と冷静な陸奥は敵の戦艦を狙い撃つ。

 

「行きましょう! 第二次攻撃隊、全機発艦!」

「確保したばかりの制空権・・・ここは譲れません」

「飛龍! やりましょう!」

「ええ・・・第二次攻撃隊、発艦始め!!」

 

赤城を含めた4人の正規空母が矢を連続で放ち、発艦させた艦載機で飛ばされた敵機を撃ち落としていく。

そんな彼女らの艦載機を狙いに向かう少数の白い艦載機が、遥か上空から急降下で襲い掛かった。

 

「サセナイ!!」

「甘いでー!!」

 

白き少女と龍驤がそう叫ぶと、強襲する白い球体が一瞬で爆散した。

それらを撃墜させたのは、いつの間にか発艦していたタマたちと、彼らに付き添う龍驤の艦載機の編隊だった。

 

「さぁ、お仕事お仕事ー! そっちも頑張りやー!!」

「ミャ!」

「ミャフ!」

「ミ゛ャ!」

 

先頭を飛ぶタマ・ミケ・クロが龍驤の声援に返事をする。

3機は龍驤の艦載機と共に、赤い深海棲艦たちを銃撃しに向かった。

 

「2人とも瑞雲の使い方がなってないぞ」

「私たちは今回初めて使ったのよ。いきなり上手く使える訳ないわ!」

「此処で私が活躍するのを姉さまに見せ付ければ・・・」

 

日向はまるで教官の如く、扶桑と山城に水上爆撃機の使い方を指導していた。

彼女らの爆撃機は編隊を組んで、ル級やタ級たちに爆撃を行う。

その中で山城の操作する機体の1機が、姉の機体とぶつかり落ちてしまう。

 

「ちょっと!? 山城!?」

「不幸だわ・・・」

(・・・敢えて言わないでおこう)

 

日向は航空戦艦の妹が一瞬だけ微笑んだことに見て見ぬ振りをした。

 

空母や航空戦艦を防衛する軽巡や駆逐艦たちも、近寄ってくるチ級やリ級を迎撃していく。

 

「流石は横須賀で活躍された軽巡・・・侮れませんね」

「へっ! なんならオレと後で演習でもするか? 不知火」

「あら~天龍ちゃん。浮気はダメよ~?」

「龍田!! 浮気なんかしねえよ!! そもそもする理由がないだろう!!」

「姉妹同士は仲が良いのですが、欲求不満の艦娘にその可能性もあると青葉さんが・・・」

「うふふふふ。私もそれを聞いたことあるわね、朝潮ちゃん」

「だ~か~ら! お前ら戦闘中に何訳が分からん話をしてんだよ!?」

 

戦っている天龍をからかう龍田に、朝潮や荒潮まで加わってくる。

不知火は平常通りに敵を沈めていった。

 

「今度こそ・・・大和を、全てを護り切るから!」

「矢矧! 手伝うわ!」

「さて、やりますか」

「私達がいるじゃない!」

「ホッポちゃん! 周りは電たちに任せるのです!」

「ウン、ワカッタ!」

「しーまーかーぜーも忘れるなー!!」

 

大和と白き少女の周囲に、矢矧を中心とした暁たちが守りに入る。

更にその周りを周回するように、島風と連装砲ちゃんの3体も迎撃していく。

雷巡チ級や駆逐イ級などが向かって来るが、どれも6人の艦娘たちの攻撃で撃沈されていった。

 

「大丈夫!?」

「手を貸すよ! 動けるかい!?」

「シンパイ・・・ナイデス! エンゴシマス!!」

 

白露と時雨が負傷した駆逐棲姫の元へ近寄ってくる。

彼女は差し伸ばされた時雨の手をゆっくりと払い除けて、唯一無事な左手の連装砲を構えた。

 

「無理しないでね?」

「そうだよ。僕たちと一緒に生きて帰ろう!」

「・・・ハイ」

 

2人は駆逐の姫を庇うように砲撃と雷撃を行う。

守られる彼女も残る兵装で援護射撃をし続けた。

 

「グゥゥゥ! グガッ!? ガアァァァァ!!!」

 

砲撃を直接受ける空母棲姫。

その周りにいた赤い深海棲艦たちは全て撃沈し、空に上げた白い球体の艦載機は1機残らず撃墜される。

右目がひび割れて赤い血を流す彼女は、再び白い艦載機を発艦させようとするが、轟音が鳴り響くと同時に艤装の飛行甲板が爆発した。

 

「アタッタ!」

「同時に直撃しましたね」

 

白き少女の艤装による砲撃と大和の主砲が空母棲姫の艤装へ直撃したのだ。

空母の姫は、艤装にある巨大な三連装砲を2人に向けて撃ち放った。

 

「ッ!?」

「ムゥゥゥ! スゴクイタイ~!」

「ホッポちゃん!? 大丈夫!?」

「ダイジョウブ!!」

 

白き少女は大和の手前で庇うように立ちはだかり、空母棲姫の巨大な砲撃を受け止めた。

思った以上のダメージだったらしく、その白い肌の腕に焦げ跡が残り、スカートの中から出ている艤装の左側が破損する。

 

少し怒り気味になった白き少女は、タマたちにある指示を伝えた。

 

「バクゲキカイシ!」

「ミャ!」

「ミャフ!」

「ミ゛ャ!」

 

黒い球体の3機が空母棲姫の上空へと向かい、口から黒い爆弾をばら撒き始める。

 

「グッ!・・・ッ!?」

「そっちを見ていてええんか? 下がガラ空きやで!!」

 

彼女は上に気を取られ過ぎたため、龍驤や正規空母、駆逐艦たちの放った雷撃に気付くのが遅れた。

海上からは大多数の魚雷。空からの雨のような爆撃。

最早それからすぐに逃れる方法は全くなかった。

 

「ギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」

 

上下からの攻撃により、空母の姫の左手と右足が消失し、艤装の三連装砲は粉々に破壊された。

彼女は右手でボロボロになった艤装を掴み、辛うじて浮かぶ状態を維持する。

 

「デ・・・ド、グ・・・・・・ワ、ダ・・・シ・・・ダ、ケノ・・・デ・・・イ・・・」

 

大破状態の姫が虚ろになった目で白き少女を見つめる。

 

「ヒエッ!?」

「ホッポちゃん! 落ち着いて! 私たちがいます!」

 

瀕死のそれを見た少女が少し怯えるが、後ろから聞こえた大和の声で元気付けられる。

彼女は勇気を奮い立たせて、未だに見つめてくる空母棲姫へ砲塔を向けた。

 

「ゼンカン! シュホウ、セイシャァァァァァ!!!」

 

その絶望を断ち切るため、白き少女の砲撃と共に、戦艦たちの砲撃が一斉に放たれる。

大気を揺るがす轟音が鳴り響き、姫となった空母の左目に無数の砲弾が映り込んだ。

その直後に、断末魔すら聞こえない爆音が辺り一帯を轟かせた。

 

黒煙が晴れた後、そこには黒い残骸だけがいくつか浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「フゥ・・・ン?」

 

暗い雲が晴れて、青空に浮かぶ太陽で照らされる穏やかな海上。

戦闘を終えた白き少女が後ろへ振り返り、大和を含めた艦娘たちに目を向ける。

 

「エット・・・エット・・・・・・タダイマ!!」

 

何を言うべきか迷った彼女は、思わずその言葉を口にした。

大和は微笑みを浮かべてから少女に返事をする。

 

「おかえりなさい」

「「「「「おかえりー!!」」」」」

 

彼女に釣られて、周りの艦娘たちも一斉に返事をした。

超弩級の艦娘は白き少女の元へゆっくりと近付き、その小さな身体を両手で持ち上げる。

 

「エッ? エッ?」

「ずっと、あなたの側にいさせてください。提督・・・」

「ヤマト? ワタシ、テイトクジャ・・・ッ!?」

 

白き少女が否定しようとした時、大和は彼女の身体を抱き寄せて、優しい口付けをした。

 

(えっ?・・・大和? これって・・・えぇぇぇぇっ!?)

 

目を見開く少女は何が起きたかを認識できなかった。

お互いの口が離れた瞬間、彼女はようやく何をされたのか理解する。

 

「キュウゥゥゥ・・・・・・」

 

元の男性だった頃の経験したことのない女性との接吻。

しかも憧れの艦娘からされたことによって、少女の身体に眠っていた男の羞恥心が出てくる。

少女の白い顔がまるで茹でダコのように赤くなり、その頭にある意識すら失ってしまう。

 

「ホ、ホッポちゃん!? ホッポちゃん! しっかりして!」

 

気絶した少女の唇を奪った本人が慌てて呼び掛ける。

その光景を一部始終見ていた他の艦娘たちは、赤面しながら見惚れていた。

 

「Oh・・・なんてHotなKissネー」

「は、榛名も・・・したいです・・・」

「大和ぉぉぉぉぉぉっ!! この長門にもホッポとキスさせろぉぉぉぉぉぉ!!」

「姉さん! 落ち着いて!! 暴れないで!! 日向! 抑えるのを手伝ってよ!!」

「まぁ、面倒だな・・・」

「はわわわ!? きゅう~・・・」

「アカン。電まで気絶しよったわ」

「ハラショー♪ 実に、ハラショー♪」

「あれ? 加賀さん、鼻血、出してませんか?」

「気のせいです。赤城さん」

 

顔を赤らめる艦娘たちの中で、白露と時雨があることに気付いて周りを見回した。

 

「あれっ? あの娘は!?」

「・・・何処に?」

「時雨! 電探で・・・」

「ごめん、姉さん。反応が見当たらない・・・」

 

彼女らは居なくなったその存在を心配し、焦る気持ちを抑えて探そうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦娘の艦隊から少し遠くの海上。

 

そこの海面から頭だけ出している駆逐棲姫の姿があった。

彼女は白き少女と艦娘たちの再会を見届けた後、傷だらけの身体に残っていた力を抜く。

少しずつ海の中へと沈み始めて、ひび割れた装甲から破片が剥がれ落ちていった。

 

「コレデ・・・・・・モウ・・・ダイジョウ、ブ・・・」

 

彼女は沈んでいく最中に、ある出来事を思い出していた。

 

彼女がまだ“姫”になる前の記憶。

 

過去に出会った白き少女とのやり取り。

 

 

 

『・・・カコマレタネ』

『みたい・・・ですね』

『・・・オネガイガアルノ』

『だ、駄目です! こんな所で諦めたら・・・』

『デモ・・・アナタモ、ワタシモ・・・ダンヤクヤ、ネンリョウガ・・・ナイ』

『それでも! 諦めたくないです・・・』

『ゴメンネ・・・モウ・・・ヒダリウデガ・・・ウゴカナイ・・・』

 

海上に立つ彼女が横抱きで抱える白き少女。

抱えられるその左腕は彼女のお腹辺りに当たり、体温が全く無いとも言えるぐらい冷たくなっていた。

 

『ヘイソウモ・・・ツカエナイ・・・セメテ、アナタダケデモ・・・』

『それ以外に、方法は・・・ないのですか?』

『・・・ワタシハ・・・アナタニ、デアエテヨカッタ』

『えっ?』

『マサカノ・・・ホンモノニ・・・デアエタ・・・ソレモ、ダイスキナ・・・アナタニ・・・』

『・・・』

『コウカイハ、シテイナイ・・・ダカラ、タスケタイ・・・』

 

白き少女の右手がゆっくりと動く。

ミトン手袋が無残に破けて、傷だらけの小さな手が抱えてもらっている彼女の左頬を触った。

 

『ヒトツ・・・ヤクソク、シテホシイ・・・』

『・・・何で、しょうか?』

『コノサキ、“ホッポウセイキ”ガ・・・アラワレタラ・・・タスケテアゲテ・・・』

『っ!?』

『オナジ・・・テイトク、トシテ・・・カナシマセナイ、タメニ・・・』

『・・・・・・』

『アナタ、ミタイニ・・・カナシムヒトヲ・・・フヤサナイ・・・タメニ・・・』

『・・・・・・』

『ダメ・・・カナ?』

『・・・・・・・・・約束・・・します!』

 

彼女から返事を聞いた白き少女が微笑み、その顔を相手の女性の顔へと近付ける。

彼女はその小さな唇から伝わる熱を自身の唇で感じ取った。

次第に白き少女の姿が青く輝き出し、その身体が薄らと消失し始める。

 

『ア・・・リ・・・ガ・・・・・・ト・・・・・・・・・・・・ウ・・・』

 

白き少女が完全に消え失せた後、彼女は身体に湧き上がる力と共に、赤い瞳に溜まる涙を流した。

 

 

 

過去の白き少女との約束を胸の奥にしまい込み、姫となった彼女は今日まで生き延びてきた。

同じ存在を探し続けるも、ほとんどが接触する暇もなく、自身が味わう苦痛と共に消えていった。

 

そんな中でやっと見つけたのが、あの島で生活していた白き少女。

陰ながら支えようとするも、予想外の展開が起き、焦る気持ちで艦娘たちに協力を申し出た。

 

例の苦痛が始まった時、彼女は絶望で心が壊れそうになった。

 

しかし、何らかの奇跡が起きたことで、取り込まれた白き少女が救い出せた。

 

「コレナラ・・・アトヲ・・・マカセラ・・・レ・・・ル・・・」

 

深い所まで沈みきった彼女は目を瞑り、残る意識を閉ざしていく。

 

「シレ・・・カン・・・・・・ヤク、ソ・・・ク・・・ハ、タ・・・シ・・・マ・・・シ・・・」

 

その呟きが途絶えた瞬間、彼女の身体が白い光に包まれる。

海の底から伸びてきた黒い手が彼女を掴もうとするが、その光で触れることすらできなかった。

 

 

 

その後、彼女は一粒の白い光へと変化し、その場から消え去っていった。

 




次回:本編最終回

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