騙された気がするゼロの使い魔   作:真暇 日間

13 / 21
 
 連続投稿七話目。ゼロ魔はこれでストックおしまい!


騙されゼロ魔09

 

 ダンジョンの中で、敵と遭遇しないようにしつつ、できるだけ短い距離で目的地まで着くためにはいくつかの呪文を併用する必要がある。

 敵に見つからないようにする『レムオル』。自身を透明にする呪文であるこれは、潜入にはもってこいの魔法だ。

 次に『フローミ』。自分の居る場所がわかるのは重要だ。

 それと、扉を開くための『アバカム』。壁を壊す方が早いが、何でも壊せるからといって壊していい訳がないだろう。

 ここからはついでになるが、罠を無効化する効果もある『トラマナ』と、ある種の鑑定能力である『ダモーレ』、そして宝や魔法道具などを探ることのできる『レミラーマ』とその効果を知ることのできる『インパス』。これらの呪文は探索において非常に役に立つ。

 それらの呪文を駆使して、俺は漸くジョゼフの居る寝室の前に到着することができた。

 

 ……ちなみにだが、どうしても通る必要のある扉の前に居た兵にはラリホーで眠ってもらった。ぶっちゃけた話レムオルとトベルーラを使えばそんなことをする必要もなく窓から直接入ることもできたんだが、その場合相手の『加速』でドアから逃げられる可能性がある。一応塞いでおかないとこんな真似はできない。

 

 ……真っ正面からの行動ならピオリムとボミオスの重ね掛けで大体ついていけるようになるからな。対魔法攻撃用にマホカンタ、対物理にアタックカンタも発動させる。必殺技的にマジャスティスとかギガジャスティスもあるが、それはやっちゃまずい。ルビーの指輪に効果があったら祈祷書が読めなくなるしな。

 よし、これは最後の嫌がらせに残しておこう。世界全土を相手にギガジャスティスをかけてマジックアイテムや魔法効果を全て無効化し、さらにマホトーンを何度か重ね掛け。これで人間やエルフ、亜人などから魔法を奪い取ることができる。

 ……魔法を使うことが戦闘どころか生活の中でも一般化している貴族が、魔法を失ったら……いったいどうなるか見物だな? 反乱されても泣き寝入りしかできないなんて、文字通り貴族の面汚しだ。魔法を失ったことで自殺を選ぶものも少なからず居るだろうし、そうでなかったとしても魔法と言う絶対的に有利な力を失ったのだ。今まで通りの無茶はできまい。

 これを実行した場合、この世界では魔法を使えるのは精霊種のみになる。生きることそのものが魔法の発露であり、呪文の詠唱を必要とせず魔法を扱うことができるのならば、マホトーンは効果を発揮しない。なにしろ『呪文封印』だからな。

 ……まあ、俺は別に他人の生活基盤を奪いたい訳じゃないし、貴族が全て死ねばいいと思っているわけでもない。もちろんあのピン屑は死ねばいいと思っているが、他の奴にまで罪を被せるつもりは今のところ無い。

 それでもあのピン屑を殺さない理由は一つ。本当に殺してしまうと追手が面倒な相手になるからだ。

 

『烈風』カリン。カリーヌ・デジレ。あのピン屑の母親であり、元トリステイン王国マンティコア隊の隊長。現代における最強の風メイジの一人。俺一人で相手をするなら呪文を耐えてギラで心臓でも撃ち抜けば終わるが、才人を守りながら戦うとなると流石にきつい。

 才人にマホカンタとアタックカンタをかけておけばまずなんとかなるだろうが、相手は真空の刃を多数内包する竜巻を作り出すような化け物だ。前面にだけ魔法反射をかけても跳ね返すことができるかどうか不安だし、それ以外に守ることができる呪文は俺は知らない。そうである以上、できるだけ危険にはさらしたくない。

「って訳でノックしてもしもーし」

 

 ドアを蹴り開けた瞬間に襲いかかってくる人形を真正面から蹴り砕く。斬りかかられて服が切れたりすると才人に心配かけることになるだろうから受けたりはせずに当たる前にぶち壊す。いくら技術があろうと、のろまな人形相手に遅れを取るわけ無いだろうがよ。

 だが、どうやら俺の侵入は気付かれていたらしい。ジョゼフの姿は目の前にあるが、同時にシェフィールドがこちらを睨み付けている。ここに来るまでに人形を見たらとにかくマジャスティスかけて使えなくしてきたのがダメだったのかね?

 まあ何が原因だろうが知ったこっちゃない。

 

「夜分遅くに失礼するよ。押し売りです」

「ほう? 押し売りか……初めて見たな」

「こんなところまでやって来るような根性のある押し売りは早々いないだろうしね。さて、それじゃあ押し売らせてもらうよ」

 

 自分にピオラを二回、ジョゼフ達にボミオスを二回重ね掛けする。その状態のまま走り、ジョゼフの指から指輪を拝借する。これで準備は整った。

 ゆっくり……まるで蛞蝓のようにぬるぅりとゆっくり動いているジョゼフを尻目に、指輪を填めて始祖の祈祷書に目を通す。今の俺に必要な呪文を覚えるためにインテを二回使って賢さをドーピングし、『加速』、『忘却』、『記憶』、『解呪』、『世界門』の五つの呪文を記憶する。

 後は土のルビーをジョゼフの指に填め直し、『記憶』の呪文を唱えて指輪から必要な時間の記録を呼び出して再生した。

 ……内容については大体原作と同じだと思ってくれていい。使ったのが俺かあの腹黒糞教皇かって違いはあるが、大した違いじゃない。

 だが、この魔法はかなり便利だ。物に込められた記憶を見ることもできれば、人の頭の中から直接記憶を覗き見ることもできる。テストの時に相手の思考が読めればかなりの反則技になるが、そんなルールは現在存在しない。

 

 ……才人と一緒にレムオル使ってちょっとアブノーマルなプレイもできそげふんげふん。

 失敗しても『忘却』使えばげふんげふん。

 

 さて、軽い冗談は終わりにして、そろそろ見終わって満足しただろうジョゼフにかけていた魔法を全て解除する。なんか凄まじく満足したという表情を浮かべているジョゼフは、今なら大体のことなら気分よく叶えてくれそうだ。

「さて、これが俺の用意した商品だったわけだが……気に入ってくれたかな?」

「うむ。答えは得た」

 

 この王ほっとけば空気に溶けるように消えるんじゃねえかと思いつつ、商談に入る事にした。

 その前に、ちょっとやらなくちゃならないことがある。

 

「で、話をしたい所なんだがね王サマよ」

「聞こうか、押し売りよ」

「……その前に、そこの女を説得してくれるか? ゆっくりゆっくり人形がでかくなってるのは見てて面白くはあるんだが、できたら多分襲われるからな。ちょっと出てるから説得できたら呼んでくれ」

「承知した」

 

 

 

 (五分後)

 

 寄りかかっていた扉が叩かれ、俺は部屋の中に入る。するとそこには一応の体裁を整えたジョゼフと、俺の事を憎々しげに睨み付けているシェフィールドが居た。一応止めはしたようで俺に襲いかかっては来なかったが、しかし美人に睨み付けられると怖いってのは本当らしい。

 

「待たせたな」

「構わんよ。で、早速だが代金の話に移ろうか」

「何でも言え」

 

 原作でのイカれっぷりが嘘のようなジョゼフ王。これがもしかしたら起きていたかもしれないジョゼフの可能性だとすると、本当にもったいなく感じてしまう。

 もしもジョゼフが弟を殺していなかったなら。きっとこの国は世界を制覇できていただろうに。……やっていたかどうかは別だけどな。

 

「まずは俺の身の上話だ。と言っても簡単にここ最近あった事を話すだけなんだが……俺はこの世界の人間じゃない」

「……ほう?」

 

 この一言で大分興味を引けたようだ。ジョゼフの眉がピクリと動き、興味深げに俺を見ている。

 

「来た理由は簡単だ。トリステインでの『使い魔召喚の儀』で、俺の嫁を誘拐してくれやがった馬鹿が居てな。あんたと同じ虚無の魔法使いなんだが」

「ほう!学生が虚無の魔法をか?」

「加速使いのお前さんとは違って爆発使いだけどな。ちなみにあと二人はアルビオンの忘却術師とロマリアの腐れ狂信坊主だ。

 で、誘拐されたから無理矢理ついてきたんだが、帰る方法がなくってな。嫌がらせにトリステインの魔法学園に居たほぼ全員の魔法を数百年ほど封印してきてやったからもう誘拐はされないと思うんだが、帰らないとそろそろまずいんだ。

 で、だ。トリステインの王宮に入って始祖の祈祷書をギってきた。俺自身が一応虚無魔法も使えるからこれに指輪があれば必要な呪文を唱えて帰れる。

 つー訳で、指輪を借りて呪文を知りたかったんだ」

「…………なるほど。先程のルーンではない呪文は、異世界の魔法か」

 

 この天才どうにかした方がいいぞマジで。遊びで世界征服できる奴に本気で世界制服させようとしたら本気でまずい。ハルケギニアだけならともかく地球にまでやって来かねん。

 ……その時は追い返すけどな。

 

「だが、さっき俺に使った呪文は明らかに虚無のそれだったようだが……」

「指輪だけ借りて即効見繕ったんだよ。『とにかくここに書かれている呪文にどんなものがあるのか知る必要がある』ってやったら出てきたから使った。勿論帰るための呪文も出たぞ」

「……俺に払えるものはもう無いのではないか?」

「俺の仲間にあんたの姪が居る。母親は治してやったから、あんたが殺されるか、あるいは殺される前に王位を譲ってさっさと逃げてのんびり暮らせばそれで完了だな。どっちがいい?」

 

 そう聞くとジョゼフは迷い始めた。どうも元々かなり真面目な人間らしい。冗談は通じるし緩めるところは緩められるようだから別にいいんだが、とりあえず早めに決めて欲しいところだ。

 

「……あ、そうだ。あんたの弟さんの死体ってまだ残ってる?」

「……たしか、『固定化』をかけて墓に埋められているはずだ。スクウェアクラスの『固定化』をかけられていたはずだから、まだそのままだと思うが」

「場所教えろ。虚無だろうが精霊魔法だろうがこの世界の魔法じゃ絶対無理なものを見せてやる」

 

 ……父を奪われて母親を壊された。今では母親は治り、上手くいけば父親も戻ってくる。

 ……なんとかなる……か?

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。