連続投稿二十二話目です。
転生したばかりの俺が目を開けてみると、周囲はなんでか真っ暗だった。
動こうとしても動けないから、多分今は母親の体の中にいるんだろう。
いったいここの母はどんなだろうか? 優しいといいなぁ……等と考えつつ、俺は暖かい液体に包まれたままのんびりとたゆたう。
ちょっと全身を締め付けてくるのがきついけど、その辺りは仕方ないと諦めるしか無いだろう。
『━━、━━━━━』
なんだか外から俺に話しかけられたような気がするが……水と肉の壁とに遮られてるから聞き取りづらいなぁ……。
そう思いながら、俺はなんとなく逆さまになっている状態で大人しくしていた。
……正確には、あまり体は動かせないから大人しくしていることしかできなかったとも言うけど。
髪の色とか容姿とかはランダムだから、多分親の遺伝がちゃんと機能するだろう。両親ともに金色の髪なのに一人だけ銀色の髪とか、そんなことは無いはずだ。
そうじゃなかったら多分迫害されるしな。正直、自分達の髪は金なのに黒い髪の子供が生まれて簡単に受け入れる親ってのはごく少人数だと思うし。
……さて、俺はいったいどこに産まれることになるのかね? トリステイン? ガリア? アルビオン? ゲルマニア? ロマリアかな?
トリステインは平民と貴族の格差がありすぎて嫌だし、アルビオンは滅ぼされたりクロムウェルに操られたりするから困るし、ロマリアとかなんか内側はどろどろしてそうで嫌だし、ガリアは確実に戦争に巻き込まれるしなぁ……。やっぱりゲルマニアがいいな。
その辺りはランダムだから仕方無い。東方に生まれる可能性だってあるんだから。
『━━━、━━』
ああ、また声が聞こえる。悲鳴とかじゃなくて、落ち着いた声だ。どうやらここは平和なようで、いいことだと思う。
どこの村か町かは知らないけど、子供のうちは周囲が平和なのは俺にとっても利点が大きい。
俺はしっかり育つから、できるだけいいタイミングで産んでくれよ? 俺にとって二人目の、我が母上殿よ?
■ ■ ■ ■ ■ ■
産んでもらってしばらくして、ふと気付く。
俺にとってどちらも二人目となる我が母上殿も父上殿も、髪が黒い。その上、どう聞いても日本語を喋っているし、名前だって日本人の物だ。
…………って言うか、ここ、日本だ。東京タワーとかあるし。東京スカイツリーは無いんだけどな。
それで俺の名前は【
……正直最初は騙されたと思ったね。だけど、ちょっと考えてみたらそうじゃない可能性が高いことがわかった。
ほら、ゼロ魔の主人公である才人は当時の現代日本からハルケギニアに行ったわけだろ? つまり、ゼロ魔の世界にも日本って国があるってことだ。
そこでちょっと確認してみたところ、魔法を使うことができた。呪文は唱えられなかったから無詠唱でやってみたんだが、できちゃったところから考えてこれは多分ゼロ魔の魔法って言うんじゃなくて大きく『魔法』って区切りだったと思い出す。
………優しいのか厳しいのかわかんねえなこの世界……ってかあの神様的光る人型。
……お陰で騙されたとは言えないし、確かに確認しなかったし、願いの条件は全部揃ってる(ちょっと怪我したらすぐによくなった。軽いとはいえ五時間程度で治っちゃったよ……)。騙されたって大声で叫びたいけど騙されてはいないから……。
ああ畜生、騙されてないのに騙されたとき以上に騙されたような気がする。実際には騙されてないのに……。
……まあ、なったもんは仕方無い。一応ゼロ魔の世界だし、魔法とか使いながら第二の人生を楽しみますかね。
今さら騒いでも建設的じゃないし、転生して楽しむってのは全国に無数に存在する夢想家の夢とも言える状況だしな。楽しまなくちゃもったいない。
……ただ、一応ゼロ魔の世界なんだし、魔法はできるだけゼロ魔基準で行こうと思う。必要になったらリリカルな魔法でも音声魔術でも固有結界みたいなのでも躊躇わず使うけど。
……そう言えば、俺は魔法を使えるようにするのに20ポイント支払ったわけだけど、20ポイント分の魔法ってどんなだ? 1ポイントにつき一回の回数制とか言われたら泣くぞ?
そう考えていたら天恵(声からするとあの神様的光る人型)が降ってきた。
曰く、振った点数の半分の数が魔力に振られ、もう半分の数と同じだけの種類の魔法が使えるようになるらしい。
この場合、種類ってのは【ゼロ魔の地属性】で1つ、【固有結界とその劣化した魔術】で1つ、【ドラクエの攻撃・回復・補助魔法】で1つずつ………と言った感じらしい。
あと、10歳の子供先生が女子中学生を教えつつ世界を救う話の魔法は駄目なんだそうだ。音声魔術も同じく。
ああ、残念。あれ便利なのに。
そんなわけで、俺はゼロ魔の魔法の五種類(地、風、火、水、虚無の五つ。これが使えればコモンマジックも使える)を選び、ドラクエの攻撃・回復・補助の魔法を得た。
そこで驚いたんだが、ゼロ魔の四属性を取ったら全部がラインになった。
どうやら地属性を取ると同時に火と水属性にも0.5くらいの補正が入るらしい。それを四つ分やったら全部がライン………本当になんだかわからない。
虚無魔法はまだ取らない。なぜなら他の魔法が使えなくなる可能性が高いから。現代世界で爆発なんて使えないっての。加速とかテレポートだったら使い道があるけど、詠唱知らないし。
爆発なら頭の部分だけ唱えられるし、それで発動するからな。
あと、ドラクエの魔法はダイの大冒険基準で、魔力が多ければ多いほど威力が上がるらしい。バーン様の真似ができるってことだよな?
天地魔闘の構え…………って、んなもん使う機会は来ねえよ。多分。
俺が原作に関わる方法は、俺が自力で虚無魔法を使ってハルケギニアに行くか、あるいはハルケギニアの誰かに呼ばれるか…………ああもうガキの頭ってのは本当に考え事に向いてねえな畜生!超眠い!
俺は考え事を終わらせて、目を閉じる。
……ガキらしく、泣いとくかね。ちょっと腹も減ったし、夜泣きもたまにはしないと怪しいしな。三日に二回くらいやっとけば……いや、それでもかなり少ないんだけど……やらないよりはな。
体に任せりゃ勝手に泣いてくれるし、便利便利。
……実のところ、ここが本当にゼロ魔そっくりの世界かどうかはわからないんだけどな。
楽観しておけば気楽だし、気にしないことにしよう。
もしかしたらこっちの世界で一生を過ごしたいと思うようになるかもしれないし、原作開始時は俺が17の時だってわかってるからな。
………それじゃあ、悪いが起きてもらうぜ? 我が母上殿よ。
せーの、おぎゃー!
俺が泣いたらすぐに母上殿がやってくる。本当、育児放棄とかされないでよかったよ。
暴力を振るわれたりとかも無いし、俺って運がいいかもしれない。
ここで死んだりとかマジで洒落にならないし。いやほんと。
だけど、やっぱり慣れねえなぁ……飲まなきゃ死ぬから飲むけどさ。
■ ■ ■ ■ ■ ■
一応何年もこの世界で暮らしてきたんだが、やっぱりこの世界がゼロ魔の世界だと言う確証は得られなかった。確証を得るには原作まで待って召喚されるか、あるいは自力で行くしかないんだが……なんと言うか、少し覚めた。
転生したこの世界での生活は楽しかったし、一度死んだ身としてはもう一度生活することができるだけでもかなり嬉しいことだし。
それに、よく考えればわざわざ死亡する確率が地球の日本に比べてバカ高いハルケギニアにいく意味はそんなに無いし。一度死んだことのある身としては生きていられることが最優先。
……とは言っても、面白そうなことがあったら首を突っ込んだりもするけど。
……あと、俺は虚無の魔法の呪文を知らないから自力じゃハルケギニアには行けないし、呼ばれるとしたらやっぱり才人の方だろうし。
そんな色々な理由が重なって、俺は今も最小限体を鍛えるだけ(最小限でも上昇率が凄い)の日々を過ごしている。
……そうそう、俺の能力の中で、俺が勘違いしていた部分があることがわかった。
今言ったばかりの上昇率倍加の能力の話だが、あの時あの神様的光る人型は『1ポイントにつき2倍』と言っていた。
俺はそれを聞いて、『1ポイントで2倍、2ポイントで3倍』みたいに増えていくもんだとばかりおもっていたが、それは間違いだった。
……2の50乗倍なんだと。身体能力の上昇率。
そんな力をつけたら体が耐えきれないだろうと思ったんだが、ステータス的な身体能力の上昇率が上がるってことは…………防御力も上がるんだよな。アホみたいに。
お陰さまで体を動かして自滅するなんてことは無かったんだが、加減がしにくい。軽く殴っただけでコンクリの壁に拳大の穴が空くくらいになっちゃったからな。
だから俺はそんなに本気で怒れなくなったし、何かをするときには常に加減する癖をつけるようにしたんだが……かなり真剣にやってるせいか器用さのステータスの上がり幅が凄い。
今でも勿論ステータスを保つくらいの運動はしているんだが、それ以外は全然していない。今でも化け物じみてるんだから、これ以上人間の限界から離れなくていい。
ただ、そうしているとなんでかガキどもからすかした奴だと思われたのか、からかいの対象になってしまった。
こっちは学校の勉強(前世の高校から大学あたり)に忙しいってのに、本当に邪魔しかしてこない。あんまり怒ることじゃないが、参考書を隠されるとかそういう被害が来たらちょっと粛清しようか。加減が面倒だし、あんまりやりたくないけど、やらないといつまでも続くからな。
……耳元で大声を出してやればいいか。そうすりゃ勝手に泣くだろう。
まったく、ガキの相手は面倒だ。
……俺も肉体的にはガキだけどな。異常すぎる身体能力とかは他人に見せてないし、実際に内向的なただのガキくらいにしか見られてないだろう。
最後に。やっぱり騙されたような気がして仕方無い。騙されてないってのはわかってるつもりなんだがなぁ……。
■ ■ ■ ■ ■ ■
【とある元少年の話】
えっと……どこ……?
まま……ままぁ~?
……ぐすん。
……ぅわぁぁぁん!!
【記憶を残し忘れた少年】