連続投稿28本目。息切れしてきた……。
世界を騙す方法はいくつかある。
例えば、その世界が創作の世界だと言うことを知っていれば、主要人物に関わることで原作を歪めるという形で世界を騙すことができる。
騙すのとは少し違うのかもしれないが、その世界に行けると言う前提の上だったら一番簡単だよな。
場所によっては少し変えるだけでそれ以降の流れを大きく変えることができるかもしれない。
そう考えると、才人に関わって恋人になり、甘々な生活を送ってきた俺は世界を騙しまくっていることになるわけだ。
中学を卒業して高校生になり、才人が結婚できるようになった日に、俺と才人は初めて一つになった。父上殿も母上殿も気にしていたようだったが、その日ばかりは遠慮してもらった。
何せ初めてだ。養ってもらっている身とはいえ、そんなときくらいはできるだけロマンチックにしてやりたかったんだ。
……そんなわけで才人と本格的に結婚する準備を始めたんだが、とりあえず社会経験を積むためにバイトを始めた。
人付き合いは大変そうだが、才人が馬鹿にされないようにと俺は頑張った。
いつか父上殿や母上殿から自立して、父御殿と母御殿から才人を貰って結婚して、小さくてもいいから一軒家を建ててそこで子供達と一緒に仲良く暮らす。
そんな高校生にありがちな理想のために、金はいくらあっても足りないからな。
ちょっと驚いたんだが、父上殿は色々な所にコネらしき物を持っていたので経験を積むことには困らなかった。
なんでも高校や大学時代の友人らしい。俺も人付き合いは大切にしようと思う。
……今でも友人が少ない何てことはない。むしろ今はかつてないほど多い。
高校で俺と才人ほど堂々と付き合っている奴はいないし、高校生と言えば馬鹿をやりたくなる年頃。中学時代の痛々しい行動的な意味ではなく、普通に他人に誇りを持った話すことができるような思いで作りにかなり熱意を燃やす奴等が多い。
才人の方の女子組でも同じように才人に人が集まっていたりもするが、なんでか才人は苦笑したりしていることが多くなった。
……聞いてみたところ、本当に男子と同じように才人から俺を通して男子を紹介してほしいと言う話が持ちかけられてきたそうだ。
どうせだし、ある意味友人のためだし、高校で大っぴらな彼氏彼女の付き合いをしているのが俺達だけと言うのは寂しいし、本当に紹介してやることにした。
そのことを本人達に伝えた時の反応は、なんでか全員が狼狽していた。どうやら本当に出会いをセッティングしてくれるとは思ってもみなかったようで、ぎくしゃくとした空気が周囲を包んでいた。
女子連中の反応も似たようなものだったらしいが、中には数人ガッツポーズをとったのが居ると聞いて『最近流行りの肉食系女子と草食系男子ってやつか』とか考えてみた。
多少時代を先取りしているような気がしないでもないが、どうでもいい。
嘘だ。付き合うことになった場合の初々しさ等を見て才人と一緒に楽しむつもりだし、友人の恋路をどうでもいいなんて言うわけ無いじゃないか。
そんな感じで高校生活を満喫しながらの日常には、才人がトラブル誘引体質なのが原因なのか様々な事件があったりした。
どれもこれもがよくある恋愛漫画のような事件だったんだが、それでも普通の学生じゃあ逃げ切ったり解決したりするのが難しそうな事件のオンパレード。何度も警察に厄介になったお蔭で、顔を覚えられたりもした。畜生。
けれどもそういったトラブルを抜ける度、俺と才人の仲はさらに深まって行った。
俺が少し怪我をしたりした時には才人は泣きながら謝ったり、逆に俺が才人を守れず怪我をさせてしまった時なんかは土下座もしてみたり……。
……そうそう、俺がドラクエの回復魔法を使えることは、才人は知っている。
……ついでに我が父上殿と母上殿も知っていた。父上殿と母上殿経由で父御殿と母御殿も知っていた。流石に友人達は知らないが、我が父上殿はいつもはあんなんだが、やはり我が父上殿なのだと理解した。
……まあ、
「なんか隠し事をしてたのは気付いてたからな。後は才人ちゃんと一緒じゃない時に部屋に忍び込んで催眠誘導で聞き出してやったわ!」
なんて言いやがったんで、ちょっと車庫で肩車したまま学校に向けてルーラしてやった。衝撃は俺にまで来たが、スカラで防御力上げたから痛くはなかったしダメージも無かった。
かわりに我が父上殿はというと、車庫の天井に叩きつけられた脳天を抱えて悶絶していた。タワーブリッジじゃなかっただけよかったと思うといい。
ちなみに母上殿も隠し事には気付いてたそうだが、内容は父上殿に割と早い段階で聞いたそうだ。
にやにやと笑いながら明かしてくれたが、性格悪いなと思ったらどこからかバレたらしくでこぴんされた。
痛くはなかったが、どうして考えていることがわかったのか不思議でしょうがなかった。
……才人はまだわからないらしい。
だが、俺が才人を見て考えることなんて『才人可愛い』とか『大好きだぁぁぁぁっ!!』とかそんな系統のことくらいしか無いってのに。
いやまあ確かにそれ以外にも将来のこととか才人の体の心配とか色々あるけども。生活のことも考えてるけども。
だが、それでも俺が才人を愛していることに違いは無い! そればかりは相手がなんだろうと譲るつもりは無い!
「私も、マサが好きだよ」
「俺だって、才人が大好きだ」
「私だって、マサが大好きだよ」
「俺だって、」
「私だって、」
「俺だって、」
「私だって、」
「俺だって、」
「私だって、」
「お前ら学校でいちゃつくなよ。若くして糖尿病になっちゃった可哀想な患者を量産するつもりかドバカップル」
「帰れよ、帰っていちゃついてくれよリア充」
「………ねえ、サトラッシュ……なんだかとっても甘いんだ……」
「瀬野!瀬野━━!しっかりしろー!あと俺は佐藤だー!」
「さ、砂糖だと!?」
「この状況でその言葉を出すとは……万死に値する!」
「その罪……死して償え!」
「えぇぇぇぇぇぇ!? 俺自分の名字を言っただけだよな!?」
「「「問答無用!!」」」
「ギャ━━━!!」
……どうやら、クラスメイト達には不評なようだ。何でかわからないが。
「なんでかな? 嫉妬してる感じじゃないし……」
「何でだろうなぁ……俺には到底理解できんよ」
「見ていて口の中が甘ったるいんだよ!」
「口どころか鼻まで甘いんだよ!」
「血糖値が馬鹿高くなってんだよ!どうしてくれる!」
いや、知らんし。自分達も恋人作っていちゃつけば甘くなくなるんじゃないか?
「…………それだ」
「さて、恋人募集!できれば平船夫妻くらいの甘々な行動を普通にできるくらいのやつ!」
「はーい!立候補しまーす!」
「あっ!? ズルい!」
「私もっ!」
空前のカップルブームだな。凄いことになりそうだ。
なんと言ってもこの学校には顔が悪いやつはいないし、一番悪いやつでも前世からするとかっこいい部類に入るし、中身イケメンも多いしな。
……他の作品世界もこんな感じなのか? だったらかなり驚く。
だが、一つだけ聞き捨てならない言葉を聞いた。
『俺と才人より深く愛し合うことができるやつ(勝手に意訳)』だと? そんなことを許すわけが無いだろうが!
そう、俺が持つ才人への愛はそれこそ無限大!他者の追随を許すわけねえだろ常識的に考えて。許させるわけないだろ当然のこととして。
そんなことになったら、俺は才人への愛を高めるために修行するぞ? 才人が傍に居れば食事の必要がなくなるくらいまで修行するぞ?
だが、そのために才人を寂しがらせるわけにはいかないから毎日学校に行き、いつも通りに過ごしながら修行をする。やってやるとも!
……そう言えば、元々才人への愛情を鍛えることにしているんだから、特に理由がなくても始めてしまえばいいだろう。よし始めよう、異論は認めない。
俺は愛がために修行をすることに決めた。
■ ■ ■ ■ ■ ■
高校生活を続け、毎日を平和に過ごしていたとある日に、その事件とも言えない事件は起こった。
その事に気付いたのは、才人が俺にこう言ってきたからだ。
曰く、『生理が来ない』と。
そこでちょっとディティクト・マジックで調べてみたところ、見事に予想通りの結果が出てきた。
つまり、才人は妊娠していた。相手は当然のことながら俺だ。
とりあえずぶん殴られる覚悟をしながらお互いの両親に話をしに行ったところ………諸手を上げて歓迎された。全く責められることも無く、むしろ嬉々として受け入れられてしまった。
そこで思い出したのが、これまでもよく孫を望む声があったこと。前世の記憶から冗談の一種だと思っていたんだが、どうやら完璧に本気だったらしい。
しかし、いくら親が諸手を上げて歓迎しても周りは…………と思っていたら、なんでか『え、やっと?(by クラスメイトの一人)』とか『よかったじゃん、お祝いは……クラスで二万ほど集めて包んでおくから(by クラスメイトの一人)』とか、『愛……実に素晴らしい!退学を覚悟してそういった報告に来るところも気に入った!俺が話を纏めといてやるよ(by 担任教師)』とか『披露宴の日程とか場所とかはもう決まっちゃってる? 決まってないならいいところがあるんだけど……(by 教頭先生)』とか、もう本当に心が広いと言うか柔軟と言うか苛めが考えられないほど周囲の人達も優しかった。
渡る世間には鬼ばかりだと思っていたんだが、意外と鬼以外も結構多い事を知った。正直本気で驚いた。
「……なんと言うか、よかったね、マサ。テレビとかだとこういう時には大抵破滅的な結果が待ってるんだけど……意外と世界って優しくできてるみたい」
「……そうだな。俺もこんなに世界が優しいと思ったのは初めてだったよ」
どうにもならなさそうだったら、ちょっとメダパニーマで世界全土の人間を軽く混乱させてから憲法と法律と基本的な認識を変えるために奔走してたと思うし。
……ってか、安心したらなんだか力が抜けちまったな。
身体から力を抜いたら、体は勝手に才人の方に倒れていく。ホイミで体力回復すればまだ動けるだろうが………才人のいい匂いとか体温とかを感じていたかったから、あえてなにもしないで才人に体を預けた。
「……お疲れ様。マサ」
才人はそう言って、俺を膝枕の体制に移行した。
そして俺と才人はまったく同時に欠伸をひとつ。どうやら体は眠りたがっているらしい。
「……才人」
「……なぁに?」
小さく小さく、蚊の鳴くような声での囁きも、才人は当然のように拾ってくれた。
その事に喜びを感じながら薄く目を開けて、才人の唇を自分の唇で一瞬塞ぐ。
「……お休み、才人」
「……うん。お休み、マサ」
俺と才人は校舎の屋上のベンチに座り、ゆっくりと眠りに落ちるのだった。