ダンジョンに池袋最強の男がいてもいいのだろうか   作:バキュラø

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それではどうぞ


迷宮都市オラリオ
池袋最強の男


「あん、ここは…どこだ?」

 

 平和島静雄は、困惑していた。自分は借金取りの仕事を一段落つけ、先程まで池袋にあるスターバッカスなるコーヒーショップで自らが尊敬している先輩のトムさんと新人のヴァローナとで休憩をしていたはずである。その証拠に今、自らの手にはコーヒーの入った紙コップが握られている。

 

 

「さっきまで俺、トムさん達と休憩してたはずだよな?」

 

 

 しかし、何度見ても静雄の眼には池袋、いや現代日本ならあってしかるべきアスファルト舗装された道路も高層ビルも全く見当たらなかった。

 周りには、中世のヨーロッパに代表されるような石造りの建築物とその前に商品を置き露店販売にいそしむ者たちがいるばかりである。見上げれば頂点がどこまで伸び、人の手で造られたとは到底、思えない石積みの塔まである。

 明らかに日本ではない。それどころか地球ですらなさそうだ。それだけは考えることを苦手とする静雄にも確信が持てた。

 

 

 

 

 

 

「あー、えっとそこのアンタ。悪いけどよ、ここがどこかおしえてもらえるか?」

 こうしていても埒があかないと、静雄はコーヒーを一気に飲み干し、露店の亭主にとりあえず話を聞くことにした。

 

「なんだ。兄ちゃん迷宮都市オラリオは初めてかい?ここは、オラリオの三番街通りだ。身なりがいいけど商人?それとも観光か?今は怪物祭(モンスターフィリア)が真近ってことで外から来るやつも増えてるからなー。兄ちゃんもその口か?」

 亭主からしてみれば静雄の質問は、ごくありふれた物だったようで口早に静雄の質問に答えていた。

 しかし、静雄にしてみれば、その返答は全く理解できないものであった。それはそうであろう。現代日本の一般人が迷宮都市だの、怪物祭だの聞かされても反応に困ってしまう。

 ただ、池袋という人外魔境に棲み、それを日常にしている彼にとっては、理解できずとも、すぐに受け入れることは可能であった。

 

「いや、俺は……」

 

「もしかして冒険者になって、ひと山当てに来たのかい?若いってのはいいね~。チャレンジ精神が豊富で。だけど兄ちゃん細い体してっけど……そんなんで大丈夫か。ここは外と違って、ファミリアのレベルも段違いだから覚悟した方がいいぜ。弱そうな奴はすぐにカモにされっからよ。」

 亭主は、陽気に笑いながら静雄にそういい、リンゴのような果実を一つ放り投げる。

 

「そいつは、餞別だからよ、まあ頑張んな」

 

「はぁ、どうも」

 

 静雄も、今の言動に思うところがないわけではなかったが、明らかな好意であることを感じ、またそういう態度を示してくれる人には誠意をもって対応しろ、というトムさんの教えもあり、果実を受け取り、礼を述べてその場を後にするのだった。

 果実は甘いもの好きな静雄としては少し、物足りなさを感じさせるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 露店を後にし、少しでも自分がここにいる手がかりを得ようと、行動を起こした静雄だったが、

 

「チッ…‼金がねぇな……これじゃあ、食いもんが買えねぇじゃねーか」

 

 早くも問題に直面していた。

 

 つい、先日彼の天敵である臨也を追いかけていた際にある四人組のバンを廃車にしてしまい、そのため彼は金欠であった。

 一週間程度なら、何も口にしないでも動き続けられる静雄だが、既にその限界すらも超え、リンゴで補えるはずもなく、

 

 

 

「…これも、それも‼全部あのゴミ虫ヤローのせいだッ‼今度会ったらタダじゃ置か……………………」

 

 

 

 そこで、道端に倒れ込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平和島静雄、彼の願いは、彼の名前にある通り、平和に、静かに暮らすことである。

 彼は、幼少の頃からその思いを胸に生きていた。

 しかし、中学生の時も何かと周りに絡まれてしまい、彼には平和と平穏の二文字は訪れなかった。そして、高校時代には、どこぞの黒い服を好む情報屋との出会いにより、その望みはほぼ潰えていた。

 社会人となった現在でもそれは変わらず、先日は刃物と紅い双眸をを持ち愛を囁く、もとい、押し付けてくる狂気の集団に襲われ、最近は対物ライフルを撃ち込まれたこともあった。

 おおよそ、常人が実際に経験せずに一生を終えるであろう、そんな非日常に、彼は現在進行形で身を置いていた。もう平和など望むべくもなく思えるほどに。

 だが、彼は平和を、心の平穏を、静かな暮らしを切望している。

 

 

 そんな彼がやってきたこの迷宮都市オラリオで、彼はどう生き、どんな人々と出会い、そして物語を紡ぐのか。

 

 これは彼と彼の出会う人々が織りなす、眷属達の非日常-ファミリア・ミィス-

 

 

 

 

 




読んでくれてありがとうございます。

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