ダンジョンに池袋最強の男がいてもいいのだろうか   作:バキュラø

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本日二つ目です。どうぞ


剣姫とジャガ丸くんと朝の攻防

 アイズ・ヴァレンシュタインの朝は早い。

 まず、着替えを済ませ、簡単に身だしなみを整える。それを終えれば彼女は、自分のステータスにモノを言わせたスピードで、ある場所へと一直線に向かうのである。

 何を隠そう、ジャガ丸くんの屋台である。

 朝早くから営業するこの屋台では、朝限定のものが存在する。

 

 

 

 

 

 

 それは、

 

『できたて』ジャガ丸くんあずきクリーム味、である。

 

 

 

 

 

 

 

 ジャガ丸くんは、スナックとしての人気が高く、そのほとんどが前日までに下準備を終えられ、販売時にトッピングを添えるだけになっている。

 しかし、日に十個程度ではあるが、朝に焼きたてのジャガ丸くんが作られる。それが『できたて』ジャガ丸くんあずきクリーム味、である。

 ジャガ丸くんあずきクリーム味はアイズの好物で、中でも『出来立て』は彼女を虜にしてやまないものだった。

 それはもう、彼女の心の奥の幼いアイズが諸手を上げ、大歓声をあげて走り回るほどに。

 

 ダンジョンに潜っているとき以外は毎朝買い占め、ゆっくりと食べながら朝を過ごすのが日課だった。

 

 

 

「ごめんなさいね、アイズちゃん。実は今日ももう全部売れちゃったのよ。いつも通り、普通のジャガ丸くんあずきクリーム味でも、いいかしら?」

 

「……じゃあ、それで…」

 だが、最近、誰かにいつも先を越されてしまうのである。

 

 

 

 

 

「…わたしの……できたて……」

 

 アイズはまた買えなかったことで、しょんぼりとしていた。

 ここのところ、彼女は落ち込んでばかりだった。

 彼女たちの不手際とはいえ、ミノタウロスに襲われていた男の子を助けたのだが、その彼と目が合った途端に、叫び声をあげて逃げられてしまった。さらには、先日酒場で彼を再び、傷つけてしまった。

 

 どうしても彼に会ってきちんと謝りたい。そんな気持ちでいっぱいなのだが、どうしてもその勇気が彼女にはでなかった。

 怖がられているのでは?そう思ってしまう。それはそうだろう。自分を襲ったモンスターを目の前で八つ裂きにされれば誰でも同じ感想を抱くはず。

 

 そんなことを考えて、ますます落ち込んでしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほーら、アイズもジャガ丸くん位でそんなに落ち込まないの」

 ティオネは、悲しげな様子で外から戻ったアイズを慰めていた。

 

「…ティオネ」

 

「うひひ、落ち込んでるアイズたん萌え~」

 

「ロキ、慰める気がないならどっか行って‼」

 

「ほんと、なんでうちの神はこんなんなんだろうね~」

 このファミリアの主神である筈のロキは女神の一柱ではあるのだが、思考と発言がおっさん的な回路をしていることで団員から信頼はされているが、尊敬は皆無だった。

 

 

「で、でも今度はそのジャガ丸くん買いに来てる人を店のおかみさんが引き留めてくれるって言ったんですよね。なら今度は買えますよ」

 

「……そうだね、…ありがとレフィーヤ」

 

「い、いえそんな大したことじゃ」

 レフィーヤは尊敬する人物にお礼を言われ、なにか嬉しい気分になっていた。

 

 

 

「フン、菓子ぐらいでピーピー言いやがって、天下の剣姫ともあろうモンがよー」

 そんなことをしている彼女たちが面白くないのか、ベートは悪態をつく。

 

「うっさいな~ベートは。アイズが好きだからってそんなことばっか言って。だからこの間の酒場でも拒否られるんだよ」

 

「それに、けが人は黙ってた方がいいんじゃないかな~。なんでか知らないけど、ウエイター君にやられたケガ、ポーションでもあんまし治ってないんでしょ」

 

「うるせーよ……」

 その悪態をティオネ、ティオナ両名に一瞬で切り返されベートは何も言えなくなってしまった。

 

「それにしても、クク…この子(アイズ)以外にも、朝早くにあれを買いに行くほど熱心なファンがいたとはね」

 

「もう……リヴェリアのばか…」

 そのアイズの様子にリヴェリアは、笑いを堪えるのをやめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございますシズオ。そういえば、ここのところ朝早く出掛けているようですが何をしているのですか?」

 

「おう、リューか。いや~最近甘いものが足りてなかったんだが、いいものを見つけてよ」

 

「甘いもの…ですか?」

 

「リューにも一個やるよ。ほら」

 そういい、静雄はもっていた紙袋からなにやら取り出し、一つリューに手渡した。

 

「これは、ジャガ丸くん…ですね」

 

「朝限定らしいんだが、これが美味くてよ。食ってみろよ」

 

「……おいしいです」

 

「そうだろ?」

 そういい、静雄はもう一つジャガ丸くんを食べながら、不敵な笑みで笑いかける。

 

「……」

 それを見て、リューは視線を逸らしてしまった。しかし、自分でもなぜ、そうしてしまったかわからなかった。

 

「おい、なんで目逸らすんだ?」

 

「ッ…なんでも…ありません」

 

「そうか…」

 そうこうしている内にまた静雄はいつもの表情の薄い顔に戻ってしまった。それを彼女は残念に感じていた。

 

 

 リューがその感情の正体を探ろうと考え始めた、その時、クロエがその場に乱入してきた。

 

 

 

「金髪頭‼それはミャーの分もあるのかニャ?」

 

「ワリィ。ミアさんと、シル、リューに一つづつ、あと俺が四つ食べたから、もうねーな」

 

「なんでニャ。そんなのズルいニャ‼」

 

「ほら、アンタ達、仕事始めるよ」

 

「うっす」

 

「はい」

 

「にゃんでこんなのばっかり~‼」

 

 

 

 

 

 

 

『まあ、特に問題はありませんね』

 リューは心の中でそう決めつけ、仕事へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 




「全く、この間はいかにも性悪そうな男にひどい目にあったのニャ。でもそんなに何度もひどい目に合うわけ無いニャ…」

「「ケモミミ、キターーーーーーーーーーーーーーー‼」」

「今度は一体何の騒ぎ、ふにゃ…」

「この感触、手触り間違いなく本物ね」

「ついに、積年の夢が叶ったッスね狩沢さん」

「にゃ、ニャにするのにゃ、ミャーの耳を勝手に触り、にゃ~」

「よいでは、ないか。よいでは、ないか~」

「うニャ~‼」

次回 怪物祭(モンスターフィリア)



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