北方の白き少女 Heart of the admiral   作:ハルバーの懐刀

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原作の改造や近代化改修とは、かなりかけ離れているかもしれませんね。
でも、そういう兵装の強化は憧れてしまいます。



No.12 ナニカキタ・・・アッ!

朝が訪れたトラック鎮守府。

 

その工廠内では、多数の艦娘たちが艤装の整備点検をしていた。

彼女らの周りには、妖精と言われる小人のような少女たちが道具や資材を運搬している。

 

「いい感じで改造が完了しました」

「ご苦労様、明石。それに・・・あなた達もね」

 

山岸が明石とその周りにいる整備士の恰好をした妖精たちに労いの言葉を贈った。

彼女らは揃って敬礼をする。

 

昨日、明石がハマグリ島へ出掛けている間、彼女の指示通りに妖精たちが艦娘の改造を行った。

予定通りに改造が終わり、本日は近代化改修という艦娘の強化作業が進められる。

 

 

 

「やっと本当の私になれた気がシマース! これでMVPを取りまくりネー!」

「力を感じます。これは・・・素敵です!」

 

金剛と榛名は、改装された艤装に見惚れていた。

どちらの艤装にも後部から左右に35.6cm連装砲が2つずつ出ている。

更にその外側には船の装甲らしき防盾が1つずつ付いていた。

 

 

 

「これは・・・いけるかしら?」

「大丈夫です、姉さま。これで欠陥戦艦とは言わせません!」

「うぬぅぅぅ・・・ウチかて、負けてられへんで~」

 

扶桑と山城は新たな手持ち型の艤装を触って確認する。

それは盾のような平べったい形をし、艤装と同じ黒色の飛行甲板で、細長いカタパルトが二基付いていた。

 

龍驤の見た目は変わっていないように見えるが、赤い上服が明るくなり、飛行甲板である巻物が新品のように輝いていた。

 

 

 

「一番じゃないけど、カッコよくなった!」

「よかったね、姉さん。僕もすこし、強くなれたみたいだ」

 

時雨は自分と同じように、新たな艤装を付けてポーズする姉の白露を見つめる。

 

白露はスクリューが付いた船の機関部である艤装を背負い、手持ちの砲塔も手の甲に嵌めるタイプとなった。

 

時雨は背中の大きな二連装砲リュックの左右に、白露と同じ手持ちの砲塔が付けられていた。

 

また、2人の両脚の太ももへ付けられた魚雷発射管には、赤い弾頭の魚雷が装填されている。

 

 

 

改造の終わった艦娘たちを眺める山岸は、工廠内の設置された区画に目を向けた。

そこは内部が全く見えないよう鉄の壁で保護され、大きめのシャッターには『改修』という文字が書かれていた。

 

「そろそろ駆逐艦辺りが終わる頃かしら?」

「そうですね。ホッポちゃんのくれた資材のおかげで、全員の近代化改修が出来たのはよかったです」

「これで、我が艦隊の戦力が大幅にアップするわ。鬼級相手でもいけそうね」

 

2人が話している内に、改修のシャッターが開き始める。

その内部から現れたのは、顔が連装砲になっている小さい人型のロボットのようなものが3体。

 

島風に懐く自律した艤装の“連装砲ちゃん”と言われる存在だ。

 

「あら? あの子たちが一番?」

「流石、島風ちゃんの子たち。改修も早かったなんて・・・」

「「「キュ?」」」

 

ちなみに当の本人は、余りの寝不足で未だに就寝中である。

勿論、山岸の許可は貰っていた。

 

「じゃ―ん! パワーアップしたわ!」

 

開いたシャッターから、ピカピカの艤装を付けた雷が飛び跳ねてくる。

彼女は山岸の前まで来ると、立ち止まってから敬礼した。

 

「里子! 改良された私の魅力はどう?」

「綺麗に強化されたわね。任務での活躍を期待しているわ」

「は―い! も―っと私に頼っていいのよ」

 

駆逐艦の少女がそう言い終えた時、シャッターの右横の壁から凄まじい衝突音が響く。

 

「今度は何?」

「な、なによ?」

「里子提督! 今の音は!?」

 

山岸と雷だけでなく、連装砲ちゃんと話す明石もその衝突音に驚いた。

 

「い、痛いのです~」

 

開いたシャッターから艤装を付けた電がふらふらと歩いてくる。

その頭には大きめのたんこぶが出来ていた。

 

「・・・また、ぶつかったのね」

「い~な~づ~ま~!」

「電ちゃん!? ああっ・・・か、壁がへこんでる・・・」

 

山岸はふらつく電を抱き寄せて介抱する。

雷は妹の様子に呆れ、一方の明石は衝突された壁に嘆いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、ある孤島にて・・・。

 

明石によって、この孤島に建設された通信の中継地点となるアンテナタワー。

 

その遥か上空から複数の黒い物体が飛来し、何かをばら撒き落とす。

それはアンテナタワーへと落ちていき、接触した瞬間に次々と爆発していった。

鉄が軋む音を立てて、タワーがゆっくりと崩れていく。

 

完全に崩れ倒れた後、それを遠くから見つめる海上の黒い影たちが去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗な空間に白き少女が1人だけで立っていた。

 

『ココ、ドコ?』

 

波打つ海面でもないしっかりとした床がある場所。

彼女は訳も分からず、その場から歩き出す。

 

(また、知らない場所に放り出された?)

 

しばらく歩き続けた少女は、不意に後ろの方へ振り向いた。

 

『ッ!?』

 

そこには黒い霧のようなものが浮いていた。

それの左右には腕らしきものがあり、右手だけでこちらを掴もうとする。

 

『ヒッ!?』

 

得体のしれない恐怖感に、白き少女がすぐに走り出す。

その黒い霧も浮遊して、逃げた少女を追い掛ける。

 

『ハァ! ハァ! ハァ!・・・』

『・・・メ・・・・・・ッチ・・・』

 

黒い霧から何か声らしきものが聞こえたが、少女はそれを聞く余裕すらなかった。

 

『ハァ! ハァ! ハァ!・・・アッ!』

 

白き少女が逃げる方向にあるものを目に入った。

 

遥か遠くにあるそれは、青い光の点のようなものに見える。

 

彼女はそれを目指して、全速力で走り出した。

 

『・・・!・・・・・・ッテ・・・!』

 

黒い霧からの声がどんどんと大きくなる。

白き少女はその声よりも青い光へ向かうことを優先した。

 

『モウスコシ!』

『・・・・・・ッテ!・・・・・・ハ・・・アブナイッ! イッテハ、ダメッ!!!』

『エッ!?』

 

突如、はっきりと女性の叫ぶ声が響き、少女はもう一度後ろへ振り向く。

そこには、黒い霧から黒い手袋を嵌めた白肌の細い右手が出ていた。

 

『ソコカラ、ニゲテッ!!』

『ッ!?』

 

その声に警告されたことで、白き少女はある悪寒に気付き、走っていた方向をすばやく見返した。

 

そこには、あの青い光ではなく、白い歯が並んだ“巨大な口”が少女を飲み込もうと大口を開けていた。

 

 

 

 

 

「ハアッ!?・・・ハァ、ハァ、ハァ・・・」

 

貨物船の船室で寝ていた白き少女が飛び起きる。

まるで本当に走っていたかのように息を切らし、身体の至る所に冷や汗が出ていた。

 

「失礼しま・・・ホッポさま!? どうされましたか!?」

 

船室の扉から入ってきた不知火が少女の不安そうな様子に気付き、急いで彼女の元へ近寄る。

 

「シラヌイ・・・ナ、ナンデモナイヨ」

「本当ですか? それならいいのですが・・・無理はしないでくださいね」

「ウッ、ウン・・・」

 

少女はいつも通りの朝だと心に思い込ませた。

 

(あれは、ただの・・・・・・夢だよね・・・?)

 

 

 

 

 

ハマグリ島の外周付近に、飛行甲板を手にした戦艦の艦娘が海上を航行していた。

航空戦艦である日向は、水上爆撃機の瑞雲を飛ばし、自身も外周を回るように哨戒任務をこなしていた。

 

「本日も瑞雲日和だ」

 

呑気に航行し続ける彼女に、飛ばした艦載機から異変を知らせる報告が入る。

 

「むっ?・・・敵艦み・・・っ!?」

 

敵を発見したという艦載機の報告中に、その艦載機との連絡が途切れてしまう。

これには冷静だった日向も表情が少し険しくなる。

 

「陸奥! 聞こえるか!?」

『聞こえるわよ。どうしたの?』

「敵だ! 何隻かは不明だが、瑞雲がやられた! 皆に知らせろ!」

『了解よ!』

 

通信を終えた日向の見つめる先に、海上を航行する黒い影が数え切れないほど出現した。

 

「これは・・・中破は免れないか・・・・・・まぁいい」

 

 

 

「朝潮と荒潮は、陸奥と日向の援護に!」

『了解! 朝潮、出ます!』

『華麗に出げ・・・って、朝潮ちゃん、待って~!』

 

貨物船内に居た不知火の指示で、テントで待機していた2人の駆逐艦が入り江から出港する。

 

「ホッポさま、あの無線機で山岸提督に救援を!」

「ワカッタ!」

 

左隣に居た白き少女が船内の通路を走り出す。

残された不知火はテントの通信機に向かうため、船の甲板を目指した。

船の外に繋がるドアが見えたところで、多数の砲撃音や爆撃音などが響いてくる。

 

「奇襲とは・・・いい度胸していますね」

 

 

 

島付近の海上では、砲弾の嵐が艦娘たちに襲い掛かっていた。

 

「ぐぅっ!」

 

日向の右下の砲塔が敵の砲弾の直撃により、砲身が折れ曲がるほどの損傷を受けた。

彼女は敵の砲撃を回避しながら、飛行甲板から次々と水上爆撃機を発艦させていく。

 

「これぐらいで!」

 

航空戦艦の艦娘は、飛ばした艦載機に指示を与えて、前方にいる敵艦隊へ空爆を行った。

駆逐イ級や軽巡ホ級といった砲撃を行う敵艦が、瑞雲の爆撃で落とされていく。

 

『日向! 右よ!』

「むっ!?」

 

日向は陸奥から言われた方向に目を向ける。

そこには海上を航行する重巡リ級が4隻も現れた。

 

『援護するわ!』

 

陸奥が41cm連装砲による一斉射撃を行う。

放たれた砲弾は3隻のリ級を一撃で撃沈させた。

 

「流石、ビッグ7の砲撃だな」

 

残る1隻も日向の砲撃で沈んでいく。

 

「ふぅ・・・っ!?」

 

一息ついたと思った彼女に、またも瑞雲からの連絡が途絶えた。

彼女が飛ばしていた空域を見ると、黄色く光る黒い菱形の艦載機が多数飛んでいるのを視認する。

 

「やはり、敵機・・・空母が・・・」

『日向さん! 直上!!』

「っ!?」

 

無線による朝潮の叫びで、日向はすぐに右へ回避行動を行った。

彼女の居た場所に多数の爆弾が着弾する。

 

「危なかっ・・・っ!?」

 

回避に成功したと思った彼女は、前方10時の方向から来る魚雷に気付いた。

すぐに回避する暇もなく、それは航空戦艦の足元へ命中する。

 

「ぐああああっ!!」

 

巨大な水柱に包まれた彼女は体勢を崩し、背中から海面へ倒れるように気絶した。

 

 

 

『日向!? 日向ぁぁぁ!!』

『不知火、日向さんが被弾! 敵機も多数来ている!』

『これは・・・まずい状況じゃない?』

 

不知火は通信機から知らされる状況に歯噛みする。

彼女は長距離用の通信機を使い、応援要請をしようとしていた。

しかし、昨日は問題なく使えたはずの通信が、今では全く使えなかったのだ。

 

「なんてこと・・・」

 

彼女が右手で机を叩いていると、入り江の方から何かが海面に着地する音が聞こえた。

 

「まさか!?」

 

駆逐艦の少女が慌ててテントの入口から外へ出る。

そこには艤装を展開させた白き少女の走る姿があった。

 

「ホッポさま!? 駄目です! 行っては・・・」

 

不知火がそう叫ぼうとしたとき、彼女は後方から何者かの気配に感付く。

艤装を展開させて、主砲を構えようとした瞬間、彼女の頭部が黒い棒のようなもので殴打された。

 

「ふぐっ!?」

「ッ!? シラヌイ!?」

 

テントのある方向から聞こえた打撃音で、白き少女もその存在に気付いた。

彼女はその相手に向けて、艤装の砲塔を狙い構える。

ゆっくりと歩くそれに、少女は砲塔を持つ右手を震わせてしまう。

 

「ッ!?」

 

島の入り江の出入り口がある方角から、更なる爆発音が響いてくる。

白き少女は島の外で戦う艦娘たちが気に掛かるも、目の前の敵を放置することができなかった。

 

「コノ・・・コナイデ!」

 

入り江の海面に足をつけたそれに向かって、彼女は轟音と共に砲弾を撃ち放った。

 

「・・・アタッタ?」

 

白き少女は爆発の煙で見えなくなった相手を探し始める。

そのせいで彼女は後ろへの警戒が薄れてしまった。

 

「・・・」

 

入り江の出入り口の海上からビキニ姿の深海棲艦が凄まじい速度で航行していた。

それは白き少女の後ろ姿を確認すると、不気味な笑みを浮かべて接近する。

 

「・・・ニィィ♪」

 

彼女は黄色く光る眼を輝かせて、右手の口付きの艤装で少女の後頭部を強く叩き付けた。

 

「アグゥ!・・・」

 

思わぬ不意打ちで、白き少女は何も出来ずに海面へ前のめりに倒れる。

 

 

 

 

 

海面にうつ伏せで浮かぶ白き少女。

展開していた艤装は気絶と同時に消失していた。

 

気絶する少女の傍には、歪んだ表情で喜ぶ黄色の眼の重巡リ級が立っていた。

左腕の艤装だけが折れ曲がっているため、彼女は右腕で白き少女を掴み取ろうとする。

 

「ッ!?」

 

その時、彼女の胸周りと両足に白い触手が巻き付かれた。

抵抗する彼女の身体がそのまま高々と持ち上げられる。

 

「ッ!!」

 

触手を操る本体は、白き少女に砲撃された黄色の眼の空母ヲ級。

彼女は微笑しながら、拘束するリ級を見上げる。

 

「ッ!! ッ!!・・・ッ!!!」

 

重巡リ級を絡み取る触手が更に力強く締め上げた。

強引に身体を引っ張られる彼女は、声にならない悲鳴を漏らす。

 

 

 

 

 

その後、島の入り江で何かが水の中へ落ちる音が2回も響き渡った。

 

 

 

 

 

「ぐっ・・・ふぅぅ・・・」

 

島から少し離れた海上で、被弾した日向が仰向けで浮かんでいた。

彼女の砲塔は全て損傷し、飛ばした水上爆撃機も全て撃ち落とされていた。

 

「・・・?」

 

彼女は首をゆっくりと持ち上げて、島の様子を観察する。

そこには、同じように仰向けで大破した陸奥、頭から血を流して砂浜の木にもたれ掛かる朝潮、浅瀬で波に打ち付けられる荒潮の姿があった。

 

「こんな無様なのは・・・長門には、見せたくないな・・・・・・」

 

彼女がそう呟いていると、島の入り江の出入り口から何かが出てくる。

それは空母ヲ級が触手で白き少女を運び出す姿だった。

 

日向は島のあちこちに居た深海棲艦が居なくなったかを確認する。

 

「・・・取って置いてよかった」

 

彼女は唯一無事だった艤装の飛行甲板に目を向けた。

左手に持つそれを水平にし、1機の水上爆撃機を発艦させようとする。

 

「いけっ!」

 

その艦載機はある方向へ向かって飛ばされた。

それが空の彼方へ無事に飛んでいくのを見届けた後、彼女は傷付いた全身の力を抜く。

 

「頼んだぞ・・・・・・なが・・・と・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

工廠の閉まっていた改修シャッターが再び開き始める。

 

そこから出てきたのは、超弩級の戦艦である大和だった。

彼女は普段とは違う感覚の艤装を確認していると、山岸が近寄って話し掛けてきた。

 

「どう? 調子は?」

「少し違和感がありますが、いい感じだと思います」

「じきに慣れると思うわ。焦らずに試してみなさい」

「はいっ!」

 

大和から元気のある返事を貰った山岸は、再び明石の居るところへ向かう。

残された戦艦の艦娘は艤装を仕舞い込み、まだ賑やかな工廠内を歩き回った。

 

「HEY、大和! やっと終了したのですネー!」

「はい、私で最後になりました」

「お疲れ様です、大和さん」

 

まだ、自身の艤装をチェックする金剛と榛名が大和に声を掛ける。

彼女らの周りには整備服の妖精たちが互いに話し合っていた。

大和は小さな整備士たちの様子を見て、2人に事情を尋ねる。

 

「あの、まだ何かあるのでしょうか?」

「ああ、それはネー・・・」

「実は榛名の連装砲にダズル迷彩という色を付けるはずだったのですが・・・」

「ペンキが切れてるから、入荷するまでおあずけデース」

 

話しによれば、妖精たちも思わぬ在庫不足に、何か代用品がないか相談していたらしいのだ。

 

「完全ではないですが、榛名はこれでも大丈夫です」

「困った妖精たちデー・・・ちょっと!? Wait! ジョークに決まってるネー!」

「ふふっ♪」

 

馬鹿にされたと思った妖精たちが整備道具を次々と金剛へ投げ付ける。

笑って見ている大和の元へ、扶桑姉妹が歩き寄って来た。

 

「「大和さん、お疲れ様です」」

「扶桑さん、山城さん、どう・・・も・・・」

 

大和が2人の姿を見た瞬間、彼女は目をぱちくりさせる。

 

「「大和さん?」」

「お二人とも・・・航空戦艦に?」

「あっ、はい。零式水上偵察機とは別に、伊勢型の瑞雲を発艦させられるようになりました」

「少し、重たいですが・・・」

 

2人の話を聞く大和は、昨日の北方棲姫と話したことを思い出す。

 

(あの娘の言う通りに・・・でも・・・何故、深海棲艦であるあの娘が?)

「あの・・・大和さん?」

「もしかして・・・私達、嫉妬されてる? 不幸だわ・・・」

「あっ、なっ、なんでもないです! ごめんなさい!」

 

気まずくなった大和がその場から早足で立ち去る。

 

「気を悪くさせたかしら・・・」

「お~い! 大和!」

「えっ?」

 

工廠の入口辺りから、呼び声を出す天龍と付き添いの龍田が歩いてきた。

彼女らは大和を呼び止めて、困った顔をしながら話し始める。

 

「大和、あのチビどもがハマグリ島に行きたいとか言いやがるんだ」

「頻繁に行ったら迷惑じゃない?と言っても聞かないのよ~」

「暁ちゃん達が? そ、そうですね・・・」

 

自分のせいでもあるとは言えない超弩級の戦艦。

困っている3人の元に、件の4人が凄い勢いで走って来た。

 

「一人前になったレディーの姿を見せに行かないと!」

「タマ遊び・・・じゃない。タマ達を見に・・・」

「電が会いに行きたいっていうから・・・」

「ちょ、ちょ・・・雷ちゃん!?」

 

口々に言う4姉妹に、大和は天龍たちの心中を察する。

見かねた山岸が彼女らの方へ行き、暁達を宥めるためにある提案をした。

 

「ここの通信機でホッポちゃんと話したらいいじゃない?」

「「「「!?」」」」

「里子提督、よろしいのですか?」

「許可するわ。そうでもしないと止まらないわよ、この娘たち」

 

彼女らは工廠の隅にある通信機へと集まり、他に興味を示す艦娘たちも近付いてくる。

山岸が通信機を操作し、ハマグリ島との連絡を取ろうとした。

 

「・・・ん?」

 

機器を弄る山岸が疑問の声を上げる。

近くに居た明石が彼女の操作を見ながら質問した。

 

「どうしました?」

「周波数は合っているはず・・・操作も間違えたなんてことは・・・明石」

「少々、お待ちを」

 

呼ばれた工作艦が山岸に代わって、通信機の操作を始める。

彼女は整備士の妖精に、通信機の中身も確認するよう指示した。

 

「おっかしいなぁ・・・通信機は正常で、周波数も合っているはずなのに・・・」

 

それから約2分経過しても、ハマグリ島との通信は一向に繋がらなかった。

 

「別の原因かな? どうしたものかね・・・」

「残念ね。今日は諦めるしかないわ」

「「「「そんな~(なのです)」」」」

 

明石と山岸の言葉で、暁達や大和だけでなく、他の艦娘たちもがっくりしてしまう。

そんな彼女らに、工廠の入口から息を切らして入って来た長門が大声で叫んだ。

 

「里子提督!! 緊急事態だ!!」

「長門!? どうし・・・」

「島が! ハマグリ島が!!・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多数の雲に覆われ、太陽の光が少ししかない海上をトラック鎮守府の艦娘たちが航行する。

 

その一番後方には、ステルス艦のような小型クルーザーが随伴していた。

特注で造船された提督専用の指揮艦は、平らなグレーの装甲で覆われ、その速度も異常なくらい早かった。

装甲で覆われた操縦席に居るのは山岸提督である。

 

艦隊の向かう先にハマグリ島が見え出した時、山岸が手元のマイクと取ってから指示を飛ばした

 

「各艦に告ぐ。周囲を警戒しながら、不知火たちを捜索せよ」

『『『『『了解!』』』』』

 

命令を受けた艦娘たちが散らばるように、島へ向かって進んでいく。

 

 

 

大和が島の方へ真っ直ぐ進んでいると、海面に浮かぶ日向を発見した。

 

「日向さん!?」

 

彼女は急いでその傍へ駆け寄り、傷付いた航空戦艦を抱き起こした。

 

「しっかりしてください!」

「・・・ぅ・・・・・・き・・・てくれたか・・・」

 

日向が目覚めたのと同時に、長門が2人の傍へやって来る。

 

「日向! 何があった!? 他の者は!? 陸奥は!?」

「・・・・・・っちだ・・・」

 

航空戦艦は途切れるような言葉を口にし、右手で島のある方向へ指差した。

そこには長門型戦艦の妹が漂っているのが見えた。

 

「陸奥ぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

その姿を確認した長門が高速で航行し、傷付いた姉妹艦の元へ向かう。

 

「ぐっ・・・」

「日向さん!? 痛いところは・・・」

 

大和が言葉を続けようとした時、無線からあらゆる声が響いてくる。

 

『陸奥ぅぅぅぅ!! しっかりしろぉぉぉぉ!!』

『こちら、加賀。索敵機を発艦させます』

『荒潮を見つけたデース!・・・Oh,No・・・艤装が粉々ネー・・・』

『こちら榛名です! 朝潮さんを・・・朝潮さん!? 動いては駄目です!!』

『天龍だ。敵影は全く見えねぇな』

『こちら矢矧。入り江に敵の残骸が浮いているのを発見。生き残りがいるかもしれません』

『暁、あれ!』

『えっ、何っ、ひび・・・し、不知火!?』

『助けるわ! いなづ・・・電!?』

『ホッポちゃんは!? ホッポちゃんは何処なのです!?』

 

それぞれが叫ぶ中、電の言葉を聞いた大和は一番やりたい衝動を抑えて、日向の身体を支え持った。

 

「すまない・・・不甲斐無いばっかりに・・・」

「一体、何があったのですか?」

 

大和に肩を貸されて支えられる日向がその質問に答える。

 

「深海棲艦の、大群だ・・・空母も居た・・・」

「空母!?」

「flagship(フラグシップ)だ・・・・・・あんな強敵が・・・いるとはな・・・」

「何故、ここへ・・・?」

「目的は・・・北方棲姫だ・・・」

「っ!?」

 

大和は日向の言ったことに驚きを隠せなかった。

 

「奴が・・・空母ヲ級が連れ去った・・・」

「そんな・・・」

 

彼女から告げられた事実にショックを受けた超弩級の戦艦。

様々な状況が飛び交う中、山岸からの更なる指示が伝えられえる。

 

『全艦、ハマグリ島の入り江に集結せよ。負傷した艦娘もそこに運びなさい』

 

 

 

 

 

テント内では、簡易ベッドに5人の負傷した艦娘が寝かせられていた。

彼女らの周りには、明石と彼女が連れて来た妖精たちが修復作業を行っている。

 

入り江の砂浜では、島の外側へクルーザーを置いてきた山岸と、トラック鎮守府の全ての艦娘が集まっていた。

 

「なるほど・・・」

 

大和から話を聞いた山岸は真剣な表情で考え込む。

落ち着きのない電が焦るように口を開いた。

 

「里子さん! 早くホッポちゃんを助けに・・・」

「落ち着いて、電ちゃん」

「せや、焦ったらアカン」

 

飛龍と龍驤が涙目の駆逐艦を静かにさせる。

彼女の頼みに、山岸が優しく頭を撫でながら答えた。

 

「心配ないわ、電。すでに手は打ってある」

「えっ?」

 

彼女だけでなく、他の艦娘たちも驚きの顔になる。

 

「昨日、大和が渡した紋章にね。発信機が埋め込まれているの」

「えっ? あれに、ですか!?」

「そうよ。万が一のことも考えて、明石と相談して作ったの。こんなすぐに使うことになるとは思わなかったけど・・・」

 

大和は思わぬ山岸の仕込みに驚くが、その内容にほっとする。

山岸は落ち着いた彼女を見て、今後の作戦行動を皆に言い渡した。

 

「私の指揮艦に発信機の位置が分かる装置が付いているわ。それでホッポちゃんの居場所を特定し、全艦隊で救出する」

「むっ? そういえば此処へ来るまで気にしていなかったが、全員出撃したら鎮守府の守りはどうするのだ?」

「問題ないわ、長門。そっちはラバウルの艦隊にお願いしてある。それと、明石はこの島で待機してもらう予定よ。陸奥たちを修復させるには、その方がいいでしょう?」

「あ、ああ・・・」

「それじゃあ、ホッポちゃんには悪いけど・・・各自、此処の燃料で補給し、すぐに出発するわよ」

 

大和を含めた戦艦たちは貨物船の昇降機に向かい、残る艦娘たちは艤装の確認を始める。

上昇する昇降機に乗っていた大和が見えてきた水平線の彼方を見つめていた。

 

(ホッポちゃん、無事でいて・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い雲に覆われた海の上に、多数の黒い物体が集まっていた。

 

その中心では、黄色く光る眼を持つ空母ヲ級が触手で真っ白な存在を捕縛している。

 

幼い姿である少女の身体を巻き付くように絡ませて、自身と対面できる体勢で持ち上げていた。

 

「・・・ン・・・・・・ンゥゥ・・・」

 

気絶していた白き少女の意識が戻る。

衝撃を受けた後頭部に痛みを感じながら、彼女の視界が徐々に鮮明になっていく。

 

「・・・ッ!?」

 

完全に目を覚ました白き少女は、自身の置かれた状況をすぐに理解した。

身体は目の前の空母ヲ級によって拘束され、周囲には多数の深海棲艦たちがこちらを見つめていた。

 

(ど、どうしよう・・・動けないし・・・逃げたとしても・・・)

 

白き少女がこの窮地からどう抜け出すか考えていると、彼女を捕らえている空母ヲ級が微笑みを浮かべる。

 

「ヒッ!?」

 

それは白き少女が以前に見たリ級の不気味な笑顔とは違い、全く別の恐怖を感じさせる微笑だった。

 

「アッ・・・」

 

次の瞬間、白き少女の眼に映ったのは、白い歯が並ぶ巨大な口の真っ暗な内部だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・全艦、停止せよ」

 

クルーザーの操縦席で俯く山岸が静かに命令を下した。

周りに居た艦娘たちが命令通りにその場で航行を停める。

 

「里子提督?」

 

3分近く経っても次の指示が来ないことに、大和が不審に思って山岸の名を呼んだ。

彼女の声に反応し、山岸は目の前で起こったあることを皆に伝える。

 

「発信機の反応が消えたわ・・・」

「「「「「!?」」」」」

 

それは攫われた白き少女の唯一の手掛かりを失った事実だった。

全員が不安な表情となり、山岸が苦渋の決断を告げる。

 

「全艦、帰還するわよ」

「そんな!? 里子提・・・」

「断念せざるを得ないのよ、大和。もう此処はミッドウェーの海域に近い。つまり私達は敵の巣窟に足を踏み入れようとしている」

「・・・っ!」

「発信機が途絶えて、目印が無い以上・・・羅針盤を使っての捜索は危険すぎる。申し訳ないけど、許可しないわ」

 

山岸の出した決断に、大和は拳を強く握るぐらいしかできなかった。

他の艦娘たちも同じ思いで納得していく中、響の持つ探信儀に反応が現れる。

 

「探信儀に感あり! 12時の方向!」

 

彼女の言葉に全艦が艤装を構えて戦闘態勢に入った。

指揮艦に乗る山岸もいつでも動けるよう操縦桿を握る。

 

「反応は1つ・・・上がってくる」

「この艦隊の数に、たった1隻で来るということは・・・」

「まさか、鬼級か姫級!?」

 

響の報告を聞いた加賀と赤城が相手の正体を予測した。

どちらの艦種も1隻だけで、艦隊と渡り合える強力な戦闘能力を誇る。

予想外の相手の出現により、全員に緊張が走った。

 

「来る!」

 

響がそう言った直後、先頭の艦隊から少し離れた位置の海中からそれは現れた。

 

一瞬で浮上し、海上へ姿を現したその正体。

 

 

白肌の身体に黒いセーラー服を纏わせ、頭には角のようなものがある帽子を被っていた。

また、足の太ももから先は途切れて、その外側には口付きで砲塔と魚雷発射管がついた艤装が装備されている。

綺麗な白い腕の先は、右手は黒い手袋、左手は二門の砲塔と同化していた。

白く光る髪の毛は、左側に腰に届くぐらい長いサイドテールが垂れている。

 

 

その姿を確認した山岸がその存在の正体を呟く。

 

「駆逐棲姫・・・」

 

ある作戦中に初めて確認された存在。

駆逐でありながら姫級という異常な強さで猛威を振るったが、ある艦隊のおかげでそれの撃沈に成功する。

その後、稀に確認される程度の存在となり、各鎮守府へ要注意の存在の1つとして知れ渡ることとなった。

 

(こんな時に!)

 

歯を食いしばる大和が砲塔を構えようとする。

それを見た長門が慌てて呼び止めた。

 

「待て! 大和! 此処はこちらに任せろ!」

「し、しかし・・・」

「無駄な交戦はするな。最小限の戦力であいつを叩く!」

 

長門は左手で金剛と榛名を指差して、艦隊の先頭へ出るよう促した。

3人が無言で出ようとした時、佇んでいた駆逐棲姫が動き出す。

 

「・・・」

 

彼女は赤みの帯びた光る眼で、艦隊を見つめながら右手を差し伸べた。

 

「・・・オネガイ」

「「「「「えっ!?」」」」」

「アナタタチニ・・・オネガイヲ、キイテホシイノ・・・」

 

彼女の言葉の意味に、全員が不審に思いながら警戒する。

だが、次に言い放たれた言葉で彼女らは困惑してしまう。

 

 

 

 

 

「アノコヲ・・・“ホッポウセイキ”ヲ・・・・・・“スクッテ”ホシイ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽が全く見られない荒れ狂う海に稲妻がいくつも落ちていく。

 

 

 

黒い異形たちが集まるその中心では、1つの黒い女性の影が痙攣するように震えていた。

 

 

それの頭部に乗る大きな物体が頭からズレ落ち、海面に落ちてから変化し始める。

 

 

落ちた物体は風船のように大きく膨れ上がり、やがて大きな歯をもった顎が出来上がった。

 

 

一方の女性も膨れ上がるように体格が元の倍ぐらいの大きさとなる。

 

 

持っていた杖は握り砕かれて、髪の毛も信じ難い長さまで伸びていった。

 

 

彼女の手足に生えた新たな装甲、黒い首筋。そして、海面に浮かぶ巨大な口を持つ物体。

 

 

それら全てに、赤い光を放つ亀裂が纏うように浮かび上がった。

 

 

 

 

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!」

 




次回:海色に溶けても・・・私が探し出す

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