騙された気がするゼロの使い魔   作:真暇 日間

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騙されゼロ魔13

 

 そんな訳で世界中の使い魔契約が切られ、一部の魔法がかけられた道具や建物から魔力が消え、地球から兵器や人を呼び寄せることもなくなり、ついでにシャルロットやジョゼフがもう一度使い魔を召喚して再契約した日から一日。その他にもロマリアが地図から完全に姿を消したとか、ガリアの国庫に結構な量のトリステイン王国新旧金貨が詰まれたりとか、まあ色々なことがあったりなかったりしたわけだが……俺と才人が地球に帰る日がやってきた。

 その日に帰ると一応伝えておいたが、見送りに来る相手は一人もいない……何てことはなく、それなりに仲良くなれたと思える数人は見送りに来ていた。シャルルが復活したと言うこともあってかなり忙しくなっているはずだが、それでも時間をつくって来てくれたと言うのは……中々に心暖まる話だ。

 

「心暖まる話だろうが何だろうが帰るのは変わらないんだけどな」

「まあ、帰るためにこうしてやってきたわけだしね」

 

 才人はそう苦笑するが、実際にはマジで苦労していたりする。

 まずは方向。正確な地図のないこの世界で、しかも自分たちの現在地もわからないような状態で、どっちに向かえばいいのかを何とかして割り出す必要があった。これは学園から続いていた道があり、それが王都に続いていたからそこまで苦労はしなかったが、面倒ではあった。

 それから賊や亜人の襲撃。亜人の方はできるだけいないところを選んで進めばよかったが、トリステインが全体的に治安が悪いのか賊はそれなりの数存在していた。それらを才人に気付かれないように処理しておくのも中々大変だった。まあ、それは才人と腹の中の子供のためだと思えば苦労だとは思わなかったが、それでも普通は疲れる仕事だ。

 途中で俺が才人を召喚して、痛みを与えないようにルーンを刻むことでパーティ編成を終わらせ、万が一もう一度攫われるようなことがあってもすぐに合流できるようにもしておいた。

 精霊の類はやろうとすれば蒸発させるなりなんなりでどうにかできたからそこまで怖くはなかったが、一歩間違えれば戦闘になっていたかと思うと怖くて仕方がない。

 

 そんな綱渡りをして、しかし才人には俺が綱渡りをしていると言う事に気付かせず、こうしてここまで来るのは本当に苦労の連続だったと言える。

 しかし、そうした苦労の先にこうして地球に帰ることができると言う事実があるなら、苦労した甲斐があったと言うものだ。

 

「また、来たくなったならいつでも来い。歓迎してやる」

「ありがとよ、ジョゼフ」

 

 最初会った時とは比べ物にならないほどに明るい雰囲気となっているジョゼフと握手をして、そして別れる。

 

「何度も言うけれど、娘をありがとう。そして僕自身の事もね」

「お前自身の言葉で表すと?」

「うはwwwwww修正されたwwwwww運営あざーすwwwwwwwwwwwwあwwwwwwざwwwwwwーwwwwwwすwwwwwwwwwwww」

「……お前はやっぱり最後までウザいな」

「今のは君が言った事だけどね」

 

 初めのうちは真面目だったのに、いつの間にかウザい笑みを浮かべて俺を見送る馬鹿(シャルル)に軽く一発拳を叩き込んでから別れる。こいつとはこんな感じの軽い挨拶があっているだろう。

 後ろでは才人がシャルロットの母親やシェフィールドと言った女性陣と話をしているが、そっちの方も盛り上がっているらしい。ジョゼフの歪みが消えてから、シェフィールドはよく笑うようになった。こっちが平民であり、貴族としての礼儀や常識なんて物を持っておらず、必要ともしていないと言うことを理解してそれに合った対応をしてくれているあたり、本当に優秀な人だとわかる。

 ……愛に狂うとアレだとか言ってはいけない。俺も才人が拐われた直後はそんな感じだったし、人のことは言えない。まあ、感情と言うもので動く実に人間らしいあり方だと思ってくれ。

 

 そして最後に、この世界に来てから一番助けられた相手の前に二人で立つ。

 

「……色々と助かった。ありがとうよ」

「たくさん助けてくれて、ありがとう」

 

 俺達の言葉にシャルロットは首を横に振る。

 

「……こちらが先に助けてもらった。母を治してもらえたし、父も甦らせてもらった」

「ただしその父親はウザい」

「言わないで。わかってるから」

「あんな人だったんだねぇ」

 

 くすくすと笑いだす才人につられて、俺とシャルロットも笑い出す。こうして顔を合わせて話をするのは、もしかしたらこれが最後になるかもしれないと言うのに、そう言った事を全く感じさせない。流石と言うべきか、あほらしいと言うべきか。

 だが、もしかしたらと言う可能性程度の話ではあるが、一応もう一度出会うことができるかもしれない。俺が写した始祖の祈祷書の写本の呪文の一つを使えば、意外と簡単にまたこちらの世界に来ることはできる。地球にはあまり魔力が無いので若干困ったことになりそうではあるが、俺の場合魔力はかなりの量がある、周囲の魔力を使わなくとも俺一人の魔力で十分すぎる。

 ……と言っても、もちろんこっちの世界にまた来る予定はない。才人にとっても嫌な思い出の多い場所だろうし、一番初めは屑ピンクに酷い目に合わされたからな。トラウマになっていてもおかしくはないだろう。そんな場所に行きたいとは思わない。当然の話だ。

 そしてそれを理解しているようで、シャルロットは若干悲しそうな顔をしているのがわかった。これも少しの間とはいえ一緒に旅をしていたからだろうな。殆ど表情が変わらないから初対面だったり関わりが浅かったりするとわからないんだろうが……何となくこの無表情な娘さんの表情を読むことができるようになっていた。

 

「……それじゃあ、さよならだ」

「……さよなら、シャルロットちゃん」

 

 俺は杖になっているボールペンを手に取り、覚えた呪文を唱える。初めて使う呪文なので発音ははっきりゆっくりと。次以降はもっと早く使うことができるだろう。

 

 願うは帰還。地球の、実家への道。俺の精神力を使い、世界を繋ぐ扉……『世界扉(ワールドドア)』を作り上げていく。

 この呪文は本来あの教皇が使っていた呪文だが、別に他の虚無の担い手が使えないと言う訳じゃない。原作でも威力は抑え目だったがジョゼフが爆発(エクスプロージョン)を使っていたし、祈祷書と指輪があれば必要だと思った時に必要な呪文が現れる。虚無の魔法とはそういうものだ。

 

 作り上げられた世界扉には、俺と才人にとっては見慣れた景色である地球の日本の景色が映っている。できるだけ世界扉が見つからないように人気のないビルの屋上に出したんだが、これは本当によく使える魔法だ。願った通りの場所に空く。

 

「……じゃあな。それなりに楽しかったよ」

「じゃあねー」

 

 ジョゼフ達に背を向け、俺と才人は地球に繋がる魔法の扉に入っていく。何に触れるような感覚もなく、ただ普通に通り抜けて……俺と才人は地球に戻ってくることができた。

 場所は、俺の家の近くの小さなビル。ここからなら歩いても15分はかからない程度で家に到着するだろう。そのくらい近い場所だ。

 

「……帰ってこれたね」

「当たり前だ。帰るためにあれだけの事をやったんだからな」

 

 喜びからか、瞳を潤ませる才人の頭を撫でる。くしゃくしゃと柔らかな髪が俺の指に絡まって、少しごわごわとした感触が返ってくる。

 

「……髪、傷んじゃった」

「なに、それも才人だ。あんな世界でも頑張った証なんだから、それを俺が嫌いになるわけないだろう」

「……うん!ありがと、マサ」

 

 はにかむ才人の額にキスをすると、才人は背伸びをして俺の頬にキスをする。そのお返しに俺は頬にキスをして、才人が逆の頬にキスをして―――唇同士が合わさった。

 感覚としては数十秒。実際には恐らく数秒程度の時間唇を合わせ、そしてどちらからともなく離れる。才人の頬は朱に染まり、俺もわずかにではあるが頬に熱を感じる。

 

「……それじゃあ、帰ろ?」

「……そうだな。帰ろうか」

 

 俺と才人は手をつなぎ、誰もいないビルの屋上から階段を使って降りていく。屋上のドアには鍵がかかっていたが、アバカムを使えば鍵は開けられる。勿論通った後で鍵は閉めなおして、歩き出す。

 

「お父さんたちにはなんて言おうか?」

「あったことを正直に、かつマイルドに話さなきゃな。そのまま言ったら父御殿と母御殿は突貫して行きかねん」

「あー……うん、そうだね。お父さんもお母さんも過保護だから」

「年頃の娘がいると考えれば割と普通かもしれないがな。才人は少々無鉄砲な所があるし」

「え、そう?」

「ああ、そうさ」

 

 そんなことはない、と言いたげにむくれる才人の膨れたほっぺたが可愛らしくて、ついそこに唇を落としてしまう。一瞬きょとんとした才人だったが、すぐに俺にキスを返してくる。

 俺から一回キスをしたら、才人から一回キスをする。才人から一回キスをしたら、俺からも一回キスを返す。そんな風に決めてから何度もこうしてキスを繰り返してきたが、その約束はずっと守られている。

 

「好きだよ、才人」

「私も、大好きだよ。マサ」

 

 久しぶりに歩く日本の風景の中で、何度となく繰り返したやり取りをまた繰り返す。そろそろ慣れてもいいくらい繰り返したはずだが、未だに慣れてしまう事は無いこのやり取りに笑みが止まらない。才人も同じなのか、俺に向ける笑顔はやや蕩けているようにも見える。

 

 ただ、二人並んで歩く。身重の才人の脚に合わせてゆっくりと、けれど確実に進んでいく。

 何故か、誰にも会うことなく俺と才人は家に向かう。顔見知りに出会ったらきっと非常に騒がれていただろうからこっちとしては色々と好都合ではあるんだが、少しだけ寂しいと思ったりもする。

 

「……帰ってきたな」

「……うん」

 

 目の前に立っているのは、しばらくぶりの俺の家。きっと俺は心配されてはいないだろうが、才人は心配されているだろう。必要ないと思って携帯電話を置いて行ったせいで帰ってきてすぐに連絡が取れないってのは少し予定外だったが、あの時は急いでいたから仕方ないと自分では納得している。あの時もう少し遅れていたら、才人はあの屑ピンクに貞操を奪われていた可能性もあったからな。許されざるよそれは。

 

 きゅ、と俺の手を握る才人の手に力が籠る。その手を優しく握り返して、俺は玄関の扉を開k

 

 ガヂン!

 

 ……そう言えば、世界を越える直前まで家の中にいたから鍵なんて持ってないんだよな。忘れてた。

 自分の失敗に苦笑いを浮かべ、代わりにアバカムを唱えて扉を開ける。夕方だからか母上殿のサンダルが出されていて、奥からは何かを作っているのか包丁の音が聞こえてきた。

 

 ……さあ、久しぶりの『いつも通り』だ。胸を張ろうじゃないか。

 

「ただいま、母上殿」

 

 ……急に家が騒がしくなる。少し疲れた顔をした母上殿の姿に笑顔を向け、もう一度。

 

「ただいま」

 

 母上殿は驚きの顔から、少しずつ表情を崩す。そして、安心したような笑顔で言った。

 

「―――おかえり」

 

 




 
 これにて『騙された気がするゼロの使い魔』の本編は完結しました。この先、いくつかの後日談を用意したいと思いますが、暇なら読んでやってください。

 1,後日談・地球。
 2,後日談・ハルケギニア【ガリア王国】
 3,後日談・ハルケギニア【トリステイン王国】
 4,後日談・地球。【十年後】

 こんな感じのを書く予定です。


 ※アンケートではありません。感想に何番とか書かれても困ります。こう言うのを書く予定だ、と言うのを示した、いわば次回予告みたいなものです。
 規約違反になってしまいますのでもう一度。アンケートではありません。

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