ダンジョンに池袋最強の男がいてもいいのだろうか 作:バキュラø
修正するかもです。
ベルがアイズと特訓を始めてからもうすぐ一週間が経とうとしていた。そんな日の昼下がりベルは、シルにいつももらっている弁当の箱を返しに、豊穣の女主人を訪れていた。
「じゃあ、お言葉に甘えてこの本を借りていきますね」
ベルは本を何度かシルに借りに来るようになっていた。
―――まあ、初めて借りた本が
「はい、ベルさん。読み終わったら返してくれればいいですから‼」
話が出来たシルはご満悦な様子でベルに笑顔を振り撒いていた。
「今日もシルは良くやるのにゃ~」
ランチタイムの片づけをしながら、アーニャはそう口にしていた。
「いいんじゃねーの。そういう一途に思えるのは大切なことだしよ」
静雄はそんな二人の姿を見ながら、お客の食べ終えた皿を山のように積んで、キッチンへ運ぶ。
「そうですよ、アーニャ。あなたも大切に思えるヒトに何かしてあげたいという気持ちは分からなくはないでしょう?」
「…シズオもリューもそんなヒトがいるのかニャ?」
「しょ、それは…」
そのアーニャのふと漏らした一言に、リューはついつい、片づけを終えてフロアに戻ってきた静雄を目で追いかけてしまう。というのも、先日の
だからだろうか…驚きを隠せなかった。
「ああ、いるな」
「「「え⁉」」」
女の影はあまり見られない静雄が、そんな返答をしたことに。
「おいおい、その反応は失礼じゃねーのか?」
そんな反応をする彼女達に、静雄は面白くなさそうに眉をひそめた。
「そうは言っても、シズオさんは全然そう言った話を聞きませんし」
シルは、リューに笑みを向けながら頬に人差し指をあて、どこか楽しげにそう言った。
「一体、どこの、だ、だだだ誰なんですか?」
「ミャーも教えて欲しいのニャ」
「私も気になります‼」
そういって、そこにいる全員が同じようにシズオの方に身を乗り出す。
「誰って言われてもなぁ…」
「…」
全員が静雄の答えを固唾をのんで見守る。
「トムさんにヴァローナ、新羅、セルティ、幽、茜だろ、それと…
「なぁ~んだそういう事ですか」
「聞いて損したニャ」
シルとアーニャは残念がるように肩を落とした。
「なんだよ。テメーらから聞いたんじゃねーか…リューも何とか言ってくれよ」
「…………ですねぇ~」
「ッ‼…知りません!」
静雄の問いかけを遮ってシルに囁かれたリューは、ほのかに顔を朱に染め、足早にフロアを後にしたのだった。
「おい!」
「まったく、シズオさんは分かっていませんね…」
「いったい何のことだよ」
「それは、シズオさんが自分で気付くまで秘密です!」
そんなシルの意図が分からず、静雄は首を傾げるばかりだった。
「フン。このぐらいでいいか……」
ダンジョンの中で『
オッタルにより角を手折られたミノタウロスは、彼の手により鍛えられ、全身を赤黒く染め上げ、その手にある巨大なバスターソードは刃こぼれをしながらも、怪しげな光を放っていた。
その出来栄えに一応の満足を得ていると、やる気のない、まばらに鳴らされる拍手がオッタルの後方から聞こえ始めた。
「いやーこれが
「なんのようだ、イザヤ。貴様には
その態度と恩恵も得ずにダンジョンに潜る無神経な臨也に、オッタルは苛立ちを覚えつつも質問を返した。
「いやだなぁ。オレは単なる協力者であって、あなた方のように眷属ではありませんよ。おっと、そんなに睨まなにでください。別に貴方達に敵対するつもりもありませんし、寧ろ、進んで協力したいぐらいのものです」
そういって、臨也は肩を竦めながらオッタルと話を続ける。
「…何が言いたい?」
「俺は、人間を愛して、愛して、愛してやまないッ‼。何にも増してどうしようもなく、狂おしいほどに、理不尽なほどに愛おしくね。ある意味では、愛を標榜するあなたの主神と同じとも言えるんじゃないかな」
「目的は同じだとでも言いたいのか…」
「あの女神サマと違って、俺は
「フン。貴様など、フレイヤ様と比ぶべくもない」
「それはそうだろう。キミたちの女神様と俺とじゃ、見ているものが違いすぎる」
「臨也、貴様がフレイヤ様に仇なすというならば……」
「いいのかい?許可もなく俺に手を出せば、俺を食客にしてるフレイヤ様に逆らうことになるとおもうけど」
「…」
オッタルは自らの持つ剣に力を入れるが、斬るという判断に踏み切ることは出来なかった。無論、フレイヤの意向を確認できていない状態で手を出すべきではないという思いもあったが、姿の見えない敵に這い寄られているような不気味な感覚を感じた為でもあった。
「アハハ、安心しなよ。俺は世話になってるキミらに害が及ぶことはしないと約束するよ」
「……」
「俺はただ観察をしていたいだけさ。想いという一点だけにおいて純粋な力を示し続ける彼のような人をね。純粋ゆえに矛盾を孕み得る、そう、俺の予想をはるかに裏切ってくれそうな予感を持つ男の子だよ」
「…貴様に目をつけられたヒューマンはさぞ最悪だろうな」
「構うものか。相手がどんなに俺という人間を嫌うことになろうが、俺は人間というものを愛さずにはいられないッ‼一方的に、嫌というほどにね」
その言葉にオッタルは、今度こそ得体のしれない嫌悪感を臨也に抱き始めていることを自覚したのだった。
次回 乗り越えるべきは