ダンジョンに池袋最強の男がいてもいいのだろうか 作:バキュラø
これからも皆さんの応援に答えられるよう頑張ります。
ロキとフィンが話をしている頃、ベルを探しに行っていたシルが店へ戻ってきていた。
彼女の眼には涙が溜まり、加えてオラリオ中を探し回ったせいか、ウェイトレスの服は汚れが目立っていた。
「どうしよう。ベルさんが見つかりません。ファミリアのホームに行っても留守みたいで……どうしましょう、私が今日お店に来てくれるよう頼んだせいでベルさんに何かあったら私………」
シルは、必死に泣くのをこらえていた。しかし声の動揺までは隠せていなかった。
「ベル=クラネル、シルをこんなに悲しませて……」
リューは言葉の端々に怒りの感情を乗せ、服の下からナイフを取り出していた。
「おい、リュー。そんな物騒なもん持って、どこ行く気だ」
「シズオ退きなさい。そこにいては、何処かにいるベル=クラネルを引っ立てて、シルを泣かせたことを死ぬほど後悔させてやれません」
「待て待て、死ぬほどは行き過ぎだろーが」
「いいえ、
その言葉からはむしろ問題しか感じられなかったが。
「第一、どこを探せば見つかるか、分かってて言ってんのか?」
「いえ…でもオラリオを三周ほどすれば……」
静雄の質問に帰ってきた答えは、かなり強引で無謀な計画だった。
「ったく、どいつもこいつも。ッチ、しゃあねーな……俺が連れてくるから待ってろ。大体、分かるからな。あんな言葉をかけられた野郎の行く場所は…」
静雄は頭を掻きながらリューにそう言った。
「え…」
「じゃ、ちょっと行ってくる。ミアさん、あとお願いします」
それだけ言うと静雄は足早に店を出たのだった。
「ちょっと待ちな‼シズオッ‼‼。…ったく、聞かずに行っちまって。シルはもう今日は上がるんだ。リューはこっちに来て片づけを手伝いな」
お盆を持ちながら、ミアは彼女たちにそう声をかけた。
「…はい」
「ミア母さん、シズオだけじゃ‼」
「いいんだよ。こういう時は、男同士に任せときな。さあ、アンタは仕事した、仕事した」
そうして、まだ不満を露わにするリューをミアは強引に片づけへと向かわせるのだった。
シズオがベルを見つけたのは、ちょうど彼がダンジョンから出て来たところだった。
「やっぱりな。ここにいると思ったぜ、ベル=クラネル」
「ああ、店員さんですか。すいませんお金も払わずに出てきてしまって、明日には払いに行きますので」
「……おい、なにへらへらしてやがんだ、てめェ‼」
静雄はそんな顔を浮かべていたベルに
本当は、イライラさせる、情けない面を浮かべていたベルを殴り飛ばそうと静雄は考えたが、シルのこともあるのでそれは自重した。
「痛い‼……って何するんですか、降ろしてください‼」
「うるせえ、つべこべ言わずに行くぞ」
うだうだしていたベルを静雄は強引に担ぎ、夜のオラリオを走っていくのだった。
ふたりは、ある屋根の上に(ベルは強制だったが)来ていた。最初は戸惑っていたベルだったが、静雄と話をしているうちにポツポツとだが、話をし始めた。
「ボクが…弱いのが、いけなかったんです。あんなことを言わせてしまって……」
「悔しくねーのか?俺だったら、三十回は地獄送りにしてやろうと思うぞ」
「悔しくないわけ……ないじゃないですか‼あんなことを言われてる自分が無力で辛くて、どうしようもなく……情けなく思いました」
「…だから、少しでも何とかしようと、気持ちをぶつけに、あの塔へ行ってたってわけか」
「はい…」
そういってベルはうなだれた。悔しさをにじませた言葉を吐き、拳を握りしめた。
「なんだ、いいじゃねぇかお前」
静雄は憮然とした顔に笑みを浮かべ、そう言った。
「へ?」
そんな静雄の様子にベルは戸惑ったように声をあげる。
「気持ちをまっすぐぶつけようとする奴は好きだぜ俺は。少なくとも、嘘ばかりつく奴や他人に合わせて自分の意見を言わねー奴、理屈をこねくり回す奴、裏でこそこそするゴミ虫野郎よりはな。……まあもし、お前がそんな野郎でシルを利用してる奴だったら、塵も残さずぶち殺すが」
幸い、最後のつぶやきだけはベルには聞こえていなかった。
「じゃ、じゃあ……ボクも強くなれますか?あんなこと言われないくらいに」
「あ”、俺がそんなこと知るか」
「え~」
てっきり、肯定してくれるのではと信じていたベルはそんな声を出してしまう。
「…まあ、なんだ。どんなにつえー奴だろうが、最初からつえーわけじゃねぇだろ。要は、そいつが目的のために、強くなろうとするか、しないか、それだけの話だ」
静雄は自分の過去を思い出すかのようにそう言った。
「そう…ですよね。はい!ボクは強くなります‼絶対に。あの人に追いつけるように」
「そうか」
静雄はそう、誓うように言葉を口にするベルに、珍しく、満更でもない気分を感じるのだった。
「それはそうと、今度来たときにシルに謝れよ。散々、お前を想って探し回ってたからな」
「えっ!そうなんですか‼すいません…」
「俺じゃねぇ、シルにだ‼」
「は、はい」
そんなやり取りを、ある二柱の神が覗いていたことには、二人は最後まで気付くことはなかった。
「やったよセルティ‼」
「どうしたんだ、新羅?そんなにはしゃいで、なにかいいことでもあったのか」
「そりゃあ最近、セルティが僕にたくさん構って、デレてくれるようになったからね。いやーキミと相思相愛になるために努力してきたかいがあった、グフッ」
「な、何を急に言い出すんだお前は‼」
「痛たた、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか」
「そんなことより、ほんとにどうしたんだ?今日はいつにも増して変だぞお前」
「そうだった。次回のタイトルコールを頼まれてたんだった」
「タイトルコール?なにかテレビにでも出るのか?」
「キミと出れるならそりゃ嬉し、いやダメだ。そんなことになったらセルティはあっという間に人気者に…僕だけのセルティじゃなくなっちゃう。どこにも行かないでくれセルティ‼」
「分かった、分かった。どこにも行かないから。タイトルコールするんだろ、やるぞ新羅」
せーの、
「「次回、剣姫とジャガ丸くんと朝の攻防」」
「お楽しみに」