完結まで書き上げたので連投します。なお、完結後に後日談を投稿する予定です。
十年以上前に死んだとは思えないほど綺麗な死体。『固定化』と『錬金』はやっぱりゼロ魔の魔法でトップクラスの反則魔法だと思う。
ちなみに他には『遍在』と『制約』、『加速』くらいだろう。火属性は……ほら、な? 破壊しか能がないし……な?
……まあ、壊すだけ壊して後始末できない火属性の話は置いておいて……『固定化』のかけられた棺に入れられた『固定化』付きの死体。生前と殆ど何も変わっていないだろうその死体は、俺がこれからやろうとすることになんの不都合も無いものだった。
「……何をするの?」
「端的に言うと死者蘇生。アンドバリの指輪みたいな不完全で不細工な奴じゃなくて、完全なやつな」
「できるの?」
「死体が古すぎるから微妙なところだが、思った以上に損傷が少ないし経年劣化も『固定化』で抑えられてるから、後は魂さえあればまず間違いなくできる」
「……マサって本当にあれだね。いろんな意味で凄いよ」
その場に居る俺以外の数人の視線を受け流し、掘り起こした死体に十字を当てる。正式な作法は知らんがこう言うのはなんとかなるようにできているし、ついでに魂らしきものはもう見つけてある。多分これでなんとかなるはずだ。ならなかった場合は知らんがな。俺には何もできん。
で、こんな時に唱える呪文はいくつかあるわけだが、俺が使える呪文に限定した場合その選択肢は一気に狭まる。死者蘇生の呪文なんてドラクエには一つか二つしかないからな。あとは特技か道具かだが、道具は無いし特技も使えない。しょうがないな。
それでは皆さんご一緒に。
「『ザオリク』」
十字の光が光度を増し、ゆっくりと死体に吸い込まれていく。
『あ~!すいこまれる~!』
ついでにシャルロットの背後に居た青い髪したおっさんも吸い込まれていく。本当ならあの世に行って探し当てなきゃならないんだが、こっちに居るんだったら探すのも楽だよな。多分あれがシャルロットの父親だろうとあては付けていたが、やっぱりそうだったみたいだし。
そんな訳で、多分俺しか見えていないだろう幽霊だか亡霊だか残留思念だかわからない霊体的な何かを同じ顔したこの死体に突っ込み、肉体を生きている状態に戻した上で魂と肉体を結び付ける。これが緩いとちょっとの衝撃や睡眠で魂が抜け出ることになりかねないらしいから慎重かつ大胆に……と言ってもやり方はよくわからんのでその辺りは勘でやっておく。……もやい結びでいいよな? 多分。
これであとは本人が起きるのを待つばかり。本当にちゃんと起きるかどうかは知らないが、できることはやった
……ってことで許してもらいたい。
「……おわった……の……?」
「ああ。できることはやった。一応実験も昔済ませてあるし、死体が何年も前のってのが弱冠不安っちゃ不安だけどまあ問題ない」
「実験って……いつやったの?」
「昔病院の霊安室に忍び込んでそこにあった死体を綺麗に直して実験してみたら成功した。本人が起きる前に姿は消したが、その後に元気に走ってるのを見たから問題は無いはず」
ちなみにそいつは今、学校の同じクラスの俺の二つ後ろの席に座っている。才人と言いあいつと言い、なんでこう縁があるかね? 近場の病院で実験したせいか? 住所的に近い場所の奴ばっかりが集まったせいなのか?
別に何かしらの問題があるわけじゃないが、若気の至りってやつを延々と見せられ続けるのは結構苦痛。中二病患者が卒業した後にかつての記録とかを見せつけられた時の気持ちってこんなんなのかね? 中二病を体現できるようになっちゃった俺が言うのもあれだけども。
……で、後はどうするか、だ。正直復讐は恐らくシャルロットがジョゼフに会いに行けば果たせるだろうが、それはそれで面倒臭い。ジョゼフには押し売りの代金に土のルビーを貰っているし、実際にはもう用は何一つないんだが……だからってこのまま殺させるのも味気ない。
「で、母親は治った。父親も返ってくる。王位はお前さんに譲渡されることが
「……」
そう聞いてみると、シャルロットは俯いて考え込んでしまう。まあ、原作では確か途中から才人に惹かれて復讐を放り棄てていたし、この旅の中でも俺と才人がイチャイチャしているところを見せて毒気も若干抜いておいたし、できればこの国の王となった後にジョゼフを宰相にしてトリステインに戦争吹っかけて滅ぼしてくれるとありがたいんだけどな。
復讐は無意味だ、なんてことを言う気はないが、だからと言って理由を失った復讐を惰性で続けると言うのはよろしくない。もしもやるなら徹底的に、そしてその後の事を考えるならその他への被害は最小限に抑えるべきだ。でなければ後々の生活に支障が出る。
俯いたままのシャルロットは答えを返さない。理由がなくなってしまえば復讐者なんてのは割と脆い。理由があるうちは頑なで扱い難くとも、そこはそれなりにやっておけば問題ない。
動かなくなったシャルロットをスルーして、俺は目の前にいるついさっきまで死体だった男を運ぶ。今の今まで死体だったとは思えないほどに温かく、血色のいいその身体は俺より身長が高くて運び難かったが、コモンスペルのレビテーションは本当に便利。ふわふわと浮かせてしまえば俺がわざわざ運ぶ必要もなく、片手は杖でふさがるもののもう片方の手はフリーとなるのがメリットになるだろう。
これを使っている間は他のゼロ魔魔法を使えなくなるのが難点だが、それはもう仕方ない。ゼロ魔魔法はぶっちゃけ大したことないものが多いし、ドラクエ魔法で大概の物は真似あるいは上位互換ができる。できないのは固定化と鍵をかけるもの、風の分身くらいで、後の殆どはドラクエ魔法で同じ結果が出せるのだ。優先順位的に遅くなるのもある意味仕方ないのだと思ってほしい。
……しかし、あれだな。久し振りに凄まじく騙された気がしてならない。具体的にどこを騙されたかと言うと、今蘇生させたシャルルって男についてだ。
俺の知っている……つまりゼロの使い魔と言う原作におけるシャルルと言う男は、この世界のメイジが広く使う四系統の系統魔法に優れた天才。さらに目的の為に色々と手を回したりする汚さも持っていて、それでいて基本は善良な人間だったはず。
原作における描写があまりにも少ない上に、出てきたとしても本人ではなく
……だが、いくらなんでもアレはおかしいと言うことはわかる。
娘であるシャルロットが心配だからと言っていつまでもヒラヒラ飛び回ってるのはどうかと思うし、俺がシャルロットに近付く度にヤクザ顔負けのメンチ切りをやってきたり、シャルロットの母親が治ったときに喜びのあまりか何かは知らないが触れもしない床で無理矢理ブレイクダンスしようとしてスカスカすり抜けながら高速回転するできの悪いMMD動画でも見させられてるような状態になったりと、どうしてもこれが頭いいように見えない。
……死んでた時期が長いせいで壊れたのかもしれないが、まあそれはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。苦労するのは俺じゃないしな。
要するに、才人の性別が変わってしまっているのと同じように、シャルルと言う男の性格も大分変わってしまって居るんじゃないかと思うわけだ。
それが現実だった場合……と言うか、死んでたせいで性格が変わったんじゃなければよくこいつ結婚できたなと思う。俺が言えることじゃないが、もしもそれが素だったら色々と争いが起きなかったんじゃないかと思ったりも……。
だってほら、ジョゼフはシャルルのその在り方を妬んで……とはちょっと違うのか? まあとにかくその誠実さやら何やらに打ちのめされてシャルルを殺してしまったわけだ。
だが、もしもシャルルの素がアレでいつもジョゼフに見せていた姿が演技でしかないのなら……そのすれ違いから来る悲劇に悪魔達が大歓喜しそうだ。
悲劇は悪魔の大好物だし、互いにけして嫌いではなかった相手をすれ違いが原因で殺してしまい、しかもそれを何年も後に知ってしまって自己嫌悪から自殺しようとしたり世界を滅ぼそうとしたり……そう言った暗い感情を糧とする悪魔達がよだれ垂らして喜ぶだろう。趣味悪いわぁ……。
まあ、そんな悪魔のような悪魔は俺の知る限りこの世界……ハルケギニアには存在しない。地球の方はよく知らないが、多分いない。つまり、俺の予想が正しかったときに笑うのは俺以外にはよっぽどの性格破綻者くらいなものだろう。
俺は違うぞ? 俺はあくまでも『生き返って答え合わせをした時のジョゼフとシャルロットの顔』を想像して笑っているだけなのであって、他人の不幸を笑うような性格の悪い奴ではない。某腐れピンクは除くが。
それじゃあ待とう。多分起きるだろうし、この先は起きてからじゃないと予想がつかん。
ただ……なんか、昔に何度も感じた感覚があるから……やっぱりそんな感じなんだろうと心の準備はしておこう。